不思議なこと
ー/ー「やばい、やばい」
何度目かの“やばい”を唱えながら、身支度をしている、年の頃20代後半の男-純也。
時刻は7時半。
あと1時間以内に会社に辿り着かないと、上司達に遅刻とみなされ、大目玉を食らうこととなる。
いや、そう感じているのは、純也だけかもしれないが、百歩譲っても嫌味を言われるのは、目に見えていた。
兎に角手を動かし、出掛ける用意をしようと考え、純也は溜め息混じりに何度も“大丈夫!”という言葉を繰り返す。
やがて、身支度を終えた純也は、息吐く暇もなく、リュックを背負い、駅へと向かった。
数分後、辿り着いたホーム内には、3列に並んだ乗客達が、無言で電車を今か今かと待っている。
しかし、その光景はほんの一部分で、遠くの方に瞳を移せば、バラバラに立っている集団もいて、端から見ている純也にとっては、何故か気持ちが落ち着く[[rb:光景 > モノ]]だった。
人には人の考え方があるものだなと、まるで他人事のように呟いた純也は、しかめ面でホーム内に設置された電光掲示板へと見る。
そこには、“7時40分発の電車が事故の影響で遅延する”という案内が流れていた。
この無情とも言える告知に言葉を失い、純也はガックリと肩を落とす。
暫くの間途方に暮れていた純也の耳に、次の電車の案内が聞こえてきたのは、丁度到着2分前だった。
事情も知る由もないアナウンスの、[[rb:鴬 > ウグイス]]のような高く可愛い声が、唯一自分を慰めてくれているように感じ、少しずつ気持ちが軽くなっていく。
そんな短いフレーズに、いつしか心を奪われていた純也の体に、突然小さな衝撃が走った。
声に聞き惚れているうちに電車が到着し、我先にと乗客達が降りてきたからである。
次から次へと押し迫る乗客の波を避けきれず、暫くの間純也小さめの体で、受け流し続けていた。
その中で急いでいたのだろうか?
1人の乗客が純也の存在に気付かず、そのまま体当たりをして、その場から去っていく。
漸く“[[rb:避 > ヨ]]けないと”と考え始めた純也には、まさに思いもよらない出来事だった。
純也は目の前の階段を一目散に降りていく乗客に、一瞬恨みがましい視線を向ける。
それと同時に、尻・背中・頭と地面に打ち付けていった。
痛みが体全体にほと走ったその刹那。
純也は暗闇を真っ逆さまに落ちていく感覚に包まれていく。
だが、それは束の間の出来事だったようで……
気が付いた純也は、見知らぬ男性に顔を覗き込まれていた。
意識がはっきりしていくにつれ、自分が駅のホーム内に設置された椅子に座っていることにも気付く。
「大丈夫ですか?」
「あっ、はい……すみません」
事態が把握出来ていない純也は、まだ靄に包まれているような頭で、辿々しく言葉を紡いだ。
幸い目の前の男性は、理解力に長けていたのであろう。
短い言葉から純也が言いたいことを汲み取り
「いえ、こちらこそ急いでいたとはいえ、ぶつかってしまって」
と、軽く頭を下げながら、申し訳なさそうに謝る。
「何だ……あれからすぐ引き返して、助け起こしてくれたのか」
“人は見かけによらないな”
内心で感慨深く呟いた純也は、まだじんわりと痛みが走る体に気を遣いながら、電光案内板へと瞳を移し、そして驚いた。
電車の到着時刻が“7時20分”と表示されていたからである。
「今……7時40分を過ぎているはずですよね?」
純也は恐る恐る介抱してくれた男性に訊ねてみると
「今行った電車が7時10分ですから、次は20分で間違いないですよ」
と、困惑しながらも、微笑んでそう答えた。
“ほら”と声をかけて見せた腕時計の2つの針は、しっかりと“7時15分”を差し示している。
ますますわけが分からなくなった純也は、言葉を失い、ただ呆然と、腕時計を見るしかなかった。
「それじゃあ、僕はこれで」
「助けて頂いて、有難うございました」
立ち上がった男性にお礼を言って見送った純也は、再び流れてきた運行のアナウンスに、耳を傾ける。
それも確かに、次の電車の到着時刻は“7時20分”だと伝えていた。
「不思議なこともあるものだな」
純也は、エスカレーターに吸い込まれていく男性の姿をチラリと見て、ポツリ呟く。
それと同時に、会社に遅刻しないですむという安心も生まれ、純也は胸を撫で下ろした。
やがて純也もまた、到着した電車に何事もなかったかのように、ゆっくりとした足取りで、電車に乗り込む。
過ぎさる景色と静寂に包まれた車内で、純也は会社の最寄り駅に着くまで、先程の身に起きた出来事をじっくり考え始めた。
お仕舞い
令和6(2024)年9月6日~9月18日作成
Mのお題
平成29(2017)年10月31日
「タイムリープがある物語」
何度目かの“やばい”を唱えながら、身支度をしている、年の頃20代後半の男-純也。
時刻は7時半。
