12
ー/ー
「……この方、かけるんのお姉さん?」
「桔平の姉ちゃんだよ」
「えっ!」
七海が目を見開いて、桔平くんと楓さんの顔を交互に見る。
分かる。分かるよ、その反応。七海は桔平くんにお姉さんがいること自体知らなかっただろうし。そもそも周りから見たらミステリアスな雰囲気だから、家族っていう存在がイメージと結びつかないんだよね。
「おっと、そろそろ行かなきゃ。仕事、抜けてきたのよ」
楓さんが腕時計を見て言った。やっぱりデザイナーって忙しいのかな。
「愛茉ちゃん。この子いろいろと危なっかしいけど、どうかよろしくね」
「は、はい」
「翔流もね」
「心配しなくても大丈夫だよ、楓姉ちゃん。最近のこいつ、めちゃくちゃ穏やかだから」
翔流くんの言葉に、楓さんは安心したように優しく微笑む。あ、この表情。やっぱり桔平くんのお姉さんだ。
「じゃあね、桔平。自分の絵、描けるといいわね」
そう言って楓さんは颯爽と去って行った。
桔平くんが自分の絵を描くことで苦しんでいるって、楓さんも分かっているんだ。つまりここに展示されているのは、桔平くんの絵じゃない。
多分桔平くんは、「浅尾瑛士の息子の絵」は苦しまずに描けているんだと思う。ひたすらお父さんの絵の模写をしていたって言うし、その作風も精神も自分の中に取り込んでいるはず。息子だから、なおさら。
その代わり、家で絵を描くときは苦しんでいる。鉛筆画は気ままに描くのに、作品として描こうとすると筆が止まる。桔平くんにとって自分の絵を表に出すのは、相当勇気がいることなんだろうな。
「ビックリしたぁ。浅尾っちのお姉さん、めちゃくちゃ迫力美人だね」
浅尾っち……浅尾きゅんが却下だったから、小林さんの真似? 七海の言葉に、桔平くんは苦笑いを返した。
「でかいだろ? 一緒にいると目立つから、嫌なんだよな」
「桔平くん、上のお姉さんも背が高いの?」
「そうだな。楓と同じくらい」
「浅尾っちって、お姉さんふたりいるんだ?」
「ああ。結婚してイタリアに住んでいるから、楓以上に全然会わねぇけどな」
「うわぁ、桔平の絵すごいな」
こちらの会話をまったく無視して、翔流くんが声を上げた。この人も結構マイペースなのね。
人が少し捌けてきたから、気を取り直して桔平くんの絵を鑑賞することにした。
翔流くんに続いて、七海も感嘆の声を上げる。大きめのキャンバスに描かれているのは、砂岩に囲まれた渓谷に神秘的な光が降り注いでいる光景。タイトルには「水が岩を流れる場所」と書いてあった。
「これって、アンテロープ・キャニオン?」
「そう」
「そういや、今年の春に行ってたよな。日本画の技法で描くの、すごいな」
ふたりの会話についていけない、私と七海。
アンテロープ・キャニオン……? 聞いたことあるような、ないような。
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「桔平の姉ちゃんだよ」
「えっ!」
七海が目を見開いて、桔平くんと楓さんの顔を交互に見る。
分かる。分かるよ、その反応。七海は桔平くんにお姉さんがいること自体知らなかっただろうし。そもそも周りから見たらミステリアスな雰囲気だから、家族っていう存在がイメージと結びつかないんだよね。
「おっと、そろそろ行かなきゃ。仕事、抜けてきたのよ」
楓さんが腕時計を見て言った。やっぱりデザイナーって忙しいのかな。
「愛茉ちゃん。この子いろいろと危なっかしいけど、どうかよろしくね」
「は、はい」
「翔流もね」
「心配しなくても大丈夫だよ、楓姉ちゃん。最近のこいつ、めちゃくちゃ穏やかだから」
翔流くんの言葉に、楓さんは安心したように優しく微笑む。あ、この表情。やっぱり桔平くんのお姉さんだ。
「じゃあね、桔平。自分の絵、描けるといいわね」
そう言って楓さんは颯爽と去って行った。
桔平くんが自分の絵を描くことで苦しんでいるって、楓さんも分かっているんだ。つまりここに展示されているのは、桔平くんの絵じゃない。
多分桔平くんは、「浅尾瑛士の息子の絵」は苦しまずに描けているんだと思う。ひたすらお父さんの絵の模写をしていたって言うし、その作風も精神も自分の中に取り込んでいるはず。息子だから、なおさら。
その代わり、家で絵を描くときは苦しんでいる。鉛筆画は気ままに描くのに、作品として描こうとすると筆が止まる。桔平くんにとって自分の絵を表に出すのは、相当勇気がいることなんだろうな。
「ビックリしたぁ。浅尾っちのお姉さん、めちゃくちゃ迫力美人だね」
浅尾っち……浅尾きゅんが却下だったから、小林さんの真似? 七海の言葉に、桔平くんは苦笑いを返した。
「でかいだろ? 一緒にいると目立つから、嫌なんだよな」
「桔平くん、上のお姉さんも背が高いの?」
「そうだな。楓と同じくらい」
「浅尾っちって、お姉さんふたりいるんだ?」
「ああ。結婚してイタリアに住んでいるから、楓以上に全然会わねぇけどな」
「うわぁ、桔平の絵すごいな」
こちらの会話をまったく無視して、翔流くんが声を上げた。この人も結構マイペースなのね。
人が少し捌けてきたから、気を取り直して桔平くんの絵を鑑賞することにした。
翔流くんに続いて、七海も感嘆の声を上げる。大きめのキャンバスに描かれているのは、砂岩に囲まれた渓谷に神秘的な光が降り注いでいる光景。タイトルには「水が岩を流れる場所」と書いてあった。
「これって、アンテロープ・キャニオン?」
「そう」
「そういや、今年の春に行ってたよな。日本画の技法で描くの、すごいな」
ふたりの会話についていけない、私と七海。
アンテロープ・キャニオン……? 聞いたことあるような、ないような。