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好きではないけど優しい人

ー/ー



 十一月十六日。外は先月よりもさらに涼しくなり、かなり快適な気候へと変化しました。私は青のドレスに身を包み、自宅にある応接室の丁度真ん中の椅子に座って待っています。本来でしたら、この日はお稽古のバイオリンと茶道の日ですがそれらは全て取りやめになりました。私のお見合いの日に設定されたからです。

 こう言うのは日曜日とかそう言うイメージでした。ただ、お相手の方が私の学校とご自身の休日が重なっており、かつ翌日も休みの方が私が楽なのではないかと提案されてこの日になりました。

 確かにそう言われますと、バタバタした日の次が学校よりも一日猶予があった方が楽です。気の利かれる方なのかもしれません。私は少しだけ、お相手の方に期待をしました。

 お相手は確か、水田湊さんと書類には書かれていたと思います。あの青洋水産の御曹司で二十五歳。私でも知っているような大きい会社ですから、おそらくお金持ちでしょう。役職には就いていませんが、取引実績が豊富にあります。多分凄いことのはずです。また、過去には自身が店の経営を行い今でも続く人気店にしたと書かれていました。かなりやり手な方だと推察できます。

 背丈は百八十三ほどと書かれていましたので、私とは四十センチほど差があります。かなり大きい方です。写真が何故かなかったのでどう言った顔なのかがわかりません。これはその時までのお楽しみにしておきましょう。

 しかし、本来であればお相手に関わらず、お見合い自体が来年のこの時期だったはずです。まさか、ここまで早くお見合いが行われるとは。……それほど我が家の財政状況が苦しいのでしょう。

 お父様もお母様も何も言いませんが、私はわかります。貸借対照表の読み方は分かりませんし、ホテル業界の事情などに関する知識もないです。ただ、それでもここ近年の来客の数があからさまに減っている事や家の照明器具などの変更などを見ていれば、察する事はできます。

 余裕があるのであれば、人を我が家に招くはずです。実際昔は相手方から我が家に来ていましたから。週に五日程は誰かしら来ていましたし、おもてなしをしていたはずです。今は月に二日程です。もてなす余裕もなければ、こちらが出向かないといけない立場になっていると考えられでしょう。

 そして、目立たない部分の物のランクがどんどん下がっています。目につく部分は見栄の為にお金を出しているのですが、目立たない部分にまで回す余裕がなくなっているのでしょう。気にはならないのですし、家が続く事が第一ですから文句はありません。ただ、こう言った事の積み重ねで家が苦しいと言うのが伝わってくるのが少し心苦しいです。

 とにかくお金がないから、相手を急いで探して一ヶ月でお見合いと言う流れになったのでしょう。些か早急かなとは思いますが、代々続く名家を破産させて潰す事があってはなりませんから仕方ありません。私の役割は家を次の世代に繋げる事ですから、どんな人でも私はお受けするでしょう。私の好み……好きを出して断ることは許されないのです。

 そう考えれば、このお見合いに意味がないと思います。私はどんな人でも受けるとお父様に伝えていますから。ただ、相手方の水田様が私を見て最終判断をすると仰っていらしたとの事ですから、こうやって会おうとしているわけです。

 今は水田様がいらっしゃるのをお待ちしている状況です。こちらに来られる時間が十四時。現在は十三時三十八分。二十分以上前ですから早過ぎたのかも知れません。しかし、現状の立場は水田様の方が上ですので、失礼がないようにと早めに待っているのです。

 左隣のお父様も右隣のお母様も表情がかなり固いです。家の命運が掛かっているのですから仕方ありません。私ももっと気を引き締めるべきかもしれません。粗相をして破談になってしまえば我が家は窮地に追い込まれますから。

 すぅーっと息を吐きます。鼓動がいつもより少し早くなっています。緊張感を持つのはいいですが、持ち過ぎて固くなり過ぎては、水田様が不快に思われるかもしれません。程よく糸を張らなければいけません。少し俯いて目を閉じて、鼓動を落ち着かせようとします。

 少しだけ落ち着いてきました。言う事を聞いてくれて良かったです。落ち着いてきたら、窓の外にいるであろう雀の鳴き声と、木々のさざめきが聞こえてきました。外は絶好の晴天でしたから、外の動物達にとってはとてもいい具合なのだと思います。オカルトのような考えではありますが、こんなにいい天気でするのであれば、このお見合いも上手くいくような気がしてきました。

「椿、椿」

 席を立ったお父様が私を呼びながら、左肩をポンポンと軽く叩いていました。昔から変わらない、腰の低い柔和な表情をされてますが、どうされたのでしょうか?

