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恩讐の炎 ―4―

ー/ー



共鳴(レゾナンス)

 生徒会副会長、メモリア・ビアス。ビアスが得意とする魔法は『鏡』。鏡の魔法は、空間に作り出した鏡に反射した物や姿の形を映し見る魔法に過ぎない。そのため、一般魔法の中でも習得難易度はかなり低く、バウディアムスに在籍しているほとんどの生徒は鏡の魔法を扱うことができる。


「……うん、いい感じ。これがモニカちゃんに見えている世界なんだね」


 だが、ビアスの扱う鏡の魔法は、ハッキリ言って他とはレベルが違う。ビアスとそれ以外の魔法使いでは『鏡』の解釈の仕方がまるで異なる。


「そこにいる人、知ってる? 鏡ってね、ただ光を反射する道具じゃないんだよ」


 『鏡』とは、そこに映し出されたもう1つの世界である。それが、ビアスの解釈だった。九尾の狐の狐火を回避した時も、ビアスは瞬間移動をしていたのではなく、鏡に映された向こう側の世界に移っただけ。それは、ビアスにとって当たり前のことで、むしろ、こんな簡単なことができない他の魔法使いがおかしいのだ。


「変だよね。みんな私の事、おかしいって言うんだ。おかしいのはそっちの方なのに」


 見えていなくても、本能で感じる。そこには、()()1()()()()()があるから。奇しくもそれは、モニカの持つ『見えないものを見る目』と通ずるところがある。そして、今のビアスは――


「ごちゃごちゃと……喧しいぞ! 人間!」


 共鳴(レゾナンス)によって、モニカの視覚を共有している状態にあった。


「見えてるよ」


 これも、ビアスにとってはあくびが出るほど簡単なことだった。鏡を通して、自分と相手を重ねるだけ。そうすることで、視覚だけに限らず、聴覚に触覚、五感の全てを共有させることができる。
 これによって、一時的、簡易的にではあるが、ビアスは妖を視認することができるようになっていた。空で見下ろしてくる九尾の狐を穴が空くほど睨みつけ、ビアスは敵対心を顕にした。
 だが、相手は伝説の神獣であるということを、忘れてはならない。


「……仕方がない。これはあまりやりたくなかったのだが……」


 そう聞こえた直後、モニカとビアスは思わず立ち竦んだ。本能が叫ぶ、止まらない警告音。背中をじっとりと湿らせる冷や汗。とにかく、不穏な空気を感じる。その理由に気づいたのは、モニカだけだった。


「”呪層(じゅそう)”」

(……なに、あれ)


 辺り一帯が、おぞましいほどの妖気で満たされていく。毒ガスのように、徐々に妖気はモニカたちを犯していき、生気を奪う。まるで、強い重力を感じている時のように、身体が言うことを聞かなくなっていく。
 真っ先にガスによる攻撃を察したビアスは袖で口と鼻を押さえつけたが何の意味もなく、ただ体力と生気を失っていくだけだった。モニカに近づこうとする九尾の狐に攻撃を仕掛けるも、相手にもされず無視されてしまう。


「待ちなさい!」

「お主に興味はない。問題は()()()じゃ。あやつは我が娘について知っておるからな。死なぬ程度にしなくては」


 ゆっくりと、増え続けていた妖気が薄くなっていく。呼吸もままならなかったモニカは過呼吸になりつつも意識を取り戻していく。


「さて、妾の娘について、知っていることを吐け」


 それは、本当にありえないような奇跡だった。


「……貴女の、後ろ」


 その者は、モニカと同じ()()()()()であり、才覚に恵まれた人物だった。それだからなのかは分からない。もしかしたら、それは元から持っていた資質だったかもしれないし、度重なる妖との接触によるものだったのかもしれない。だが、偶然にしろ、奇跡にしろ、モニカと同じように、()もまた、理を覆しうる人物となったことに間違いはない。


「煌めけ、獄蝶(ごくちょう)


 ”百花繚乱(ひゃっかりょうらん)”!


