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1.PARTIRE

ー/ー



アルジェント1

 少しだけ肌寒い空気、乾いた景色がモノクロに映されるなか、グレーの唇から漏れ出す白い煙が、空に吸い込まれるようにかき消される。

 その唇がはっと少しだけ広がると同時に、細長く白い手が、このモノクロに感じる街並みへ紛れるように目立たず、シックなデザインの小さなバッグに吸い込まれた。

 その細く脆そうな手には似つかわない、タブレット端末程にも感じる大き目なスマートフォンをバッグから取り出す。
 モノクロの唇に近づけると、彼女の唇が紅色に発光した。
 スマートフォンから光が消え、端末が地面へだらりと振り降ろされると、その唇から白い煙と共に一言はじき出される。

「なんてこと」

 私は、毎日のように通っている「巴」という名前の寿司屋の前で立ち尽くしていた。誰が見ても寿司屋であることを間違えない佇まいのその店先で、私は一つの言葉を頭上に浮かべていた。

 ~ダリオが死んだ?~

 画面から受け取った情報は、少ない昔からの友、ダリオが殺害されたという、1つの情報。
 私の脳で処理できずに頭上でぷかりと浮き上がっている。それは、解決できず、処理できない疑問として空中に漂っている。
 脳から伸びる触覚でつかめないその疑問は、私を過去へと時間移動させた。

 ――15年前――

「真智は今回の件についてどう思う?」

 ダリオは顎髭に手を這わせながら、先ほどまで未解決であったある問題について、考えた。
 彼がこの答えを求めているということは、それだけこの問題が大きく難解であったかを物語っていた。

「私は自分が持っている力では到底解けないような難しい問題を解決した。としかわからない。なぜ解決出来たのかも」

 私にはもう心の余裕が残っていないのだろうか。強いお酒を一気に飲んで、少しの時間だけ一人になりたいという感覚が、頭のてっぺんから足の裏まで支配していた。

「俺だけではさすがに、仏さん達がカードゲームでもしてる場所に連れて行かれてたかもな」

 彼はこんな時でもギャンブルが頭から離れないのか、そんな冗談が、支配していた一人ぼっちの感覚から解放してくれるようだった。
 正直今回は、あのダリオと言えど、命をなくしていたかもしれない。

 ついさっきまで3棟のビルが建っていた場所で、埃なのか煙なのかわからない靄の中、大きな人型のシルエットがざりざりと瓦礫を踏みしめる音が遠ざかっているのを見守った。

「火劉」がさっきまで命を灯していたけど、瓦礫がその灯を消した事を物語っている。ダリオと私がその灯を消した。その事実だけが、空中に浮かぶものを私の脳内に引きずり込んでくれる。

 古くから存在していた、地方の政治まで影響を与えるほどの組織「火劉」。
 代表である手嶋宗太は、約50人の構成人を使って様々な犯罪を行い、汚い金を得ていた。決してその罪を警察の手に渡さず、巧妙に闇に葬りながら鎬を削る。話を聞く限り、非常にタチの悪い連中だった。

 私が属する組織にとって都合が悪かった火劉は、何年にも渡って日本全国に黒い影を落とし続けていた。
 決して私の属する組織が訳ではないが、火劉を壊滅させた事は、我々の生きる世界では1つの大きな功績として称えられ、アドバンテージとなる。

 私は大きな成果をこれから持ち帰ることになるのだが、足取りは重たい。
 今回だけではない、私たちの仕事は決して誰にも言えず、人として褒められることも無いものだから。
 火劉だった塵を後にして、私も靄の中のダリオについていく。

