夜に帰宅した父は、祖母に学校での『事件』を聞かされて烈火のごとく怒った。
真理愛は、父に頭ごなしに怒鳴られたことなど一度としてない。それどころか、父が声を荒げる姿を
目の当たりにしたのも初めてだった。
もちろん、日常生活の上で注意を受けることくらいはあるけれど。
「誰だ? パパが行って文句言ってやる! ……母さん、名簿どこ!?」
「パパ、やめて」
普段とまるで様相の違う父に戸惑いながらも必死に止める真理愛に、祖父母も加勢してくれる。
「圭亮! お前がひとりで熱くなってどうすんだ」
「真理愛ちゃんがもういいって言ってるから。あなたが口出しすると余計にややこしくなるでしょ! それに、今は名簿ないのよ。電話連絡網だけ」
祖父母に口々に諫められ、父も少しは落ち着いたのかもしれない。
「パパ、ほんとに大丈夫。西川さん、ごめんなさいしてくれたし。ちゃんと助けてくれるお友達もいるから」
「……わかった。でも、ちょっとでも嫌なこととか困ったことがあったら、絶対パパに言えよ!」
「うん。約束する」
不承不承でも何とか納得したらしい父に、真理愛は真剣に頷いた。
翌朝、真理愛は登校するなり竜太に捉まった。
少し警戒しながらも応じた真理愛に、彼は頭を深々と下げて謝って来る。竜太の家にも担任から連絡が行き、彼は帰宅して事情を知った父親にこっぴどく叱られたそうだ。
しかしそれ以上に、「女の子を虐めるなんて情けない」と母親に泣かれたことが何より堪えたらしい。
もともと竜太は明るく元気ではあったが、特別悪い意味で目立つようなことはなかった。どちらかというと、笑いの中心にいるお調子者の印象が強かったのだ。真理愛自身も経験はないが、誰かに意地悪をしたという話も聞いたことがない。
だからこそ、あまりに突然の豹変に驚きも大きかったのだが。
竜太の説明によると、一昨日の夜に両親が「小さい子の髪を染めるのは、あまりよくないんじゃないか」と話していたという。それが彼の中に『子どもが髪を染めるのは悪いこと』とインプットされてしまい、真理愛への攻撃に繋がったようだ。
昨夜叱られた際に理由を訊かれてその話をしたところ、染めている子が悪いのではなく「薬剤を使うのに」という心配からだったと聞かされたらしい。
数日後、由良と匠が真理愛の家を訪れた。
彼らとはその後も互いの家を行き来し、他の友人も交えて小学校時代はよく遊んだのだ。
竜太ともきちんと和解して、ごく普通のクラスメイトとして接することができていた。
何よりそれをきっかけに匠と仲良くなったし、由良ともより親しくなったので、後を引くようなことにはならなかったのは幸いだったのだろう。
中学校進学で、少なくとも真理愛と匠は他の皆とは別になってしまったのだけれど。