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オル族の集落

ー/ー



 呪いの子と言われたチカップは、肩をびくつかせ、後ずさりした。
 
「自分がやったこと、忘れたんじゃねぇだろうな!」
 
 オル族の男が声を荒げた。
 
「おい、チカップが戻ってきたぞ!」
 
 男の叫び声によって、村の奥から、多くの茶色いフクロウが飛んできた。フクロウたちは一斉に人型へと姿を変え、額にある目でチカップを睨みつけた。
 
「なんで今更戻ってきたの?」
 
「ふん、どうせ他からも追い出されたんだろう」
 
「また集落をめちゃくちゃにするつもり?」
 
「出ていけ!」
 
 オル族たちは、口々に罵声を浴びせた。
 
 チカップは俯いたまま、何も喋らなかった。握りしめられた小さな手が小刻みに震えている。
 
 突如、風が巻き起こった。同時に、無数の煌めく小石がチカップの周りに出現し、勢いよく彼の周囲を舞い始めた。

 小石が、チカップを襲った。周囲を見ると、一人のオル族の足元に魔法陣が描かれていた。
 
 チカップは逃げるそぶりをしなかった。両手、両足、胴体、そして顔面。小石が次々と撃ち込まれていく。額に巻かれた包帯がずり落ち、金色に光る第三の目があらわになった。
 
「その目、忌々しい!」
 
 別のオル族が、魔法陣を描く。
 
 サッカーボールほどの大きさの岩が、チカップの腹部に撃ち込まれた。彼は苦悶の表情を浮かべながら両膝を折った。口から液体が、だらだらと漏れ出した。
 
「あなたたち、何をしていますの!」
 
「やめろよ!」
 
 ソーマとランパが声を張り上げた。
 
「部外者は黙ってろ。こいつが何をしたのか知らないのか!」
 
 怒声とともに、魔法陣が再び描かれる。空中に、巨大な岩が出現した。

「おい、それはやりすぎだろ」

「殺したらまずいって」
 
「知るか。こいつのせいで、オレの息子はっ!」
 
 巨大な岩が、チカップ目掛けて放たれようとしている。まともに受けるとただでは済まないことは明らかだ。
 
「チカップ!」
 
 勇斗は素早く剣を抜き、足に力を込める。動こうとした瞬間、岩が粉々に砕けた。
 
「えっ?」
 
 跪くチカップの前で、ミュールが拳を突き出していた。破壊された岩の破片がパラパラと地面に落下する。
 
 ミュールはふぅと息を吐き、オル族たちを睨みつけた。
 
「何があったか知らないけど、オレたちの仲間を傷つけることは許さねぇ」
 
 岩を放ったオル族が、舌打ちをした。
 
「お前たち、チカップの仲間か? なら早く縁を切ったほうが身のためだぜ? そいつは呪いの子なんだからな」
 
 オル族たちが、じりじりと詰め寄ってきた。全員眉間にしわを寄せている。勇斗とミュールはチカップを守るよう両手を広げた。
 
「どうしたんじゃ、お前たち」
 
 老人のようなしゃがれ声を出すフクロウが、上空より現れた。深い茶色の羽を広げ、バサバサと浮いている。
 
「長!」
 
 オル族たちの視線が上空のフクロウに集められた。
 
「チカップが戻ってきたのです」
 
「ホホウ……よい。皆のもの、下がれ」
 
 オル族たちは小言を言いながら、集落の奥へと消えていった。辺りが静寂に包まれる。
 
「さて、と。お主ら、この集落に何の用があってきたのじゃ?」
 
 フクロウは、勇斗たちの前に降り立ち、老人へと姿を変えた。ふわふわとした白いヒゲをたくわえている。どこか見覚えのある顔だった。
 
「じ、じーちゃん!?」
 
 ミュールが素っ頓狂な声を出した。口をあんぐりと開け、目が点になっている。
 
 目の前の老人は、見張りの塔でお世話になったオル族のロンそっくりだった。
 
「はて、どこかで会ったかの?」
 
「あなたはロンさん、ではないのですか?」
 
 勇斗がおそるおそる尋ねた。
 
「ワシの名はモリシ。お主ら、双子の兄を知っておるのか?」
 
「双子? 兄? じゃあ、アンタはじーちゃんの弟?」
 
「そういうことじゃの」

 モリシとロンが双子だと聞いた瞬間、勇斗の脳裏にある考えがよぎっていた。もしかして、自分とアルトは生き別れの双子なのではないか。だが、両親からそんな話を聞いたことは一度もなかった。もしかして隠されている?

