表示設定
表示設定
目次 目次




5

ー/ー



「……泣くなって。ごめん、言い方がキツかった」
「泣いてないし」

 背を向けてベッドの上で膝を抱えた私を、桔平くんが後ろから抱きしめてくれる。
 こんなことぐらいですぐ不貞腐れて泣くなんて、我ながら幼稚すぎるでしょう。

「愛茉の気持ちは分かっているよ。七海ちゃんのために、なにかしてあげたいんだよな。ただ、本人から話を聞かねぇうちから、アレコレ考えても仕方ねぇだろ?」

 私の頭を撫でながら、優しい声で桔平くんが言った。まるで、親が小さい子供を宥めて諭すみたいな感じ。ちっとも成長しない自分に嫌気がさしてくる。

 でもこんな風に素のままの感情を出せる相手は、桔平くんしかいない。子供のころにずっと抑え込んでいたものが、いまになってどんどん出てきちゃっているのかな。

「だから勝手に気持ちを決めつけるんじゃなくて、まずは七海ちゃんの話を聞いてやりなよ」
「……うん。ごめんなさい」

 私を包んでくれる逞しい腕に手を添えた。この温かさが、子供っぽくて意地っ張りな私を素直にしてくれる。

 こんなに幼稚でワガママで面倒な女に、よく付き合っていられるなぁ。桔平くんってすごい。
 
「いや、いまのは完全にオレが悪かった」
「ううん。桔平くんの言う通りだもん。七海の気持ちを聞かないうちから、ひとりで突っ走っちゃって」
「正しいことを言う人間が、常に正しいわけじゃねぇからさ。言い方っつーか、伝え方ってもんがあったわ」

 桔平くんのこういうところ、本当に尊敬する。常に自分に矢印が向いていて、絶対に私のせいにしないの。本当は私が子供っぽいだけなのに、いつも謝らせてしまう。

 桔平くんはそのままでいいって言ってくれるけれど、私も本当は大人になりたいんだよ。

「帰りにケーキ買ってくるけど、なにがいい?」
「イチゴのやつ」
「タルト?」
「うん。イチゴいっぱいの」
「分かった。8時までには帰ってくるから。電車に乗るとき、連絡するわ」

 抱きしめたまま、桔平くんが頬にキスをしてくれる。私、とことん甘やかされているなぁ。

 いままで一度も喧嘩をしたことがないのは、こうやって桔平くんがすぐに折れてくれるおかげ。小さなことにこだわらず、こんな私を大きく受け止めてくれているから。そのぐらい、私にも分かる。

 いまの私は、周りの人の優しさに甘えて寄りかかっているだけ。だから、自分にできることをしたいっていう気持ちが過剰になってしまうのかもしれない。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 6


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「……泣くなって。ごめん、言い方がキツかった」
「泣いてないし」
 背を向けてベッドの上で膝を抱えた私を、桔平くんが後ろから抱きしめてくれる。
 こんなことぐらいですぐ不貞腐れて泣くなんて、我ながら幼稚すぎるでしょう。
「愛茉の気持ちは分かっているよ。七海ちゃんのために、なにかしてあげたいんだよな。ただ、本人から話を聞かねぇうちから、アレコレ考えても仕方ねぇだろ?」
 私の頭を撫でながら、優しい声で桔平くんが言った。まるで、親が小さい子供を宥めて諭すみたいな感じ。ちっとも成長しない自分に嫌気がさしてくる。
 でもこんな風に素のままの感情を出せる相手は、桔平くんしかいない。子供のころにずっと抑え込んでいたものが、いまになってどんどん出てきちゃっているのかな。
「だから勝手に気持ちを決めつけるんじゃなくて、まずは七海ちゃんの話を聞いてやりなよ」
「……うん。ごめんなさい」
 私を包んでくれる逞しい腕に手を添えた。この温かさが、子供っぽくて意地っ張りな私を素直にしてくれる。
 こんなに幼稚でワガママで面倒な女に、よく付き合っていられるなぁ。桔平くんってすごい。
「いや、いまのは完全にオレが悪かった」
「ううん。桔平くんの言う通りだもん。七海の気持ちを聞かないうちから、ひとりで突っ走っちゃって」
「正しいことを言う人間が、常に正しいわけじゃねぇからさ。言い方っつーか、伝え方ってもんがあったわ」
 桔平くんのこういうところ、本当に尊敬する。常に自分に矢印が向いていて、絶対に私のせいにしないの。本当は私が子供っぽいだけなのに、いつも謝らせてしまう。
 桔平くんはそのままでいいって言ってくれるけれど、私も本当は大人になりたいんだよ。
「帰りにケーキ買ってくるけど、なにがいい?」
「イチゴのやつ」
「タルト?」
「うん。イチゴいっぱいの」
「分かった。8時までには帰ってくるから。電車に乗るとき、連絡するわ」
 抱きしめたまま、桔平くんが頬にキスをしてくれる。私、とことん甘やかされているなぁ。
 いままで一度も喧嘩をしたことがないのは、こうやって桔平くんがすぐに折れてくれるおかげ。小さなことにこだわらず、こんな私を大きく受け止めてくれているから。そのぐらい、私にも分かる。
 いまの私は、周りの人の優しさに甘えて寄りかかっているだけ。だから、自分にできることをしたいっていう気持ちが過剰になってしまうのかもしれない。