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暗躍する者たち

ー/ー



魔法使いが人前に出て戦うことは滅多にない。直接的な戦闘を避け、後衛から味方をサポートするのが魔法使いの役割だ。獄蝶のジョカや旭のように、接近戦を得意とする魔法使いは殆どいない。


「バウディアムスのガキ共を殺す。それが今回の任務だ」


 闇夜に紛れ、誰にも勘づかれないように標的を殺す。陽の光の当たらない、常に夜であるノーチェスは、魔法使いにとって絶好の狩場だ。


「目標のため、役目を果たせ。『七曜(しちよう)の魔法使い』」


 魔法使いは暗躍する。モニカたちのいる神精樹の古書館を目指し、夜を駆ける。音もなく、気配を感じさせず、2人の魔法使いが古書館の入口に降り立った。


「たかがガキと油断するな、木曜(フエベス)。相手はあのバウディアムスの生徒だ」

「あー、はいはい分かってるよ。サクッと済ませちゃおう、水曜(ミエルコレス)


 顔まで覆っていた黒いローブを脱ぎ、木曜(フエベス)水曜(ミエルコレス)が姿を露わにする。灰と黒の色。軽装、身軽でシンプルだが統一感がある服だ。まったく着飾っていない真面目そうな印象を受ける水曜(ミエルコレス)に比べて、木曜(フエベス)は服の上に薄い黒のロングコートを羽織っている。


「……木曜(フエベス)、何だそれは」

「黒だし、別にいいでしょ」

「ふざけるな脱げ。邪魔になる」

「は? 私に口出ししないで」


 魔法使いというよりも、暗殺者という方が納得がいく様な格好をした2人が神精樹の古書館の扉に手をかける。この扉を開けた瞬間に、任務が始まる。その瞬間だった。


「かっこいい服だね。それ、どこで買えるんだい?」

「……っ!」


 僅かに照らす月明かりが、木曜(フエベス)水曜(ミエルコレス)の影を伸ばす。誰よりも気配に敏感な2人の背後を取り、1人の()()が2人に近づいてくる。
 まだ気づかれていない。長年の経験からそう感じ取った水曜(ミエルコレス)木曜(フエベス)に近づき、魔女から距離をとる。


「……本を借りにきたのです。研究の参考文献を調べにして」

「ふーん……そっちの子は?」

「あ、あたしは、こいつの付き添いに……」

「へぇ……そっか」


 2人をまじまじと見つめ訝しむ魔女が徐々に距離を詰める。2人の背後は扉。唯一の逃げ場の正面は魔女に塞がれている。正体も知らない、一般人かもしれない目の前の女から放たれるただならぬ雰囲気に水曜(ミエルコレス)は気圧される。だが、木曜(フエベス)は違った。


水曜(ミエルコレス)、任務開始だ)


 静止する水曜(ミエルコレス)の声を聞かず、木曜(フエベス)はすぐ後ろの扉のノックする。その様子を見た魔女は一気に距離を詰めた。それよりも早く、水曜(ミエルコレス)木曜(フエベス)の後ろの扉が開く。中からは白い服を着た司書の女性が顔だけ覗かせる。


「司書ちゃん! 来ちゃダメだ!」

「先にいけ。俺が止める」

「了解。健闘を祈る。無事に終わったら飯でも奢ってくれ」


 悲鳴を上げる司書の口を塞ぎ、攫うように木曜(フエベス)が古書館に侵入する。

 ”水の創成(クリエイト・ウォーター)

 水曜(ミエルコレス)がそう唱えると、辺り一帯に水の球がいくつも浮かび上がってくる。魔女の前に立ち塞がり、水曜(ミエルコレス)は正面から戦うことを決めた。


「あいつなら数分あれば終わるだろう。(しば)し付き合ってもらおうか」


 月明かりの逆光で、水曜(ミエルコレス)からは魔女の表情が見えなかった。俯いたまま動かない魔女の様子を伺い、水曜(ミエルコレス)は全神経を集中させる。
 ピタリと動かなくなった魔女がゆっくりと艶やかな黒髪を束ねると、月明かりで照らされ、その表情が一瞬見える。そして、水曜(ミエルコレス)はようやく事の重大さを理解した。


