◇ ◇ ◇
「仁美ちゃん、大きくなったねぇ。ますます勇に似てきて……」
「いらっしゃい、おばあちゃん。おじいちゃんも」
年に一度、遠路遥々自宅を訪れては泊って行った父方の祖父母。
──思い返せば、いつもその場に母はいなかった。
「あのね、お父さんはちょっと遅くなるんだって」
「そうなんだね。おばあちゃん、これからご飯作るよ」
迎えた姉に嬉しそうに答えながら、祖母は荷物の中からエプロンを出している。
「仁美ちゃんはハンバーグ好きだったよね。いまも変わんないの? 他のものがいい? おばあちゃん、洋食はあんまりいろいろと作れないんだよ、ごめんねぇ」
「おばあちゃんの作ってくれるごはん、なんでも美味しいから好きだよ。ハンバーグも大好き!」
「そりゃよかった。じゃあ、今日もハンバーグでいいのかい?」
仁美の言葉に、祖母は相好を崩した。
「うん! 真奈も好きだよね?」
「好きー!」
「……ああ、そう」
訊かれて両手を上げて答えた真奈に、祖母は興味なさそうに素っ気なく呟いただけだった。
祖母がキッチンで料理してくれている間、祖父と子ども二人はリビングルームで寛いでいた。
「おじいちゃん、私この間コンクールで入賞したんだよ」
「おお! そりゃすごいなあ。仁美ちゃんは賢いし頑張り屋さんだからな」
近況報告をする仁美に、祖父はいちいち大仰に喜びを表している。
「でね、真奈もクラス対抗リレーの選手に選ばれたの! すごいでしょ。ね? そうだよね、真奈」
「優勝できるようにいっぱい練習する!」
「仁美ちゃん、何か欲しいものないか? 明日、買い物行こう」
祖父は真奈の声など何も聞こえていないかのように、仁美に違う話題を投げた。
今に始まったことではない。
仁美には満面の笑みを向ける祖父母は、真奈にはほとんど視線さえ寄越さなかった。
そのたびに妹を仲間に入れようと努力してくれていた仁美も、とうとう堪忍袋の緒が切れたのだろう。
「お父さん、私もういや! おじいちゃんたちには来て欲しくない。私の妹に意地悪する人なんて好きじゃない!」
祖父母は父の前ではあからさまな態度は取らないものの、仁美と真奈の様子を見て不穏なものを感じたのか。
それ以来、彼らが家を訪ねて来ることは二度となかった。