風の塔
ー/ー 勇斗が風の大精霊の塔へ向かおうとした時、モリシに呼び止められた。
「ユートや、これを」
勇斗が受け取ったのは、羽の形をした小さな耳飾りだった。
「モリシさん、これは?」
「チカップが自分を見失った時、渡してやってほしい」
モリシの視線は、どこか落ち着きなくさまよっていた。
「おーい、ユート、どうしたんだ。早く行くぞー!」
外からランパの声が飛んでくる。
「あ、うん。今行く」
オル族の集落を北へ進み、霧の深い林道を抜けると、殺風景な峡谷が姿を現した。乾いた茶色の岩肌が視界いっぱいに広がる。吹き抜ける風が、勇斗の赤いマントをばさばさと揺らした。
「ここから先は結界の外っス。魔族がいてもおかしくないっスよ!」
勇斗たちは岩の大地を進んだ。やがて、背の高い岩壁に挟まれた細い道へ入る。
「魔族が現れたら、次は自分も戦うっス!」
チカップは無造作なアッシュグレーの髪をかき上げ、大きな声を出した。
「チカップ、無理しなくていいよ」
「無理なんかしてないっス! 自分が本気を出したら魔族なんかあっという間に倒せるっス!」
勢いよく言い切ったものの、目は笑っていなかった。よく見ると、手足がかすかに震えている。
「戦闘はオレたちに任せろ。チカップ、お前は道案内だ。塔へはどっちだ?」
ミュールがチカップの肩を軽く叩く。
「……自分もこっちに来るのは初めてだから、わからないっス」
「あちゃー」
ミュールが、がりがりと頭をかいた。それを見て、チカップは申し訳なさそうにうつむいた。
「チカップ、フクロウに変身して空から先を見てきてくれないかな。この辺、見通しが悪いから、きみの翼が役に立つと思う」
「えっ……わ、わかったっス」
チカップは少し喉を詰まらせたあと、フクロウに変身し、白い翼を羽ばたかせた。
「頼んだよ」
チカップに先導され、岩の迷路をしばらく進むと、ひらけた場所へ出た。
「あれが、大精霊が眠っている塔か」
視界の先に、細長い建造物が見える。古びた塔は、谷に囲まれながら静かにそびえ立っていた。
「おーい、なんか飛んできたぞー!」
ランパが額に手を当て、空を仰いだ。
上空から、魔族の群れが現れた。鳥型の魔族だ。漆黒の羽毛に覆われた細長い体に、鉤のように湾曲したくちばしを持っている。
「そこからも、何かの気配がしますわ!」
周囲の岩陰からは、獣型の魔族が姿を現した。茶色い体毛に覆われた屈強な肉体。異様に発達した長い腕。顔に浮かぶ鮮やかな紋様の奥で、邪悪な瞳がぎらついていた。
鳥型と獣型を合わせて、およそ十匹。じわじわと包囲が狭まっていく。
「ソーマとチカップは下がっていて」
勇斗はドラシガーに火をつけた。淡い緑色の煙が周囲を渦巻く。鞘から聖剣クトネシスを引き抜き、両手でしっかりと握る。
「頑張ってくださいませ、ユート!」
目をきらきらと輝かせるソーマの隣で、チカップは肩をすくめてうつむいていた。握りしめた拳に、爪が食い込んでいる。
数分後、魔族の群れは跡形もなく消滅していた。
勇斗は煙を天へ向かって勢いよく吐き出す。
「決まったな、ユート」
ミュールが拳を差し出す。ためらいながら、勇斗も拳を合わせた。こつ、と硬い感触が返ってくる。
勇斗は短くなったドラシガーを惜しむように吸った。白い灰が茶色い地面に落ちる。ドラシガーは吸い口付近のリングだけを残して消えた。戦いながら吸えば、どうしても減りが早い。
「あれ?」
一瞬、立ちくらみがした。
「どうした?」
「いや、平気。少し飛ばしすぎたかな」
勇斗は唇を噛み、マントの内側を探った。ドラシガーのストックはない。またランパに作ってもらわないと。
