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雄大な海と婚約の相談

ー/ー



 海は、偉大だ。少し高い絶壁から見える夕焼け色が混じるアクアマリンを見る度に僕はそう思う。

「おーい湊! またこぎゃんとこおったか!」

 父さんが陽気な声で呼びかけてくる。海に向けた目線を後ろに居るであろう父の方に切り替える。いつ見ても、大柄で色黒。六十五の割に若々しく見えはするが、大きい会社の社長とはとても思えない雰囲気がある。ただ、人情味溢れる所と人に仕事を任せられる胆力があるからここまで来たのだと僕は思っている。

「父さんもよくわかったね」

「そりゃ湊は昔から時間ありゃここ寄ってくじゃろ? したらここ来りゃ大体おるじゃろと思って来とんのや」

「そうしたのは父さんのせいだよ!」

 僕がそう言うと父さんは豪快に笑い始めた。父さんの言った通り、ここに来る習慣が付いたのは父さんのせいに違いない。でも、それが悪いとは微塵も思ってない。むしろ、良い習慣をくれたと思っているんだ。

 あれは小学2年生の頃だったと思う。内気で小さかった僕はいじめっ子のターゲットにされていじめられてた。最初の一ヶ月は耐えたけど、次の一ヶ月が来る頃にはもう限界だった。だからある日駄々を捏ねてしまって、そこから一週間ほど学校に行けなかったと思う。その間はカーテンを閉め切った暗い部屋の片隅で体操座りをして、一日が過ぎるのを待っていた。不毛で辛い日々だった事をはっきりと覚えている。

 それを見かねた父さんが車で僕を遠くに連れ出した。初めは無理やり学校に連れてくのかと思って警戒してたけど、着いたら全然違う場所だったから面食らったのをよく覚えている。

 あたりは林で木々がいっぱい。何を見せに来たのかよくわからなかった。頭にはてなマークが浮かぶ僕を見て父さんは

「いくぞ、湊!」

 と優しい顔ではっきりと僕の名前を呼んで手を取ってくれた。少し険しい道だったし、しばらく部屋に引きこもっていたからしんどかった。あと、何を見に行くのかとかそう言うのを全く言われてないから、ただ歩いているだけの状態。余計に疲れる。

 三十分くらいしてから、父さんが見せたかったものが姿を現した。それがこの海だ。

 辺り一面に広がる雄大な景色、落日の赤と美しいマリンブルーの絶妙なコントラスト、力強くもどこか儚い余韻を感じる波の音。今まで砂浜で見ていた海の景色と同じとは思えないくらい、全てが輝いて素晴らしい絶景に思えた。言葉が出ないくらい、感動していたんだ。

「海はデカいし綺麗だ。穏やかな時もありゃ、荒々しく力強く動く時もあるんじゃ。海の中には色んな魚もおる。荒くれもんも、臆病なもんもこの海は受け入れとる。わしはその一部を頂くことで生活しとるが、そげな奴も海は受け入れてくれるんじゃ」

 父さんの言っている事がすんなりと僕の耳と頭に入ってきた。

「なあ湊。今すぐにたあ言わんが、湊もこの海みたいな男を目指してみんか? 海のように美しい心と雄大さを持つ男に。いじめるクソ野郎も他にもいじめられとる子も全て受け入れられるような男を目指してみんか? 難しいたあ思うが、湊ならできる!」

 父さんは真剣に、でも穏やかな目をして言ってくれた。そこから僕は、変わることができた。海のように全てを受け入れられる人に。雄大に美しく生きようと決めて、その目標に突き進んできた。

 そうしていたら、いつの間にかいじめられなくなったし友達もいっぱいできた。僕の周りは海のように色んな人がいる優しい世界になったかなあと思っている。

 中学生くらいになってからは、自分を変えてくれた海に恩返しがしたくて海の自然環境を護るための活動を少しずつ考えて、それに向けて頑張って来た。その甲斐あって、大学時代には海の環境保護と海自体の素晴らしさを伝える為の店を友人達と作って、この活動がそこそこ認知されるまでになった。