「お前たち、覚悟しろよ」


 凡常の魔女が激怒する。凡常の魔女の威圧感で空気は割れんばかりに震えている。水曜(ミエルコレス)が浮かばせた水の球が波紋を浮かばせ、いくつかの小さな球は弾けて消えてしまった。


「この私を怒らせたことを後悔しろ」

「……もはや私の人生に後悔はない。ただ、この悲願さえ叶えることができるのなら」


 その戦いは、本当に瞬きの速さで決着がついた。宙に浮かぶいくつもの水の球を操り、多くの武器を構成して魔女に狙いを定める。水の刃が、水の槍が、水の弾丸が、四方を囲んで魔女に襲いかかる。


「”――――”」


 魔女が何かを唱えると、水曜(ミエルコレス)はものすごい勢いで吹き飛ばされた。衝撃で突風を巻き起こし、ぶつかった扉は完全に壊れてしまっている。気絶したのか、水曜(ミエルコレス)の腕の力がパタリと抜けるのと同時に浮かんでいたすべての水の球が一斉に弾け飛ぶ。


「夢か。もしかすると……いや、考えすぎだな」


 凡常の魔女はちゃらんぽらんで、無責任。いい加減な性格をしている。魔女だというのに、頻繁に人前に顔を出して、気さくに挨拶をする凡常の魔女が、すっかり忘れていたこと。
 その性格と平凡を演じてきたことから名付けられた『凡常』の名。凡常の魔女の記憶を上書きするように、その名前は名付けられた。凡常の魔女には、もう1つの名前がある。


