3 大家恵太③
ー/ー「あら、奇遇ね」
建物の陰から現れた結衣は、その言葉とは裏腹に特段驚いたという様子をみせることなく腕を組んで壁に寄り掛かった。軽くため息をつくとさっきまでの不機嫌な表情が嘘だったかのように普段通りの結衣だった。
「というか、やっぱりってなに?」
「なんでもないよ。こっちの話」
香織の返答に結衣の眉間がピクリと動いた気がした。「あっそう」と言うと結衣は一呼吸おいて言葉を続けた。
「で、こんなところで何してるのよ。珍しい組み合わせよね。香織と…そいつなんて」
「そう?珍しくないと思うけど」
「そんなことない。香織に似合わないし、一体何を話すことがあるの?そいつさ」
「結構楽しいよ。結衣ちゃんも話してみたら?恵太くんと結衣ちゃん、合うと思うけどなあ」
嘲笑うかのように話していた結衣は香織のあっけらかんとして口から出たものを聞いて苦虫を潰したような顔をした。
「……話すことなんてない」
あまり聞き取れなかったがそう言っているように聞こえた。
小さい声で呟くと結衣は何かに気付いたのか、目を少し見開くと今度は聞こえる声で香織に尋ねた。
「香織……まさか、まだみんなで集まれるなんて考えてるんじゃないでしょうね」
「考えてるよ」
間髪入れずに真剣な表情をして答えた香織に何か思うところがあったのか、結衣が一瞬言葉を失ったことで気まずい静けさが僕らの間を漂った。
「……あんた、前に私が言ったこと忘れたの?あんなこと言われてよくまだその気でいれるわね」
絞り出すような声で結衣が話し始める。何も答えない香織に続けて言った。
「それに、私はあのとき言われたことを忘れないわ」
「あれは……!」
その言葉には反応して香織はなにか言おうとしたが黙ってしまう。結衣から目を逸らして俯く香織の顔は僕の方から見ることが出来ない。
香織とはもう話すことがないとでも言うように結衣もまったく別の方向に目を向けると舌打ちをした。
「恵太、黙ってないで何か言ったら?」
「え……?」
「どう思ってるのよ。あんたは。集まれると思ってんの?」
その問いかけに結衣の方をみれず、僕は下を向いたまま答えた。
「僕は……集まりたいとは思ってる」
「はあ?あんたがそれ言うの?」
結衣が呆れたというように鼻で笑う。
「今さら?集まって何になるっていうの?もう終わった関係なのに。っていうか集まりたい?どの口がって感じだけどね」
「結衣ちゃん……」
香織の呼びかけも無視して続ける。
「誰のせいでこんなふうになってるのかって分かってんの?」
「……分かってるよ」
「分かってたらそんなこと言わないわよね」
嘲るように笑いながら言う。僕は結衣の言うことになにも言い返す言葉が見つからなかった。特に怒るとかそういうのでもなくただ嫌いな人と話をするときの様な口調というのが余計に胸の奥を締め付けるようだった。
黙っていると、近づいてくる足音が聞こえてきた。足音は僕の正面に来ると止まって、視界には結衣の足元が映っている。息を吐きながらしゃがむのが分かって僕は顔を上げると、僕を見つめる視線と目が合った。
「あんたが……あんたのせいで、彰がいなくなったからでしょ?」
「結衣ちゃん!」
今まで聞いてきた中で一番大きい香織の声だった。その声に反応して香織の方を見ると、立ち上がっていて怒りに満ちた瞳で結衣を睨みつけている。結衣も香織の方を向いていたが、なんでもないという表情でゆっくりと立ち上がると僕を見下ろして再び香織の方に目を向けた。
「これで分かったでしょ?もう諦めて」
冷たく言い放つともう見向きもしないで角を曲がり、結衣の姿が見えなくなった。呆然とそれを見送ったあと、香織は力が抜けたようにその場に座り込んだ。背を向けて俯く彼女がいつもより弱弱しく思えたが、なにか言おうと思ってもかける言葉が見つからない。そうこうしていると香織は顔を上げてこっちを向いた。
「どうしよっか。結衣ちゃんを説得するの、結構大変そうだよ?」
まるで何事もなかったように明るく振る舞う香織を見ると、拍子抜けした気分になって調子が狂う。
「どうしようかって……どうもこうもないだろ」
「そうだよねえ……」
そう呟いた香織は顔を上げて空を向くとしばらくボーっとしていた。
「とりあえず……病院にでも行こうか?」
これ以上二人で悩んでもどうしようもない気がして香織に訊いてみる。香織は僕を見て、「そうだね!いい時間だし」と言い頷くと、よしッという気合いをいれるかのような声を発して勢いよく立ち上がった。