「お父様。どうなされましたか?」

「その……、椿が思っている意図もあるけど、椿の好みじゃないなら、断ってもいいんだよ」

 お父様は本当にお優しい方です。私を緊張させないように笑顔で言っておられるのでしょう。お母様もお父様の言葉に頷いています。

「大事な事だからね。一生を決めるのだから、椿の思うようにしないと、ね?」

 お母様は私の手をふんわりと握って摩っています。私の両親がとても優しい方で良かったと思います。けれど、そんな優しい方の善意に頼ってはなりません。私はこの家を継ぐための道具でありますから。

「ありがとうございます。でも、ご心配なく。私の役目はわかっていますから」

 私は覚悟を言葉で示しました。お父様もお母様も苦しそうな笑みを浮かべています。心配かもしれませんが、私は役割を全うするだけです。

「旦那様、椿お嬢様。水田様が到着されました。もう間も無くこちらに来ます」

 無線で連絡を受けた執事が私達にそう告げました。いよいよ始まります。もう少しだけ、集中しましょう。その時が今来てもいいように。

 ギィィィィっと扉がゆっくりと開きます。水田様が入って来られました。その瞬間は、外の光が入って少し眩しくて顔が見えませんでした。目が慣れるとお顔が見えました。

 一言で言えば野生味のあると言う感じです。世間の皆様はワイルドと言う言葉で表現されるでしょう。水田様のお父様もそう言うお顔をされてますから、似た者であるようです。優しさも感じはしますが、それ以上に剛の部分が目立っています。

 我が家を救って頂く立場であるのは重々承知です。承知していますが、……その、全くタイプの顔ではないです。もっと柔和なお顔の方が私は好みですから。世間的に言うと塩顔と分類される顔です。そこに幸薄そうな儚さを合わせた美少年と呼ばれるに相応しいお顔が私の好みになります。

 そうは言っても、私の好み一つでこの話を無かったことにしてしまうわけにはいきません。我慢をしましょう。何度も繰り返しますが私は、この家を繋げる道具なのですから。それが私の意味ですから。

 しかし、水田様のお父様は自然な感じがしますが肝心の御本人様はぎこちなさを感じます。元々お父様の方が漁師から青洋水産を立ち上げたとの事なので、こう言った格式の高い場所の経験が少ないのかもしれません。書類を信じるのであれば女性との交際経験すらないとの事でしたから、初心な反応をしているのかもしれません。そう考えれば、私も少し安心できます。私も殿方との交際経験がありませんから、初心な者同士と言う事で。

 不意に私は少しだけフッと笑ってしまいました。慌てて隠しましたが水田様の反応を見るに、見られてしまったようです。ご不快に思われたかもしれないと少し不安になりましたが、水田様はそう言った雰囲気はありませんでした。少し口が開いてだらしないと言うかなんと言うか……。なんとも言い難い表情をされています。ここまで感情が表に出るのは櫻さんくらいしか見たことがありません。一般の家の方の顔を見るのはいつも面白いですね。




 それからお見合いは和やかに進んで行きました。色々と水田様のお父様から聞かれましたが、卒なく答えられたと思っています。決して粗相はなかったと私は自信を持って言えます。一方の水田様はお話中もずっと緊張されていらっしゃるようで、受け答えが所々詰まっていました。見ていて本当に飽きなかったです。

 面談も終わり、いよいよ最終確認も兼ねて二人きりになっている最中です。バロック式庭園の片隅にあるベンチで水田様と座っています。外の陽気は程よく、寒すぎず暑すぎずと言う感覚です。一方の水田様は暑さを感じているのか、額に汗を浮かべています。男性の方が体温は高いと聞いたことがありますので、仕方ないのかもしれません。

「暑い……ですか?」

 私は直接聞いてみます。体の構造で仕方ないことかもしれませんが、暑くてきつい可能性もありますから聞いておかなければなりません。その場合は別の場所を提案できますから。聞かれた水田様は硬い笑顔をされていました。

「い、いや。そんな事はないよ。こここ、凄く綺麗だしえっと、その……ね」

 暑さは大丈夫な様ですが、後半は口篭っています。言いたい事が纏まらないのでしょうか? いかにも慌てている様な感じです。出て来るまで待ちましょう。頭を掻いている水田様を見つめながら、言葉を待ちます。そうしているとまた汗の量が増えてきた様に見えます。やはり暑いのでしょうか。少し心配になってきました。