「ここからは、『凡常』ではいられないかな」


 元・大魔法使い、『マーリン・ラクス』。今なお大魔法使いと同等として数えられる『始まりの大魔法使い』と肩を並べていた天才だ。


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魔法使いが人前に出て戦うことは滅多にない。直接的な戦闘を避け、後衛から味方をサポートするのが魔法使いの役割だ。獄蝶のジョカや旭のように、接近戦を得意とする魔法使いは殆どいない。
「バウディアムスのガキ共を殺す。それが今回の任務だ」
 闇夜に紛れ、誰にも勘づかれないように標的を殺す。陽の光の当たらない、常に夜であるノーチェスは、魔法使いにとって絶好の狩場だ。
「目標のため、役目を果たせ。『|七曜《しちよう》の魔法使い』」
 魔法使いは暗躍する。モニカたちのいる神精樹の古書館を目指し、夜を駆ける。音もなく、気配を感じさせず、2人の魔法使いが古書館の入口に降り立った。
「たかがガキと油断するな、|木曜《フエベス》。相手はあのバウディアムスの生徒だ」
「あー、はいはい分かってるよ。サクッと済ませちゃおう、|水曜《ミエルコレス》」
 顔まで覆っていた黒いローブを脱ぎ、|木曜《フエベス》と|水曜《ミエルコレス》が姿を露わにする。灰と黒の色。軽装、身軽でシンプルだが統一感がある服だ。まったく着飾っていない真面目そうな印象を受ける|水曜《ミエルコレス》に比べて、|木曜《フエベス》は服の上に薄い黒のロングコートを羽織っている。
「……|木曜《フエベス》、何だそれは」
「黒だし、別にいいでしょ」
「ふざけるな脱げ。邪魔になる」
「は? 私に口出ししないで」
 魔法使いというよりも、暗殺者という方が納得がいく様な格好をした2人が神精樹の古書館の扉に手をかける。この扉を開けた瞬間に、任務が始まる。その瞬間だった。
「かっこいい服だね。それ、どこで買えるんだい?」
「……っ!」
 僅かに照らす月明かりが、|木曜《フエベス》と|水曜《ミエルコレス》の影を伸ばす。誰よりも気配に敏感な2人の背後を取り、1人の|魔《・》|女《・》が2人に近づいてくる。
 まだ気づかれていない。長年の経験からそう感じ取った|水曜《ミエルコレス》は|木曜《フエベス》に近づき、魔女から距離をとる。
「……本を借りにきたのです。研究の参考文献を調べにして」
「ふーん……そっちの子は?」
「あ、あたしは、こいつの付き添いに……」
「へぇ……そっか」
 2人をまじまじと見つめ訝しむ魔女が徐々に距離を詰める。2人の背後は扉。唯一の逃げ場の正面は魔女に塞がれている。正体も知らない、一般人かもしれない目の前の女から放たれるただならぬ雰囲気に|水曜《ミエルコレス》は気圧される。だが、|木曜《フエベス》は違った。
(|水曜《ミエルコレス》、任務開始だ)
 静止する|水曜《ミエルコレス》の声を聞かず、|木曜《フエベス》はすぐ後ろの扉のノックする。その様子を見た魔女は一気に距離を詰めた。それよりも早く、|水曜《ミエルコレス》と|木曜《フエベス》の後ろの扉が開く。中からは白い服を着た司書の女性が顔だけ覗かせる。
「司書ちゃん! 来ちゃダメだ!」
「先にいけ。俺が止める」
「了解。健闘を祈る。無事に終わったら飯でも奢ってくれ」
 悲鳴を上げる司書の口を塞ぎ、攫うように|木曜《フエベス》が古書館に侵入する。
 ”|水の創成《クリエイト・ウォーター》”
 |水曜《ミエルコレス》がそう唱えると、辺り一帯に水の球がいくつも浮かび上がってくる。魔女の前に立ち塞がり、|水曜《ミエルコレス》は正面から戦うことを決めた。
「あいつなら数分あれば終わるだろう。|暫《しば》し付き合ってもらおうか」
 月明かりの逆光で、|水曜《ミエルコレス》からは魔女の表情が見えなかった。俯いたまま動かない魔女の様子を伺い、|水曜《ミエルコレス》は全神経を集中させる。
 ピタリと動かなくなった魔女がゆっくりと艶やかな黒髪を束ねると、月明かりで照らされ、その表情が一瞬見える。そして、|水曜《ミエルコレス》はようやく事の重大さを理解した。
「お前たち、覚悟しろよ」
 凡常の魔女が激怒する。凡常の魔女の威圧感で空気は割れんばかりに震えている。|水曜《ミエルコレス》が浮かばせた水の球が波紋を浮かばせ、いくつかの小さな球は弾けて消えてしまった。
「この私を怒らせたことを後悔しろ」
「……もはや私の人生に後悔はない。ただ、この悲願さえ叶えることができるのなら」
 その戦いは、本当に瞬きの速さで決着がついた。宙に浮かぶいくつもの水の球を操り、多くの武器を構成して魔女に狙いを定める。水の刃が、水の槍が、水の弾丸が、四方を囲んで魔女に襲いかかる。
「”――――”」
 魔女が何かを唱えると、|水曜《ミエルコレス》はものすごい勢いで吹き飛ばされた。衝撃で突風を巻き起こし、ぶつかった扉は完全に壊れてしまっている。気絶したのか、|水曜《ミエルコレス》の腕の力がパタリと抜けるのと同時に浮かんでいたすべての水の球が一斉に弾け飛ぶ。
「夢か。もしかすると……いや、考えすぎだな」
 凡常の魔女はちゃらんぽらんで、無責任。いい加減な性格をしている。魔女だというのに、頻繁に人前に顔を出して、気さくに挨拶をする凡常の魔女が、すっかり忘れていたこと。
 その性格と平凡を演じてきたことから名付けられた『凡常』の名。凡常の魔女の記憶を上書きするように、その名前は名付けられた。凡常の魔女には、もう1つの名前がある。
「ここからは、『凡常』ではいられないかな」
 元・大魔法使い、『マーリン・ラクス』。今なお大魔法使いと同等として数えられる『始まりの大魔法使い』と肩を並べていた天才だ。