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36/40安立らが声を掛けた時、宮本は状況を頭で処理しきれていない、何とも間抜けな顔をしていた。宮本は、取調室に入っても変わらなかった。
「フウちゃん、宮本やってくれるか?」
丸い風船みたいな体に、名前を掛けてフウちゃんの愛称で皆に呼ばれている藤井に、安立は取り調べを託した。
その間に宮本の拘束に同行した藤井の相方の高津、八尾、柏原、萱島を集めた。
「今橋と安倍には遠野ペアと青山の監視を付けて、特に今は、変わったことはないみたいやけど」
話の腰を折る携帯の音に邪魔をされた。
「ちょっと待っててくれ」安立は捜査員から少しだけ距離を取った。
「安立です」
「こっちは昨晩、金の回収は済ませたからな」高石だった。
「え? ほんまですか? こっちは今しがた宮本を拘束しました」
「そうか。そんだけや」
「強奪された金は、回収されたみたいや」
安立の報告で、部屋の空気が軽くなった。
「やったやん、一課。ほんで全部、回収したんですか?」
「さっきの電話、高石さんからやったんや」
一様に察した顔になった。
捜査員は、高石と安立の不仲を知っていた。安立は、高石が一方的に自分を敵視しているだけなんだがと、胸の内で呟く。
「ぼやっとした顔してる場合ちゃうで。青山の身柄の取り合いが始まるんや。高津。昭島議員と青山の口座の流れの調べは、どんな具合や」
「ウッズ・ファイナンス、青山の口座から昭島への送金は、見当たらなかったですわ」
有事の際に直ぐに判明するような真似をしていないのは、想定内ではある。
「調べているうちに出てきたんですけど、表には名前は出てない、昭島が作ったとされるDV女性を守る目的で立ち上げられたNPOがあったんです。一応は人を置いてるけど、実際は稼働してないも同じでした。そこの口座に、年間で一億から、多い時で二億近い金が流れてました」
「振込人名は?」
「バラバラでした。振込元の銀行も調べたんですけど、何度かに亘って、あちこちの支店から現金で入金された後、ネットで口座からNPO法人に振り込まれている方法でした。振込元は、どの名義人も同じやりかたやったんで、ダミー口座ですわ」
となると青山の金の流れを調べるのが手っ取り早い。
「ウッズ・ファイナンスに入る手続きをとったほうが早いな」
捜査員が一様に頷いた。
「でも、遠野さん、どうするんですか?」
「山崎と遠野は、呼び戻す。フウちゃんが取り調べ入ってるから、高津と山崎で昭島の動向を探ってくれ。八尾と柏原は二人のフォロー。令状が取れたら、すぐにガサになるからな。以上や」
解散して、安立は萱島と二人きりになった。
「安立さん。遠野さんを取り調べるんですよね」
「そうやな」
「自分も立ち会ってもいいですか?」
「わかった」
「山崎か? どうしてん」
「すみません、安立さん。遠野さんに逃げられました」
確かに仲間を裏切ったが、安立はどこかで遠野は自分と対峙してくれるはずだと思い余っていた。
「どういう状況やってん」
山崎の声に張りはない。
「本部に戻る途中、ちょっと軽く食べて帰ろうかって話になって、ファミレスに寄ったんです。注文し終えて、トイレ行くって言うから、待ってたんですけど、一向に戻ってこうへんかって、トイレに行ったら、姿がなくて」
「でも、出て行ったら分かるやろ?」
「はい。急いで店員に聞いたら、警察手帳を提示したあと、厨房を通って裏口から出て行ったと。すぐに探したんですけど。すみませんでした!」
山崎の声が大きすぎて、電話の声が割れていた。
「しゃあない。とにかく、こっちに戻ってこい」
「はい」
山崎の短い返答には、遠野に逃げられた負い目に対してショックを受けている訳ではなく、平気な顔をしてまた欺かれてしまったことに対して、悔しいと感じが伝わってきた。
山崎の電話を切った直後、遠野に架け直した。
呼び出し音が続き、留守電に切り替わる。
「遠野、まだ刑事の意識が残ってるんやったら、俺のところに来い」と安立は短いメッセージを残した。
