飛翔
ー/ー 漆黒の風に包まれたチカップの両目は、禍々しい紅に染まっていた。
口を大きく開け、何かを叫んでいる。だが、その声は暴風に呑まれて聞こえない。
「ヤベェぞ、こりゃ」
チカップの周囲に、いくつもの魔法陣が浮かび上がる。制御を失った魔法が次々と放たれた。炎や氷、鋭い鉱石が縦横無尽に飛び交う。
「くっ」
勇斗とミュールはその場に伏せた。無理に避けようとすると、風に飛ばされて塔から落ちる。身動きが取れない。
「ユート、チカップを倒せば、この暴走は止まるんじゃないか?」
ミュールの声は低く、重かった。彼は手をぎゅっと握りしめ、うっすらと涙をこぼしていた。
「そんな……」
勇斗はチカップを見つめた。
渦巻く風の中心で、チカップは歪んだ笑みを浮かべている。もうまともな意志は残っていないのかもしれない。
だったら、いっそ。
勇斗は無意識に腰の剣へ手をかけていた。このままでは、だれかが死ぬ。この剣を振るえば、犠牲は一人で済むかもしれない。
違う。
勇斗の手は、剣から離れた。
もうだれも殺したくない。だれも――
勇斗は歯を食いしばって立ち上がった。足が鉛のように重い。雷のダメージがまだ抜けず、息をするだけで肺が焼ける。
小さな羽の形をした耳飾りを取り出す。モリシから預かったものだ。チカップが自分を見失った時、渡してくれと。
効く保証なんてない。だが、やるしかない。
勇斗はチカップへ向かって踏み出した。
暴風に押し返され、なかなか前へ進めない。飛んでくる炎や氷が容赦なく体を打つ。それでも勇斗は足を止めなかった。
もう少し。
ようやく、チカップのすぐ前までたどり着く。
紅い目から、透明な涙があふれていた。
鋭い風に全身を切り裂かれながら、勇斗はチカップの手を取った。だらりと垂れたその掌に、耳飾りをそっと乗せる。
その指が、かすかに動いた。
次の瞬間、耳飾りがまばゆく光を放った。
暴風が、一瞬だけ止んだ。
◆
チカップは、大きな羽の上に立っていた。
周囲は闇だった。果てもわからない。音もしない。
「――ップ」
かすかな声がした。チカップははっとして、あたりを見回す。
「――カップ」
声が少しずつ大きくなる。忘れるはずのない声だった。
「チカップ!」
闇の中に、ぼんやりとした光が灯った。
光はふくらみ、やがて少女の姿になる。
「あ、あぁ――」
少女は、優しく微笑んだ。
「久しぶり、チカップ」
「コノメ!」
うわずった声で叫び、チカップは彼女の手をつかんだ。華奢なその手は、ちゃんと温かかった。夢でも幻でもない温もりが、手から全身へ広がっていく。
「本当に、本当にコノメなんスか?」
コノメは、静かにうなずいた。
その笑顔を見た瞬間、胸がいっぱいになる。
「チカップ、あんまり変わってないね。というか、何で包帯なんか巻いて目を隠してるの?」
「あ、これは、ええと」
チカップは慌てて額の包帯に触れた。
その様子を見て、コノメはくすくすと笑う。いつもの笑い方だった。
「それより、ここはどこなんスか? というか、コノメは死んだはずじゃ……」
「今のわたしは魂だけの存在。ここは精神の空間、ってところかな」
「よくわからないっス」
「実はわたしもよくわかってない」
コノメは少し舌を出したあと、くるりと背を向けた。
「わたしが死んだって意識したのは、あの儀式から少したって、自分のお墓を見た時。あぁ、死んじゃったんだって、その時ようやく実感したの。チカップの姿も探したんだけど見つからなくて。集落のみんなの話を聞いてたら、チカップが追い出されたことを知っちゃって」
儀式の夜がよみがえる。コノメが死んだ。集落の人たちもたくさん死んだ。その中には両親もいた。生き残った人たちから「呪いの子」と何度も言われ、最後には集落を追われた。
