図書室に、冬の夕暮れが優しく差し込む。
窓ガラスの向こうの空は、繊細な薄紫色へと変わり始めていた。
部活動のグラウンドから聞こえてきた笑い声や掛け声が、次第に遠ざかっていく。
図書委員の私は、最後まで残って本の整理をしていた。
誰もいない図書室で、本を一冊一冊丁寧に棚に戻す音だけが響いている。
少し乱れた本の並びを直していく。
棚から飛び出るように出ている本の背表紙。
それらの凹凸がないように、背表紙を揃えていく。
この作業に没頭していれば、昨日の昼休みのことを、少しだけ忘れられるような気がして。
「本が好きなんだね。」
そう言って微笑んでくれた彼の言葉を思い出してしまう。
でも今となっては、それは私の心に痛みだけをもたらすものとなっていた。
本を整理しながら、私は何度も深いため息をついていた。
普段なら心地よい製本の香りも、今となっては何も感じることはない。
作業を終えて、カウンターに戻る。
鍵を手に取った時、このまま今日という日が永遠に終わってしまうことが怖くて。
私はその場で立ち尽くしてしまった。
窓の外では、冬の闇が深まりつつあった。
しばらくの後。
ようやく、廊下へと出た。
いつもより響く足音が寂しく感じられた。
そんな中でも、私は前を向こうとする。
でも、今日あった出来事について、また心の中でよみがえる。
教室の窓際で、女子生徒と仲睦まじい様子で彼は話していた。
二人の距離は、とても近くて。
これまで私は彼と話すたびに、それを特別なものだと思っていたけれど。
今、目の前にいる彼の様子は、私に話しかける時よりも、ずっと親密で。
ずっと暖かい。
それは、見てはいけないものを見てしまった気がした。
「ねぇ、あの二人って付き合ってるんだって。」
「そうなんだ。へぇ。」
周りの女子生徒たちが小声で会話する声が、私の耳へと届いた。
告白しようと思っていた私の心は、その時から永久に凍り付いてしまった。
放課後、彼は図書室に本を返しに来て、いつものように優しく微笑んでくれた。
でも今日は、その笑顔に込められた何気ない親しさが、痛いほど胸に突き刺さる。
その優しさは、きっと誰にでも向けられる、ただの思いやりだったのだ。
まるで永久凍土の中にいるような寒さを感じながら、私は黙って本を受け取った。
きっと、いつものように私は対応できたはず。
だから、彼は何も気づかなかっただろう。
すべてが終わったとき。
私の心は、どこか目の前を見ていなかった。
そして、白昼夢のように、勝手に心に浮かんでは消える幻影を見ていた。
浮かび上がる光景をその都度、私は心の奥底へと強引に押し込める。
まるで水の底へと沈めるときのように。
それらは私の意志に反して、何度も何度も浮かび上がってきた。
気がつくと、私は職員室で鍵を返却し、靴箱の前で靴を履き替えていた。
どうやら、夢遊病者のように徘徊していた私は、そこでようやく周囲を見返した。
昇降口に生徒の姿はなかった。
外を見ると、雪が静かに降っているのが見える。
夜が迫るなか、雪が降りしきる光景。
まるで私の心の中を表すような、それはどこか遠くの光景のようにも見えた。
制服の上からダッフルコートを着て、マフラーを首に巻く。
校門をくぐり、住宅街の静かな道を歩き始める。
真っ白な雪が、街灯に照らされてキラキラと輝いている。
無機質で冷たい。それらが周囲の光景を埋め尽くしていく。
制服のポケットの中の手紙が、重たく感じられた。
何度も書き直した告白の言葉は、もう二度と彼には届くことはない。
街灯に照らされた雪は、儚げに舞い落ちていく。
自動販売機の明かりが、雪の中でぼんやりと揺らめいていた。
彼と本の話で盛り上がった放課後の記憶が、この雪の降る風景と同じように、まるで幻想かのように思い出された。
でも、それは今では誰にも言えない、私だけの大切な思い出になってしまった。
マフラーで顔を半分隠しながら、私は前を向こうとする。
この冬の夜を歩く私の心の中で、初めての切ない想いが、溶けない雪のように積もり続けていた。