《お兄ちゃん、本命の大学受かった~☆》
《推薦だけど十倍だったし。ちょっとすごいでしょ?》
とりあえず、と枕元のスマートフォンを確かめれば妹からのメッセージが来ている。タイムスタンプは昨日の夕方だ。まるで気づかなかった。
『
のえる、やったな! おめでとう!』
内容を理解した瞬間、透は反射的に妹ののえるに電話を掛けていた。まずはメッセージで都合を聞くべきだったか、と思い当たったところで通話が繋がったのだ。
『ありがと~。昨日、二次の合格発表だったんだ。まずお兄ちゃんに知らせよーと思って。もうサイコーの誕生日プレゼントだよ! いや、何日遅れかなんだけどさ』
『そういやそうだったな。誕生日もおめでとう、のえる。……プレゼント、送ろうと思ってたのにすっかり忘れてたよ。ゴメン』
数日前に過ぎ去った
十二月二十五日は、名前からも連想できる通りのえるの誕生日。
彼女もいない、友人さえすぐ会えるような近くには住んでいない身には無縁過ぎて意識もしていなかった。
『そんなのいいよー。お兄ちゃんも仕事忙しいでしょ? 「先生」って大変らしいじゃん。まだ新米だしぃ』
軽く笑い飛ばしてくれる妹にほっとする。
──あとで出掛けて、図書カードでも買って送っておこう。のえるは、正面から訊いても欲しい物をねだるようなタイプではない。
『……まーな。子どもはもう冬休みだけど、俺は学校行かないだけでやることいっぱいあるしな』
年末年始は学校自体は閉まるのだが、出勤の必要はなくとも日ごろから持ち帰り仕事が常態化していた。
『そういやお母さんは? 今日も仕事?』
『うん。夕方帰って来る予定だけど、どうかなぁ。残って来そう。で、お正月はまたずっと出るってさ。ホント仕事好きだよね。ママももうトシなんだから、ちょっとはゆっくりすればいいのに~』
そうも行かないだろう。妹にはこれから、普通より高額な学費が掛かるのだから。
今年までは透がいたので、本当にのえる一人のお正月は初めてになる。少し気の毒にも思うけれど。
母にしてもさすがに三が日ずっと泊まり込みはないだろうから、ずっと一人きりということはない筈だ。
◇ ◇ ◇
「かおる、今日も行かなきゃならないの? 元日くらい休んで──」
「病院は年中無休! 当たり前じゃない」
年明け早々、祖母が玄関先で母を引き留めているらしい。のえるの手を引きながら階段を下りていく途中で、透は思わず足を止めた。
「もちろんわかってるわよ。だけど全員出るわけじゃないでしょ? かおるもたまには休ませてもらったっていいんじゃないの? 透くんとのえるちゃんだって寂しいだろうし」
遠慮がちではあるがそう簡単には引かない様子の祖母に、母が仕方なさそうに向き直り息を吐くのが見えた。
「あのさ、あたしがバリバリ働いて稼がなきゃ、その透とのえるだってこれからいくらでもお金が掛かるんだって。進路の制限はしたくないのよ。希望するならどこでも行かせてやりたいもの」
少し呆れたように、それでも決して声を荒げることはない母。
彼女も実母の気遣いを迷惑だとは考えてもいなかっただろう。
「それは、……お母さんたちだって大した援助はできないし、申し訳ないと思ってるけど」
「お父さんとお母さんには、こうしてあたしが仕事の間子ども見てもらえるだけで助かってるし、本当に感謝してるから。学費やなんかは親の責任だから気にする必要なんてない」
「でも」
そうあっさり返す母に、祖母はなおも食い下がろうとする。
「とにかく行くから。話があるなら帰ってからにして」
完全には納得していない祖母を突き放すようにそれだけ言い残し、母はドアを開けて慌しく出勤して行った。
「透、のえる。お雑煮の餅いくつ食べる? おばあちゃんも早く来なさい」
祖父がキッチンから呼び掛ける声。玄関先の話を孫が聞いていることに気づいたのか。
あれは確か透が小学三年生の時だ。のえるの四歳の誕生日の一週間後だった。
もう十五年近く前の、懐かしい記憶が蘇る。いつも優しかった祖父母は、数年前に相次いでこの世を去っていた。