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「どうしたん。何かあったん」

黒のパンツに派手な動物柄のシャツを来た母親が、サイドボードを漁っていた安立の背後に立っていた。

「ちょっとな。忘れもんや」
「またおかしなもん、忘れもんしてんな。母さん、今からサークルやから、戸締まり頼むで」

母親は、手をヒラヒラさせて出掛けて行った。
桜子から聞いていた封筒は、一番奥に立てて置かれていた。

「なんでまた、こんな奥に」

安立は文句を言って取り出した。
A四の封筒の上を折って、何重にもテープで封がされている。いつも置いてある場所に何故かカッターがなく、競るように目に入ったハサミを手に取った。
スカして折り目に何か物が一緒に折られていないかを確認して、慎重にハサミで切った。

中に入っていたのは警察手帳とUSBメモリー、小さなメモだった。メモには遠野の字で「やっぱり安立さんの世界に一つだけの花は桜子ちゃんでしたね」とだけ、書かれていた。
メモを見た安立は「そういうことか!」と声に出した。
遠野の言葉には意味はあったのだ。安立は急いで本部に戻った。

「おい! 萱島。パソコン持って来い!」

積み上げられた資料の山から、捜査員が顔を覗かした。

「持ってきました」

場所がなく、ダンボールの上に萱島はノートパソコンを置いた。
安立は持っているUSBを差し込んだ。中には『知捜』と『安立さん』と保存されているフォルダがあった。安立は迷わず、知捜のフォルダを開けた。
捜査員一同が画面の中に釘付けになっていた。

「安立さん、これって金の流れですよね」

 真横から覗き込んでいた萱島が初めに沈黙を破った。
本物と断定するには早い。だが、遠野がわざわざ偽の情報をとは思えなかったし、思いたくはなかった。

「この中のデータが本物か、プリントアウトするから、今おる人間で洗うで!」

捜査員がサッとプリントアウトした紙を持って配る。
波が引くように安立の周りからいなくなったのを見計らって、自分の名前の付けられたフォルダを開けた。中にはワードの文章だけ入っている。

中には、遠野の懺悔と、データはウッズ・ファイナンスに出入りしている時にはすでに、青山は先を見越してデータを消し始めていたと書かれてあった。
頻繁に出入りをして、青山は遠野を心底まではいかないが、それなりに信用をしていたから、データを盗むことができた、と。
驚いたのが、安立が遠野を疑っているのを知っていた事実だった。気づいたのは、いつものジュンジュンではなく、遠野と安立が呼んだからだと、書かれていた。

ならば何故に、の気持ちが、より強くなっていく。実はスパイの真似事をしていたとなんとでも言い訳ができたのではないか。
甘いかもしれないが、こうしてデータを手に入れているのだから、何とか遠野の身の振り方に協力できたのではないかと、仮定ばかりが安立の頭の中で回る。
最後の行に「妻をよろしくお願いします」とあり、数字が並んでいた。何かをまだ残しているのか。数字を眺めていても、一向に何を示しているのか見当もつかない。

「どうしたんですか?」

萱島が安立の背後から覗き込んできた。

「いや、この数字やんねんけど、何やと思う」

萱島も唸って、数字に見入っている。

「ちょっと、いいですか?」

安立は萱島に席を譲った。萱島が数字の部分をドラッグしてコピーし、検索サイトに貼り付けると、一件だけヒットした。
萱島がサイトを開くと、奈良県の小学校の一覧が出てきた。

「あの数字は、奈良の小学校なんか?」

萱島は短く唸って「もしかして」と呟いた。
今度は、数字の前に文字を入れた。検索にヒットしたのが、奈良県にある、大和民俗公園だった。

「この数字、緯度と経度やったみたいですね。でも、ここ、何もない場所なんですよ。親戚の家がこの近くで、昔はカブトムシとかもおったんで、夏休みに泊まりに行ったりしてたけど」
「何か、遠野と関係があるのか、まだ他に隠し玉があるのか」