あと1時間以内に会社に辿り着かないと、上司達に遅刻とみなされ、大目玉を食らうこととなる。
いや、そう感じているのは、純也だけかもしれないが、百歩譲っても嫌味を言われるのは、目に見えていた。
兎に角手を動かし、出掛ける用意をしようと考え、純也は溜め息混じりに何度も“大丈夫!”という言葉を繰り返す。
やがて、身支度を終えた純也は、息吐く暇もなく、リュックを背負い、駅へと向かった。
数分後、辿り着いたホーム内には、3列に並んだ乗客達が、無言で電車を今か今かと待っている。
しかし、その光景はほんの一部分で、遠くの方に瞳を移せば、バラバラに立っている集団もいて、端から見ている純也にとっては、何故か気持ちが落ち着く[[rb:光景 > モノ]]だった。
人には人の考え方があるものだなと、まるで他人事のように呟いた純也は、しかめ面でホーム内に設置された電光掲示板へと見る。
そこには、“7時40分発の電車が事故の影響で遅延する”という案内が流れていた。
この無情とも言える告知に言葉を失い、純也はガックリと肩を落とす。
暫くの間途方に暮れていた純也の耳に、次の電車の案内が聞こえてきたのは、丁度到着2分前だった。
事情も知る由もないアナウンスの、[[rb:鴬 > ウグイス]]のような高く可愛い声が、唯一自分を慰めてくれているように感じ、少しずつ気持ちが軽くなっていく。
そんな短いフレーズに、いつしか心を奪われていた純也の体に、突然小さな衝撃が走った。
声に聞き惚れているうちに電車が到着し、我先にと乗客達が降りてきたからである。
次から次へと押し迫る乗客の波を避けきれず、暫くの間純也小さめの体で、受け流し続けていた。
その中で急いでいたのだろうか?
1人の乗客が純也の存在に気付かず、そのまま体当たりをして、その場から去っていく。
漸く“[[rb:避 > ヨ]]けないと”と考え始めた純也には、まさに思いもよらない出来事だった。
純也は目の前の階段を一目散に降りていく乗客に、一瞬恨みがましい視線を向ける。
それと同時に、尻・背中・頭と地面に打ち付けていった。
痛みが体全体にほと走ったその刹那。
純也は暗闇を真っ逆さまに落ちていく感覚に包まれていく。
だが、それは束の間の出来事だったようで……
気が付いた純也は、見知らぬ男性に顔を覗き込まれていた。
意識がはっきりしていくにつれ、自分が駅のホーム内に設置された椅子に座っていることにも気付く。
「大丈夫ですか?」
「あっ、はい……すみません」
事態が把握出来ていない純也は、まだ靄に包まれているような頭で、辿々しく言葉を紡いだ。
幸い目の前の男性は、理解力に長けていたのであろう。
短い言葉から純也が言いたいことを汲み取り
「いえ、こちらこそ急いでいたとはいえ、ぶつかってしまって」
と、軽く頭を下げながら、申し訳なさそうに謝る。
「何だ……あれからすぐ引き返して、助け起こしてくれたのか」
“人は見かけによらないな”
内心で感慨深く呟いた純也は、まだじんわりと痛みが走る体に気を遣いながら、電光案内板へと瞳を移し、そして驚いた。
電車の到着時刻が“7時20分”と表示されていたからである。
「今……7時40分を過ぎているはずですよね?」
純也は恐る恐る介抱してくれた男性に訊ねてみると
「今行った電車が7時10分ですから、次は20分で間違いないですよ」
と、困惑しながらも、微笑んでそう答えた。
“ほら”と声をかけて見せた腕時計の2つの針は、しっかりと“7時15分”を差し示している。
ますますわけが分からなくなった純也は、言葉を失い、ただ呆然と、腕時計を見るしかなかった。
「それじゃあ、僕はこれで」
「助けて頂いて、有難うございました」
立ち上がった男性にお礼を言って見送った純也は、再び流れてきた運行のアナウンスに、耳を傾ける。
それも確かに、次の電車の到着時刻は“7時20分”だと伝えていた。
「不思議なこともあるものだな」
純也は、エスカレーターに吸い込まれていく男性の姿をチラリと見て、ポツリ呟く。
それと同時に、会社に遅刻しないですむという安心も生まれ、純也は胸を撫で下ろした。
やがて純也もまた、到着した電車に何事もなかったかのように、ゆっくりとした足取りで、電車に乗り込む。
過ぎさる景色と静寂に包まれた車内で、純也は会社の最寄り駅に着くまで、先程の身に起きた出来事をじっくり考え始めた。
お仕舞い
令和6(2024)年9月6日~9月18日作成
Mのお題
平成29(2017)年10月31日
「タイムリープがある物語」
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
「やばい、やばい」
何度目かの“やばい”を唱えながら、身支度をしている、年の頃20代後半の男-純也。
時刻は7時半。
あと1時間以内に会社に辿り着かないと、上司達に遅刻とみなされ、大目玉を食らうこととなる。