「お主の、その剣と鎧……」

 いつの間にか、ご老体が目の前にいた。つんと、年寄り特有の匂いがした。勇斗は、思わず一歩引いてしまった。
 
「その人は、ユート。精霊樹に行くため、風の大精霊の力が、必要なんス」
 
 ミュールに支えられ立ち上がったチカップが、息も絶え絶えに言った。
 
「ホホウ。どうやら訳ありなようじゃな。立ち話もなんじゃから、ワシの家に来なさい」
 

 モリシのあとに続き、勇斗たちは集落の中を歩いていた。天を仰ぐと、深々とした緑が、自然のカーテンのように集落を覆っている。緑と緑の隙間から、柔らかい光が覗き込んでいた。
 
 オル族の家は、巣箱のような作りで、巨大な木々に寄り添っていた。木と木の間には、吊り橋や階段が複雑に交錯している。居住区全体が、巨大なアスレチックのようだった。
 
 しかし、その大半は崩れていた。木の幹に刻まれた亀裂や、建物の残骸が目に入る。災害のニュースを思い出した。テレビで映し出される悲惨な光景と、よく似ている。
 
「一瞬で元通りにできる魔法さえあればなぁ」
 
「地道にやっていくしかないさ」
 
「重労働は堪えるよ」
 
 愚痴を言い合いながらも、懸命に修復作業をしているオル族の姿が見える。
 
「ワシらオル族は魔法には優れる反面、力仕事は苦手としている。集落の復興は、まだまだかかりそうじゃ」
 
「でもじーちゃんはすげえ力があったぞ? 騎士団長もやってたし」
 
「兄はオル族の中でも類い稀なる武術の才能を持っていた。本来なら兄が長を務めるべきだったのじゃが、集落を出て行ってしもうた。昔から外の世界を見たいと何度も言っておったからのう」
 
 モリシは遠くをぼんやりと眺めながら、長い髭をそっと撫でた。
 
 公園のような広場では、小柄なオル族たちが魔法の練習をしていた。小さな炎が生まれるたび、ガッツポーズをしたり、飛び跳ねたりしていた。勇斗たちに気づくと、額についている目をキョロキョロ動かした。
 
「あれ、チカップじゃん」
 
「うわっ、逃げろー」
 
 小柄なオル族たちはフクロウに姿を変え、飛び去った。
 
「あなた、嫌われ方が半端じゃないですわよ?」
 
 ソーマが目を細めた。
 
 チカップは黙ったままだった。
 
 薙ぎ倒された木々が放置されている道をしばらく歩くと、楕円形の大きな石が見えてきた。石の表面のいたるところに黒い染みのようなものがついている。
 
「あの石は?」
 
 勇斗が尋ねる。モリシは何も答えず、足を早めた。
 
「おい、チカップ! どうした!」
 
 ミュールがあわあわしている。
 
 チカップが顔を真っ青にして震えていた。目の焦点が合っていない。目と鼻と口から、体液がだらだらと流れていた。
 
「まずいなこりゃ。オイラに任せろ」
 
 ランパは、精霊樹の枝をチカップに向けて振りかざした。
 
 チカップの頭上に生成された葉っぱから雫がおだやかに垂れる。雫を浴びたチカップはスッと目を閉じ、その場にパタリと倒れた。深い眠りに入ったようだ。
 
「ワシの家で休ませよう」

「オレが担いでいくよ」

 ミュールは、チカップを背負った。
 
 モリシの家は、集落で最も高い位置に建っていた。何度も階段を登ったり、吊り橋を渡ったり、幹に掘られたトンネルをくぐったりして、ようやくたどり着いた。所々道が壊れていたので、結構な遠回りをさせられた。
 