画面に映し出された画像がふっと消えて、遠野の書いた文章に戻った。

「これ、読んでもいいですか?」
「構わんで」

萱島が何か導き出してくるのではと、話し始めるのを待った。

「安立さん。これって、遠野さんの遺書ちゃいますか? 大和民族公園って、山を切り開いた感じやから、結局のところは、山同然なんです……」

振り返った萱島と目が合った安立は、言わんとしている趣旨が、手に取るようにわかった。

「奈良県警に電話や! 文ちゃんは俺と来い! すまんが、ちょっと頼む」

捜査員は、安立たちの会話から事態を察していた。萱島は奈良県警に、安立は山崎に電話を架けながら、駐車場へと移動した。
萱島が車を走らせ、サイレンを鳴らした。安立は助手席で、釣鐘に電話を入れた。

「どないしたんや。何か収穫でもあったか?」

釣鐘の声が、いつになく暗い。

「はい。でも、いい知らせと悪い知らせがあるんです」

ふうっと吐いた釣鐘の息が、電話越しなのに、距離がないみたいだった。

「ほんだら、ええ知らせから聞こうか」
「はい。ウッズ・ファイナンスの資料を押収したのとは別に、遠野が先回りをして証拠を残してくれてました。まだ詳しくデータを洗えてはないですけど、かなりの有力なもんやと思います」
「――そうか。悪い知らせは?」

捜査の進展具合としては、大きい収穫のはずなのに、釣鐘がいまいち食いついてこないのが、気持ちが悪かった。

「悪い知らせは、その遠野が自殺を図る可能性があって今、現場と思われる場所に、急行してます」
「――そうか。見つかったら、また連絡してくれ」

釣鐘は何を言ってくる訳もなく、電話を切られた。

「どうしはったんですか?」

ハンドルを巧み操り、猛スピードで車を避けて走らせている萱島が、運転ぶりとは反対の弱々しい声で聞いてきた。

「いや、何もないんやけど……」

安立は言葉に詰まった。
喉の奥に何かが刺さったみたいな違和感と気持ち悪さ。嫌な予感がしてならなかった。
一時間足らずで、奈良の現場には着いた。周りは山に囲まれた場所で、駐車場は砂利が敷かれているだけで、枠も何もない。入口に看板がなければ、ただの広場。

駐車場にはすでにパトカーが三台だけ駐まっていた。一般車両らしき白い車が一台だけ駐まっている。
閑散として、風の音しか聞こえない。残っていた刑事の一人が、安立たちに気づき、敬礼をしてきた。

「奈良県警の佐古(さこ)です。今、他の者たちが公園内を見て回っています」
「あの車は?」

佐古が安立の視線を辿り、後ろを振り向いた。

「レンタカーでした。借りたのは、遠野潤一。連絡を受けた名前です」
「わかった。それで今、どの辺を捜索してるんや」
「はい。こことは反対のほうからです。道のある山の中、池などを回ってはいますが、何分にも広い場所なので」
「安立さん、行きましょう。俺が案内しますんで」

警官に携帯の番号が載った名刺を渡してから、萱島が軽い足取りで走って行く後ろを、安立も従いていった。
山を切り開いて芝生を生やした広場や池、あとは自然だけで、これといった遊具もない。閑散としているのも頷ける。

「この道を行ってみます」

萱島は広場の脇にある山に続く道に入って行く。

「おいおい。これ、道か?」

整地されてるわけではなく、踏み均(なら)されたくらいの道を歩いた。飛び出た枝や葉に、蜘蛛の巣があって、小さい虫が干からびて引っかかっていた。

「俺、虫が嫌いやねん」
「ほんまですか? 安立さんやったら、華麗にゴキブリも退治してそうやのに」
「あかんあかん。ゴキブリは、あかん。あいつらの飛んだの見てから、無理やわ。文ちゃんは、今日はスーツええんかいな」
「今日はオッケーなスーツなんで、いいです」

軽い話題とは反対に、目や耳は神経を尖らしている。あまり奥まで進むわけでもなく、広場が見える程度の場所から遠野の名前を叫び、道なりに沿って二人は歩いていた。

「もっと奥のほうが、ええんとちゃうか?」
「でも、何となくなんですけど、そんな山の奥まで、行ってないんちゃうかと思うんですよね。あの遠野さんの文章を読む限り」
「そうか。他にらしい場所は、あるか?」
「この辺は見ての通り、山の中にある自然公園やし、どんぐりの木とかナラの木が遊歩道沿いにあって広いから、絞るのは……」

