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【Change~変身~】①

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若林(わかばやし)くん、これなんだけどさ──」
 パソコンのディスプレイを指しながらの圭亮の言葉に、新入社員の彼はさっと緊張した面持ちになった。
 研修を終えて、昨日正式に配属されたばかりの若林 達大(たつひろ)。圭亮は彼の指導役を任されたのだ。

「は、はい! なんでしょうか!」
「いやいや、そんな身構えなくていいから」
 身体中に力が入っているのがわかる彼の少し上擦った声に、圭亮は苦笑しながら答える。

「とりあえず全体の流れはこれで掴めると思うから。ただいくつか注意して欲しいとこがあるから説明するね」
「はい! あ、あのちょっと、──すみません、お願いします!」
 あたふたと取り出したメモ帳とペンを手に、真剣な眼差しを向けて来る達大。
 真面目で前向きな後輩には、指導する圭亮も力が入るというものだ。

「天城さん、まだ残られてて大丈夫なんですか?」
 勤務終了の定時は一時間ほど前に過ぎている。
 切りの良いところまで進めておこう、と圭亮がディスプレイ上のファイルをクリックしたときだった。
 隣の席から、恐る恐るという感じで達大が声を掛けて来たのだ。

「ん? なんで?」
「お子さんが小さい人は、なるべく早く帰ってもらえるようにしてるって聞いてます」
 彼の返答に、圭亮は少し驚く。

「え!? よく知ってるね。僕が子持ちだって」
「はい、課長に、……あ! 失礼なことを……。プライベートのことに口出すのはダメですよね、あの──」
「そんなの気にする必要ないよ。家庭のことで融通利かせてもらう立場で、ある程度オープンにするの当然だから。配慮はしろ、でも一切触れるなって勝手過ぎるだろ」
 大慌てで取り繕おうと焦っているらしい達大に、圭亮は敢えて軽い口調で返した。

「……すみません、ありがとうございます」
 恐縮している彼に、かえって申し訳ない気分になる。

「僕は両親と同居だしなぁ。娘もやっと小学校入ったし、保育園の送り迎えある人たちとは全然違うからさ。……立花(たちばな)さんとか沢口(さわぐち)さんとかはホントに大変だと思うよ」
「そうなんですね。僕、よくわかってなくて」
 まだ他の課員の状況も把握していない筈だ。
 そうでなくとも子どもどころか結婚もしていない、それ以前に社会に出たばかりの達大には知らないことの方が多くて当然だろう。

「ああ、でも今日は帰らせてもらおうかな。悪いけど」
 正直いったん集中力が途切れてしまったこともあり、圭亮は今日はもう切り上げることにする。

「いえ、そんな! お疲れさまでした! また明日もよろしくお願いします」
「うん、じゃあ若林くんも今日はもう終わりにしようか?」
 きっちり頭を下げる彼に笑顔でそう告げてから、圭亮は片付けに掛かった。

    ◇  ◇  ◇
 電車を降りて、駅の改札を出る。
 人の流れの邪魔にならないよう一歩外れて立ち止まり、圭亮はスマートフォンを取り出して電話を掛けた。

「あ、母さん? 俺、今駅着いた」
 端的にそれだけ告げると、母の返事を確かめて通話をオフにする。会社を出た時と最寄り駅に着いた時の連絡は、圭亮の日々の習慣なのだ。
 家までは一キロ弱、徒歩十分程度だ。今更急いだところで数分も変わらない。頭ではよくわかっているのに、何故だか自然早足になってしまう。

 ──いつものことだ。




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「|若林《わかばやし》くん、これなんだけどさ──」
 パソコンのディスプレイを指しながらの圭亮の言葉に、新入社員の彼はさっと緊張した面持ちになった。
 研修を終えて、昨日正式に配属されたばかりの若林 |達大《たつひろ》。圭亮は彼の指導役を任されたのだ。
「は、はい! なんでしょうか!」
「いやいや、そんな身構えなくていいから」
 身体中に力が入っているのがわかる彼の少し上擦った声に、圭亮は苦笑しながら答える。
「とりあえず全体の流れはこれで掴めると思うから。ただいくつか注意して欲しいとこがあるから説明するね」
「はい! あ、あのちょっと、──すみません、お願いします!」
 あたふたと取り出したメモ帳とペンを手に、真剣な眼差しを向けて来る達大。
 真面目で前向きな後輩には、指導する圭亮も力が入るというものだ。
「天城さん、まだ残られてて大丈夫なんですか?」
 勤務終了の定時は一時間ほど前に過ぎている。
 切りの良いところまで進めておこう、と圭亮がディスプレイ上のファイルをクリックしたときだった。
 隣の席から、恐る恐るという感じで達大が声を掛けて来たのだ。
「ん? なんで?」
「お子さんが小さい人は、なるべく早く帰ってもらえるようにしてるって聞いてます」
 彼の返答に、圭亮は少し驚く。
「え!? よく知ってるね。僕が子持ちだって」
「はい、課長に、……あ! 失礼なことを……。プライベートのことに口出すのはダメですよね、あの──」
「そんなの気にする必要ないよ。家庭のことで融通利かせてもらう立場で、ある程度オープンにするの当然だから。配慮はしろ、でも一切触れるなって勝手過ぎるだろ」
 大慌てで取り繕おうと焦っているらしい達大に、圭亮は敢えて軽い口調で返した。
「……すみません、ありがとうございます」
 恐縮している彼に、かえって申し訳ない気分になる。
「僕は両親と同居だしなぁ。娘もやっと小学校入ったし、保育園の送り迎えある人たちとは全然違うからさ。……|立花《たちばな》さんとか|沢口《さわぐち》さんとかはホントに大変だと思うよ」
「そうなんですね。僕、よくわかってなくて」
 まだ他の課員の状況も把握していない筈だ。
 そうでなくとも子どもどころか結婚もしていない、それ以前に社会に出たばかりの達大には知らないことの方が多くて当然だろう。
「ああ、でも今日は帰らせてもらおうかな。悪いけど」
 正直いったん集中力が途切れてしまったこともあり、圭亮は今日はもう切り上げることにする。
「いえ、そんな! お疲れさまでした! また明日もよろしくお願いします」
「うん、じゃあ若林くんも今日はもう終わりにしようか?」
 きっちり頭を下げる彼に笑顔でそう告げてから、圭亮は片付けに掛かった。
    ◇  ◇  ◇
 電車を降りて、駅の改札を出る。
 人の流れの邪魔にならないよう一歩外れて立ち止まり、圭亮はスマートフォンを取り出して電話を掛けた。
「あ、母さん? 俺、今駅着いた」
 端的にそれだけ告げると、母の返事を確かめて通話をオフにする。会社を出た時と最寄り駅に着いた時の連絡は、圭亮の日々の習慣なのだ。
 家までは一キロ弱、徒歩十分程度だ。今更急いだところで数分も変わらない。頭ではよくわかっているのに、何故だか自然早足になってしまう。
 ──いつものことだ。