「あの。暑ければ室内にしますが、大丈夫でしょうか?」

「だ、大丈夫だよ」

 穏やかな表情でそう答えます。ただ言葉とは違い暑そうに見えて仕方ありません。

「本当でしょうか? 見るからにとても暑そうに見えますが?」

 少ししつこいかもしれませんが、深堀する様に聞いてみます。すると、少し目線を空に向けていました。

「慣れないんだ……。こう言う経験、したことなかったから。けっこう……緊張しててさ。暑くはないんだけど、どうしても汗が止まらなくて、ね。今はつ……椿ちゃんと一緒に居られるのがよくてね。だから、大丈夫だよ」

 ぎこちなさそうな声でしたが、私をしっかりと見て仰られていました。

「そうでしたか……。よかったです。ご不快でなくて」

 私は少し目を閉じて一息つきました。そう言う事であるのなら、このままでいる方がいいでしょう。水田様の見た目は好みではありません。それは今も変わりません。ですが感情が表に出ている様子、実直そうな言葉と態度は嫌いにはなれません。この人となら上手く過ごしていけそうです。私はそう感じて少しだけ水田様に身体を預けてみました。その瞬間、また水田様の体温が上がった感じがして思わず笑ってしまいました。

 面白い人ですね。

 私はそう呟きました。




「椿。本当にいいのか?」

 お見合い後、水田様が家を出てしばらくしてから、お父様が私に尋ねてきました。

「ええ。問題はありませんので」

「そうか……。実直で優しいお方だとは思うけど、顔が椿の好みではなさそうだから、どうかなあと思って」

 お父様は一息つかれています。用意したお相手を断られたらと言う思いでいっぱいだったからでしょう。だとすると、写真はわざとつけてなかったのでしょう。そう私は確信しました。

「そう言う事でしたのね。確かにお父様の見立ては合っています。ですが、それ以上に優しくて面白いお方だと思いましたので。私、いえ、我が家の未来を託すには相応しいはずですから」

「――そうか」

 お父様は少し上を向いて、また一息吐いていました。

 夕焼けの空が紅葉の葉を照らしています。まるで黄金のような煌びやかな光景が目に映ります。きっとこの家の未来もこの景色のように素晴らしいものになるのでしょう。私はまだ見ぬ未来に胸を躍らせていました。


