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手の打ちようがない差異

ー/ー



 一日の授業が終わり、五人は何も言わず帰っていく。
 それを見届けると、咲洲たちが気を遣って励ましてくれた。

 明日から悪化するのだろうか。咲洲たちは変わらないままでいてくれるだろうか。

 集まる視線が痛くていたたまれない。
 申し訳ないけど今は誰とも話す気になれないから、一言断って先に帰る。

 同じクラスの人に見つかったら何を言われるかわからないから、帰るタイミングはずらしたかった。

 逃れるように人の少ない方を選び、名前も知らない特別教室の前にもたれる。
 すると聞き覚えのある声がして耳をそば立てた。

 先生と雪田……!

 先生とあの五人が廊下の突き当たりに自習用として置かれている椅子と机に集っていた。

 向こうは私に気付いていないようだ。

「過敏に反応するようになったんだと思います。ですが今回の盗難は絶対に私たちは関係ありません」

「あいつも知らないって言ってたし、そういうことなんだろうなあ。三河も話し合って納得してくれるといいんだがな」

「三河は本当は物分かりがいい子ですから……わかってくれると思います」

 先生と海堀がわかったような口振りで私のことを話す。二人が思い描く私の姿は都合のいい優等生で、真剣な怒りは一時の気の迷いとして扱われていた。
 なんで私が誤解しているかのように話が進んでいるの? 私の話をちゃんと受け止めなかったのは先生、間違っているのはそっちの方だ。

「色々ゴタゴタしてて、先生って大変だね。せっかく同居始めたのに帰れないんじゃない?」

「帰れないのはあいつもわかってることだしな……ただ帰ってきたら寝る用意を整えてくれてたりして、やっぱり一緒にいてよかったなと思ったり……」

「惚気てるねぇ」

「お姉ちゃん優しー!」

 雪田が先生を労いながらプライベートの話題を切り出すと、一井は微笑ましそうにして、先生は腕を組んで嬉しそうに目を閉じていた。

 五人が茶化して和気あいあいとした空間に切り替わり、さっきまでいじめのことを話していたとは思えなくなっていた。

 同居している彼女がいたとは聞いていたけど、それが雪田の姉とは初耳だった。
 それからも私の知らないプライベートのことを当たり前のように垂れ流し、最早友達同士の会話にしか思えなかった。

 私のお腹の底に重く冷たい血が沈んだ。
 先生が五人を頑なに信じるのには理由があった。

 私はあまり話したことがない優等生。対して向こうは将来の妻の妹とその親友たち。

 はなから距離が違ったのだ。

 やるせ無い気持ちが湧き上がり、誰もいないところに逃げたくなった。

 すると私の暗い気持ちに答え、校舎に影がさす。

 瞬きをしたら、私の望み通り、誰もいない異空間に切り替わっていた。


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 一日の授業が終わり、五人は何も言わず帰っていく。
 それを見届けると、咲洲たちが気を遣って励ましてくれた。
 明日から悪化するのだろうか。咲洲たちは変わらないままでいてくれるだろうか。
 集まる視線が痛くていたたまれない。
 申し訳ないけど今は誰とも話す気になれないから、一言断って先に帰る。
 同じクラスの人に見つかったら何を言われるかわからないから、帰るタイミングはずらしたかった。
 逃れるように人の少ない方を選び、名前も知らない特別教室の前にもたれる。
 すると聞き覚えのある声がして耳をそば立てた。
 先生と雪田……!
 先生とあの五人が廊下の突き当たりに自習用として置かれている椅子と机に集っていた。
 向こうは私に気付いていないようだ。
「過敏に反応するようになったんだと思います。ですが今回の盗難は絶対に私たちは関係ありません」
「あいつも知らないって言ってたし、そういうことなんだろうなあ。三河も話し合って納得してくれるといいんだがな」
「三河は本当は物分かりがいい子ですから……わかってくれると思います」
 先生と海堀がわかったような口振りで私のことを話す。二人が思い描く私の姿は都合のいい優等生で、真剣な怒りは一時の気の迷いとして扱われていた。
 なんで私が誤解しているかのように話が進んでいるの? 私の話をちゃんと受け止めなかったのは先生、間違っているのはそっちの方だ。
「色々ゴタゴタしてて、先生って大変だね。せっかく同居始めたのに帰れないんじゃない?」
「帰れないのはあいつもわかってることだしな……ただ帰ってきたら寝る用意を整えてくれてたりして、やっぱり一緒にいてよかったなと思ったり……」
「惚気てるねぇ」
「お姉ちゃん優しー!」
 雪田が先生を労いながらプライベートの話題を切り出すと、一井は微笑ましそうにして、先生は腕を組んで嬉しそうに目を閉じていた。
 五人が茶化して和気あいあいとした空間に切り替わり、さっきまでいじめのことを話していたとは思えなくなっていた。
 同居している彼女がいたとは聞いていたけど、それが雪田の姉とは初耳だった。
 それからも私の知らないプライベートのことを当たり前のように垂れ流し、最早友達同士の会話にしか思えなかった。
 私のお腹の底に重く冷たい血が沈んだ。
 先生が五人を頑なに信じるのには理由があった。
 私はあまり話したことがない優等生。対して向こうは将来の妻の妹とその親友たち。
 はなから距離が違ったのだ。
 やるせ無い気持ちが湧き上がり、誰もいないところに逃げたくなった。
 すると私の暗い気持ちに答え、校舎に影がさす。
 瞬きをしたら、私の望み通り、誰もいない異空間に切り替わっていた。