 紅い焔が煌めき、2人を苦しめていた妖気を吹き飛ばす。悪寒を感じていたモニカは、その焔の暖かさに安心した。


「遅いよ、旭君」

「はっ! もっと可愛く『助けて』って言えねぇのかよお前は」


 騎獅道旭は、理を突き破り、()()()と同じ領域に至った。


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”|共鳴《レゾナンス》”
 生徒会副会長、メモリア・ビアス。ビアスが得意とする魔法は『鏡』。鏡の魔法は、空間に作り出した鏡に反射した物や姿の形を映し見る魔法に過ぎない。そのため、一般魔法の中でも習得難易度はかなり低く、バウディアムスに在籍しているほとんどの生徒は鏡の魔法を扱うことができる。
「……うん、いい感じ。これがモニカちゃんに見えている世界なんだね」
 だが、ビアスの扱う鏡の魔法は、ハッキリ言って他とはレベルが違う。ビアスとそれ以外の魔法使いでは『鏡』の解釈の仕方がまるで異なる。
「そこにいる人、知ってる? 鏡ってね、ただ光を反射する道具じゃないんだよ」
 『鏡』とは、そこに映し出されたもう1つの世界である。それが、ビアスの解釈だった。九尾の狐の狐火を回避した時も、ビアスは瞬間移動をしていたのではなく、鏡に映された向こう側の世界に移っただけ。それは、ビアスにとって当たり前のことで、むしろ、こんな簡単なことができない他の魔法使いがおかしいのだ。
「変だよね。みんな私の事、おかしいって言うんだ。おかしいのはそっちの方なのに」
 見えていなくても、本能で感じる。そこには、|も《・》|う《・》|1《・》|つ《・》|の《・》|世《・》|界《・》があるから。奇しくもそれは、モニカの持つ『見えないものを見る目』と通ずるところがある。そして、今のビアスは――
「ごちゃごちゃと……喧しいぞ! 人間!」
 |共鳴《レゾナンス》によって、モニカの視覚を共有している状態にあった。
「見えてるよ」
 これも、ビアスにとってはあくびが出るほど簡単なことだった。鏡を通して、自分と相手を重ねるだけ。そうすることで、視覚だけに限らず、聴覚に触覚、五感の全てを共有させることができる。
 これによって、一時的、簡易的にではあるが、ビアスは妖を視認することができるようになっていた。空で見下ろしてくる九尾の狐を穴が空くほど睨みつけ、ビアスは敵対心を顕にした。
 だが、相手は伝説の神獣であるということを、忘れてはならない。
「……仕方がない。これはあまりやりたくなかったのだが……」
 そう聞こえた直後、モニカとビアスは思わず立ち竦んだ。本能が叫ぶ、止まらない警告音。背中をじっとりと湿らせる冷や汗。とにかく、不穏な空気を感じる。その理由に気づいたのは、モニカだけだった。
「”|呪層《じゅそう》”」
(……なに、あれ)
 辺り一帯が、おぞましいほどの妖気で満たされていく。毒ガスのように、徐々に妖気はモニカたちを犯していき、生気を奪う。まるで、強い重力を感じている時のように、身体が言うことを聞かなくなっていく。
 真っ先にガスによる攻撃を察したビアスは袖で口と鼻を押さえつけたが何の意味もなく、ただ体力と生気を失っていくだけだった。モニカに近づこうとする九尾の狐に攻撃を仕掛けるも、相手にもされず無視されてしまう。
「待ちなさい!」
「お主に興味はない。問題は|繋《・》|ぐ《・》|者《・》じゃ。あやつは我が娘について知っておるからな。死なぬ程度にしなくては」
 ゆっくりと、増え続けていた妖気が薄くなっていく。呼吸もままならなかったモニカは過呼吸になりつつも意識を取り戻していく。
「さて、妾の娘について、知っていることを吐け」
 それは、本当にありえないような奇跡だった。
「……貴女の、後ろ」
 その者は、モニカと同じ|星《・》|を《・》|見《・》|る《・》|者《・》であり、才覚に恵まれた人物だった。それだからなのかは分からない。もしかしたら、それは元から持っていた資質だったかもしれないし、度重なる妖との接触によるものだったのかもしれない。だが、偶然にしろ、奇跡にしろ、モニカと同じように、|彼《・》もまた、理を覆しうる人物となったことに間違いはない。
「煌めけ、|獄蝶《ごくちょう》」
 ”|百花繚乱《ひゃっかりょうらん》”!
 紅い焔が煌めき、2人を苦しめていた妖気を吹き飛ばす。悪寒を感じていたモニカは、その焔の暖かさに安心した。
「遅いよ、旭君」
「はっ! もっと可愛く『助けて』って言えねぇのかよお前は」
 騎獅道旭は、理を突き破り、|繋《・》|ぐ《・》|者《・》と同じ領域に至った。