建物の陰から現れた結衣は、その言葉とは裏腹に特段驚いたという様子をみせることなく腕を組んで壁に寄り掛かった。軽くため息をつくとさっきまでの不機嫌な表情が嘘だったかのように普段通りの結衣だった。
「というか、やっぱりってなに?」
「なんでもないよ。こっちの話」
香織の返答に結衣の眉間がピクリと動いた気がした。「あっそう」と言うと結衣は一呼吸おいて言葉を続けた。
「で、こんなところで何してるのよ。珍しい組み合わせよね。香織と…そいつなんて」
「そう?珍しくないと思うけど」
「そんなことない。香織に似合わないし、一体何を話すことがあるの?そいつさ」
「結構楽しいよ。結衣ちゃんも話してみたら?恵太くんと結衣ちゃん、合うと思うけどなあ」
嘲笑うかのように話していた結衣は香織のあっけらかんとして口から出たものを聞いて苦虫を潰したような顔をした。
「……話すことなんてない」
あまり聞き取れなかったがそう言っているように聞こえた。
小さい声で呟くと結衣は何かに気付いたのか、目を少し見開くと今度は聞こえる声で香織に尋ねた。
「香織……まさか、まだみんなで集まれるなんて考えてるんじゃないでしょうね」
「考えてるよ」
間髪入れずに真剣な表情をして答えた香織に何か思うところがあったのか、結衣が一瞬言葉を失ったことで気まずい静けさが僕らの間を漂った。
「……あんた、前に私が言ったこと忘れたの?あんなこと言われてよくまだその気でいれるわね」
絞り出すような声で結衣が話し始める。何も答えない香織に続けて言った。
「それに、私はあのとき言われたことを忘れないわ」
「あれは……!」
その言葉には反応して香織はなにか言おうとしたが黙ってしまう。結衣から目を逸らして俯く香織の顔は僕の方から見ることが出来ない。
香織とはもう話すことがないとでも言うように結衣もまったく別の方向に目を向けると舌打ちをした。
「恵太、黙ってないで何か言ったら?」
「え……?」
「どう思ってるのよ。あんたは。集まれると思ってんの?」
その問いかけに結衣の方をみれず、僕は下を向いたまま答えた。
「僕は……集まりたいとは思ってる」
「はあ?あんたがそれ言うの?」
結衣が呆れたというように鼻で笑う。
「今さら?集まって何になるっていうの?もう終わった関係なのに。っていうか集まりたい?どの口がって感じだけどね」
「結衣ちゃん……」
香織の呼びかけも無視して続ける。
「誰のせいでこんなふうになってるのかって分かってんの?」
「……分かってるよ」
「分かってたらそんなこと言わないわよね」
嘲るように笑いながら言う。僕は結衣の言うことになにも言い返す言葉が見つからなかった。特に怒るとかそういうのでもなくただ嫌いな人と話をするときの様な口調というのが余計に胸の奥を締め付けるようだった。
黙っていると、近づいてくる足音が聞こえてきた。足音は僕の正面に来ると止まって、視界には結衣の足元が映っている。息を吐きながらしゃがむのが分かって僕は顔を上げると、僕を見つめる視線と目が合った。
「あんたが……あんたのせいで、彰がいなくなったからでしょ?」
「結衣ちゃん!」
今まで聞いてきた中で一番大きい香織の声だった。その声に反応して香織の方を見ると、立ち上がっていて怒りに満ちた瞳で結衣を睨みつけている。結衣も香織の方を向いていたが、なんでもないという表情でゆっくりと立ち上がると僕を見下ろして再び香織の方に目を向けた。
「これで分かったでしょ?もう諦めて」
冷たく言い放つともう見向きもしないで角を曲がり、結衣の姿が見えなくなった。呆然とそれを見送ったあと、香織は力が抜けたようにその場に座り込んだ。背を向けて俯く彼女がいつもより弱弱しく思えたが、なにか言おうと思ってもかける言葉が見つからない。そうこうしていると香織は顔を上げてこっちを向いた。
「どうしよっか。結衣ちゃんを説得するの、結構大変そうだよ?」
まるで何事もなかったように明るく振る舞う香織を見ると、拍子抜けした気分になって調子が狂う。
「どうしようかって……どうもこうもないだろ」
「そうだよねえ……」
そう呟いた香織は顔を上げて空を向くとしばらくボーっとしていた。
「とりあえず……病院にでも行こうか?」
これ以上二人で悩んでもどうしようもない気がして香織に訊いてみる。香織は僕を見て、「そうだね!いい時間だし」と言い頷くと、よしッという気合いをいれるかのような声を発して勢いよく立ち上がった。
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