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【Dinner~天城家のカレー~】②

ー/ー



「母さんのカレー、美味いよなぁ。別に特別なもの何も入ってないのに。カツカレーのときの肉なしカレーでも美味いもんな」
「大袈裟よ。普通のルーで普通に作ってるだけ。誰が作っても同じ」
 圭亮の誉め言葉に、母が謙遜でさえなく素っ気なく返して来る。

「いや、俺大学時代一人暮らしだったじゃん? 自炊っていったらカレーかおでんか炒飯くらいだったけどさ、うちと同じルーで箱の裏見て作っても味違うんだよ。なんでだろ」
 一人頭を捻る圭亮に、横から真理愛も便乗するように声を上げた。

「まりあ、おばあちゃんのカレーだいすき! 給食のカレーもおいしいけど、おばあちゃんのがいちばんおいしい」
「ありがとう、真理愛ちゃん」
 孫娘の称賛は素直に嬉しいのだろう。母が満面の笑みで答える。

「ねー、おばあちゃん。まりあにもカレーおしえて。パパに作ってあげるの」
 カレーは圭亮の大好物だ。もちろん真理愛もよく知っている。……可愛い娘。

「そうね、もう少しだけ大きくなったらね」
 やはり火を使うので、母も安請け合いはできないらしい。真理愛も常日頃聞かされているのか、反論することもなく頷いた。

「母さん。鍋、俺があとで洗うから絶対置いといて!」
 食べ終えて、シンクに運んだ食器を置きながら母に念を押す。
 
「はいはい。……お母さん、圭亮は結婚向いてないと思ってたの。たとえば奥さんが体調悪くてご飯作れない時、『俺の飯は!』はさすがにないだろうけど、『食べて帰るから気にしないで』くらい平気で言いそうだったし」
 軽く返事した母が、続けて唐突に切り出した。

「……」
 母の厳しい言葉を否定できないのが辛い。
 それどころか、当時なら「それの何が問題?」と理解できなかったかもしれないとすら思う。おそらくは「奥さんの食事はどうするの?」と訊かれなければ、思考が及ばなかった。

 真理愛が初めて熱を出したとき。
 これから帰る、と母に電話した際に聞かされて、パニック状態でドラッグストアに駆け込んだ。額に貼る冷却ジェル、イオン飲料のペットボトル、桃と蜜柑の缶詰まで買って、大慌てで帰宅した。
 ダイニングテーブルに並べた品を見た母に、呆れたように「全部うちにある」と言われて脱力したのを思い出す。

「真理愛ちゃんに声掛けてあげて。パパが帰るの待ってたから」
 母の声に、ようやく娘が己に求めているものを知った。
 それでも。たとえ的外れな行動だったとしても、真理愛のために身体が勝手に動いたのだ。

 今まで、他人に何かしてやりたいと心から思ったことがあっただろうか。
 恋人の誕生日にも、相手が欲しがるものを予算と引き比べつつ買って贈り、そこそこの店で食事する。それで十分だと信じていた。
 けれど、そこに気持ちはあったのか?

「パパにカレー作ってあげたい」
 幼い子どもでさえ自然に抱く感情が、自分には欠落していたのかもしれない。

「でもね、昨夜気づいたのよ。お母さんの方も、圭亮をいつまでも子ども扱いしてたのかもしれないって」
 過去を思い返して沈んでいた圭亮は、母の声に現実に引き戻される。
 鍋を洗うと言い出したことか。その程度のことで。……いや、逆だ。さえも、自分はできていなかったのだ。
 真理愛の親になったと自負していた。自分は精一杯努力しているとどこかで考えていた。
 しかし、両親に対してはまだまだ息子気分の甘えが抜けていなかったと感じる。息子であること自体は生涯変わらないとしても。

「俺、まだ『父親年齢二歳』だから。これからも名実ともに親になれるように頑張るよ。母さんたちにも面倒掛けると思うけど」
「それは面倒とは言わないのよ」
 そう微笑む母には、きっとまだまだ敵わない。

