はじめての気持ちとやりたい事
ー/ー
夕刻。陽はすぐにでも隠れてしまいそうで、車のライトはすでに点灯していた。自分で車の運転はできるし車も持っているけど、父さんが自分が自分がと言って聞かなかったから、父さんが運転する父さんの愛車に乗っている。二人で乗るには大き過ぎるミニバンに乗って帰路の途についているのが現在の状況だ。
お見合いはとてもいい時間だった。超がつくほどの名家のお嬢様だと聞いていたから、キツい感じの表情でマナーがなってなくてよ、とか言われてしまうかもなあと考えていた。だから、椿ちゃんの穏やかな対応には正直驚いた。あと、もっと大柄な、自分と同じくらいの背丈の人を想定していたから思ってたより数段小さかったのにも驚いた。
それよりもかわいい。かわいすぎる。美人ではなく、かわいいなんだ。それに名家のお嬢様であるが故の高潔さが加わって、今までにない感情を覚えた。多分これが恋と言う感情なんだろう。一眼見た瞬間のあの衝撃は忘れられない。全身が覚醒したかの様にサッと力が抜ける様で入る様な中々形容できない感覚。
それからは心臓の鼓動が止まらなかった。そのせいで汗が出過ぎて椿ちゃんを心配させてしまったのは苦しかった。そのお陰でなぜか寄りかかってもらえると言う素晴らしい感覚を味わえたけど。あとあの魔性と言うべきかなんと言うか。さっきから言っている高貴さと見た目の幼さから来るカワイイが混ざったあの笑顔。微笑み。アレは言葉に出来ない感情を覚えた。お陰様で心拍数は今も普段より高い。ふわふわした感覚も抜けきれない。ただのお見合いと思っていたけど、それ以上のモノが得られた気分だ。
「湊、どげんするか?」
父さんが現実に引き戻す言葉を掛けてきた。少しだけ自分の気持ちがこっちに戻ってきた。車のハンドルを握る父さんはいつになく真剣な表情をしている。僕の今後を決める事だから真剣になるのも当然と言えば当然だ。
「受けるよ。誰がなんと言おうと」
僕は強い言葉で答える。父さんは柔らかな表情をしていた。
「そうかそうか。よかったよ。名家じゃけど、親御さんの人柄は悪くなさそうじゃけん、あとは湊次第でと思っとったんじゃ。まあ湊が良いっちゅうんならワシはなんも言わんけどな」
「父さんならそう言うと思ったよ」
「ハハハ! お前さんの結婚じゃけん、お前さんの意思が大事に決まっとろうもん! でも、湊がそんなあっさり決めるんはびっくりしたわ」
「まあ、自分でもびっくりするくらい、その……、椿ちゃんに惚れちゃってね」
この言葉を聞いた父さんはさらに愉快な表情になっていた。
「湊が女子に恋するたぁ! 明日は大荒れじゃな。湊も男やったっちゅう事やな!」
「ははは。そう言う事だよ。好きになる人が出来ちゃうってはねえ。一生縁がないって思ってたからさ」
自分も笑って答えていた。
「どこがよかったんじゃ?」
「それ聞いちゃう?」
「親じゃけん気になるよ。どう言うとこに惚れたんかは」
そう聞かれたから、僕はしばらく椿ちゃんの魅力を語った。気品の高さ、顔、見た目の一つ一つのかわいさ、柔和な性格と色々語ってしまっていた。父さんはニヤニヤしながら、そうかそうかと言って聞いてくれた。
「そげん思っとるなら、ワシも全力で応援せんといかんな。お相手さんとこのホテルはちと厳しいそうじゃけど、力合わせりゃなんとかなるじゃろうけん。ワシも出来ることはやって支える」
少し険しい表情を父さんがしていた。父さんからしても厳しい様子らしい。ならば、夫になる自分も力を出さないといけない。そう決めた。
「僕も、その手伝いをするよ」
僕がそう言うと、父さんは首を少し横に振りながら左手の人差し指を左右に二、三回振った。
「本当は湊の成長を考えたら事業の建て直しの経験はさせたいばってんか、貰った資料を見る限り時間ばかかる。湊にはまず椿ちゃんとの仲を深めて欲しか。夫婦仲がないのに残業ばかりして時間が無ければそれはいつか不和になる。うちに金があるならあちらさんは離れんじゃろうけど、心が離れとるからそうじゃなくなったら一瞬で終わる。離婚しなくともギクシャクしてしまう。それは湊も望んどらんやろ」
父さんは一段と険しい表情をしていた。言っている事はその通りだ。僕は椿ちゃんの事が好きだけど、椿ちゃんはそうでもないと言うか、あまり僕を好き好んでいる感じがしない。家の都合で仕方なくと言うだけで、望んでと言う雰囲気は感じなかった。だからこそ、父さんの言う様に仲を進展させた方が後々を考えてもいいのは間違いないと思う。僕は頷くしかなかった。
「じゃから、最低でも一年は毎日定時で返す。残業は一切させん。休日出勤もさせん。忙しくなりそうなこの事業には入れん。仕事の負担も出来れば減らす。折角結婚するとじゃけん、仲良い夫婦であって欲しか。バリバリ仕事したがっとる湊にはきつか話ばってんか、理解してくれ」
わかったよ。僕はそう返事をした。言っている事はご尤もだからそれしか返せない。そうなったのならそうなったで、結婚生活をまずは楽しもう。ただ、その中で一つやりたい事があるから、それをしようと思う。仲を深めるだけじゃなくて、椿ちゃんの今後にも重要な事だろうから、そこをまずはしっかりやって行こう。会える時にそれとなく、色々リストを組んでそれで一つづつやって行こう。僕は頭の中で今後の計画を練っていった。