安立は肩に重みを感じつつ、その足で釣鐘に会いに行った。
「何か進展、あったんか?」
釣鐘の何気ない言葉が、今の安立には嫌味に聞こえる。
「遠野が、姿を消しました」
釣鐘は腕を組んで、唸った。
「――そうか。で、どうすんねん」
「山崎と八尾に追わせませます」
「――わかった。任せる。ほんで宮本は、どんな調子や?」
安立はホッとしつつ、続ける。
「まだこれといって進展はなしです。それと報告があります。ウッズ・ファイナンスの社長の青山平継が、衆議院員である昭島正義に、NPO法人を通して賄賂を渡していた可能性があり、まず明日朝一でウッズ・ファイナンスにガサ入れ予定にしますが、いいです?」
「ほんまか! 久々にデカイのが来たもんや。金額はなんぼほどや?」
興奮した釣鐘の鼻の穴が、大きく開いたせいで、鼻毛が飛び出している。
「億単位になります。ダミーのNPO法人に一旦、金を振り込んでから、引き出されてます」
「行けそうなんか?」
「行けます」
「証拠が固まったら、捜査本部を立ち上げたほうがええな。人は多いに越したことはないやろ」
釣鐘の言葉を予感はしていた安立は、待ったを懸けた。
「遠野を連れ戻すまで、立ち上げが待ってもらえませんか?」
「遠野に人員を割いてたら、足りへんやろ」
釣鐘の心配は至極当然だったが、安立は譲らなかった。安立は釣鐘に深々と頭を下げた。
「確実に昭島を引っ張り出せる証拠が揃うまでに、遠野を絶対に……拘束しますんで」
「わかった。遠野の件は、まだ上には黙っとく。でも、捜査本部の立上げの前の根回しは、しとくで」
「お願いします」
安立はもう一度、深々と頭を下げてから部屋を出た。
「フウちゃん、宮本やってくれるか?」
丸い風船みたいな体に、名前を掛けてフウちゃんの愛称で皆に呼ばれている藤井に、安立は取り調べを託した。
その間に宮本の拘束に同行した藤井の相方の高津、八尾、柏原、萱島を集めた。
「今橋と安倍には遠野ペアと青山の監視を付けて、特に今は、変わったことはないみたいやけど」
話の腰を折る携帯の音に邪魔をされた。
「ちょっと待っててくれ」安立は捜査員から少しだけ距離を取った。
「安立です」
「こっちは昨晩、金の回収は済ませたからな」高石だった。
「え? ほんまですか? こっちは今しがた宮本を拘束しました」
「そうか。そんだけや」
高石は言いたいことを言って、一方的に電話を切った。
「強奪された金は、回収されたみたいや」
安立の報告で、部屋の空気が軽くなった。
「やったやん、一課。ほんで全部、回収したんですか?」
高津は軽快な口調だった。
「さっきの電話、高石さんからやったんや」
一様に察した顔になった。
捜査員は、高石と安立の不仲を知っていた。安立は、高石が一方的に自分を敵視しているだけなんだがと、胸の内で呟く。
「ぼやっとした顔してる場合ちゃうで。青山の身柄の取り合いが始まるんや。高津。昭島議員と青山の口座の流れの調べは、どんな具合や」
「ウッズ・ファイナンス、青山の口座から昭島への送金は、見当たらなかったですわ」
有事の際に直ぐに判明するような真似をしていないのは、想定内ではある。
「調べているうちに出てきたんですけど、表には名前は出てない、昭島が作ったとされるDV女性を守る目的で立ち上げられたNPOがあったんです。一応は人を置いてるけど、実際は稼働してないも同じでした。そこの口座に、年間で一億から、多い時で二億近い金が流れてました」
「振込人名は?」
「バラバラでした。振込元の銀行も調べたんですけど、何度かに亘って、あちこちの支店から現金で入金された後、ネットで口座からNPO法人に振り込まれている方法でした。振込元は、どの名義人も同じやりかたやったんで、ダミー口座ですわ」
となると青山の金の流れを調べるのが手っ取り早い。
「ウッズ・ファイナンスに入る手続きをとったほうが早いな」
捜査員が一様に頷いた。
「でも、遠野さん、どうするんですか?」
柏原の不安げな声が聞こえた。
遅かれ早かれ向き合わないといけない。
遅かれ早かれ向き合わないといけない。