「でも、チカップが帰ってきてくれて、本当に嬉しかった。こうして話せてるのも、これのおかげなのかな」
コノメは左耳の耳飾りに触れた。しんとした闇の中に、透明で不思議な音色が広がる。
「チカップが思い悩んでること、当ててあげようか」
「え?」
「魔法が怖い。でも、魔法そのものを恐れてるわけじゃない。本当に怖いのは、まただれかを傷つけるかもしれないっていう、自分自身の弱さ」
チカップの肩が大きく震えた。
「魔法はね、怖いものじゃない。意志しだいで、人を救うものにもなれるの」
「でも、また失敗しちゃうっス」
遺跡で仲間を傷つけたこと。儀式でみんなを死なせたこと。そして今、また仲間を傷つけていること。
嫌な記憶が一気に胸へ押し寄せ、チカップは唇をきつく噛んだ。
「思い出して。わたしが教えた、とっておきのおまじない」
「あっ……」
「そう。大事な時に失敗しないおまじない。チカップ、あなたなら大丈夫。自分を信じて。仲間たちを助けてあげて」
コノメの姿が、少しずつ薄れていく。
「そろそろ時間みたい」
コノメが振り向いた。
満面の笑顔だった。けれど、その目には涙が溜まっていた。
「――大好きだよ」
「――オレも大好きっス」
コノメの輪郭がほどけるように薄くなる。
「もう行くね」
「コノメっ!」
チカップが手を伸ばす。
だが、その手は何にも触れられなかった。
◆
暴風が止んだ。空は晴れ渡っていた。
チカップはその場に座り込み、両手で頭を抱えている。
「チカップ、よかった」
傷だらけの勇斗は、そのまま力なく倒れた。
「自分のせいで。本当にごめんなさいっス」
「気にしてないよ」
「ありがとう。もう、大丈夫っス」
チカップは耳飾りを左耳につけ、ゆっくりと立ち上がった。大きく息を吸い込み、両手を広げる。
「シアー・リィ・キッキ」
その声に、もう迷いはなかった。
チカップは額に巻かれた包帯を勢いよく引き剥がし、宙へ放り投げた。包帯は穏やかな風に乗って、彼方へ飛んでいく。
金色の第三の目が、強く輝いた。
勇斗は、そのすがすがしい表情を見て、ふっと笑みをこぼした。
「ここは自分に任せて、休んでてほしいっス」
チカップはゆっくりと歩き出し、倒れている勇斗のそばを通り過ぎる。
「あの鳥は、自分が落とすっス」
コートから羽ペンを取り出し、ペン先を怪鳥へ向けた。
怪鳥が雄叫びを上げ、風の魔法を放つ。黒い旋風。無数の風の刃がチカップへ襲いかかった。
「風の魔法なら負けないっス」
チカップは素早く羽ペンを走らせ、緑色の魔法陣を描いた。
「守護の風よ!」
その瞬間、魔法陣から現れた巨大な風の塊が、黒い旋風を打ち消した。
怪鳥が耳をつんざくような叫びを上げる。怒りか、それとも闘争心か。
「次はこっちの番っス」
チカップは静かに舞いはじめた。足元に描かれた茶色の魔法陣から、いくつもの結晶が出現する。結晶は、先ほど生み出した風の塊へ次々と吸い寄せられた。
風をまとった結晶が、チカップの合図とともに怪鳥めがけて飛ぶ。弾丸のように放たれた結晶が、次々と怪鳥の体へ突き刺さった。グエェー、と怪鳥は悲鳴を上げ、激しく身を震わせる。
「ちょっと! わたくしに当たったらどうするつもり?」
怪鳥にしがみついているソーマが、眉をひそめて叫んだ。
「大丈夫っスよ。ちゃんと鳥だけに当てるっスから」
チカップは再び魔法陣を描いた。赤と青。詠唱を終えた瞬間、魔法陣から放たれた炎と水の刃が、ブーメランのように飛んだ。怪鳥の二つの首が、それぞれ切断される。切断面から黒い血が噴水のように噴き上がった。
「ヒィィィっ」
