クールな五人組つまりクールファイブさ
ー/ー 真夏の東京砂漠横断レース優勝者に出す賞金を用意した金持ち五人組を、佐藤はクールファイブと名付けた。クールな五人組だから、とのことだ。格好いいネーミングだ、と鈴木は言ったけど、僕は冗談で言っていると感じた。摂氏四十度を超える真夏の東京砂漠を横断する長距離走だぞ。正気の沙汰とは思えない。そんなレースに金を出すというのは自殺行為だ……いや、それは出場者の自殺行為だな。嫌なら出なければいい、それだけだ。それでも出場するというのなら、そっちの方がおかしい。まあ、僕もその一人だから何とも言えないところではある。
あまりの暑さで放棄された東京が砂漠化して数十年。再開発の計画が浮かび上がっては立ち消えになっている間に、かつての高層ビルは崩壊し多くの建築物は砂に埋もれた。ただし、全部が砂に覆われているわけではない。乾燥した荒地も広がっている。僕たちランナーは、走りにくい砂の上ではなく、砂利の混じった半砂漠を力走することになっていた。
レースを前にウォーミングアップしていたら、見知った顔が話しかけてきた。
「小野、小野じゃないか!」
両親が離婚する前の昔の名字を言われ、僕は戸惑った。
「あれ、えっと……誰だっけ?」
僕に話しかけてきた男は苦笑した。
「嫌だな、忘れたのかよ」
「ごめん、すっかり。で、誰なの?」
「東郷だよ、東郷グレートデューク。小学校の時の同級生の」
思い出した。
「シベリアにいたときの、君か!」
「そうだよ、思い出してくれたかい」
小学校のとき、僕はシベリアで暮らしていた。両親が離婚して、母親と一緒に日本へ戻ってきた。東郷グレートデュークが僕を昔の名字で呼んだのは、シベリア時代の知り合いだからだ。
僕は彼と思い出話をした。
「シベリアの冬は寒かったな」
「この東京の暑さと足して半分に割れば、ちょうどいい」
それから別れの挨拶をして、ウォームアップを再開していたら、仲間のユルッペが話しかけてきた。
「ねえ、今の人、知り合い?」
ユルッペの声の調子が普段と少し違ったので、僕は不思議に思いながら頷いた。
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「あの人、東郷グレートデュークでしょ。冷感走法の達人らしいわよ。凄いレーサーよ」
そんな走り方を僕は聞いたことがない。
「ねえ、ちょ、ちょっと待ってよ。南なの、その冷感走法って」
あたしも詳しくないんだけど。そう断ってからユルッペは説明した。冬の寒さを思い浮かべることで暑さに対応できるよう自律神経を調節する走法なの……みたいなことを言ってから、彼女は首を傾げた。
「自分でも、ちょっと言っている意味が分かんないけど、そうらしいよ」
聞いていても分からない。だが、その冷感走法がどういうものかは、もうすぐ分かる。出走時刻が近づいているのだ。
「そろそろスタート地点に行こう」
そう言って駆け出した僕の後をユルッペが「あ~ん、待ってぇ」と言いながら追いかけてきた。暑いレースの始まりだ。
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