終業のチャイムと同時に教室を飛び出し、無人の廊下を走って校舎端の階段を駆け上がる。
踊り場で身を翻す際に躓きそうになって焦る。転んだら時間をロスする、気をつけろ!
早く、早く、早く!
一秒でも早く!
なんで授業なんか出たんだろう。なんであのときすぐに追い掛けなかったんだろう。
──なんで俺は、こんな必死になってるんだろう。
二階分の階段の先は、屋上へのドア。
「林、授業始まるけど」
「ん、うん。──そうだね」
次は英語だし出たほうがいいんじゃ、……英語、だからか。
言葉を飲み込んだ俺を置き去りに教室を出て行った級友の、儚げな細い背中をぼんやりと見送ってしまった。
「林! あんなオッサンほっとけよ! 俺が、いるから」
屋上のドアを押し開けると同時に叫んだ俺に、振り向いたその瞳が潤んでいる。
「俺のほうが若いし、背も高いし!」
「……どうして?」
少し掠れた、涙声。
知ってるかって?
屋上にいること、英語の楠先生の結婚にショック受けたこと。
どっちも同じ理由だよ。
「林のことなら何でも知ってる! ずっと見てたから、俺」
口にしてからやべえと気づく。ストーカーかよ。
「ちょっと怖いんだけど。……ありがと」
泣き笑いの君へと、一歩踏み出す。