その時だった。
澄んだ空を、巨大な影が横切った。
悲鳴が重なる。
見上げると、双頭の怪鳥が深紫の翼を大きく広げ、空を切るように羽ばたいていた。二つの黄色いくちばしには、それぞれソーマとランパがくわえられている。
「ちょっと、冗談じゃなくってよ。助けて、ユート!」
「オッ、オイラを食ってもうまくないぞーっ!」
必死にもがく二人をものともせず、怪鳥は悠然と空を舞う。やがて、彼方へと姿を消した。
「あの鳥、塔の頂上に飛んでいきやがった」
「二人を助けないと!」
勇斗たちは、大地を蹴った。
塔の内部は、不気味なほど静まり返っていた。魔族の気配もない。いたるところが崩れ、少し揺れただけで倒れそうだった。
螺旋階段を駆け上がる。早くしないとランパとソーマが危ない。ランパはともかく、ソーマには戦う力がない。最悪の光景――二人が命を落とす場面が、頭をよぎった。
三階に着いた。息を整える。ここまで上ってきてわかったのは、内部構造が見張りの塔によく似ていることだった。同じ者が建てたのだろうか。
「ミュール、チカップは?」
「あれ、まだ来てないのか。オレたち、早すぎた?」
「おーい」
階段の下から声がした。少しして、チカップが姿を見せる。一歩ずつ、ゆっくりと上ってきていた。
「ユート、ミュール、早いっスよ」
チカップは肩で息をしていた。足が小刻みに震えている。今にも倒れそうだった。
勇斗は、少し前の自分を思い出した。この世界に来たばかりで、体力のかけらもなかったころの塔での修行だ。あの時の自分も、今のチカップみたいに階段を上るだけで意識を失いそうになっていた。この急な階段を駆け上がる苦しさは、痛いほどわかる。
「少し、休もうか」
「でも、そうしてるうちにチビスケが食べられちまうぞ」
ミュールの言うとおりだった。もたもたしていると、さらわれた二人の命が危ない。
「無理なら、ここで待ってるか?」
勇斗が聞いた。
「嫌っス。自分も行くっス」
チカップはふらふらと歩き出した。だが、すぐに膝を折る。
「フクロウに変身して飛んだらどうだ?」
「あれも結構体力を使うんス。休憩を挟まないと、連続では飛べないっス」
チカップは泣きそうな顔をしていた。
「仕方ないな。ほら、つかまれ」
「えっ?」
ミュールは腰を落とし、両手を後ろへ回した。
「早くしろって!」
「でもミュール、大変じゃないっスか?」
「昔、ひ弱な弟をよく背負って山を走ってたんだよ。お前と同じ歳くらいで、背丈も似てた。大丈夫だ。絶対落とさない」
ミュールが白い歯をこぼす。
「……役立たずで、ごめんなさいっス」
チカップは震える声で言い、ミュールの肩に両手を置いた。
「気にすんな。今はそれでいい」
塔の頂上へ着いた。
瓦礫が散乱する、広い円形の空間だった。外周には崩れた欄干がわずかに残っている。
「うっ」
強い風が吹き荒れた。踏ん張って空を見上げる。塔の上空には灰色の雲が垂れ込めていた。
「ユートーッ!」
ソーマの声だ。厚い雲を突き破り、双頭の怪鳥が姿を現した。深紫の翼を大きく広げ、こちらを睨みつけている。背中にはソーマとランパの姿が見えた。
「この子、泡吹いて失神しちゃいまして、まったく役に立たないですの! 早く助けてくださいませ!」
ソーマは右手で怪鳥の羽毛をつかみ、左手で動かなくなったランパを押さえつけていた。
「今助ける!」
勇斗は剣先を怪鳥へ向けた。炎で撃ち落とし、落ちてきたところを斬る。それでいける――はずだった。
だが、力が出ない。
