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22時の部屋 ―2―

ー/ー



 旭の家族のことを、家系のことを知っているのは、ジョカと国綱、レオノールだけだ。担当教師であるアステシアでさえ、大まかな内容だけで全容を把握しているわけではない。
 旭は赤い本を開き、小さな声で語り出す。それは、赤い本に書かれている騎獅道という存在についてのことだった。


「騎獅道はな、元々は『真王』って呼ばれる統治者を作るための儀式のことを言うんだよ」

「統治者? 儀式?」

「『消えぬ厄災』。覚えてるか?」


 それは、遥か昔の大災害、『天災』の名だ。今では知らぬものはほとんどいないほどだ。全世界が『天災』の恐ろしさを認識するきっかけにもなかったその災害は、東の果ての地。つまり、旭の故郷、極東で起きた。


「それによって、極東は国を統べる者を失った。極東の奴らは大混乱だ」

「……それで生まれたのが」

「『騎獅道』という儀式だ」


 内容のことを聞いてみたかったが、そんな雰囲気ではなかった。辛そうで、おもいだすだけでも苦しそうな表情をしている旭を見て、モニカもどうしてか辛くなる。


「儀式に適合するやつは多くなかった。当然だ。国を背負うような素質を持った人間なんてそうはいない」

「でも、いたんでしょ?」

「あぁ。それが俺の祖先ってわけだ」


 『夜を喰らう獅子が如き者、真王と成りて』。赤い本にはそう書かれているらしい。それ以上先のことを、旭は読もうとも、教えようともしなかった。
 きっと、その人が騎獅道の始まりなのだとモニカは考える。夜を喰らう獅子。いかにもな印象を受けるその名前に、旭は何か心当たりがあるようだった。名前こそ載っていないが、騎獅道の家系である旭には何かが伝わっているのだろう。


「旭君は、どうするの?」


 モニカは静かに問いかけた。赤い本を読んだのなら、なぜわざわざ返しに来たのだろうかと、モニカは心底疑問に思う。これ以上騎獅道のことを知られたくないのなら、返す必要はないはずだ。
 モニカの質問は、全てを察してのものだった。全知の力は使っていない。それでも、なぜかわかる気がした。


「……暇を見て極東へ帰る。二度と戻ることはないって思ってたんだけどな。それがいつになるかは分からん」

「どうして?」

「俺なりにケリをつけたい。()()が騎獅道の因果だって言うなら、俺がそれを燃やし尽くしてやる」

「……そっか、できるといいね」


 赤い本を見つめる旭を見て、モニカは言葉をぎゅっと押し込んだ。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないと、モニカは毛布の中に潜り込んだ。だが、次の瞬間、旭が口にしたのは思ってもいなかった事だった。


「だから、これはいらん」

「え?」


 ポスンと、毛布の上に何かが投げ飛ばされる。恐る恐る毛布から顔を出して見てみると、それは案の定赤い本だった。


「……なんで」

「それは昔の騎獅道のことだ。俺は家族と話に行くだけ。だからそれは必要ない。それに――」


 旭はモニカと目を合わせて言う。


「その本は、お前にこそ必要なものだろ。だからお前にやる」

「……ありがと」


 お腹にいるソラが邪魔になったのか、モニカはモゾモゾとして毛布から手を出して赤い本を受け取る。それを確認すると、旭はくるりと振り返って窓に手をかける。


「じゃ、用はそれだけだから。俺は帰る。これ以上いると危険そうだし」


 旭は少し焦り気味に帰る準備をしている。モニカも忘れていたが、ここは男子禁制の女子寮だ。前回も女子会に遅れないように旭に送ってもらったことがあったが、今回はそれの比ではない。実際に部屋に足を踏み入れているのだから、バレたら謹慎くらいにはなるかもしれない。


