ケーキを食べ終えてテーブルを片付けたら、父との恒例のお楽しみが待っていた。
「パパ、今日は見えるかな?」
「そうだな。さっき帰って来るときは綺麗に晴れてる感じだったよ。去年は曇りで無理だったよな、そういえば」
「真理愛ちゃん、そのコートでいいの? もっと暖かいのなかった? あ、マフラーと手袋も──」
私室に戻って支度してきた真理愛を、祖母が気遣ってくれる。
「大丈夫、おばあちゃん。手袋とかも、ちゃんと持ってるから」
ポケットから手袋とネックウォーマーを出して、祖母に見せてから身につける。
「圭亮。寒くないか気をつけてあげて、早めに切り上げてね。冷えは良くないのよ」
「わかってる。ありがとう、母さん」
そのまま、二人はリビングルームの掃き出し窓を開けて、二階のバルコニーに出た。
並んで立ち、柵に手を置いて空を見上げる。
こうして星を見るのが、いつの日からか父と娘の習慣になっていた。
原点はきっと、小さい頃祖父が買ってくれた『きらきらをさがしに』だ。美しい星空を描いた、文字の少ないシンプルな絵本。繰り返し何度も何度も読んでもらって、すっかりボロボロになってしまったが、今も真理愛の部屋の本棚の隅に大事に立てて取ってある。
普段は不定期だが、誕生日には必ず夜空を眺める。都会の空で視認できる星など限られてはいるけれども、何よりも大切な父との時間が生まれるから。
父が、羽織った大きなコートで真理愛を包むように抱き寄せてくれる。体の芯まで冷えるような、冬の夜。
……今日は降誕祭。真理愛が、この世に舞い降りた日。
「ねぇ、パパ。あたし思い出したんだ」
ぽつり呟いた真理愛に、父が首を傾げているのがわかる。
「何を?」
「『クリスマス生まれだからマリアなの』って、ママ言ってたなって」
真理愛は掌で口元を覆って、笑いを噛み殺した。
「でもさぁ、クリスマスに生まれたのってマリアじゃないよね?」
「マリアは産んだ人だな。クリスマスは、イエスの誕生を祝う日」
「そうだよね。……ママって、あんまりかしこくなかったのかな」
言葉は辛辣だが、真理愛の顔から笑みが消えることはない。
「あたし、初めてパパと会った時のことはあんまりはっきりとは覚えてないんだけど。気がついたら病院で、パパとおじいちゃんたちもいて」
「……あのとき、は。真理愛は、えーと、病気、で。──だけど、記憶に残ってるんだな、ちゃんと」
父が困っているのが、冷たい空気を通しても伝わった。
真理愛は、自分の生い立ちについて大まかには聞かされている。
生まれてからは母と二人で母が亡くなった四歳の時にこの家に来たことも、小学校に上がった時に父と祖父母が揃ってきちんと話してくれたのだ。
おそらくは、無神経な他人の口から耳に入る前にとの配慮だろうということもわかっていた。
実際に、三人の家族に有り余るほどの愛情を注がれているのだから、不安は何もない。もちろん不満も。
……この話題は、本当なら笑っては話せるものではないのだろう。それでも、父娘の間で決して避けては通れないものだ。
真理愛は、すべて
知っている。