地上での戦闘で、体内のマナを使い切っていた。回復するにはドラシガーがいる。勇斗は慌ててマントの内側へ手を入れた。
ドラシガーが、ない。
作ってもらおうにも、ランパは怪鳥の背で気を失っている。
勇斗は青ざめた。
「くっそ、あの鳥が近づいてこない限り、攻撃を当てられねぇ」
ミュールが険しい顔をした。舌打ちが響く。
「ユート、避けてっ!」
ソーマの声が響いた瞬間、目の前が真っ白になった。
轟音。衝撃。二条の雷が勇斗の身体を撃ち抜く。
「ぎゃあああああっ!」
熱い。全身を引き裂くような激痛が一気に駆け巡る。意識が揺らいだ。
気づけば、勇斗は片膝をついていた。焦げた黒い煙が全身から吹き上がり、両耳からは血がだらだらと流れている。
「ユート、立てるか」
「な、なんとか」
勇斗はミュールに肩を貸され、どうにか立ち上がった。
「あの鳥、人質を取りながら安全なところから攻撃してきやがる。卑怯だ」
ミュールがぎりぎりと歯を鳴らす。
この状況で、攻撃できるのは――
勇斗の視線が、チカップへ向いた。
「自分、やるっス。足手まといには絶対、絶対にならないっス」
歯を食いしばったチカップは、コートのポケットから羽ペンを取り出した。震える手で魔法陣を描く。
完成した瞬間、チカップの周囲に黒い風が渦巻いた。
「な、なんスか、これ――うああああっ」
チカップは叫び、がくりと膝をついた。
「ギェェェェェェェッ!」
怪鳥が鋭い雄叫びを上げる。その声に呼応するように、チカップを取り巻く黒い風が激しさを増していく。
「うああああっ! たす、たすけ……」
「チカップ!」
風が吹き荒れる。勇斗もミュールも、飛ばされないよう踏ん張るだけで精一杯だった。
魔法の暴走。
モリシから聞いた、儀式での出来事が勇斗の脳裏によみがえった。
「ユートや、これを」
勇斗が受け取ったのは、羽の形をした小さな耳飾りだった。
「モリシさん、これは?」
「チカップが自分を見失った時、渡してやってほしい」
モリシの視線は、どこか落ち着きなくさまよっていた。
「おーい、ユート、どうしたんだ。早く行くぞー!」
外からランパの声が飛んでくる。
「あ、うん。今行く」
オル族の集落を北へ進み、霧の深い林道を抜けると、殺風景な峡谷が姿を現した。乾いた茶色の岩肌が視界いっぱいに広がる。吹き抜ける風が、勇斗の赤いマントをばさばさと揺らした。
「ここから先は結界の外っス。魔族がいてもおかしくないっスよ!」
勇斗たちは岩の大地を進んだ。やがて、背の高い岩壁に挟まれた細い道へ入る。
「魔族が現れたら、次は自分も戦うっス!」
チカップは無造作なアッシュグレーの髪をかき上げ、大きな声を出した。
「チカップ、無理しなくていいよ」
「無理なんかしてないっス! 自分が本気を出したら魔族なんかあっという間に倒せるっス!」
勢いよく言い切ったものの、目は笑っていなかった。よく見ると、手足がかすかに震えている。
「戦闘はオレたちに任せろ。チカップ、お前は道案内だ。塔へはどっちだ?」
ミュールがチカップの肩を軽く叩く。
「……自分もこっちに来るのは初めてだから、わからないっス」
「あちゃー」
ミュールが、がりがりと頭をかいた。それを見て、チカップは申し訳なさそうにうつむいた。
「チカップ、フクロウに変身して空から先を見てきてくれないかな。この辺、見通しが悪いから、きみの翼が役に立つと思う」
「えっ……わ、わかったっス」
チカップは少し喉を詰まらせたあと、フクロウに変身し、白い翼を羽ばたかせた。
「頼んだよ」
チカップに先導され、岩の迷路をしばらく進むと、ひらけた場所へ出た。