「フクロウに変身して空を飛べるのに、どうして徒歩用の道が作られているのですか?」
 
「あんまり長い時間変身できないからのぉ。ワシらの羽も、万能ではないんじゃ」
 
 モリシは、頭上で優雅に飛びまわる青い鳥を見て呟いた。
 
「おーい、ジジイ。はやく中に入れろ」
 
 目をつむり、勇斗のマントにしがみついているランパが叫んだ。
 
「そういやチビスケ、高いところが苦手だったな」
 
「オイラは高いのと寒いのが苦手なんだ!」
 
 ランパがピャーッと喚き散らす。
 
「ランパ、僕にしっかり掴まっててよ。絶対に落ちないから」
 
 うん、とか細い声を出したランパを背中に担ぎ、勇斗はモリシの家へと延びる細い階段を上った。
 

 モリシの家の広間には、本が無造作に積まれていた。明かりは窓から入る薄い光のみ。夜になれば、ここは真っ暗になるだろう。オル族は夜目が効くらしいので大した問題ではないのかもしれない。
 
 チカップをベッドに寝かせたあと、勇斗たちは絨毯の上に腰を下ろした。
 
「さて、話を詳しく聞かせてもらおうかの」
 
 勇斗は、これまでの経緯を話した。全部話すのに十分ほどかかった。
 
「ホホ、なるほど。あの予言は的中したってわけじゃな」
 
 話が通じて、勇斗は内心ほっとした。
 
「集落を抜け、しばらく進むと古びた塔がある。そこには風の大精霊様が眠っていると、先祖から伝えられておる」
 
「それでは、早く行きましょう!」
 
 飛び上がるように、ソーマが立ち上がった。輝かせた目を勇斗に向ける。
 
「ホッホ。焦りは禁物じゃ。お主らだけでは塔には近づけんよ」
 
「それは、どういうことですの?」
 
「この集落の周辺は、惑わしの結界が張られておる。お主ら、ここへ来るまで同じ場所を何度も通ったじゃろ? オル族以外の者はこの集落に近づくことすらできない。魔族も同様じゃ。塔へ続く道も同じように結界の中。すぐに元の場所に戻ってきてしまうじゃろう」
 
