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【2】②

ー/ー



 真奈の実の父親は、あの封筒の宛名の相手、なのだろう。出せなかった、あるいは出さなかった手紙。
 当時は父の両親である祖父母ともかなり揉めたそうだ。
 無理もない。すんなり看過できることではないくらい、子どもの立場でもわかる。
 ましてや、一時的にしろ『捨てられた』幼い孫を身近で見ていた彼らの(いきどお)りや悲しみは如何ばかりだったことか。

 ──たったひとり、突然両親と引き離されて知らない家に連れて行かれた仁美も、平気ではなかった筈だ。

 真奈は祖父母にとっては孫などではなかった。
 血縁としても、心情的にも。──むしろ、只管(ひたすら)に憎しみの対象だった、のかもしれない。
 仁美を慈しむほどに過去が過り、真奈への負の感情に拍車が掛かったとしても無理はない。
 過去の彼らの態度の理由が、ようやく腑に落ちた。

 さすがに詳細までは姉の耳には入れられておらず、推測しかできない部分もある。
 結論としては、父と母はそのまま結婚生活を続けていた。生まれた真奈は、書類の上では二人の娘ということになっている。

「お姉ちゃん、は。わたしのこと、その、……嫌じゃなかったの?」
 真奈が恐る恐る切り出すのに、仁美は目を見開いた。

「お母さんには正直複雑な気持ちはあったよ。だけど、あなたが私の妹なのは変わらないじゃない。──お父さんの子じゃなくたってさ」
 一瞬ののち、呆れたように溜息を吐くと、真奈を見つめて静かに語り掛ける姉。

 言われてみれば、確かに思い当たる(ふし)はあった。
 高校生の仁美は、母に対して口を利かない時期があった気がする。
 家の中に気まずい雰囲気が漂っていたのをなんとなく覚えていた。両親はそういう年頃なのかと受け止めていたようだったが……。

 それでも姉は母への感情とも何とか折り合いをつけたのか、無視も長くは続かなかったと記憶している。
 ただし、以前に比べて素っ気ない関係にはなったようにも思った。
 何よりも今になって事情を聞くまで、姉の己に対する言動に一切の疑問も不安も覚えたことはなかったのだ。
 当時の仁美は、現在の真奈と同じ高校生だったというのに。
 ……自分ならきっと、挙動不審になったに違いない。

 そうだ。幼いころからずっと妹思いの、優しくて思慮深い姉だった。

「さっきは『忘れて』なんて言ったけど、それは真奈が決めることだから。でも、よーく考えてね」
「うん、わかってる」
 重々しい仁美の言葉を、真奈も真剣に受け止めた。


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 真奈の実の父親は、あの封筒の宛名の相手、なのだろう。出せなかった、あるいは出さなかった手紙。
 当時は父の両親である祖父母ともかなり揉めたそうだ。
 無理もない。すんなり看過できることではないくらい、子どもの立場でもわかる。
 ましてや、一時的にしろ『捨てられた』幼い孫を身近で見ていた彼らの|憤《いきどお》りや悲しみは如何ばかりだったことか。
 ──たったひとり、突然両親と引き離されて知らない家に連れて行かれた仁美も、平気ではなかった筈だ。
 真奈は祖父母にとっては孫などではなかった。
 血縁としても、心情的にも。──むしろ、|只管《ひたすら》に憎しみの対象だった、のかもしれない。
 仁美を慈しむほどに過去が過り、真奈への負の感情に拍車が掛かったとしても無理はない。
 過去の彼らの態度の理由が、ようやく腑に落ちた。
 さすがに詳細までは姉の耳には入れられておらず、推測しかできない部分もある。
 結論としては、父と母はそのまま結婚生活を続けていた。生まれた真奈は、書類の上では二人の娘ということになっている。
「お姉ちゃん、は。わたしのこと、その、……嫌じゃなかったの?」
 真奈が恐る恐る切り出すのに、仁美は目を見開いた。
「お母さんには正直複雑な気持ちはあったよ。だけど、あなたが私の妹なのは変わらないじゃない。──お父さんの子じゃなくたってさ」
 一瞬ののち、呆れたように溜息を吐くと、真奈を見つめて静かに語り掛ける姉。
 言われてみれば、確かに思い当たる|節《ふし》はあった。
 高校生の仁美は、母に対して口を利かない時期があった気がする。
 家の中に気まずい雰囲気が漂っていたのをなんとなく覚えていた。両親はそういう年頃なのかと受け止めていたようだったが……。
 それでも姉は母への感情とも何とか折り合いをつけたのか、無視も長くは続かなかったと記憶している。
 ただし、以前に比べて素っ気ない関係にはなったようにも思った。
 何よりも今になって事情を聞くまで、姉の己に対する言動に一切の疑問も不安も覚えたことはなかったのだ。
 当時の仁美は、現在の真奈と同じ高校生だったというのに。
 ……自分ならきっと、挙動不審になったに違いない。
 そうだ。幼いころからずっと妹思いの、優しくて思慮深い姉だった。
「さっきは『忘れて』なんて言ったけど、それは真奈が決めることだから。でも、よーく考えてね」
「うん、わかってる」
 重々しい仁美の言葉を、真奈も真剣に受け止めた。