「あれが、大精霊が眠っている塔か」
視界の先に、細長い建造物が見える。古びた塔は、谷に囲まれながら静かにそびえ立っていた。
「おーい、なんか飛んできたぞー!」
ランパが額に手を当て、空を仰いだ。
上空から、魔族の群れが現れた。鳥型の魔族だ。漆黒の羽毛に覆われた細長い体に、鉤のように湾曲したくちばしを持っている。
「そこからも、何かの気配がしますわ!」
周囲の岩陰からは、獣型の魔族が姿を現した。茶色い体毛に覆われた屈強な肉体。異様に発達した長い腕。顔に浮かぶ鮮やかな紋様の奥で、邪悪な瞳がぎらついていた。
鳥型と獣型を合わせて、およそ十匹。じわじわと包囲が狭まっていく。
「ソーマとチカップは下がっていて」
勇斗はドラシガーに火をつけた。淡い緑色の煙が周囲を渦巻く。鞘から聖剣クトネシスを引き抜き、両手でしっかりと握る。
「頑張ってくださいませ、ユート!」
目をきらきらと輝かせるソーマの隣で、チカップは肩をすくめてうつむいていた。握りしめた拳に、爪が食い込んでいる。
数分後、魔族の群れは跡形もなく消滅していた。
勇斗は煙を天へ向かって勢いよく吐き出す。
「決まったな、ユート」
ミュールが拳を差し出す。ためらいながら、勇斗も拳を合わせた。こつ、と硬い感触が返ってくる。
勇斗は短くなったドラシガーを惜しむように吸った。白い灰が茶色い地面に落ちる。ドラシガーは吸い口付近のリングだけを残して消えた。戦いながら吸えば、どうしても減りが早い。
「あれ?」
一瞬、立ちくらみがした。
「どうした?」
「いや、平気。少し飛ばしすぎたかな」
勇斗は唇を噛み、マントの内側を探った。ドラシガーのストックはない。またランパに作ってもらわないと。
その時だった。
澄んだ空を、巨大な影が横切った。
悲鳴が重なる。
見上げると、双頭の怪鳥が深紫の翼を大きく広げ、空を切るように羽ばたいていた。二つの黄色いくちばしには、それぞれソーマとランパがくわえられている。
「ちょっと、冗談じゃなくってよ。助けて、ユート!」
「オッ、オイラを食ってもうまくないぞーっ!」
必死にもがく二人をものともせず、怪鳥は悠然と空を舞う。やがて、彼方へと姿を消した。
「あの鳥、塔の頂上に飛んでいきやがった」
「二人を助けないと!」
勇斗たちは、大地を蹴った。
塔の内部は、不気味なほど静まり返っていた。魔族の気配もない。いたるところが崩れ、少し揺れただけで倒れそうだった。
螺旋階段を駆け上がる。早くしないとランパとソーマが危ない。ランパはともかく、ソーマには戦う力がない。最悪の光景――二人が命を落とす場面が、頭をよぎった。
三階に着いた。息を整える。ここまで上ってきてわかったのは、内部構造が見張りの塔によく似ていることだった。同じ者が建てたのだろうか。
「ミュール、チカップは?」
「あれ、まだ来てないのか。オレたち、早すぎた?」
「おーい」
階段の下から声がした。少しして、チカップが姿を見せる。一歩ずつ、ゆっくりと上ってきていた。
「ユート、ミュール、早いっスよ」
チカップは肩で息をしていた。足が小刻みに震えている。今にも倒れそうだった。
勇斗は、少し前の自分を思い出した。この世界に来たばかりで、体力のかけらもなかったころの塔での修行だ。あの時の自分も、今のチカップみたいに階段を上るだけで意識を失いそうになっていた。この急な階段を駆け上がる苦しさは、痛いほどわかる。
「少し、休もうか」
「でも、そうしてるうちにチビスケが食べられちまうぞ」
ミュールの言うとおりだった。もたもたしていると、さらわれた二人の命が危ない。