「じゃあ、他のオル族に案内を頼みますわ」
 
「チカップと一緒にいたお主らを案内してくれるやつはおらんじゃろ。ワシもここを離れるわけにはいかん」
 
「チカップが目を覚ましたら、案内してもらおうよ」
 
「そう、ですわね」
 
「ところで、何でチカップはあんなに嫌われてるんだ?」
 
 ミュールが眉をひそめ、両腕を組んだ。

 モリシは、額の目を大きく開き、勇斗たち一人一人をじっと観察していった。

「……お主らにとって、チカップはどういう存在なのじゃ?」

 勇斗は、少し間を置いたあと、はっきりとした口調で答えた。

「チカップは、僕らの仲間です」
 
「そうか。ならば話そう。チカップが引き起こした災厄の話を。あれは、一年前のことじゃった」
 
 モリシは、部屋の角に置かれた花冠を見つめたあと、パイプに火をつけた。


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 男の叫び声によって、村の奥から、多くの茶色いフクロウが飛んできた。フクロウたちは一斉に人型へと姿を変え、額にある目でチカップを睨みつけた。
「なんで今更戻ってきたの?」
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「また集落をめちゃくちゃにするつもり?」
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 突如、風が巻き起こった。同時に、無数の煌めく小石がチカップの周りに出現し、勢いよく彼の周囲を舞い始めた。
 小石が、チカップを襲った。周囲を見ると、一人のオル族の足元に魔法陣が描かれていた。
 チカップは逃げるそぶりをしなかった。両手、両足、胴体、そして顔面。小石が次々と撃ち込まれていく。額に巻かれた包帯がずり落ち、金色に光る第三の目があらわになった。
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 サッカーボールほどの大きさの岩が、チカップの腹部に撃ち込まれた。彼は苦悶の表情を浮かべながら両膝を折った。口から液体が、だらだらと漏れ出した。
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「やめろよ!」
 ソーマとランパが声を張り上げた。
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 怒声とともに、魔法陣が再び描かれる。空中に、巨大な岩が出現した。
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「殺したらまずいって」
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 巨大な岩が、チカップ目掛けて放たれようとしている。まともに受けるとただでは済まないことは明らかだ。
「チカップ!」
 勇斗は素早く剣を抜き、足に力を込める。動こうとした瞬間、岩が粉々に砕けた。
「えっ?」
 跪くチカップの前で、ミュールが拳を突き出していた。破壊された岩の破片がパラパラと地面に落下する。
 ミュールはふぅと息を吐き、オル族たちを睨みつけた。
「何があったか知らないけど、オレたちの仲間を傷つけることは許さねぇ」
 岩を放ったオル族が、舌打ちをした。
「お前たち、チカップの仲間か? なら早く縁を切ったほうが身のためだぜ? そいつは呪いの子なんだからな」
 オル族たちが、じりじりと詰め寄ってきた。全員眉間にしわを寄せている。勇斗とミュールはチカップを守るよう両手を広げた。
「どうしたんじゃ、お前たち」
 老人のようなしゃがれ声を出すフクロウが、上空より現れた。深い茶色の羽を広げ、バサバサと浮いている。
「長!」
 オル族たちの視線が上空のフクロウに集められた。
「チカップが戻ってきたのです」
「ホホウ……よい。皆のもの、下がれ」
 オル族たちは小言を言いながら、集落の奥へと消えていった。辺りが静寂に包まれる。
「さて、と。お主ら、この集落に何の用があってきたのじゃ?」
 フクロウは、勇斗たちの前に降り立ち、老人へと姿を変えた。ふわふわとした白いヒゲをたくわえている。どこか見覚えのある顔だった。
「じ、じーちゃん!?」
 ミュールが素っ頓狂な声を出した。口をあんぐりと開け、目が点になっている。
 目の前の老人は、見張りの塔でお世話になったオル族のロンそっくりだった。
「はて、どこかで会ったかの?」
「あなたはロンさん、ではないのですか?」
 勇斗がおそるおそる尋ねた。
「ワシの名はモリシ。お主ら、双子の兄を知っておるのか?」
「双子? 兄? じゃあ、アンタはじーちゃんの弟?」
「そういうことじゃの」
 モリシとロンが双子だと聞いた瞬間、勇斗の脳裏にある考えがよぎっていた。もしかして、自分とアルトは生き別れの双子なのではないか。だが、両親からそんな話を聞いたことは一度もなかった。もしかして隠されている?
「お主の、その剣と鎧……」
 いつの間にか、ご老体が目の前にいた。つんと、年寄り特有の匂いがした。勇斗は、思わず一歩引いてしまった。
「その人は、ユート。精霊樹に行くため、風の大精霊の力が、必要なんス」
 ミュールに支えられ立ち上がったチカップが、息も絶え絶えに言った。
「ホホウ。どうやら訳ありなようじゃな。立ち話もなんじゃから、ワシの家に来なさい」
