「おかえり、パパ! ばんごはんはカレーだよ」
圭亮が仕事から帰るなり、出迎えた娘の真理愛が嬉しそうに報告する。玄関を開けた途端に漂う香りで、即気づきはしたのだが。
「カレーか、いいな。パパ、カレー大好きだ」
「しってる! まりあもお手伝いしたの。にんじんとじゃがいもの皮むいた」
「そっか、えらいな」
娘と会話しながら歩く。
「圭亮、おかえりなさい。すぐ食べるでしょ?」
とりあえずダイニングキッチンに顔を出した圭亮に、母が声を掛けて来た。
「うん。いま着替えて来るから」
「今日はカレーね。お父さんと圭亮はこっちで、この小さいお鍋はお母さんと真理愛ちゃんの」
二つの手鍋を指して母が説明するのに、圭亮は反射的に言葉を返す。
「また二つ作ったの? 一緒でいいって言ってるじゃん。真理愛に合わせて甘口で、俺たちは適当に唐辛子でも足すよ」
「大した手間じゃないもの。ルー入れる時に分けるだけだから。量は増えるけど、また明日も食べるでしょ?」
「いや、食べるけどさぁ」
すっきりしない圭亮に、母は素早く周囲を窺った。真理愛が父と洗面所で手を洗っているらしい水音を確かめて、そっと囁くように告げて来る。
「……実は甘口だけにするつもりだったのよ。正直、お母さんもカレーのお鍋二つ洗うの面倒だと思っちゃって。でも真理愛ちゃんが、『パパはカレー好きだから、パパの好きな味で作ってあげよう』って。なんか反省したわ」
「鍋は、空になったら明日俺が洗う! それで解決、だよな?」
圭亮が「一件落着」とばかりに宣言するのに、母が笑って手を振った。
「それはいいわ。別に本気で嫌なわけじゃないから」
「いや、洗う! 母さんが全部作ってくれてるんだから、皿洗いくらい俺がやらなきゃいけないんだよな。……ホント、いつも任せきりでごめん」
譲らない圭亮に、母がさらに口を開こうとしたところに父と真理愛がやって来る。
「もー、パパ! 早くきがえて、お手々あらって来てよ」
「あ、そうだよな。ごめん、真理愛」
娘に叱られてあたふたと自室に向かう圭亮の背後で、両親と真理愛が何やら笑いながら話している気配を感じながら。
こんな他愛のない日常も、きっと振り返れば幸せな記憶の一ページになるのだろう。