「無理なら、ここで待ってるか?」
勇斗が聞いた。
「嫌っス。自分も行くっス」
チカップはふらふらと歩き出した。だが、すぐに膝を折る。
「フクロウに変身して飛んだらどうだ?」
「あれも結構体力を使うんス。休憩を挟まないと、連続では飛べないっス」
チカップは泣きそうな顔をしていた。
「仕方ないな。ほら、つかまれ」
「えっ?」
ミュールは腰を落とし、両手を後ろへ回した。
「早くしろって!」
「でもミュール、大変じゃないっスか?」
「昔、ひ弱な弟をよく背負って山を走ってたんだよ。お前と同じ歳くらいで、背丈も似てた。大丈夫だ。絶対落とさない」
ミュールが白い歯をこぼす。
「……役立たずで、ごめんなさいっス」
チカップは震える声で言い、ミュールの肩に両手を置いた。
「気にすんな。今はそれでいい」
塔の頂上へ着いた。
瓦礫が散乱する、広い円形の空間だった。外周には崩れた欄干がわずかに残っている。
「うっ」
強い風が吹き荒れた。踏ん張って空を見上げる。塔の上空には灰色の雲が垂れ込めていた。
「ユートーッ!」
ソーマの声だ。厚い雲を突き破り、双頭の怪鳥が姿を現した。深紫の翼を大きく広げ、こちらを睨みつけている。背中にはソーマとランパの姿が見えた。
「この子、泡吹いて失神しちゃいまして、まったく役に立たないですの! 早く助けてくださいませ!」
ソーマは右手で怪鳥の羽毛をつかみ、左手で動かなくなったランパを押さえつけていた。
「今助ける!」
勇斗は剣先を怪鳥へ向けた。炎で撃ち落とし、落ちてきたところを斬る。それでいける――はずだった。
だが、力が出ない。
地上での戦闘で、体内のマナを使い切っていた。回復するにはドラシガーがいる。勇斗は慌ててマントの内側へ手を入れた。
ドラシガーが、ない。
作ってもらおうにも、ランパは怪鳥の背で気を失っている。
勇斗は青ざめた。
「くっそ、あの鳥が近づいてこない限り、攻撃を当てられねぇ」
ミュールが険しい顔をした。舌打ちが響く。
「ユート、避けてっ!」
ソーマの声が響いた瞬間、目の前が真っ白になった。
轟音。衝撃。二条の雷が勇斗の身体を撃ち抜く。
「ぎゃあああああっ!」
熱い。全身を引き裂くような激痛が一気に駆け巡る。意識が揺らいだ。
気づけば、勇斗は片膝をついていた。焦げた黒い煙が全身から吹き上がり、両耳からは血がだらだらと流れている。
「ユート、立てるか」
「な、なんとか」
勇斗はミュールに肩を貸され、どうにか立ち上がった。
「あの鳥、人質を取りながら安全なところから攻撃してきやがる。卑怯だ」
ミュールがぎりぎりと歯を鳴らす。
この状況で、攻撃できるのは――
勇斗の視線が、チカップへ向いた。
「自分、やるっス。足手まといには絶対、絶対にならないっス」
歯を食いしばったチカップは、コートのポケットから羽ペンを取り出した。震える手で魔法陣を描く。
完成した瞬間、チカップの周囲に黒い風が渦巻いた。
「な、なんスか、これ――うああああっ」
チカップは叫び、がくりと膝をついた。
「ギェェェェェェェッ!」
怪鳥が鋭い雄叫びを上げる。その声に呼応するように、チカップを取り巻く黒い風が激しさを増していく。
「うああああっ! たす、たすけ……」
「チカップ!」
風が吹き荒れる。勇斗もミュールも、飛ばされないよう踏ん張るだけで精一杯だった。
魔法の暴走。
モリシから聞いた、儀式での出来事が勇斗の脳裏によみがえった。
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