入ってきた場所から、ローラー作戦で探すしかなさそうだった。この広い公園を探すには、人手が足りない。それでも目を光らせて園内を捜索した。
遠野の名前を呼びすぎて、二人の口の水分がなくなってきた。
安立は点在する休憩所の自販機で水を買って、萱島に渡してやる。安立も蓋を開けて一気に喉に流し込んだ。
乾ききった喉は、半分ほど飲んだところで、やっと潤った感覚になった。

「ないですね」

萱島が口元から零れた水を拭って呟いた。
萱島の言葉の不自然さに気づくのに、数秒を要した。

「俺らは、遠野を探してるんや。死体とちゃう」

萱島も自分の失言に気づいていなかったみたいで、驚いた顔をして、直ぐに安立から目を逸らした。

「行くで。広場の遊歩道へ移動しよか」

涼しくなったとはいえ、日差しは強く、汗を拭って安立たちは歩き出した。いつもは身なりを気にしている萱島も、気持ちに余裕がないのが動きから伝わってくる。

幅二メートルほどの道の両脇には、青々とした木が植えられていて、レジャーシートを敷いてピクニックができそうだった。公園は静かで、たまに吹く風で木の葉が擦れる音ぐらいで、こんな場所が家の近くにあったらと、ふと頭に過ぎった。

安立の場違いな思考を打ち消すかのように、パンッと短くて乾いた音が、背後のどこからか聞こえてきた。
安立にも萱島にも聞き慣れた音だった。空に何羽かの鳥が飛び立っていくのが見えて、示し合わせたように二人は走り出した。

安立たちよりも近くにいた奈良県警の二人が、先に現場に着いていた。安立が聞く前に「こっちです」と言われ、そのまま従いていく。
公園の一番端で、一歩踏み入れた先は、もう山への入口と同じだった。
探すまでもなく、二メート先ほどは血飛沫が緑の葉に飛び散り、半分頭が吹っ飛んでしまった男が倒れてい



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黒のパンツに派手な動物柄のシャツを来た母親が、サイドボードを漁っていた安立の背後に立っていた。

「ちょっとな。忘れもんや」
「またおかしなもん、忘れもんしてんな。母さん、今からサークルやから、戸締まり頼むで」

母親は、手をヒラヒラさせて出掛けて行った。
桜子から聞いていた封筒は、一番奥に立てて置かれていた。

「なんでまた、こんな奥に」

安立は文句を言って取り出した。
A四の封筒の上を折って、何重にもテープで封がされている。いつも置いてある場所に何故かカッターがなく、競るように目に入ったハサミを手に取った。
スカして折り目に何か物が一緒に折られていないかを確認して、慎重にハサミで切った。

中に入っていたのは警察手帳とUSBメモリー、小さなメモだった。メモには遠野の字で「やっぱり安立さんの世界に一つだけの花は桜子ちゃんでしたね」とだけ、書かれていた。
メモを見た安立は「そういうことか!」と声に出した。
遠野の言葉には意味はあったのだ。安立は急いで本部に戻った。

「おい! 萱島。パソコン持って来い!」

積み上げられた資料の山から、捜査員が顔を覗かした。

「持ってきました」

場所がなく、ダンボールの上に萱島はノートパソコンを置いた。
安立は持っているUSBを差し込んだ。中には『知捜』と『安立さん』と保存されているフォルダがあった。安立は迷わず、知捜のフォルダを開けた。
捜査員一同が画面の中に釘付けになっていた。

「安立さん、これって金の流れですよね」

 真横から覗き込んでいた萱島が初めに沈黙を破った。
本物と断定するには早い。だが、遠野がわざわざ偽の情報をとは思えなかったし、思いたくはなかった。

「この中のデータが本物か、プリントアウトするから、今おる人間で洗うで!」

捜査員がサッとプリントアウトした紙を持って配る。
波が引くように安立の周りからいなくなったのを見計らって、自分の名前の付けられたフォルダを開けた。中にはワードの文章だけ入っている。