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 十一月十六日。外は先月よりもさらに涼しくなり、かなり快適な気候へと変化しました。私は青のドレスに身を包み、自宅にある応接室の丁度真ん中の椅子に座って待っています。本来でしたら、この日はお稽古のバイオリンと茶道の日ですがそれらは全て取りやめになりました。私のお見合いの日に設定されたからです。
 こう言うのは日曜日とかそう言うイメージでした。ただ、お相手の方が私の学校とご自身の休日が重なっており、かつ翌日も休みの方が私が楽なのではないかと提案されてこの日になりました。
 確かにそう言われますと、バタバタした日の次が学校よりも一日猶予があった方が楽です。気の利かれる方なのかもしれません。私は少しだけ、お相手の方に期待をしました。
 お相手は確か、水田湊さんと書類には書かれていたと思います。あの青洋水産の御曹司で二十五歳。私でも知っているような大きい会社ですから、おそらくお金持ちでしょう。役職には就いていませんが、取引実績が豊富にあります。多分凄いことのはずです。また、過去には自身が店の経営を行い今でも続く人気店にしたと書かれていました。かなりやり手な方だと推察できます。
 背丈は百八十三ほどと書かれていましたので、私とは四十センチほど差があります。かなり大きい方です。写真が何故かなかったのでどう言った顔なのかがわかりません。これはその時までのお楽しみにしておきましょう。
 しかし、本来であればお相手に関わらず、お見合い自体が来年のこの時期だったはずです。まさか、ここまで早くお見合いが行われるとは。……それほど我が家の財政状況が苦しいのでしょう。
 お父様もお母様も何も言いませんが、私はわかります。貸借対照表の読み方は分かりませんし、ホテル業界の事情などに関する知識もないです。ただ、それでもここ近年の来客の数があからさまに減っている事や家の照明器具などの変更などを見ていれば、察する事はできます。
 余裕があるのであれば、人を我が家に招くはずです。実際昔は相手方から我が家に来ていましたから。週に五日程は誰かしら来ていましたし、おもてなしをしていたはずです。今は月に二日程です。もてなす余裕もなければ、こちらが出向かないといけない立場になっていると考えられでしょう。
 そして、目立たない部分の物のランクがどんどん下がっています。目につく部分は見栄の為にお金を出しているのですが、目立たない部分にまで回す余裕がなくなっているのでしょう。気にはならないのですし、家が続く事が第一ですから文句はありません。ただ、こう言った事の積み重ねで家が苦しいと言うのが伝わってくるのが少し心苦しいです。
 とにかくお金がないから、相手を急いで探して一ヶ月でお見合いと言う流れになったのでしょう。些か早急かなとは思いますが、代々続く名家を破産させて潰す事があってはなりませんから仕方ありません。私の役割は家を次の世代に繋げる事ですから、どんな人でも私はお受けするでしょう。私の好み……好きを出して断ることは許されないのです。
 そう考えれば、このお見合いに意味がないと思います。私はどんな人でも受けるとお父様に伝えていますから。ただ、相手方の水田様が私を見て最終判断をすると仰っていらしたとの事ですから、こうやって会おうとしているわけです。
 今は水田様がいらっしゃるのをお待ちしている状況です。こちらに来られる時間が十四時。現在は十三時三十八分。二十分以上前ですから早過ぎたのかも知れません。しかし、現状の立場は水田様の方が上ですので、失礼がないようにと早めに待っているのです。
 左隣のお父様も右隣のお母様も表情がかなり固いです。家の命運が掛かっているのですから仕方ありません。私ももっと気を引き締めるべきかもしれません。粗相をして破談になってしまえば我が家は窮地に追い込まれますから。
 すぅーっと息を吐きます。鼓動がいつもより少し早くなっています。緊張感を持つのはいいですが、持ち過ぎて固くなり過ぎては、水田様が不快に思われるかもしれません。程よく糸を張らなければいけません。少し俯いて目を閉じて、鼓動を落ち着かせようとします。
 少しだけ落ち着いてきました。言う事を聞いてくれて良かったです。落ち着いてきたら、窓の外にいるであろう雀の鳴き声と、木々のさざめきが聞こえてきました。外は絶好の晴天でしたから、外の動物達にとってはとてもいい具合なのだと思います。オカルトのような考えではありますが、こんなにいい天気でするのであれば、このお見合いも上手くいくような気がしてきました。
「椿、椿」
 席を立ったお父様が私を呼びながら、左肩をポンポンと軽く叩いていました。昔から変わらない、腰の低い柔和な表情をされてますが、どうされたのでしょうか?
「お父様。どうなされましたか?」
「その……、椿が思っている意図もあるけど、椿の好みじゃないなら、断ってもいいんだよ」
 お父様は本当にお優しい方です。私を緊張させないように笑顔で言っておられるのでしょう。お母様もお父様の言葉に頷いています。
「大事な事だからね。一生を決めるのだから、椿の思うようにしないと、ね?」
 お母様は私の手をふんわりと握って摩っています。私の両親がとても優しい方で良かったと思います。けれど、そんな優しい方の善意に頼ってはなりません。私はこの家を継ぐための道具でありますから。
「ありがとうございます。でも、ご心配なく。私の役目はわかっていますから」
 私は覚悟を言葉で示しました。お父様もお母様も苦しそうな笑みを浮かべています。心配かもしれませんが、私は役割を全うするだけです。
「旦那様、椿お嬢様。水田様が到着されました。もう間も無くこちらに来ます」
