表示設定
表示設定
目次 目次




言い逃れ

ー/ー



「そこで、今日はグループになって話し合ってもらう。これまでに、もしかしていじめかな? と思った事を書き出してくれ」

 先生は涙を手の甲で拭い、何も描かれていない紙をファイルから取り出した。
 私は普段の人権LHRと変わらない内容に呆れ返り、思わず机を動かすのが遅れる。

 四人で机を合わせると、出席人数が三十二人だから八つのグループができ、先生が紙を配って回る。涙で濡らした指のおかげか紙を捲り取るのもスムーズだった。

 冷静に考えて、もしかするとこれは証言を集まるためにしているのかもしれない。いじめがあるといいつつも私と五人の名前を伏せていたのは、五人の圧力を恐れず書くためにかもしれない。そうじゃないと私が報われない!

 ……それで正直に書いたとしても、誰の話なのか言えなかったら私に対する行為なのかもわからないじゃない。

 隣の席の女子が、今までのことも気にしていない様子で意見を伺ってくる。いじめが誰の話なのかは公然の事実で、心当たりがあるから私に聞くのだろうけど、周りの目を気にして他人事のようにしている。

 今までされてきたことはほとんど覚えているけど、二つ程度発言して終わらせた。授業終了の十分前になると、雑談をやめない生徒たちを説明するからと黙らせる。

「これからグループで出した内容を発表する。まずは窓側から」

 正気!?
 選ばれたグループは一井がいるグループの隣で、机はくっついていないものの互いに体を向けて話していた。

「その人が見た目で気にしているところをあだ名にする。失敗をしつこく責める……」

 男子が気怠げに箇条書きを読み上げると、例を一つ挙げるように言った。

「立木の顔にしわが寄ってるからパグっていったり……」

「本当か!?」

「はいそうなんすよ〜いやそこまで気にしてないんすけど女子が見てるところではやめてほしいなって……」

 例に出された立木が頭をかいて立ち上がる。

 次は一井たちのグループで、そこでは自分の宿題をやらせるというのが出てきた。

 私以外のことを言って誤魔化すかと思ったのに、本当にしたことを言うなんて思わなかった。

「宿題ができなかった日、三河さんにやってもらっていたことがあったんです。三河さんはもちろん嫌がってたけど、欠点を取りたくないらってきついことを言って押し付けて……三河さん、ごめんなさい」

「宿題は自分でやるべきだし三河に対してきつい言葉をかけるのも間違っている。わかったな」

「はい」

「でもそうやって気付くのは大事なことだ。三河、一井の話を聞いてどう思った?」

 しおらしくしているけど、本当に反省しているとは思えない。

「本当に悪いと思ってるの? 宿題は私にやらせるものと言わんばかりにほとんど押し付けてきたわよね? ついこの前までその場しのぎのために平気で人を傷付けるようなやつが一日で改心すると思う?」

 体育館に閉じ込めたり、まだまだ明かされていないことがある。それらを有耶無耶にしたままで和解はできない。

「他にも……昨日の盗難事件だってあんたたちが仕組んだことじゃない。問い詰めたら一井、私の管理が甘いからって開き直ったしあの後私以外の盗難に遭った人に迷惑料っての払ったのよ!」

「ごめんね三河、鍵は私がパンを買う途中に拾ったんだ。でも急いでたから持ったまま買いに行っちゃって……」

「私が鍵を最後に見たのは科学教室よ! そもそも急いでいるなら落ちていても放っておくはずでしょ!?」

「落ち着け! 今は盗難の話をする時間じゃない!」

 絶対に迷惑料は払われたし、鍵が私の手元にあったのを見た人はいる。あの盗難事件は私へのいじめの一環だったって認めさせないと。

 これ以上続けば私以外の人にも迷惑がかかるってわからせないといけない。このクラスのほとんどは自分に被害が出ないと動かないから。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 信じられない反転


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「そこで、今日はグループになって話し合ってもらう。これまでに、もしかしていじめかな? と思った事を書き出してくれ」
 先生は涙を手の甲で拭い、何も描かれていない紙をファイルから取り出した。
 私は普段の人権LHRと変わらない内容に呆れ返り、思わず机を動かすのが遅れる。
 四人で机を合わせると、出席人数が三十二人だから八つのグループができ、先生が紙を配って回る。涙で濡らした指のおかげか紙を捲り取るのもスムーズだった。
 冷静に考えて、もしかするとこれは証言を集まるためにしているのかもしれない。いじめがあるといいつつも私と五人の名前を伏せていたのは、五人の圧力を恐れず書くためにかもしれない。そうじゃないと私が報われない!
 ……それで正直に書いたとしても、誰の話なのか言えなかったら私に対する行為なのかもわからないじゃない。
 隣の席の女子が、今までのことも気にしていない様子で意見を伺ってくる。いじめが誰の話なのかは公然の事実で、心当たりがあるから私に聞くのだろうけど、周りの目を気にして他人事のようにしている。
 今までされてきたことはほとんど覚えているけど、二つ程度発言して終わらせた。授業終了の十分前になると、雑談をやめない生徒たちを説明するからと黙らせる。
「これからグループで出した内容を発表する。まずは窓側から」
 正気!?
 選ばれたグループは一井がいるグループの隣で、机はくっついていないものの互いに体を向けて話していた。
「その人が見た目で気にしているところをあだ名にする。失敗をしつこく責める……」
 男子が気怠げに箇条書きを読み上げると、例を一つ挙げるように言った。
「立木の顔にしわが寄ってるからパグっていったり……」
「本当か!?」
「はいそうなんすよ〜いやそこまで気にしてないんすけど女子が見てるところではやめてほしいなって……」
 例に出された立木が頭をかいて立ち上がる。
 次は一井たちのグループで、そこでは自分の宿題をやらせるというのが出てきた。
 私以外のことを言って誤魔化すかと思ったのに、本当にしたことを言うなんて思わなかった。
「宿題ができなかった日、三河さんにやってもらっていたことがあったんです。三河さんはもちろん嫌がってたけど、欠点を取りたくないらってきついことを言って押し付けて……三河さん、ごめんなさい」
「宿題は自分でやるべきだし三河に対してきつい言葉をかけるのも間違っている。わかったな」
「はい」
「でもそうやって気付くのは大事なことだ。三河、一井の話を聞いてどう思った?」
 しおらしくしているけど、本当に反省しているとは思えない。
「本当に悪いと思ってるの? 宿題は私にやらせるものと言わんばかりにほとんど押し付けてきたわよね? ついこの前までその場しのぎのために平気で人を傷付けるようなやつが一日で改心すると思う?」
 体育館に閉じ込めたり、まだまだ明かされていないことがある。それらを有耶無耶にしたままで和解はできない。
「他にも……昨日の盗難事件だってあんたたちが仕組んだことじゃない。問い詰めたら一井、私の管理が甘いからって開き直ったしあの後私以外の盗難に遭った人に迷惑料っての払ったのよ!」
「ごめんね三河、鍵は私がパンを買う途中に拾ったんだ。でも急いでたから持ったまま買いに行っちゃって……」
「私が鍵を最後に見たのは科学教室よ! そもそも急いでいるなら落ちていても放っておくはずでしょ!?」
「落ち着け! 今は盗難の話をする時間じゃない!」
 絶対に迷惑料は払われたし、鍵が私の手元にあったのを見た人はいる。あの盗難事件は私へのいじめの一環だったって認めさせないと。
 これ以上続けば私以外の人にも迷惑がかかるってわからせないといけない。このクラスのほとんどは自分に被害が出ないと動かないから。