中には、遠野の懺悔と、データはウッズ・ファイナンスに出入りしている時にはすでに、青山は先を見越してデータを消し始めていたと書かれてあった。
頻繁に出入りをして、青山は遠野を心底まではいかないが、それなりに信用をしていたから、データを盗むことができた、と。
驚いたのが、安立が遠野を疑っているのを知っていた事実だった。気づいたのは、いつものジュンジュンではなく、遠野と安立が呼んだからだと、書かれていた。

ならば何故に、の気持ちが、より強くなっていく。実はスパイの真似事をしていたとなんとでも言い訳ができたのではないか。
甘いかもしれないが、こうしてデータを手に入れているのだから、何とか遠野の身の振り方に協力できたのではないかと、仮定ばかりが安立の頭の中で回る。
最後の行に「妻をよろしくお願いします」とあり、数字が並んでいた。何かをまだ残しているのか。数字を眺めていても、一向に何を示しているのか見当もつかない。

「どうしたんですか?」

萱島が安立の背後から覗き込んできた。

「いや、この数字やんねんけど、何やと思う」

萱島も唸って、数字に見入っている。

「ちょっと、いいですか?」

安立は萱島に席を譲った。萱島が数字の部分をドラッグしてコピーし、検索サイトに貼り付けると、一件だけヒットした。
萱島がサイトを開くと、奈良県の小学校の一覧が出てきた。

「あの数字は、奈良の小学校なんか?」

萱島は短く唸って「もしかして」と呟いた。
今度は、数字の前に文字を入れた。検索にヒットしたのが、奈良県にある、大和民俗公園だった。

「この数字、緯度と経度やったみたいですね。でも、ここ、何もない場所なんですよ。親戚の家がこの近くで、昔はカブトムシとかもおったんで、夏休みに泊まりに行ったりしてたけど」
「何か、遠野と関係があるのか、まだ他に隠し玉があるのか」

画面に映し出された画像がふっと消えて、遠野の書いた文章に戻った。

「これ、読んでもいいですか?」
「構わんで」

萱島が何か導き出してくるのではと、話し始めるのを待った。

「安立さん。これって、遠野さんの遺書ちゃいますか? 大和民族公園って、山を切り開いた感じやから、結局のところは、山同然なんです……」

振り返った萱島と目が合った安立は、言わんとしている趣旨が、手に取るようにわかった。

「奈良県警に電話や! 文ちゃんは俺と来い! すまんが、ちょっと頼む」

捜査員は、安立たちの会話から事態を察していた。萱島は奈良県警に、安立は山崎に電話を架けながら、駐車場へと移動した。
萱島が車を走らせ、サイレンを鳴らした。安立は助手席で、釣鐘に電話を入れた。

「どないしたんや。何か収穫でもあったか?」

釣鐘の声が、いつになく暗い。

「はい。でも、いい知らせと悪い知らせがあるんです」

ふうっと吐いた釣鐘の息が、電話越しなのに、距離がないみたいだった。

「ほんだら、ええ知らせから聞こうか」
「はい。ウッズ・ファイナンスの資料を押収したのとは別に、遠野が先回りをして証拠を残してくれてました。まだ詳しくデータを洗えてはないですけど、かなりの有力なもんやと思います」
「――そうか。悪い知らせは?」

捜査の進展具合としては、大きい収穫のはずなのに、釣鐘がいまいち食いついてこないのが、気持ちが悪かった。

「悪い知らせは、その遠野が自殺を図る可能性があって今、現場と思われる場所に、急行してます」
「――そうか。見つかったら、また連絡してくれ」

釣鐘は何を言ってくる訳もなく、電話を切られた。

「どうしはったんですか?」

ハンドルを巧み操り、猛スピードで車を避けて走らせている萱島が、運転ぶりとは反対の弱々しい声で聞いてきた。

「いや、何もないんやけど……」

安立は言葉に詰まった。
喉の奥に何かが刺さったみたいな違和感と気持ち悪さ。嫌な予感がしてならなかった。
一時間足らずで、奈良の現場には着いた。周りは山に囲まれた場所で、駐車場は砂利が敷かれているだけで、枠も何もない。入口に看板がなければ、ただの広場。