 本当はその事業を続けたかったけど、自分は一人息子だし、メンバーを見れば自分がいなくてもやっていけると判断した。だから、一番経営戦略に長けた友人の卓也と人格者で人望のある友人の久志に任せて、父さんの会社に平社員として入社した。

 今はまだ役職に就いているわけじゃ無いけど、ある程度仕事ができているかなあと思う。自分で言うのもどうかと思うけど、かなり充実した社会人生活なんだと思う。

「で、ここに来るって事は何か用事があるからだよね?」

 ザパーンと波の音が大きく聞こえる。何か大事な話があるのを予感させるような波だった。

「ああ、そうじゃ。……自分のやりたい事謳歌しとる湊には申し訳ないばってんか、結婚してくれんかの」

 父さんが申し訳なさそうに言う。波の音はその通りだった。ただ、父さんの言う事がイマイチピンとこない。

「結婚? 僕は誰とも付き合ってないんだけど?」

 僕は疑問を返す。事業とか勉強に時間を割いてたのと、純粋に興味がある女性の方がいないから僕にはそう言う相手はいない。父さんも知ってるはずなのにどうしてだろうか。

 また波が激しくなってきた。それと同時に陽が太陽に隠れて暗くなってきた。

「お見合いじゃ。一カ月後にお見合いをしてくれと。辻井家のお嬢さんのお婿さんになって欲しいとお話が来とるんじゃ」

 太陽が再び顔を出したが、父さんの表情は冴えない。好きにやりたい事をしている息子を縛るような提案をする事が嫌なようだ。

 父さんが言った辻井家は昔から続く名家で、ホテルを経営している。名前は青龍(せいりゅう)ホテルと言って、大正から続く由緒正しい名門だったはず。昭和やバブル期はそこに泊まると言うのが一種のステータスだったらしい。飲み会の席で会社の竹田課長がそんな事を言ってたのを思い出した。事業としての政略結婚ならば、うちの会社と取引する為の材料と考えているのかもしれない。青龍さんとの取引は一切なかったから。

 うちは青洋(せいよう)水産という名前で主に国内外の水産物とその加工品全般を取り扱う会社だ。工場も自前で持っいる。世間一般的には安いで有名ではあるものの、取引先はそれよりも品質の高さを評価している。当然ではあるけど、高級品や希少かつ貴重な商品もしっかり揃えている。と言うより、うちが扱っていない商品はほぼないに等しい。色んな商品があって、尚且つ安くて質がとてもいいと言う評価でここまでのし上がって来た会社だ。高級ホテルの食事の材料として相応しいものも用意できる自負はある。

 だからうちとの取引をしたいから、大事なお嬢様を差し出すと言う事を考えているのかもしれない。

 他には船に関する事業も関連会社でやっいてる。大型船もやっていた。そこから高級ホテルのノウハウを活かしたクルージング業にも乗り出したいのかもしれない。海に関する事は網羅しているから、事業の話で考えれば色々ビジネス的な可能性が出てくる。

 あと、これは財政的な話にはなるがお金がないと言うのもあるかもしれない。あそこの決算は非上場だから表に出てない。なので憶測ではあるが、経営が上手くいってないのは間違いないだろう。

 朝に読む経済新聞の記事に、五年以上前からお客さんが物凄い勢いで減っていると言う内容が掲載されていた。その他の経済系の雑誌等でも、度々経営危機に近いと言う話を聞くことも珍しくはない。動画サイトでも没落企業の題材として取り上げられるのをよく見かける。業界でも一般的にもそう言う評価になっている。一方でうちは今業績はすこぶるいい。

 事業もだし、家が破産するのを避ける為に、結婚してどうにかしようとしているのかもしれない。うちの会社との提携によるシナジーを合わせればホテルも救われると言うプランなのかもしれない。