ソーマが情けない声を上げる。
チカップは羽ペンをくるくると回し、コートのポケットへしまった。
刹那、怪鳥の体が爆散した。
ソーマとランパが宙へ放り投げられる。
勇斗は、上空から落ちてくるランパを受け止めるため、立ち上がった。限界が近い体に鞭を打って駆ける。ミュールに受け止められたソーマを横目で確認しながら、塔の端ぎりぎりまで走り、両手を空へ掲げた。
「ランパ!」
両腕いっぱいに、落ちてきたランパを受け止める。ずっしりとした重みが腕へ伝わった。
ランパは目を回していた。怪我はなさそうだ。
ほっとした、その瞬間だった。立っていた足場が崩れた。
勇斗はランパを抱えたまま、大空へ放り出される。
落ちる。
耳を切り裂く風切り音。体が谷底へ吸い込まれていく。内臓が浮き上がるような、どうしようもない落下感。
「おお、ユート。おはよう。ここはどこだ?」
「僕たち、落ちてるんだよ!」
ランパは一瞬だけ目を点にした。次の瞬間、その顔がみるみる青ざめていく。
「ピャアアアアアアアアッ!?」
腕の中のランパが、壊れたように叫んだ。
「ランパ! 精霊術で何とかならないの?」
ランパは完全にそれどころではなかった。
まずい。このままじゃ死ぬ。どうすれば――
谷底が目前に迫った、その瞬間。
聖剣クトネシスの鞘から、緑の光が漏れ出した。
「えっ?」
急に、体が上昇しはじめる。
谷底から緑の風が吹き上がっていた。全身をふわりと包む、優しく穏やかな風だった。勇斗はその流れに身を任せる。
「うおっ、すげー! オイラたち飛んでるぞ!」
勇斗の腕から離れたランパは、目を輝かせながら空中でくるりと回った。
「これは、どういう……」
勇斗の目の前で、緑の風が小さく渦を巻いた。
やがて、狐のような形へ変わっていく。
――記憶を。
のんびりとした中性的な声が、脳内へ響いた。
口を大きく開け、何かを叫んでいる。だが、その声は暴風に呑まれて聞こえない。
「ヤベェぞ、こりゃ」
チカップの周囲に、いくつもの魔法陣が浮かび上がる。制御を失った魔法が次々と放たれた。炎や氷、鋭い鉱石が縦横無尽に飛び交う。
「くっ」
勇斗とミュールはその場に伏せた。無理に避けようとすると、風に飛ばされて塔から落ちる。身動きが取れない。
「ユート、チカップを倒せば、この暴走は止まるんじゃないか?」
ミュールの声は低く、重かった。彼は手をぎゅっと握りしめ、うっすらと涙をこぼしていた。
「そんな……」
勇斗はチカップを見つめた。
渦巻く風の中心で、チカップは歪んだ笑みを浮かべている。もうまともな意志は残っていないのかもしれない。
だったら、いっそ。
勇斗は無意識に腰の剣へ手をかけていた。このままでは、だれかが死ぬ。この剣を振るえば、犠牲は一人で済むかもしれない。
違う。
勇斗の手は、剣から離れた。
もうだれも殺したくない。だれも――
勇斗は歯を食いしばって立ち上がった。足が鉛のように重い。雷のダメージがまだ抜けず、息をするだけで肺が焼ける。
小さな羽の形をした耳飾りを取り出す。モリシから預かったものだ。チカップが自分を見失った時、渡してくれと。
効く保証なんてない。だが、やるしかない。
勇斗はチカップへ向かって踏み出した。
暴風に押し返され、なかなか前へ進めない。飛んでくる炎や氷が容赦なく体を打つ。それでも勇斗は足を止めなかった。
もう少し。
ようやく、チカップのすぐ前までたどり着く。
紅い目から、透明な涙があふれていた。
鋭い風に全身を切り裂かれながら、勇斗はチカップの手を取った。だらりと垂れたその掌に、耳飾りをそっと乗せる。
その指が、かすかに動いた。
次の瞬間、耳飾りがまばゆく光を放った。
