2.gioco
ー/ー
私は寿司屋「巴」の扉を開けた。店内に漂う醤油と酢飯の香りが15年前の記憶を呼び覚ます。
「いらっしゃい」
カウンターの向こうから聞こえた声は、まるで時が止まったかのように変わらなかった。
「久しぶりだな、真智」
彼は包丁を置き、私をじっと見つめた。その目には昔と変わらぬ鋭さがある。私は無言でカウンターに座り、スマートフォンを取り出した。
「ダリオが死んだ」
私の言葉に、ケイの手の動きが一瞬止まった。
「知っている。昨日の夜、銀座の裏通りで発見されたって、防犯カメラには映っていなかったそうだ」
ケイは淡々と事実を述べる。しかし、その声には微かな震えが混じっていた。
「最後に彼と会ったのは、いつだ?」
「三ヶ月前。彼は『COLORS』の話をしていた」
カウンターの奥から微かな物音が聞こえた。振り向くと、若い板前が私たちの会話に聞き耳を立てているのが見えた。
「歩、今日は早めに上がっていいぞ」
ケイの声に、歩と呼ばれた若い板前は一瞬躊躇したものの、すぐに頭を下げて店を出て行った。
「COLORS――か」
私は左手で煙草を取り出すと、ケイは無言で灰皿を置いて、ライターの火を付けてくれた。
「ダリオは、三か月前に『真智に会えたら伝えてくれ。全ては'銀'の中にある』と言っていた」
煙草の煙を細く吐き出す。カウンターの向こうで、ケイは再び包丁を持ち上げた。その刃に映る蛍光灯の光が、一瞬、銀色に輝いたように見えた。
「明日、COLORSの招待状が届くはずだ。行くのか?」
私は黙って頷いた。精巧に作られた右手がかすかに疼いていた。
私はその日何をしていたのだろうか、脳内の血管から体を縦横無尽にめぐる血小板が迷子になっている感覚。食事も摂らず、一日中ダリオの命が消えた事ばかりが、我が城の天井をグルグルと回っている。
夜が深まるにつれて、あの頃のケイの姿が古いフィルムのように断片的に蘇る。彼は「銀」の中でも最高位のCOLORSプレイヤーとして恐れられていた。そんな彼が今は、全く関係のない寿司職人として生きている。私たちはそれぞれの方法で、過去から逃げ出したのだ。
自宅のマンションで、テーブル上の空き封筒を見つめる。インターフォンも鳴らさずに玄関ドアの隙間から投げ込まれていた真っ黒な招待状だ。中には上質な紙に金色の箔押しで『COLORS』と印字されたカードが入っていた。
艶のある黒檀のような表面に、金と銀の糸で織られたような幾何学的な模様。裏面には暗号のような真っ白な文字列が、波打つように蠢いている。
C={R1,B2,G3}
私は思わず、義手の指先でカードの表面を撫でていた。この感触は間違いない。「銀」専用の特殊素材で作られたカード。一般のカジノやギャンブラーが触れることすら許されない代物だ。
スマートフォンを手に取り、その場所を検索しようとした瞬間、画面がブラックアウトして見覚えのない記号が浮かび上がる。「時」からのメッセージだ。この人工知能は、「銀」が生み出した最高傑作の1つだった。
解析結果:
招待状照合完了
参加者ID:IS-0789
ステータス:承認
権限レベル:S
「久しぶり、真智」
15年前と変わらない画面の文字を見ると、脳裏にあの時がフラッシュバックする。
煙草を咥え、火を点けた。白い煙が立ち昇る中、ケイの言葉を思い出す。
「『COLORS』は単なるカードゲームじゃない。それは、俺たちの世界では儀式のようなものだ。必ず血で終わる最悪の儀式だ」
窓の外では、東京の夜景が煌めいていた。その光の中に、どこかダリオの面影を感じる。彼は一体なぜ銀座に――
ブーーーーとスマホのバイブが鳴る
追加情報:
参加者数:8名
特別ルール:適用
持ち物:招待カード
「真智の右手は、どこにあるのかな?」
最後の時の一言に目が留められた瞬間、画面は暗転した。幻痛が、まるで私を嘲笑うかのように激しく疼いた。15年前失った右手。それは単なる戦いの代償ではなかったのかもしれない。
私は立ち上がり、COLORSのカードを締まっている部屋に移動する。クローゼットの奥、厳重に保管していた高級感のある禍々しい黒い箱を取り出す。蓋を開けた瞬間、部屋の空気が凍りつくような緊張に包まれる。
中には52枚の運命が眠っていた。かつて「銀」に所属していた時に使っていた私専用のデッキ。漆黒の表面に、光を纏った赤い模様が浮かび上がる。
カードたちは、まるで私を待っていたかのように反応し、光を放っている。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