「悪い、代表に連絡入れておいてくれ」

 ダリオの影がこちらに振り向いた。
 その反動で靄がふわっと消え、シルエットだった顔がはっきりと見えるようになる。

「わかった。あなたは直ぐに医者に行って。確か車で5分も掛からないはず。車は……手配しておく」

「ありがとう」

 そういった彼の唇は耳元まで裂けていた。
 私はいつのまにか失ってしまった右手の代わりに、左手でスマホを操作した。


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 少しだけ肌寒い空気、乾いた景色がモノクロに映されるなか、グレーの唇から漏れ出す白い煙が、空に吸い込まれるようにかき消される。
 その唇がはっと少しだけ広がると同時に、細長く白い手が、このモノクロに感じる街並みへ紛れるように目立たず、シックなデザインの小さなバッグに吸い込まれた。
 その細く脆そうな手には似つかわない、タブレット端末程にも感じる大き目なスマートフォンをバッグから取り出す。
 モノクロの唇に近づけると、彼女の唇が紅色に発光した。
 スマートフォンから光が消え、端末が地面へだらりと振り降ろされると、その唇から白い煙と共に一言はじき出される。
「なんてこと」
 私は、毎日のように通っている「巴」という名前の寿司屋の前で立ち尽くしていた。誰が見ても寿司屋であることを間違えない佇まいのその店先で、私は一つの言葉を頭上に浮かべていた。
 ~ダリオが死んだ?~
 画面から受け取った情報は、少ない昔からの友、ダリオが殺害されたという、1つの情報。
 私の脳で処理できずに頭上でぷかりと浮き上がっている。それは、解決できず、処理できない疑問として空中に漂っている。
 脳から伸びる触覚でつかめないその疑問は、私を過去へと時間移動させた。
 ――15年前――
「真智は今回の件についてどう思う?」
 ダリオは顎髭に手を這わせながら、先ほどまで未解決であったある問題について、考えた。
 彼がこの答えを求めているということは、それだけこの問題が大きく難解であったかを物語っていた。
「私は自分が持っている力では到底解けないような難しい問題を解決した。としかわからない。なぜ解決出来たのかも」
 私にはもう心の余裕が残っていないのだろうか。強いお酒を一気に飲んで、少しの時間だけ一人になりたいという感覚が、頭のてっぺんから足の裏まで支配していた。
「俺だけではさすがに、仏さん達がカードゲームでもしてる場所に連れて行かれてたかもな」
 彼はこんな時でもギャンブルが頭から離れないのか、そんな冗談が、支配していた一人ぼっちの感覚から解放してくれるようだった。
 正直今回は、あのダリオと言えど、命をなくしていたかもしれない。
 ついさっきまで3棟のビルが建っていた場所で、埃なのか煙なのかわからない靄の中、大きな人型のシルエットがざりざりと瓦礫を踏みしめる音が遠ざかっているのを見守った。
「火劉」がさっきまで命を灯していたけど、瓦礫がその灯を消した事を物語っている。ダリオと私がその灯を消した。その事実だけが、空中に浮かぶものを私の脳内に引きずり込んでくれる。
 古くから存在していた、地方の政治まで影響を与えるほどの組織「火劉」。
 代表である手嶋宗太は、約50人の構成人を使って様々な犯罪を行い、汚い金を得ていた。決してその罪を警察の手に渡さず、巧妙に闇に葬りながら鎬を削る。話を聞く限り、非常にタチの悪い連中だった。
 私が属する組織にとって都合が悪かった火劉は、何年にも渡って日本全国に黒い影を落とし続けていた。
 決して私の属する組織が訳ではないが、火劉を壊滅させた事は、我々の生きる世界では1つの大きな功績として称えられ、アドバンテージとなる。
 私は大きな成果をこれから持ち帰ることになるのだが、足取りは重たい。
 今回だけではない、私たちの仕事は決して誰にも言えず、人として褒められることも無いものだから。
 火劉だった塵を後にして、私も靄の中のダリオについていく。
「悪い、代表に連絡入れておいてくれ」
 ダリオの影がこちらに振り向いた。
 その反動で靄がふわっと消え、シルエットだった顔がはっきりと見えるようになる。
「わかった。あなたは直ぐに医者に行って。確か車で5分も掛からないはず。車は……手配しておく」
「ありがとう」
 そういった彼の唇は耳元まで裂けていた。
 私はいつのまにか失ってしまった右手の代わりに、左手でスマホを操作した。