暴風が、一瞬だけ止んだ。
◆
チカップは、大きな羽の上に立っていた。
周囲は闇だった。果てもわからない。音もしない。
「――ップ」
かすかな声がした。チカップははっとして、あたりを見回す。
「――カップ」
声が少しずつ大きくなる。忘れるはずのない声だった。
「チカップ!」
闇の中に、ぼんやりとした光が灯った。
光はふくらみ、やがて少女の姿になる。
「あ、あぁ――」
少女は、優しく微笑んだ。
「久しぶり、チカップ」
「コノメ!」
うわずった声で叫び、チカップは彼女の手をつかんだ。華奢なその手は、ちゃんと温かかった。夢でも幻でもない温もりが、手から全身へ広がっていく。
「本当に、本当にコノメなんスか?」
コノメは、静かにうなずいた。
その笑顔を見た瞬間、胸がいっぱいになる。
「チカップ、あんまり変わってないね。というか、何で包帯なんか巻いて目を隠してるの?」
「あ、これは、ええと」
チカップは慌てて額の包帯に触れた。
その様子を見て、コノメはくすくすと笑う。いつもの笑い方だった。
「それより、ここはどこなんスか? というか、コノメは死んだはずじゃ……」
「今のわたしは魂だけの存在。ここは精神の空間、ってところかな」
「よくわからないっス」
「実はわたしもよくわかってない」
コノメは少し舌を出したあと、くるりと背を向けた。
「わたしが死んだって意識したのは、あの儀式から少したって、自分のお墓を見た時。あぁ、死んじゃったんだって、その時ようやく実感したの。チカップの姿も探したんだけど見つからなくて。集落のみんなの話を聞いてたら、チカップが追い出されたことを知っちゃって」
儀式の夜がよみがえる。コノメが死んだ。集落の人たちもたくさん死んだ。その中には両親もいた。生き残った人たちから「呪いの子」と何度も言われ、最後には集落を追われた。
「でも、チカップが帰ってきてくれて、本当に嬉しかった。こうして話せてるのも、これのおかげなのかな」
コノメは左耳の耳飾りに触れた。しんとした闇の中に、透明で不思議な音色が広がる。
「チカップが思い悩んでること、当ててあげようか」
「え?」
「魔法が怖い。でも、魔法そのものを恐れてるわけじゃない。本当に怖いのは、まただれかを傷つけるかもしれないっていう、自分自身の弱さ」
チカップの肩が大きく震えた。
「魔法はね、怖いものじゃない。意志しだいで、人を救うものにもなれるの」
「でも、また失敗しちゃうっス」
遺跡で仲間を傷つけたこと。儀式でみんなを死なせたこと。そして今、また仲間を傷つけていること。
嫌な記憶が一気に胸へ押し寄せ、チカップは唇をきつく噛んだ。
「思い出して。わたしが教えた、とっておきのおまじない」
「あっ……」
「そう。大事な時に失敗しないおまじない。チカップ、あなたなら大丈夫。自分を信じて。仲間たちを助けてあげて」
コノメの姿が、少しずつ薄れていく。
「そろそろ時間みたい」
コノメが振り向いた。
満面の笑顔だった。けれど、その目には涙が溜まっていた。
「――大好きだよ」
「――オレも大好きっス」
コノメの輪郭がほどけるように薄くなる。
「もう行くね」
「コノメっ!」
チカップが手を伸ばす。
だが、その手は何にも触れられなかった。
◆
暴風が止んだ。空は晴れ渡っていた。
チカップはその場に座り込み、両手で頭を抱えている。
「チカップ、よかった」
傷だらけの勇斗は、そのまま力なく倒れた。
「自分のせいで。本当にごめんなさいっス」
「気にしてないよ」
「ありがとう。もう、大丈夫っス」
チカップは耳飾りを左耳につけ、ゆっくりと立ち上がった。大きく息を吸い込み、両手を広げる。
「シアー・リィ・キッキ」