私は寿司屋「巴」の扉を開けた。店内に漂う醤油と酢飯の香りが15年前の記憶を呼び覚ます。
「いらっしゃい」
カウンターの向こうから聞こえた声は、まるで時が止まったかのように変わらなかった。
「久しぶりだな、真智」
彼は包丁を置き、私をじっと見つめた。その目には昔と変わらぬ鋭さがある。私は無言でカウンターに座り、スマートフォンを取り出した。
「ダリオが死んだ」
私の言葉に、ケイの手の動きが一瞬止まった。
「知っている。昨日の夜、銀座の裏通りで発見されたって、防犯カメラには映っていなかったそうだ」
ケイは淡々と事実を述べる。しかし、その声には微かな震えが混じっていた。
「最後に彼と会ったのは、いつだ?」
「三ヶ月前。彼は『COLORS』の話をしていた」
カウンターの奥から微かな物音が聞こえた。振り向くと、若い板前が私たちの会話に聞き耳を立てているのが見えた。
「歩、今日は早めに上がっていいぞ」
ケイの声に、歩と呼ばれた若い板前は一瞬躊躇したものの、すぐに頭を下げて店を出て行った。
「COLORS――か」
私は左手で煙草を取り出すと、ケイは無言で灰皿を置いて、ライターの火を付けてくれた。
「ダリオは、三か月前に『真智に会えたら伝えてくれ。全ては'銀'の中にある』と言っていた」
煙草の煙を細く吐き出す。カウンターの向こうで、ケイは再び包丁を持ち上げた。その刃に映る蛍光灯の光が、一瞬、銀色に輝いたように見えた。
「明日、COLORSの招待状が届くはずだ。行くのか?」
私は黙って頷いた。精巧に作られた右手がかすかに疼いていた。
私はその日何をしていたのだろうか、脳内の血管から体を縦横無尽にめぐる血小板が迷子になっている感覚。食事も摂らず、一日中ダリオの命が消えた事ばかりが、我が城の天井をグルグルと回っている。
夜が深まるにつれて、あの頃のケイの姿が古いフィルムのように断片的に蘇る。彼は「銀」の中でも最高位のCOLORSプレイヤーとして恐れられていた。そんな彼が今は、全く関係のない寿司職人として生きている。私たちはそれぞれの方法で、過去から逃げ出したのだ。
自宅のマンションで、テーブル上の空き封筒を見つめる。インターフォンも鳴らさずに玄関ドアの隙間から投げ込まれていた真っ黒な招待状だ。中には上質な紙に金色の箔押しで『COLORS』と印字されたカードが入っていた。
艶のある黒檀のような表面に、金と銀の糸で織られたような幾何学的な模様。裏面には暗号のような真っ白な文字列が、波打つように蠢いている。
C={R1,B2,G3}
私は思わず、義手の指先でカードの表面を撫でていた。この感触は間違いない。「銀」専用の特殊素材で作られたカード。一般のカジノやギャンブラーが触れることすら許されない代物だ。
スマートフォンを手に取り、その場所を検索しようとした瞬間、画面がブラックアウトして見覚えのない記号が浮かび上がる。「時」からのメッセージだ。この人工知能は、「銀」が生み出した最高傑作の1つだった。
解析結果:
招待状照合完了
参加者ID:IS-0789
ステータス:承認
権限レベル:S
「久しぶり、真智」
15年前と変わらない画面の文字を見ると、脳裏にあの時がフラッシュバックする。
煙草を咥え、火を点けた。白い煙が立ち昇る中、ケイの言葉を思い出す。
「『COLORS』は単なるカードゲームじゃない。それは、俺たちの世界では儀式のようなものだ。必ず血で終わる最悪の儀式だ」
窓の外では、東京の夜景が煌めいていた。その光の中に、どこかダリオの面影を感じる。彼は一体なぜ銀座に――
ブーーーーとスマホのバイブが鳴る
追加情報:
参加者数:8名
特別ルール:適用
持ち物:招待カード
「真智の右手は、どこにあるのかな?」
最後の時の一言に目が留められた瞬間、画面は暗転した。幻痛が、まるで私を嘲笑うかのように激しく疼いた。15年前失った右手。それは単なる戦いの代償ではなかったのかもしれない。
私は立ち上がり、COLORSのカードを締まっている部屋に移動する。クローゼットの奥、厳重に保管していた高級感のある禍々しい黒い箱を取り出す。蓋を開けた瞬間、部屋の空気が凍りつくような緊張に包まれる。
中には52枚の運命が眠っていた。かつて「銀」に所属していた時に使っていた私専用のデッキ。漆黒の表面に、光を纏った赤い模様が浮かび上がる。
カードたちは、まるで私を待っていたかのように反応し、光を放っている。