いや、そう感じているのは、純也だけかもしれないが、百歩譲っても嫌味を言われるのは、目に見えていた。
兎に角手を動かし、出掛ける用意をしようと考え、純也は溜め息混じりに何度も“大丈夫!”という言葉を繰り返す。
やがて、身支度を終えた純也は、息吐く暇もなく、リュックを背負い、駅へと向かった。
数分後、辿り着いたホーム内には、3列に並んだ乗客達が、無言で電車を今か今かと待っている。
しかし、その光景はほんの一部分で、遠くの方に瞳を移せば、バラバラに立っている集団もいて、端から見ている純也にとっては、何故か気持ちが落ち着く[[rb:光景 > モノ]]だった。
人には人の考え方があるものだなと、まるで他人事のように呟いた純也は、しかめ面でホーム内に設置された電光掲示板へと見る。
そこには、“7時40分発の電車が事故の影響で遅延する”という案内が流れていた。
この無情とも言える告知に言葉を失い、純也はガックリと肩を落とす。
暫くの間途方に暮れていた純也の耳に、次の電車の案内が聞こえてきたのは、丁度到着2分前だった。
事情も知る由もないアナウンスの、[[rb:鴬 > ウグイス]]のような高く可愛い声が、唯一自分を慰めてくれているように感じ、少しずつ気持ちが軽くなっていく。
そんな短いフレーズに、いつしか心を奪われていた純也の体に、突然小さな衝撃が走った。
声に聞き惚れているうちに電車が到着し、我先にと乗客達が降りてきたからである。
次から次へと押し迫る乗客の波を避けきれず、暫くの間純也小さめの体で、受け流し続けていた。
その中で急いでいたのだろうか?
1人の乗客が純也の存在に気付かず、そのまま体当たりをして、その場から去っていく。
漸く“[[rb:避 > ヨ]]けないと”と考え始めた純也には、まさに思いもよらない出来事だった。
純也は目の前の階段を一目散に降りていく乗客に、一瞬恨みがましい視線を向ける。
それと同時に、尻・背中・頭と地面に打ち付けていった。
痛みが体全体にほと走ったその刹那。
純也は暗闇を真っ逆さまに落ちていく感覚に包まれていく。
だが、それは束の間の出来事だったようで……
気が付いた純也は、見知らぬ男性に顔を覗き込まれていた。
意識がはっきりしていくにつれ、自分が駅のホーム内に設置された椅子に座っていることにも気付く。
「大丈夫ですか?」
「あっ、はい……すみません」
「あっ、はい……すみません」
事態が把握出来ていない純也は、まだ靄に包まれているような頭で、辿々しく言葉を紡いだ。
幸い目の前の男性は、理解力に長けていたのであろう。
短い言葉から純也が言いたいことを汲み取り
「いえ、こちらこそ急いでいたとはいえ、ぶつかってしまって」
と、軽く頭を下げながら、申し訳なさそうに謝る。
「いえ、こちらこそ急いでいたとはいえ、ぶつかってしまって」
と、軽く頭を下げながら、申し訳なさそうに謝る。
「何だ……あれからすぐ引き返して、助け起こしてくれたのか」
“人は見かけによらないな”
内心で感慨深く呟いた純也は、まだじんわりと痛みが走る体に気を遣いながら、電光案内板へと瞳を移し、そして驚いた。
電車の到着時刻が“7時20分”と表示されていたからである。
「今……7時40分を過ぎているはずですよね?」
純也は恐る恐る介抱してくれた男性に訊ねてみると
「今行った電車が7時10分ですから、次は20分で間違いないですよ」
と、困惑しながらも、微笑んでそう答えた。
「今行った電車が7時10分ですから、次は20分で間違いないですよ」
と、困惑しながらも、微笑んでそう答えた。
“ほら”と声をかけて見せた腕時計の2つの針は、しっかりと“7時15分”を差し示している。
ますますわけが分からなくなった純也は、言葉を失い、ただ呆然と、腕時計を見るしかなかった。
「それじゃあ、僕はこれで」
「助けて頂いて、有難うございました」
「助けて頂いて、有難うございました」
立ち上がった男性にお礼を言って見送った純也は、再び流れてきた運行のアナウンスに、耳を傾ける。
それも確かに、次の電車の到着時刻は“7時20分”だと伝えていた。
「不思議なこともあるものだな」
純也は、エスカレーターに吸い込まれていく男性の姿をチラリと見て、ポツリ呟く。
それと同時に、会社に遅刻しないですむという安心も生まれ、純也は胸を撫で下ろした。
やがて純也もまた、到着した電車に何事もなかったかのように、ゆっくりとした足取りで、電車に乗り込む。
過ぎさる景色と静寂に包まれた車内で、純也は会社の最寄り駅に着くまで、先程の身に起きた出来事をじっくり考え始めた。
お仕舞い
令和6(2024)年9月6日~9月18日作成
Mのお題
平成29(2017)年10月31日
「タイムリープがある物語」
平成29(2017)年10月31日
「タイムリープがある物語」