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【3】

ー/ー



《鷹司さん、一日だけ私に付き合ってほしい。水族館に行きたいの。》
 ごく短いメッセージを、昨夜から何度も書いては消して、また考えて。
 文面を決めてからも送信ボタンを押すのを躊躇っていた。今朝になってやっと心を決めて、思い切って送ったのだ。

 街に溢れるイルミネーション。
 半月後に迫ったに向けた華やかな光が、恋人たちに限らず楽しそうに浮かれる人々とは対極の、澪の寂しさを加速させるようで辛い。

 ──クリスマスなんて言わないわ。その前に、一日でいいの。

 真冬にずっと外で過ごすのは現実的ではなかった。
 水族館なら屋内でも人が多く、デートスポットではあってもカップル専用ではないし許容範囲だろうか?
 家族や子連れでも普通に行くところだから大丈夫か、と迷った末に選んだ場所だった。

 もうこれからは、結婚した、……まだしていなくとも決まっている人を誘うなんてできない。
 もし澪なら絶対に嫌だ。パートナーが他の女の子と二人で会うなんて。
 ただの友達だとわかっていても、何もしなくて浮気にならなかったとしても、それは裏切りでしかないと思う。
 けれど知らないふりをして一日だけなら。何があっても必ずこれで最後にするから。

 ──お願い、許してください。誰だかわからない鷹司さんの恋人。

 澪が見たこともない彼を、よく知っているだろう人。

 大学で、澪は講義終わりや休み時間に何度も何度もスマートフォンを確かめては落胆していた。
 その様子に、一番親しくしている(あずさ)が気づいたらしい。

「澪、どうしたー? なんか連絡待ってんの?」
 訊かれても何も返せなかった。
 梓は澪の大切な友人で、信頼しているから全部打ち明けても構わない。ただ、何か一つでも口にしたら涙が溢れそうだった。
 曖昧に笑うだけの澪を問い詰めることはしない梓に、心の中で感謝を告げる。

 鷹司からの返信が来ないのだ。既読はついているにもかかわらず。
 やはり「彼女」が嫌がるからか。いや、いちいちそんなことまで報告しないだろう。
 つまり彼自身が無理だと考えてスルーしているということだ。「何こいつ、無茶言うなよ」と呆れられたのかもしれない。
 やっぱりやめておけばよかったのか。


    ◇  ◇  ◇
《ごめん、今日忙しくてスマホ触る時間ほとんどなかった! メッセージは見たんだけど返事する前に呼ばれちゃって!》
《水族館はOKだよ〜。次の週末でいい? 土曜はどう?》
 今朝のメッセージに、続けて返信が来たのはもう夜十時が近かった。
 この半日、乱高下していた気持ちが少し落ち着く。
 しかしまったく気にしてもいないような文章が少し引っ掛かってしまった。いいのだろうか。……承知してもらったのだから構わない、のか?

《ありがとう! じゃあ土曜に。すっごい楽しみ~♪》
 気分とは裏腹の、能天気なメッセージを作成して送る。
 ボタンを押すと同時に、澪はスマートフォンを手から離した。
 これっきりにする。絶対に、これが最後。
 一緒に写真を撮ってもらおう。引かれない程度にお洒落をして、気分だけでも『デート』を楽しみたい。
 鷹司の「彼女」には悪いけれど想い出が、──最後に一日でいいから、彼と澪だけの時間がほしかった。



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《鷹司さん、一日だけ私に付き合ってほしい。水族館に行きたいの。》
 ごく短いメッセージを、昨夜から何度も書いては消して、また考えて。
 文面を決めてからも送信ボタンを押すのを躊躇っていた。今朝になってやっと心を決めて、思い切って送ったのだ。
 街に溢れるイルミネーション。
 半月後に迫った《《一大イベント》》に向けた華やかな光が、恋人たちに限らず楽しそうに浮かれる人々とは対極の、澪の寂しさを加速させるようで辛い。
 ──クリスマスなんて言わないわ。その前に、一日でいいの。
 真冬にずっと外で過ごすのは現実的ではなかった。
 水族館なら屋内でも人が多く、デートスポットではあってもカップル専用ではないし許容範囲だろうか?
 家族や子連れでも普通に行くところだから大丈夫か、と迷った末に選んだ場所だった。
 もうこれからは、結婚した、……まだしていなくとも決まっている人を誘うなんてできない。
 もし澪なら絶対に嫌だ。パートナーが他の女の子と二人で会うなんて。
 ただの友達だとわかっていても、何もしなくて浮気にならなかったとしても、それは裏切りでしかないと思う。
 けれど知らないふりをして一日だけなら。何があっても必ずこれで最後にするから。
 ──お願い、許してください。誰だかわからない鷹司さんの恋人。
 澪が見たこともない彼を、よく知っているだろう人。
 大学で、澪は講義終わりや休み時間に何度も何度もスマートフォンを確かめては落胆していた。
 その様子に、一番親しくしている|梓《あずさ》が気づいたらしい。
「澪、どうしたー? なんか連絡待ってんの?」
 訊かれても何も返せなかった。
 梓は澪の大切な友人で、信頼しているから全部打ち明けても構わない。ただ、何か一つでも口にしたら涙が溢れそうだった。
 曖昧に笑うだけの澪を問い詰めることはしない梓に、心の中で感謝を告げる。
 鷹司からの返信が来ないのだ。既読はついているにもかかわらず。
 やはり「彼女」が嫌がるからか。いや、いちいちそんなことまで報告しないだろう。
 つまり彼自身が無理だと考えてスルーしているということだ。「何こいつ、無茶言うなよ」と呆れられたのかもしれない。
 やっぱりやめておけばよかったのか。
    ◇  ◇  ◇
《ごめん、今日忙しくてスマホ触る時間ほとんどなかった! メッセージは見たんだけど返事する前に呼ばれちゃって!》
《水族館はOKだよ〜。次の週末でいい? 土曜はどう?》
 今朝のメッセージに、続けて返信が来たのはもう夜十時が近かった。
 この半日、乱高下していた気持ちが少し落ち着く。
 しかしまったく気にしてもいないような文章が少し引っ掛かってしまった。いいのだろうか。……承知してもらったのだから構わない、のか?
《ありがとう! じゃあ土曜に。すっごい楽しみ~♪》
 気分とは裏腹の、能天気なメッセージを作成して送る。
 ボタンを押すと同時に、澪はスマートフォンを手から離した。
 これっきりにする。絶対に、これが最後。
 一緒に写真を撮ってもらおう。引かれない程度にお洒落をして、気分だけでも『デート』を楽しみたい。
 鷹司の「彼女」には悪いけれど想い出が、──最後に一日でいいから、彼と澪だけの時間がほしかった。