 そう考えれば割とあり得る話ではある。うちは会社規模は大きくなってはいる。とは言え、ただの漁師から成り上がってきたのだから家柄や政治力的な基盤が弱い。自分が産まれる前ではあるが、それで煮湯をなん度も飲まされたらしいから間違いない。その我が家が格式と政治力を兼ね備えた辻井家と組めばそこを強化出来る。だから父さんからしても、家は断絶するけど後々会社を残す事を考えればプラスでしかないと考えているのだろう。言ってしまえばWIN-WINな結婚って事になるのか。なるほど。僕はそう結論づけた。

 父さんが僕や会社の将来を安泰する為に持ってきた。ならばそれを何もなしに蹴ってしまうのは良くないだろう。受ける方向では行きたい。とは言え、今の時代の結婚は相手とどれだけ分かり合えるかが大事なはず。先に結婚している卓也から口酸っぱく会うたびに言われる。経験者が言うくらいだから、間違いがないのだろう。それに、相手が嫌がっているのに無理やり結婚する事を僕は望んでいない。

「父さんが僕を思って持ってきたとは思う。けど、相手と合わなさそうなら僕は断るよ。結婚って相手との価値観が合わないと厳しいって、卓也から耳にタコができるくらい聞いてるから。あと、嫌そうにしている時も出来れば断りたい。無理強いはしたくないからね」