 無線で連絡を受けた執事が私達にそう告げました。いよいよ始まります。もう少しだけ、集中しましょう。その時が今来てもいいように。
 ギィィィィっと扉がゆっくりと開きます。水田様が入って来られました。その瞬間は、外の光が入って少し眩しくて顔が見えませんでした。目が慣れるとお顔が見えました。
 一言で言えば野生味のあると言う感じです。世間の皆様はワイルドと言う言葉で表現されるでしょう。水田様のお父様もそう言うお顔をされてますから、似た者であるようです。優しさも感じはしますが、それ以上に剛の部分が目立っています。
 我が家を救って頂く立場であるのは重々承知です。承知していますが、……その、全くタイプの顔ではないです。もっと柔和なお顔の方が私は好みですから。世間的に言うと塩顔と分類される顔です。そこに幸薄そうな儚さを合わせた美少年と呼ばれるに相応しいお顔が私の好みになります。
 そうは言っても、私の好み一つでこの話を無かったことにしてしまうわけにはいきません。我慢をしましょう。何度も繰り返しますが私は、この家を繋げる道具なのですから。それが私の意味ですから。
 しかし、水田様のお父様は自然な感じがしますが肝心の御本人様はぎこちなさを感じます。元々お父様の方が漁師から青洋水産を立ち上げたとの事なので、こう言った格式の高い場所の経験が少ないのかもしれません。書類を信じるのであれば女性との交際経験すらないとの事でしたから、初心な反応をしているのかもしれません。そう考えれば、私も少し安心できます。私も殿方との交際経験がありませんから、初心な者同士と言う事で。
 不意に私は少しだけフッと笑ってしまいました。慌てて隠しましたが水田様の反応を見るに、見られてしまったようです。ご不快に思われたかもしれないと少し不安になりましたが、水田様はそう言った雰囲気はありませんでした。少し口が開いてだらしないと言うかなんと言うか……。なんとも言い難い表情をされています。ここまで感情が表に出るのは櫻さんくらいしか見たことがありません。一般の家の方の顔を見るのはいつも面白いですね。
 それからお見合いは和やかに進んで行きました。色々と水田様のお父様から聞かれましたが、卒なく答えられたと思っています。決して粗相はなかったと私は自信を持って言えます。一方の水田様はお話中もずっと緊張されていらっしゃるようで、受け答えが所々詰まっていました。見ていて本当に飽きなかったです。
 面談も終わり、いよいよ最終確認も兼ねて二人きりになっている最中です。バロック式庭園の片隅にあるベンチで水田様と座っています。外の陽気は程よく、寒すぎず暑すぎずと言う感覚です。一方の水田様は暑さを感じているのか、額に汗を浮かべています。男性の方が体温は高いと聞いたことがありますので、仕方ないのかもしれません。
「暑い……ですか?」
 私は直接聞いてみます。体の構造で仕方ないことかもしれませんが、暑くてきつい可能性もありますから聞いておかなければなりません。その場合は別の場所を提案できますから。聞かれた水田様は硬い笑顔をされていました。
「い、いや。そんな事はないよ。こここ、凄く綺麗だしえっと、その……ね」
 暑さは大丈夫な様ですが、後半は口篭っています。言いたい事が纏まらないのでしょうか? いかにも慌てている様な感じです。出て来るまで待ちましょう。頭を掻いている水田様を見つめながら、言葉を待ちます。そうしているとまた汗の量が増えてきた様に見えます。やはり暑いのでしょうか。少し心配になってきました。
「あの。暑ければ室内にしますが、大丈夫でしょうか?」
「だ、大丈夫だよ」
 穏やかな表情でそう答えます。ただ言葉とは違い暑そうに見えて仕方ありません。
「本当でしょうか? 見るからにとても暑そうに見えますが?」
 少ししつこいかもしれませんが、深堀する様に聞いてみます。すると、少し目線を空に向けていました。
「慣れないんだ……。こう言う経験、したことなかったから。けっこう……緊張しててさ。暑くはないんだけど、どうしても汗が止まらなくて、ね。今はつ……椿ちゃんと一緒に居られるのがよくてね。だから、大丈夫だよ」
 ぎこちなさそうな声でしたが、私をしっかりと見て仰られていました。
「そうでしたか……。よかったです。ご不快でなくて」
 私は少し目を閉じて一息つきました。そう言う事であるのなら、このままでいる方がいいでしょう。水田様の見た目は好みではありません。それは今も変わりません。ですが感情が表に出ている様子、実直そうな言葉と態度は嫌いにはなれません。この人となら上手く過ごしていけそうです。私はそう感じて少しだけ水田様に身体を預けてみました。その瞬間、また水田様の体温が上がった感じがして思わず笑ってしまいました。
 面白い人ですね。
 私はそう呟きました。
「椿。本当にいいのか?」
 お見合い後、水田様が家を出てしばらくしてから、お父様が私に尋ねてきました。
「ええ。問題はありませんので」
「そうか……。実直で優しいお方だとは思うけど、顔が椿の好みではなさそうだから、どうかなあと思って」
 お父様は一息つかれています。用意したお相手を断られたらと言う思いでいっぱいだったからでしょう。だとすると、写真はわざとつけてなかったのでしょう。そう私は確信しました。
「そう言う事でしたのね。確かにお父様の見立ては合っています。ですが、それ以上に優しくて面白いお方だと思いましたので。私、いえ、我が家の未来を託すには相応しいはずですから」
「――そうか」
 お父様は少し上を向いて、また一息吐いていました。
 夕焼けの空が紅葉の葉を照らしています。まるで黄金のような煌びやかな光景が目に映ります。きっとこの家の未来もこの景色のように素晴らしいものになるのでしょう。私はまだ見ぬ未来に胸を躍らせていました。