  ~END~



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「母さんのカレー、美味いよなぁ。別に特別なもの何も入ってないのに。カツカレーのときの肉なしカレーでも美味いもんな」
「大袈裟よ。普通のルーで普通に作ってるだけ。誰が作っても同じ」
 圭亮の誉め言葉に、母が謙遜でさえなく素っ気なく返して来る。
「いや、俺大学時代一人暮らしだったじゃん? 自炊っていったらカレーかおでんか炒飯くらいだったけどさ、うちと同じルーで箱の裏見て作っても味違うんだよ。なんでだろ」
 一人頭を捻る圭亮に、横から真理愛も便乗するように声を上げた。
「まりあ、おばあちゃんのカレーだいすき! 給食のカレーもおいしいけど、おばあちゃんのがいちばんおいしい」
「ありがとう、真理愛ちゃん」
 孫娘の称賛は素直に嬉しいのだろう。母が満面の笑みで答える。
「ねー、おばあちゃん。まりあにもカレーおしえて。パパに作ってあげるの」
 カレーは圭亮の大好物だ。もちろん真理愛もよく知っている。……可愛い娘。
「そうね、もう少しだけ大きくなったらね」
 やはり火を使うので、母も安請け合いはできないらしい。真理愛も常日頃聞かされているのか、反論することもなく頷いた。
「母さん。鍋、俺があとで洗うから絶対置いといて!」
 食べ終えて、シンクに運んだ食器を置きながら母に念を押す。
「はいはい。……お母さん、圭亮は結婚向いてないと思ってたの。たとえば奥さんが体調悪くてご飯作れない時、『俺の飯は!』はさすがにないだろうけど、『食べて帰るから気にしないで』くらい平気で言いそうだったし」
 軽く返事した母が、続けて唐突に切り出した。
「……」
 母の厳しい言葉を否定できないのが辛い。
 それどころか、当時なら「それの何が問題?」と理解できなかったかもしれないとすら思う。おそらくは「奥さんの食事はどうするの?」と訊かれなければ、思考が及ばなかった。
 真理愛が初めて熱を出したとき。
 これから帰る、と母に電話した際に聞かされて、パニック状態でドラッグストアに駆け込んだ。額に貼る冷却ジェル、イオン飲料のペットボトル、桃と蜜柑の缶詰まで買って、大慌てで帰宅した。
 ダイニングテーブルに並べた品を見た母に、呆れたように「全部うちにある」と言われて脱力したのを思い出す。
「真理愛ちゃんに声掛けてあげて。パパが帰るの待ってたから」
 母の声に、ようやく娘が己に求めているものを知った。
 それでも。たとえ的外れな行動だったとしても、真理愛のために身体が勝手に動いたのだ。
 今まで、他人に何かしてやりたいと心から思ったことがあっただろうか。
 恋人の誕生日にも、相手が欲しがるものを予算と引き比べつつ買って贈り、そこそこの店で食事する。それで十分だと信じていた。
 けれど、そこに気持ちはあったのか?
「パパにカレー作ってあげたい」
 幼い子どもでさえ自然に抱く感情が、自分には欠落していたのかもしれない。
「でもね、昨夜気づいたのよ。お母さんの方も、圭亮をいつまでも子ども扱いしてたのかもしれないって」
 過去を思い返して沈んでいた圭亮は、母の声に現実に引き戻される。
 鍋を洗うと言い出したことか。その程度のことで。……いや、逆だ。《《その程度》》さえも、自分はできていなかったのだ。
 真理愛の親になったと自負していた。自分は精一杯努力しているとどこかで考えていた。
 しかし、両親に対してはまだまだ息子気分の甘えが抜けていなかったと感じる。息子であること自体は生涯変わらないとしても。
「俺、まだ『父親年齢二歳』だから。これからも名実ともに親になれるように頑張るよ。母さんたちにも面倒掛けると思うけど」
「それは面倒とは言わないのよ」
 そう微笑む母には、きっとまだまだ敵わない。
  ~END~