白い季節の手紙
ー/ー雪がしんしんと降る夜、僕は机に向かって便箋を広げていた。ペンを握る手は震えている。寒さのせいではない。心がざわめいているからだ。書き出したい言葉がいくつも浮かぶけれど、一つとして形にならない。
「伝えたいことなんて山ほどあるのに」と、僕は自分を笑った。
去年の冬、彼女と出会ったのはこの街のクリスマス市だった。地元の小さな広場に並んだ木製の屋台。甘い焼き菓子の香りや、ホットワインの湯気に包まれながら、僕は偶然、彼女と目が合った。
「冷えますね」と、彼女が微笑んだ。
「ええ、手がかじかむくらい」と僕は応えた。
彼女の手には小さな布袋が握られていた。その袋の中身が気になって、「何を買ったんですか?」と尋ねると、彼女は袋から一対の手編みの手袋を見せてくれた。
「母が作ってくれたんです。実家の手芸店で売っていて、クリスマスの贈り物にぴったりでしょ?」
その日をきっかけに、僕たちは何度も冬の街を一緒に歩いた。雪がちらつく夜、寒さで耳を赤くしながら、僕らは時にはくだらない話をし、時には将来の夢を語り合った。彼女の笑顔は、いつも冬の寒さを和らげてくれる小さな灯火のようだった。
しかし、春が近づく頃、彼女は突然、僕の前から姿を消した。理由も何も告げずに。電話もメールも繋がらなくなり、まるで冬の雪が溶けて消えるように、彼女も消えた。
それから一年。冬が再び巡り来た今でも、彼女を忘れることはできなかった。だから、この手紙を書く。何も返事を期待するわけじゃない。ただ、彼女に伝えたい。
ペンを走らせ、僕は便箋にこう綴った。
---
「君へ。
あの日の広場で手袋を見せてくれた君の笑顔が、今でも目に浮かびます。雪が降る夜には、君の声が聞こえる気がします。どんな理由でいなくなったのか、僕にはわからないけれど、それでも僕は君に感謝したい。
君と過ごした冬の日々は、僕にとって特別な季節の思い出です。」
---
便箋を封筒に入れ、宛名を記す。その名前は、今も胸に刻まれた彼女の名前だ。投函すれば、雪がすべてを包み込むように、僕の心の中も静けさを取り戻すのだろうか。
翌朝、僕は近くの郵便局に向かった。街の通りは一面、真っ白な雪で覆われている。ポストに手紙を差し込もうとしたその時、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「それ、誰に送るの?」
振り返ると、そこに立っていたのは彼女だった。赤いマフラーを巻き、小さな布袋を手にして。
僕の言葉は雪のように溶けた。彼女はただ、そっと微笑む。
「また冬が来たから、戻ってきたの」と、彼女はつぶやいた。
そして、僕の手から封筒を取ると、それを優しく撫でた。
「伝えたいこと、たくさんあるんでしょ?聞かせてよ。全部。」
雪は舞い降り続ける。彼女の笑顔を包み込むように。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。