 僕は遠慮なく自分の想いを伝えた。父さんはうんうんと頷いていた。

「わかっとるよ。わしも一応あちらさんの両親と話すし、湊がどう思っとるか、お嬢さんの様子を見てからこの話の返事ばする。結婚は、……とても大変じゃけんな」

 父さんは遠くを見ていた。父さん自身、僕の母さんと会うまでに相手側の不倫で二回離婚している。だから、その言葉が自然と出たのだろう。優しい父さんらしい言葉だった。

「ありがとね。僕も真剣に相手を見るよ」

「それでええ。湊の目は確かじゃからな」

 父さんは少し口元を緩めていた。さっきよりも真っ赤に染まった夕焼けが、父さんを暖かく照らしていた。


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 海は、偉大だ。少し高い絶壁から見える夕焼け色が混じるアクアマリンを見る度に僕はそう思う。
「おーい湊! またこぎゃんとこおったか!」
 父さんが陽気な声で呼びかけてくる。海に向けた目線を後ろに居るであろう父の方に切り替える。いつ見ても、大柄で色黒。六十五の割に若々しく見えはするが、大きい会社の社長とはとても思えない雰囲気がある。ただ、人情味溢れる所と人に仕事を任せられる胆力があるからここまで来たのだと僕は思っている。
「父さんもよくわかったね」
「そりゃ湊は昔から時間ありゃここ寄ってくじゃろ? したらここ来りゃ大体おるじゃろと思って来とんのや」
「そうしたのは父さんのせいだよ!」
 僕がそう言うと父さんは豪快に笑い始めた。父さんの言った通り、ここに来る習慣が付いたのは父さんのせいに違いない。でも、それが悪いとは微塵も思ってない。むしろ、良い習慣をくれたと思っているんだ。
 あれは小学2年生の頃だったと思う。内気で小さかった僕はいじめっ子のターゲットにされていじめられてた。最初の一ヶ月は耐えたけど、次の一ヶ月が来る頃にはもう限界だった。だからある日駄々を捏ねてしまって、そこから一週間ほど学校に行けなかったと思う。その間はカーテンを閉め切った暗い部屋の片隅で体操座りをして、一日が過ぎるのを待っていた。不毛で辛い日々だった事をはっきりと覚えている。
 それを見かねた父さんが車で僕を遠くに連れ出した。初めは無理やり学校に連れてくのかと思って警戒してたけど、着いたら全然違う場所だったから面食らったのをよく覚えている。
 あたりは林で木々がいっぱい。何を見せに来たのかよくわからなかった。頭にはてなマークが浮かぶ僕を見て父さんは
「いくぞ、湊!」
 と優しい顔ではっきりと僕の名前を呼んで手を取ってくれた。少し険しい道だったし、しばらく部屋に引きこもっていたからしんどかった。あと、何を見に行くのかとかそう言うのを全く言われてないから、ただ歩いているだけの状態。余計に疲れる。
 三十分くらいしてから、父さんが見せたかったものが姿を現した。それがこの海だ。
 辺り一面に広がる雄大な景色、落日の赤と美しいマリンブルーの絶妙なコントラスト、力強くもどこか儚い余韻を感じる波の音。今まで砂浜で見ていた海の景色と同じとは思えないくらい、全てが輝いて素晴らしい絶景に思えた。言葉が出ないくらい、感動していたんだ。
「海はデカいし綺麗だ。穏やかな時もありゃ、荒々しく力強く動く時もあるんじゃ。海の中には色んな魚もおる。荒くれもんも、臆病なもんもこの海は受け入れとる。わしはその一部を頂くことで生活しとるが、そげな奴も海は受け入れてくれるんじゃ」
 父さんの言っている事がすんなりと僕の耳と頭に入ってきた。
「なあ湊。今すぐにたあ言わんが、湊もこの海みたいな男を目指してみんか? 海のように美しい心と雄大さを持つ男に。いじめるクソ野郎も他にもいじめられとる子も全て受け入れられるような男を目指してみんか? 難しいたあ思うが、湊ならできる!」
 父さんは真剣に、でも穏やかな目をして言ってくれた。そこから僕は、変わることができた。海のように全てを受け入れられる人に。雄大に美しく生きようと決めて、その目標に突き進んできた。
 そうしていたら、いつの間にかいじめられなくなったし友達もいっぱいできた。僕の周りは海のように色んな人がいる優しい世界になったかなあと思っている。
 中学生くらいになってからは、自分を変えてくれた海に恩返しがしたくて海の自然環境を護るための活動を少しずつ考えて、それに向けて頑張って来た。その甲斐あって、大学時代には海の環境保護と海自体の素晴らしさを伝える為の店を友人達と作って、この活動がそこそこ認知されるまでになった。
 本当はその事業を続けたかったけど、自分は一人息子だし、メンバーを見れば自分がいなくてもやっていけると判断した。だから、一番経営戦略に長けた友人の卓也と人格者で人望のある友人の久志に任せて、父さんの会社に平社員として入社した。
 今はまだ役職に就いているわけじゃ無いけど、ある程度仕事ができているかなあと思う。自分で言うのもどうかと思うけど、かなり充実した社会人生活なんだと思う。
「で、ここに来るって事は何か用事があるからだよね?」
 ザパーンと波の音が大きく聞こえる。何か大事な話があるのを予感させるような波だった。