駐車場にはすでにパトカーが三台だけ駐まっていた。一般車両らしき白い車が一台だけ駐まっている。
閑散として、風の音しか聞こえない。残っていた刑事の一人が、安立たちに気づき、敬礼をしてきた。

「奈良県警の佐古(さこ)です。今、他の者たちが公園内を見て回っています」
「あの車は?」

佐古が安立の視線を辿り、後ろを振り向いた。

「レンタカーでした。借りたのは、遠野潤一。連絡を受けた名前です」
「わかった。それで今、どの辺を捜索してるんや」
「はい。こことは反対のほうからです。道のある山の中、池などを回ってはいますが、何分にも広い場所なので」
「安立さん、行きましょう。俺が案内しますんで」

警官に携帯の番号が載った名刺を渡してから、萱島が軽い足取りで走って行く後ろを、安立も従いていった。
山を切り開いて芝生を生やした広場や池、あとは自然だけで、これといった遊具もない。閑散としているのも頷ける。

「この道を行ってみます」

萱島は広場の脇にある山に続く道に入って行く。

「おいおい。これ、道か?」

整地されてるわけではなく、踏み均(なら)されたくらいの道を歩いた。飛び出た枝や葉に、蜘蛛の巣があって、小さい虫が干からびて引っかかっていた。

「俺、虫が嫌いやねん」
「ほんまですか? 安立さんやったら、華麗にゴキブリも退治してそうやのに」
「あかんあかん。ゴキブリは、あかん。あいつらの飛んだの見てから、無理やわ。文ちゃんは、今日はスーツええんかいな」
「今日はオッケーなスーツなんで、いいです」

軽い話題とは反対に、目や耳は神経を尖らしている。あまり奥まで進むわけでもなく、広場が見える程度の場所から遠野の名前を叫び、道なりに沿って二人は歩いていた。

「もっと奥のほうが、ええんとちゃうか?」
「でも、何となくなんですけど、そんな山の奥まで、行ってないんちゃうかと思うんですよね。あの遠野さんの文章を読む限り」
「そうか。他にらしい場所は、あるか?」
「この辺は見ての通り、山の中にある自然公園やし、どんぐりの木とかナラの木が遊歩道沿いにあって広いから、絞るのは……」

入ってきた場所から、ローラー作戦で探すしかなさそうだった。この広い公園を探すには、人手が足りない。それでも目を光らせて園内を捜索した。
遠野の名前を呼びすぎて、二人の口の水分がなくなってきた。
安立は点在する休憩所の自販機で水を買って、萱島に渡してやる。安立も蓋を開けて一気に喉に流し込んだ。
乾ききった喉は、半分ほど飲んだところで、やっと潤った感覚になった。

「ないですね」

萱島が口元から零れた水を拭って呟いた。
萱島の言葉の不自然さに気づくのに、数秒を要した。

「俺らは、遠野を探してるんや。死体とちゃう」

萱島も自分の失言に気づいていなかったみたいで、驚いた顔をして、直ぐに安立から目を逸らした。

「行くで。広場の遊歩道へ移動しよか」

涼しくなったとはいえ、日差しは強く、汗を拭って安立たちは歩き出した。いつもは身なりを気にしている萱島も、気持ちに余裕がないのが動きから伝わってくる。

幅二メートルほどの道の両脇には、青々とした木が植えられていて、レジャーシートを敷いてピクニックができそうだった。公園は静かで、たまに吹く風で木の葉が擦れる音ぐらいで、こんな場所が家の近くにあったらと、ふと頭に過ぎった。

安立の場違いな思考を打ち消すかのように、パンッと短くて乾いた音が、背後のどこからか聞こえてきた。
安立にも萱島にも聞き慣れた音だった。空に何羽かの鳥が飛び立っていくのが見えて、示し合わせたように二人は走り出した。

安立たちよりも近くにいた奈良県警の二人が、先に現場に着いていた。安立が聞く前に「こっちです」と言われ、そのまま従いていく。
公園の一番端で、一歩踏み入れた先は、もう山への入口と同じだった。
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