「じゃあな、エストレイラ」

「うん。また明日、旭君」


 22時の部屋。モニカと旭の仲は、また少し深くなった気がした。


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 旭の家族のことを、家系のことを知っているのは、ジョカと国綱、レオノールだけだ。担当教師であるアステシアでさえ、大まかな内容だけで全容を把握しているわけではない。
 旭は赤い本を開き、小さな声で語り出す。それは、赤い本に書かれている騎獅道という存在についてのことだった。
「騎獅道はな、元々は『真王』って呼ばれる統治者を作るための儀式のことを言うんだよ」
「統治者? 儀式?」
「『消えぬ厄災』。覚えてるか?」
 それは、遥か昔の大災害、『天災』の名だ。今では知らぬものはほとんどいないほどだ。全世界が『天災』の恐ろしさを認識するきっかけにもなかったその災害は、東の果ての地。つまり、旭の故郷、極東で起きた。
「それによって、極東は国を統べる者を失った。極東の奴らは大混乱だ」
「……それで生まれたのが」
「『騎獅道』という儀式だ」
 内容のことを聞いてみたかったが、そんな雰囲気ではなかった。辛そうで、おもいだすだけでも苦しそうな表情をしている旭を見て、モニカもどうしてか辛くなる。
「儀式に適合するやつは多くなかった。当然だ。国を背負うような素質を持った人間なんてそうはいない」
「でも、いたんでしょ?」
「あぁ。それが俺の祖先ってわけだ」
 『夜を喰らう獅子が如き者、真王と成りて』。赤い本にはそう書かれているらしい。それ以上先のことを、旭は読もうとも、教えようともしなかった。
 きっと、その人が騎獅道の始まりなのだとモニカは考える。夜を喰らう獅子。いかにもな印象を受けるその名前に、旭は何か心当たりがあるようだった。名前こそ載っていないが、騎獅道の家系である旭には何かが伝わっているのだろう。
「旭君は、どうするの?」
 モニカは静かに問いかけた。赤い本を読んだのなら、なぜわざわざ返しに来たのだろうかと、モニカは心底疑問に思う。これ以上騎獅道のことを知られたくないのなら、返す必要はないはずだ。
 モニカの質問は、全てを察してのものだった。全知の力は使っていない。それでも、なぜかわかる気がした。
「……暇を見て極東へ帰る。二度と戻ることはないって思ってたんだけどな。それがいつになるかは分からん」
「どうして?」
「俺なりにケリをつけたい。|こ《・》|れ《・》が騎獅道の因果だって言うなら、俺がそれを燃やし尽くしてやる」
「……そっか、できるといいね」
 赤い本を見つめる旭を見て、モニカは言葉をぎゅっと押し込んだ。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないと、モニカは毛布の中に潜り込んだ。だが、次の瞬間、旭が口にしたのは思ってもいなかった事だった。
「だから、これはいらん」
「え?」
 ポスンと、毛布の上に何かが投げ飛ばされる。恐る恐る毛布から顔を出して見てみると、それは案の定赤い本だった。
「……なんで」
「それは昔の騎獅道のことだ。俺は家族と話に行くだけ。だからそれは必要ない。それに――」
 旭はモニカと目を合わせて言う。
「その本は、お前にこそ必要なものだろ。だからお前にやる」
「……ありがと」
 お腹にいるソラが邪魔になったのか、モニカはモゾモゾとして毛布から手を出して赤い本を受け取る。それを確認すると、旭はくるりと振り返って窓に手をかける。
「じゃ、用はそれだけだから。俺は帰る。これ以上いると危険そうだし」
 旭は少し焦り気味に帰る準備をしている。モニカも忘れていたが、ここは男子禁制の女子寮だ。前回も女子会に遅れないように旭に送ってもらったことがあったが、今回はそれの比ではない。実際に部屋に足を踏み入れているのだから、バレたら謹慎くらいにはなるかもしれない。
「じゃあな、エストレイラ」
「うん。また明日、旭君」
 22時の部屋。モニカと旭の仲は、また少し深くなった気がした。