「ああ、そうじゃ。……自分のやりたい事謳歌しとる湊には申し訳ないばってんか、結婚してくれんかの」
 父さんが申し訳なさそうに言う。波の音はその通りだった。ただ、父さんの言う事がイマイチピンとこない。
「結婚? 僕は誰とも付き合ってないんだけど?」
 僕は疑問を返す。事業とか勉強に時間を割いてたのと、純粋に興味がある女性の方がいないから僕にはそう言う相手はいない。父さんも知ってるはずなのにどうしてだろうか。
 また波が激しくなってきた。それと同時に陽が太陽に隠れて暗くなってきた。
「お見合いじゃ。一カ月後にお見合いをしてくれと。辻井家のお嬢さんのお婿さんになって欲しいとお話が来とるんじゃ」
 太陽が再び顔を出したが、父さんの表情は冴えない。好きにやりたい事をしている息子を縛るような提案をする事が嫌なようだ。
 父さんが言った辻井家は昔から続く名家で、ホテルを経営している。名前は|青龍《せいりゅう》ホテルと言って、大正から続く由緒正しい名門だったはず。昭和やバブル期はそこに泊まると言うのが一種のステータスだったらしい。飲み会の席で会社の竹田課長がそんな事を言ってたのを思い出した。事業としての政略結婚ならば、うちの会社と取引する為の材料と考えているのかもしれない。青龍さんとの取引は一切なかったから。
 うちは|青洋《せいよう》水産という名前で主に国内外の水産物とその加工品全般を取り扱う会社だ。工場も自前で持っいる。世間一般的には安いで有名ではあるものの、取引先はそれよりも品質の高さを評価している。当然ではあるけど、高級品や希少かつ貴重な商品もしっかり揃えている。と言うより、うちが扱っていない商品はほぼないに等しい。色んな商品があって、尚且つ安くて質がとてもいいと言う評価でここまでのし上がって来た会社だ。高級ホテルの食事の材料として相応しいものも用意できる自負はある。
 だからうちとの取引をしたいから、大事なお嬢様を差し出すと言う事を考えているのかもしれない。
 他には船に関する事業も関連会社でやっいてる。大型船もやっていた。そこから高級ホテルのノウハウを活かしたクルージング業にも乗り出したいのかもしれない。海に関する事は網羅しているから、事業の話で考えれば色々ビジネス的な可能性が出てくる。
 あと、これは財政的な話にはなるがお金がないと言うのもあるかもしれない。あそこの決算は非上場だから表に出てない。なので憶測ではあるが、経営が上手くいってないのは間違いないだろう。
 朝に読む経済新聞の記事に、五年以上前からお客さんが物凄い勢いで減っていると言う内容が掲載されていた。その他の経済系の雑誌等でも、度々経営危機に近いと言う話を聞くことも珍しくはない。動画サイトでも没落企業の題材として取り上げられるのをよく見かける。業界でも一般的にもそう言う評価になっている。一方でうちは今業績はすこぶるいい。
 事業もだし、家が破産するのを避ける為に、結婚してどうにかしようとしているのかもしれない。うちの会社との提携によるシナジーを合わせればホテルも救われると言うプランなのかもしれない。
 そう考えれば割とあり得る話ではある。うちは会社規模は大きくなってはいる。とは言え、ただの漁師から成り上がってきたのだから家柄や政治力的な基盤が弱い。自分が産まれる前ではあるが、それで煮湯をなん度も飲まされたらしいから間違いない。その我が家が格式と政治力を兼ね備えた辻井家と組めばそこを強化出来る。だから父さんからしても、家は断絶するけど後々会社を残す事を考えればプラスでしかないと考えているのだろう。言ってしまえばWIN-WINな結婚って事になるのか。なるほど。僕はそう結論づけた。
 父さんが僕や会社の将来を安泰する為に持ってきた。ならばそれを何もなしに蹴ってしまうのは良くないだろう。受ける方向では行きたい。とは言え、今の時代の結婚は相手とどれだけ分かり合えるかが大事なはず。先に結婚している卓也から口酸っぱく会うたびに言われる。経験者が言うくらいだから、間違いがないのだろう。それに、相手が嫌がっているのに無理やり結婚する事を僕は望んでいない。
「父さんが僕を思って持ってきたとは思う。けど、相手と合わなさそうなら僕は断るよ。結婚って相手との価値観が合わないと厳しいって、卓也から耳にタコができるくらい聞いてるから。あと、嫌そうにしている時も出来れば断りたい。無理強いはしたくないからね」
 僕は遠慮なく自分の想いを伝えた。父さんはうんうんと頷いていた。
「わかっとるよ。わしも一応あちらさんの両親と話すし、湊がどう思っとるか、お嬢さんの様子を見てからこの話の返事ばする。結婚は、……とても大変じゃけんな」
 父さんは遠くを見ていた。父さん自身、僕の母さんと会うまでに相手側の不倫で二回離婚している。だから、その言葉が自然と出たのだろう。優しい父さんらしい言葉だった。
「ありがとね。僕も真剣に相手を見るよ」
「それでええ。湊の目は確かじゃからな」
 父さんは少し口元を緩めていた。さっきよりも真っ赤に染まった夕焼けが、父さんを暖かく照らしていた。