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お見合いはとてもいい時間だった。超がつくほどの名家のお嬢様だと聞いていたから、キツい感じの表情でマナーがなってなくてよ、とか言われてしまうかもなあと考えていた。だから、椿ちゃんの穏やかな対応には正直驚いた。あと、もっと大柄な、自分と同じくらいの背丈の人を想定していたから思ってたより数段小さかったのにも驚いた。
それよりもかわいい。かわいすぎる。美人ではなく、かわいいなんだ。それに名家のお嬢様であるが故の高潔さが加わって、今までにない感情を覚えた。多分これが恋と言う感情なんだろう。一眼見た瞬間のあの衝撃は忘れられない。全身が覚醒したかの様にサッと力が抜ける様で入る様な中々形容できない感覚。
それからは心臓の鼓動が止まらなかった。そのせいで汗が出過ぎて椿ちゃんを心配させてしまったのは苦しかった。そのお陰でなぜか寄りかかってもらえると言う素晴らしい感覚を味わえたけど。あとあの魔性と言うべきかなんと言うか。さっきから言っている高貴さと見た目の幼さから来るカワイイが混ざったあの笑顔。微笑み。アレは言葉に出来ない感情を覚えた。お陰様で心拍数は今も普段より高い。ふわふわした感覚も抜けきれない。ただのお見合いと思っていたけど、それ以上のモノが得られた気分だ。
「湊、どげんするか?」
父さんが現実に引き戻す言葉を掛けてきた。少しだけ自分の気持ちがこっちに戻ってきた。車のハンドルを握る父さんはいつになく真剣な表情をしている。僕の今後を決める事だから真剣になるのも当然と言えば当然だ。
「受けるよ。誰がなんと言おうと」
僕は強い言葉で答える。父さんは柔らかな表情をしていた。
「そうかそうか。よかったよ。名家じゃけど、親御さんの人柄は悪くなさそうじゃけん、あとは湊次第でと思っとったんじゃ。まあ湊が良いっちゅうんならワシはなんも言わんけどな」
「父さんならそう言うと思ったよ」
「ハハハ! お前さんの結婚じゃけん、お前さんの意思が大事に決まっとろうもん! でも、湊がそんなあっさり決めるんはびっくりしたわ」
「まあ、自分でもびっくりするくらい、その……、椿ちゃんに惚れちゃってね」
この言葉を聞いた父さんはさらに愉快な表情になっていた。
「湊が女子に恋するたぁ! 明日は大荒れじゃな。湊も男やったっちゅう事やな!」
「ははは。そう言う事だよ。好きになる人が出来ちゃうってはねえ。一生縁がないって思ってたからさ」
自分も笑って答えていた。
「どこがよかったんじゃ?」
「それ聞いちゃう?」
「親じゃけん気になるよ。どう言うとこに惚れたんかは」
そう聞かれたから、僕はしばらく椿ちゃんの魅力を語った。気品の高さ、顔、見た目の一つ一つのかわいさ、柔和な性格と色々語ってしまっていた。父さんはニヤニヤしながら、そうかそうかと言って聞いてくれた。
「そげん思っとるなら、ワシも全力で応援せんといかんな。お相手さんとこのホテルはちと厳しいそうじゃけど、力合わせりゃなんとかなるじゃろうけん。ワシも出来ることはやって支える」
少し険しい表情を父さんがしていた。父さんからしても厳しい様子らしい。ならば、夫になる自分も力を出さないといけない。そう決めた。
「僕も、その手伝いをするよ」
僕がそう言うと、父さんは首を少し横に振りながら左手の人差し指を左右に二、三回振った。
「本当は湊の成長を考えたら事業の建て直しの経験はさせたいばってんか、貰った資料を見る限り時間ばかかる。湊にはまず椿ちゃんとの仲を深めて欲しか。夫婦仲がないのに残業ばかりして時間が無ければそれはいつか不和になる。うちに金があるならあちらさんは離れんじゃろうけど、心が離れとるからそうじゃなくなったら一瞬で終わる。離婚しなくともギクシャクしてしまう。それは湊も望んどらんやろ」
父さんは一段と険しい表情をしていた。言っている事はその通りだ。僕は椿ちゃんの事が好きだけど、椿ちゃんはそうでもないと言うか、あまり僕を好き好んでいる感じがしない。家の都合で仕方なくと言うだけで、望んでと言う雰囲気は感じなかった。だからこそ、父さんの言う様に仲を進展させた方が後々を考えてもいいのは間違いないと思う。僕は頷くしかなかった。
「じゃから、最低でも一年は毎日定時で返す。残業は一切させん。休日出勤もさせん。忙しくなりそうなこの事業には入れん。仕事の負担も出来れば減らす。折角結婚するとじゃけん、仲良い夫婦であって欲しか。バリバリ仕事したがっとる湊にはきつか話ばってんか、理解してくれ」
わかったよ。僕はそう返事をした。言っている事はご尤もだからそれしか返せない。そうなったのならそうなったで、結婚生活をまずは楽しもう。ただ、その中で一つやりたい事があるから、それをしようと思う。仲を深めるだけじゃなくて、椿ちゃんの今後にも重要な事だろうから、そこをまずはしっかりやって行こう。会える時にそれとなく、色々リストを組んでそれで一つづつやって行こう。僕は頭の中で今後の計画を練っていった。