 モリシのあとに続き、勇斗たちは集落の中を歩いていた。天を仰ぐと、深々とした緑が、自然のカーテンのように集落を覆っている。緑と緑の隙間から、柔らかい光が覗き込んでいた。
 オル族の家は、巣箱のような作りで、巨大な木々に寄り添っていた。木と木の間には、吊り橋や階段が複雑に交錯している。居住区全体が、巨大なアスレチックのようだった。
 しかし、その大半は崩れていた。木の幹に刻まれた亀裂や、建物の残骸が目に入る。災害のニュースを思い出した。テレビで映し出される悲惨な光景と、よく似ている。
「一瞬で元通りにできる魔法さえあればなぁ」
「地道にやっていくしかないさ」
「重労働は堪えるよ」
 愚痴を言い合いながらも、懸命に修復作業をしているオル族の姿が見える。
「ワシらオル族は魔法には優れる反面、力仕事は苦手としている。集落の復興は、まだまだかかりそうじゃ」
「でもじーちゃんはすげえ力があったぞ? 騎士団長もやってたし」
「兄はオル族の中でも類い稀なる武術の才能を持っていた。本来なら兄が長を務めるべきだったのじゃが、集落を出て行ってしもうた。昔から外の世界を見たいと何度も言っておったからのう」
 モリシは遠くをぼんやりと眺めながら、長い髭をそっと撫でた。
 公園のような広場では、小柄なオル族たちが魔法の練習をしていた。小さな炎が生まれるたび、ガッツポーズをしたり、飛び跳ねたりしていた。勇斗たちに気づくと、額についている目をキョロキョロ動かした。
「あれ、チカップじゃん」
「うわっ、逃げろー」
 小柄なオル族たちはフクロウに姿を変え、飛び去った。
「あなた、嫌われ方が半端じゃないですわよ?」
 ソーマが目を細めた。
 チカップは黙ったままだった。
 薙ぎ倒された木々が放置されている道をしばらく歩くと、楕円形の大きな石が見えてきた。石の表面のいたるところに黒い染みのようなものがついている。
「あの石は?」
 勇斗が尋ねる。モリシは何も答えず、足を早めた。
「おい、チカップ! どうした!」
 ミュールがあわあわしている。
 チカップが顔を真っ青にして震えていた。目の焦点が合っていない。目と鼻と口から、体液がだらだらと流れていた。
「まずいなこりゃ。オイラに任せろ」
 ランパは、精霊樹の枝をチカップに向けて振りかざした。
 チカップの頭上に生成された葉っぱから雫がおだやかに垂れる。雫を浴びたチカップはスッと目を閉じ、その場にパタリと倒れた。深い眠りに入ったようだ。
「ワシの家で休ませよう」
「オレが担いでいくよ」
 ミュールは、チカップを背負った。
 モリシの家は、集落で最も高い位置に建っていた。何度も階段を登ったり、吊り橋を渡ったり、幹に掘られたトンネルをくぐったりして、ようやくたどり着いた。所々道が壊れていたので、結構な遠回りをさせられた。
「フクロウに変身して空を飛べるのに、どうして徒歩用の道が作られているのですか?」
「あんまり長い時間変身できないからのぉ。ワシらの羽も、万能ではないんじゃ」
 モリシは、頭上で優雅に飛びまわる青い鳥を見て呟いた。
「おーい、ジジイ。はやく中に入れろ」
 目をつむり、勇斗のマントにしがみついているランパが叫んだ。
「そういやチビスケ、高いところが苦手だったな」
「オイラは高いのと寒いのが苦手なんだ!」
 ランパがピャーッと喚き散らす。
「ランパ、僕にしっかり掴まっててよ。絶対に落ちないから」
 うん、とか細い声を出したランパを背中に担ぎ、勇斗はモリシの家へと延びる細い階段を上った。
 モリシの家の広間には、本が無造作に積まれていた。明かりは窓から入る薄い光のみ。夜になれば、ここは真っ暗になるだろう。オル族は夜目が効くらしいので大した問題ではないのかもしれない。
 チカップをベッドに寝かせたあと、勇斗たちは絨毯の上に腰を下ろした。
「さて、話を詳しく聞かせてもらおうかの」
 勇斗は、これまでの経緯を話した。全部話すのに十分ほどかかった。
「ホホ、なるほど。あの予言は的中したってわけじゃな」
 話が通じて、勇斗は内心ほっとした。
「集落を抜け、しばらく進むと古びた塔がある。そこには風の大精霊様が眠っていると、先祖から伝えられておる」
「それでは、早く行きましょう!」
 飛び上がるように、ソーマが立ち上がった。輝かせた目を勇斗に向ける。
「ホッホ。焦りは禁物じゃ。お主らだけでは塔には近づけんよ」
「それは、どういうことですの?」
「この集落の周辺は、惑わしの結界が張られておる。お主ら、ここへ来るまで同じ場所を何度も通ったじゃろ? オル族以外の者はこの集落に近づくことすらできない。魔族も同様じゃ。塔へ続く道も同じように結界の中。すぐに元の場所に戻ってきてしまうじゃろう」
「じゃあ、他のオル族に案内を頼みますわ」
「チカップと一緒にいたお主らを案内してくれるやつはおらんじゃろ。ワシもここを離れるわけにはいかん」
「チカップが目を覚ましたら、案内してもらおうよ」
「そう、ですわね」
「ところで、何でチカップはあんなに嫌われてるんだ?」
 ミュールが眉をひそめ、両腕を組んだ。
 モリシは、額の目を大きく開き、勇斗たち一人一人をじっと観察していった。
「……お主らにとって、チカップはどういう存在なのじゃ?」
 勇斗は、少し間を置いたあと、はっきりとした口調で答えた。
「チカップは、僕らの仲間です」
「そうか。ならば話そう。チカップが引き起こした災厄の話を。あれは、一年前のことじゃった」
 モリシは、部屋の角に置かれた花冠を見つめたあと、パイプに火をつけた。