◇ ◇ ◇
「天城さん!?」
真理愛の高校入学を控えた週末。
圭亮が真理愛と二人で買い物に行こうかと駅へ向かう道中だった。何気なく擦れ違った背の高い少年に名を呼ばれて、真理愛が振り向く。
「え、え? あ、匠く、え、っと」
顔を見た途端、記憶を探るまでもなく真理愛には相手がすぐにわかったらしい。
「うわ、久し振りだね~」
「……なんで『天城さん』よ。あたしも『吉村さん』て呼んだ方がいいのか、って迷っちゃったじゃない」
「あー、いきなり名前で呼ぶのもどうかなと思ってさ。でも確かにそうだよな。真理愛ちゃん」
「……真理愛、えーと、──」
二人が偶然の出会いに盛り上がっているところに、圭亮はおずおずと口を挟んだ。
「すみません、御無沙汰してます。僕、吉村 匠です。真理愛さんと小学校で一緒だったんですけど」
匠が恐縮したように頭を下げるのに、真理愛が言い添える。
「パパ、何度も会ってるでしょ? 忘れちゃった?」
その言葉で、圭亮の頭の中に浮かんだ『匠くん』のぼんやりした像が、目の前の大人びた彼の姿と重なった。
幼いころから礼儀正しかった少年。
ただただいい子というわけでもなく、正義感が強くて周りと衝突することもあったらしいのだが。それこそ、真理愛と仲良くなった
発端ではなかったか。
当時から背が高く、可愛らしい巻き毛の──。
「思い出したよ。その天パ、……あっ! いや、ごめん。その」
「パパ! 失礼じゃん!」
思わず口を滑らせた圭亮に、真理愛が慌てている。匠は気にするなという風に軽く頭を振って笑った。
「卒業以来だね。えーと、三年振り?」
「そっか、もう三年なんだ。匠くんも高校受験はなかったんだよね?」
「一貫校だからね。真理愛ちゃんもそうだろ?」
「うん」
笑顔で近況報告をし合う二人を、圭亮は黙って見守る。
「由良ちゃんは西高行くって」
「あ、それは聞いてる。時々会うの」
小学校時代最も親しかった友人の進路は、真理愛も既知らしい。
「竜太は向大付属だってさ。野球の強い高校で決めたらしいよ」
「そうなんだ、知らなかった。竜太くん『野球一筋』って言ってたもんね」
「あ、じゃあ僕、そろそろ──」
圭亮たちが出掛けようとしている空気を読み取ってか、匠が不意にこの時間の終わりを告げた。
「真理愛、久し振りに会ったんだろ? よかったのか? パパと買い物ならいつでも行けるんだし──」
挨拶を交わして、彼と別れたあと。
圭亮が話し出すのを止めるように、真理愛が言葉を被せて来た。
「あたし、今日はパパと一緒がいいの! 二人きりなんて滅多にないもん。匠くんとは会いたかったらまた会えるよ。近くに住んでるんだし」
「そ、うか」
真理愛の台詞に、頬が緩むのがわかる。
彼の方に行ってもいいというのは、紛れもない本音だった。親より友人を優先するのが当然の年頃なのだから。
……この先は、彼氏も加わるかもしれない。
けれど、自分を選んでくれた娘を嬉しく思ってしまうのもまた、圭亮の正直な気持ちなのだ。
真理愛は圭亮の表情を見て、悪戯っぽく笑う。
「ほら、早く行こう! ……何買ってもらおうかなぁ」
そして、わざとらしく甘えるように圭亮の腕を引いた。
~END~