その声に、もう迷いはなかった。
チカップは額に巻かれた包帯を勢いよく引き剥がし、宙へ放り投げた。包帯は穏やかな風に乗って、彼方へ飛んでいく。
金色の第三の目が、強く輝いた。
勇斗は、そのすがすがしい表情を見て、ふっと笑みをこぼした。
「ここは自分に任せて、休んでてほしいっス」
チカップはゆっくりと歩き出し、倒れている勇斗のそばを通り過ぎる。
「あの鳥は、自分が落とすっス」
コートから羽ペンを取り出し、ペン先を怪鳥へ向けた。
怪鳥が雄叫びを上げ、風の魔法を放つ。黒い旋風。無数の風の刃がチカップへ襲いかかった。
「風の魔法なら負けないっス」
チカップは素早く羽ペンを走らせ、緑色の魔法陣を描いた。
「守護の風よ!」
その瞬間、魔法陣から現れた巨大な風の塊が、黒い旋風を打ち消した。
怪鳥が耳をつんざくような叫びを上げる。怒りか、それとも闘争心か。
「次はこっちの番っス」
チカップは静かに舞いはじめた。足元に描かれた茶色の魔法陣から、いくつもの結晶が出現する。結晶は、先ほど生み出した風の塊へ次々と吸い寄せられた。
風をまとった結晶が、チカップの合図とともに怪鳥めがけて飛ぶ。弾丸のように放たれた結晶が、次々と怪鳥の体へ突き刺さった。グエェー、と怪鳥は悲鳴を上げ、激しく身を震わせる。
「ちょっと! わたくしに当たったらどうするつもり?」
怪鳥にしがみついているソーマが、眉をひそめて叫んだ。
「大丈夫っスよ。ちゃんと鳥だけに当てるっスから」
チカップは再び魔法陣を描いた。赤と青。詠唱を終えた瞬間、魔法陣から放たれた炎と水の刃が、ブーメランのように飛んだ。怪鳥の二つの首が、それぞれ切断される。切断面から黒い血が噴水のように噴き上がった。
「ヒィィィっ」
ソーマが情けない声を上げる。
チカップは羽ペンをくるくると回し、コートのポケットへしまった。
刹那、怪鳥の体が爆散した。
ソーマとランパが宙へ放り投げられる。
勇斗は、上空から落ちてくるランパを受け止めるため、立ち上がった。限界が近い体に鞭を打って駆ける。ミュールに受け止められたソーマを横目で確認しながら、塔の端ぎりぎりまで走り、両手を空へ掲げた。
「ランパ!」
両腕いっぱいに、落ちてきたランパを受け止める。ずっしりとした重みが腕へ伝わった。
ランパは目を回していた。怪我はなさそうだ。
ほっとした、その瞬間だった。立っていた足場が崩れた。
勇斗はランパを抱えたまま、大空へ放り出される。
落ちる。
耳を切り裂く風切り音。体が谷底へ吸い込まれていく。内臓が浮き上がるような、どうしようもない落下感。
「おお、ユート。おはよう。ここはどこだ?」
「僕たち、落ちてるんだよ!」
ランパは一瞬だけ目を点にした。次の瞬間、その顔がみるみる青ざめていく。
「ピャアアアアアアアアッ!?」
腕の中のランパが、壊れたように叫んだ。
「ランパ! 精霊術で何とかならないの?」
ランパは完全にそれどころではなかった。
まずい。このままじゃ死ぬ。どうすれば――
谷底が目前に迫った、その瞬間。
聖剣クトネシスの鞘から、緑の光が漏れ出した。
「えっ?」
急に、体が上昇しはじめる。
谷底から緑の風が吹き上がっていた。全身をふわりと包む、優しく穏やかな風だった。勇斗はその流れに身を任せる。
「うおっ、すげー! オイラたち飛んでるぞ!」
勇斗の腕から離れたランパは、目を輝かせながら空中でくるりと回った。
「これは、どういう……」
勇斗の目の前で、緑の風が小さく渦を巻いた。
やがて、狐のような形へ変わっていく。
――記憶を。
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