「山崎と遠野は、呼び戻す。フウちゃんが取り調べ入ってるから、高津と山崎で昭島の動向を探ってくれ。八尾と柏原は二人のフォロー。令状が取れたら、すぐにガサになるからな。以上や」
解散して、安立は萱島と二人きりになった。
「安立さん。遠野さんを取り調べるんですよね」
「そうやな」
安立は半分、聞き流す感じで答えた。
「自分も立ち会ってもいいですか?」
萱島は意を決した顔をしていた。
「わかった」
安立は萱島の目を真っ直ぐに見て、山崎に一旦、戻るように連絡を入れた。
しかし、十五分もしない内に、山崎からの折り返しがあった。
しかし、十五分もしない内に、山崎からの折り返しがあった。
「山崎か? どうしてん」
「すみません、安立さん。遠野さんに逃げられました」
確かに仲間を裏切ったが、安立はどこかで遠野は自分と対峙してくれるはずだと思い余っていた。
「どういう状況やってん」
山崎の声に張りはない。
「本部に戻る途中、ちょっと軽く食べて帰ろうかって話になって、ファミレスに寄ったんです。注文し終えて、トイレ行くって言うから、待ってたんですけど、一向に戻ってこうへんかって、トイレに行ったら、姿がなくて」
「でも、出て行ったら分かるやろ?」
安立は山崎に対して、強い口調で責め立てた。
「はい。急いで店員に聞いたら、警察手帳を提示したあと、厨房を通って裏口から出て行ったと。すぐに探したんですけど。すみませんでした!」
山崎の声が大きすぎて、電話の声が割れていた。
「しゃあない。とにかく、こっちに戻ってこい」
「はい」
山崎の短い返答には、遠野に逃げられた負い目に対してショックを受けている訳ではなく、平気な顔をしてまた欺かれてしまったことに対して、悔しいと感じが伝わってきた。
山崎の電話を切った直後、遠野に架け直した。
呼び出し音が続き、留守電に切り替わる。
「遠野、まだ刑事の意識が残ってるんやったら、俺のところに来い」と安立は短いメッセージを残した。
安立は肩に重みを感じつつ、その足で釣鐘に会いに行った。
「何か進展、あったんか?」
釣鐘の何気ない言葉が、今の安立には嫌味に聞こえる。
「遠野が、姿を消しました」
釣鐘は腕を組んで、唸った。
「――そうか。で、どうすんねん」
「山崎と八尾に追わせませます」
「――わかった。任せる。ほんで宮本は、どんな調子や?」
安立はホッとしつつ、続ける。
「まだこれといって進展はなしです。それと報告があります。ウッズ・ファイナンスの社長の青山平継が、衆議院員である昭島正義に、NPO法人を通して賄賂を渡していた可能性があり、まず明日朝一でウッズ・ファイナンスにガサ入れ予定にしますが、いいです?」
「ほんまか! 久々にデカイのが来たもんや。金額はなんぼほどや?」
興奮した釣鐘の鼻の穴が、大きく開いたせいで、鼻毛が飛び出している。
「億単位になります。ダミーのNPO法人に一旦、金を振り込んでから、引き出されてます」
「行けそうなんか?」
昭島を引っ張り出せるか。暗に釣鐘が確認を安立に迫った。
「行けます」
安立は言い切った。
釣鐘も言い切った安立に安心したのか、一旦は弱気になった鼻の鼻が、また大きく開き始めた。
釣鐘も言い切った安立に安心したのか、一旦は弱気になった鼻の鼻が、また大きく開き始めた。
「証拠が固まったら、捜査本部を立ち上げたほうがええな。人は多いに越したことはないやろ」
釣鐘の言葉を予感はしていた安立は、待ったを懸けた。
「遠野を連れ戻すまで、立ち上げが待ってもらえませんか?」
「遠野に人員を割いてたら、足りへんやろ」
釣鐘の心配は至極当然だったが、安立は譲らなかった。安立は釣鐘に深々と頭を下げた。
「確実に昭島を引っ張り出せる証拠が揃うまでに、遠野を絶対に……拘束しますんで」
「わかった。遠野の件は、まだ上には黙っとく。でも、捜査本部の立上げの前の根回しは、しとくで」
「お願いします」
安立はもう一度、深々と頭を下げてから部屋を出た。
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