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頼れる先輩

ー/ー



授業も終わって暇になった放課後、モニカは教室に残って予習をしていた。


「えーっと、魔法の種類は『基礎魔法』、『一般魔法』、『継承魔法』、『淵源(えんげん)魔法』、それと『固有魔法』分けられる……」


 時計が秒を刻む音だけが聞こえる教室で、静かにノートにメモをとる。相変わらず考えていることがそのまま独り言になって口から出てしまうモニカの声は、微かに教室前の廊下にまで聞こえている。


「……うーん、難しい〜!」

「モニカちゃんって独り言エグいね!」

「ひぇっ……!? こ、コモル先輩!?」

「いぇーい! モニカちゃんの声聞こえてきて〜……きちゃった!」


 いつの間にか現れたエモールは、机の前でモニカのとっていたノートをじっと見ている。
 数日前までは下ろした髪を緩く巻いていた大人な女性のような印象を与えていた髪型は変わっている。高い位置で束ねられたポニーテールはふるふると揺れ、ほのかに香る香水の匂いがする。


「か、髪! 似合ってます!」

「えーっ? そんな気使わなくてもいいよ〜」

「ほ、本当ですよ! 可愛いです!」


 エモールは嬉しそうにニマニマと隠しきれない笑顔を浮かべている。そして、モニカの耳に顔を近づけ、艶かしくも心地よいウィスパーボイスで囁く。


「じゃあ、モニカちゃんの本命になっちゃおうかなぁ」

「みっ……!」

「あっはは! 冗談に決まってるじゃん! 初心(うぶ)でカワイイ〜」

「きゅ、急にやめてください!」

「え? 急じゃなかったらいいの〜?」

「そういう事じゃありません!」


 怒るモニカに対して、エモールは飄々とした態度でモニカをからかう。大人っぽい雰囲気を漂わせていた数日前とは違う人と話しているようで、モニカの緊張もほぐれてきている。ポニーテールを揺らすエモールは、子供っぽいというか、年齢相応という感じがする。


「あ、そうだ。モニカちゃん、この間なんかあったんだってね」

「え……?」

「ほら、中央の大広場でさ」

「あ、あぁ……あれですか……」


 露骨に話したくなさそうな顔をして、モニカは話を遮るように俯いて再びノートに授業の内容を書き込む。だが、逃げようとするモニカをエモールは逃がさない。蛇のようにモニカの体に腕を巻き付け、また息の漏れたような声で囁く。


「あの日、何があったのかな〜……なんて聞いてみてもいい?」

「だ、誰にも言わないでくださいね……!?」

「やったぁ! モニカちゃん優しいね〜!」


 そして、モニカあの日あった出来事をこそこそとエモールに耳打ちをする。こそばゆい感覚にエモールも背中を震わせているのが見えて、モニカは少し優越感の得て、エモールに対抗するようにウィスパーボイスで囁く。


「……へぇ〜。そんなことがあったんだ」

「はい。ビアス先輩のおかげで助かったんです!」

「良かったね!」


 まだカクつく足を懸命に動かして、エモールは扉に近づく。そわそわする耳を抑え、物音に敏感に鳴りながらもゆっくりと歩いていく。


「じゃあね、モニカちゃん」

「ま、また……また明日!」

「あはは! 会えるかどうかわかんないけどね!」


 扉を閉じ、モニカの視界から外れると、エモールは大きく息を吐いた。想像以上にモニカのウィスパーボイスがまだ頭の中に反響している。エモールが息を整えていると、廊下の向こう側から誰かが歩いてくるのを感じた。


「……えっと、コモル先輩?」

「騎獅道君! 君にも用があったんだよね!」


 そうして、また笑顔でエモールは華を咲かせる。頼れる先輩、エモール・コモルは今日も楽しく毎日を過ごしている。


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授業も終わって暇になった放課後、モニカは教室に残って予習をしていた。
「えーっと、魔法の種類は『基礎魔法』、『一般魔法』、『継承魔法』、『|淵源《えんげん》魔法』、それと『固有魔法』分けられる……」
 時計が秒を刻む音だけが聞こえる教室で、静かにノートにメモをとる。相変わらず考えていることがそのまま独り言になって口から出てしまうモニカの声は、微かに教室前の廊下にまで聞こえている。
「……うーん、難しい〜!」
「モニカちゃんって独り言エグいね!」
「ひぇっ……!? こ、コモル先輩!?」
「いぇーい! モニカちゃんの声聞こえてきて〜……きちゃった!」
 いつの間にか現れたエモールは、机の前でモニカのとっていたノートをじっと見ている。
 数日前までは下ろした髪を緩く巻いていた大人な女性のような印象を与えていた髪型は変わっている。高い位置で束ねられたポニーテールはふるふると揺れ、ほのかに香る香水の匂いがする。
「か、髪! 似合ってます!」
「えーっ? そんな気使わなくてもいいよ〜」
「ほ、本当ですよ! 可愛いです!」
 エモールは嬉しそうにニマニマと隠しきれない笑顔を浮かべている。そして、モニカの耳に顔を近づけ、艶かしくも心地よいウィスパーボイスで囁く。
「じゃあ、モニカちゃんの本命になっちゃおうかなぁ」
「みっ……!」
「あっはは! 冗談に決まってるじゃん! |初心《うぶ》でカワイイ〜」
「きゅ、急にやめてください!」
「え? 急じゃなかったらいいの〜?」
「そういう事じゃありません!」
 怒るモニカに対して、エモールは飄々とした態度でモニカをからかう。大人っぽい雰囲気を漂わせていた数日前とは違う人と話しているようで、モニカの緊張もほぐれてきている。ポニーテールを揺らすエモールは、子供っぽいというか、年齢相応という感じがする。
「あ、そうだ。モニカちゃん、この間なんかあったんだってね」
「え……?」
「ほら、中央の大広場でさ」
「あ、あぁ……あれですか……」
 露骨に話したくなさそうな顔をして、モニカは話を遮るように俯いて再びノートに授業の内容を書き込む。だが、逃げようとするモニカをエモールは逃がさない。蛇のようにモニカの体に腕を巻き付け、また息の漏れたような声で囁く。
「あの日、何があったのかな〜……なんて聞いてみてもいい?」
「だ、誰にも言わないでくださいね……!?」
「やったぁ! モニカちゃん優しいね〜!」
 そして、モニカあの日あった出来事をこそこそとエモールに耳打ちをする。こそばゆい感覚にエモールも背中を震わせているのが見えて、モニカは少し優越感の得て、エモールに対抗するようにウィスパーボイスで囁く。
「……へぇ〜。そんなことがあったんだ」
「はい。ビアス先輩のおかげで助かったんです!」
「良かったね!」
 まだカクつく足を懸命に動かして、エモールは扉に近づく。そわそわする耳を抑え、物音に敏感に鳴りながらもゆっくりと歩いていく。
「じゃあね、モニカちゃん」
「ま、また……また明日!」
「あはは! 会えるかどうかわかんないけどね!」
 扉を閉じ、モニカの視界から外れると、エモールは大きく息を吐いた。想像以上に《《効いた》》モニカのウィスパーボイスがまだ頭の中に反響している。エモールが息を整えていると、廊下の向こう側から誰かが歩いてくるのを感じた。
「……えっと、コモル先輩?」
「騎獅道君! 君にも用があったんだよね!」
 そうして、また笑顔でエモールは華を咲かせる。頼れる先輩、エモール・コモルは今日も楽しく毎日を過ごしている。