Strugle for the anser
ー/ー-それは問いかける声のために。
それは答える声のために-
それは答える声のために-
「さて、ちょっとばかり、派手な展開になりそうね。ドッグ、聞こえてる?」
AOWのアタッチメントをアサルトタイプから、1発の威力の高いハイパワータイプに切り替えながら、セトミがデヴァイスに語り掛ける。
地下の道を駆け抜けるその足元は、いまだ小刻みな振動に支配されているが、その速度までが揺らぐことはない。そのバランス感覚は、まさにしなやかな猫の動きそのものといえた。
「オーケー、感度良好だ。しかし、最初(ハナ)っからずいぶんな大物が出てきちまったもんだな。こりゃ、地上を抜けてった方が、楽だったかもしれないぜ?」
ため息まじりに、デヴァイスの向こうでタバコに火を着ける音が聞こえる。彼がタバコを吸うときは、何かに集中しようとするとき。すなわちこれは、彼流の戦闘開始の合図といえた。
「まったくね。ま、でもいいんじゃない? ロボ子もできれば、同族とは戦いたくないだろうし」
AOWのアタッチメントをアサルトタイプから、1発の威力の高いハイパワータイプに切り替えながら、セトミがデヴァイスに語り掛ける。
地下の道を駆け抜けるその足元は、いまだ小刻みな振動に支配されているが、その速度までが揺らぐことはない。そのバランス感覚は、まさにしなやかな猫の動きそのものといえた。
「オーケー、感度良好だ。しかし、最初(ハナ)っからずいぶんな大物が出てきちまったもんだな。こりゃ、地上を抜けてった方が、楽だったかもしれないぜ?」
ため息まじりに、デヴァイスの向こうでタバコに火を着ける音が聞こえる。彼がタバコを吸うときは、何かに集中しようとするとき。すなわちこれは、彼流の戦闘開始の合図といえた。
「まったくね。ま、でもいいんじゃない? ロボ子もできれば、同族とは戦いたくないだろうし」
こちらもアタッチメントの切り替えを終了し、エネルギーパックをリロードする。こちらも無言で戦闘開始の準備を終えると、背後――――揺れの中心部に向けて、にやりと笑ってみせる。
「さて――――準備完了。そろそろラウンドワン開始といきましょうか」
「セトミ、『あれ』に対する基本的な戦い方はわかってるな?」
ショウの声に、セトミは笑みを崩さないまま、頷いて見せる。
「もっちろん。シャドウでも何度か遭ってるしね。赤ちゃんのおしめを代えるよりは慣れてるわ。とにかく止まらず、走り続けること。それと、相手の『武器』を狙い撃つこと」
「その通りだ。……女としては、化け物の相手より、赤ん坊の面倒を見ることに慣れてる方がいいとは思うがな」
セトミの微妙なたとえに、ショウがデヴァイスの向こうで苦い顔をしているのが目に浮かぶような声で、返事が返ってきた。
「さて――――準備完了。そろそろラウンドワン開始といきましょうか」
「セトミ、『あれ』に対する基本的な戦い方はわかってるな?」
ショウの声に、セトミは笑みを崩さないまま、頷いて見せる。
「もっちろん。シャドウでも何度か遭ってるしね。赤ちゃんのおしめを代えるよりは慣れてるわ。とにかく止まらず、走り続けること。それと、相手の『武器』を狙い撃つこと」
「その通りだ。……女としては、化け物の相手より、赤ん坊の面倒を見ることに慣れてる方がいいとは思うがな」
セトミの微妙なたとえに、ショウがデヴァイスの向こうで苦い顔をしているのが目に浮かぶような声で、返事が返ってきた。
「ま、これでもまだ私、赤ちゃんの面倒見る羽目にするつもりはないからね。……っと、来たかな?」
その瞳が、再び背後の闇を射抜く。先ほどとは若干違う、かすかに増した威圧感がじわじわとその先から伝わってくる。それは、徐々に増していく振動。ずるずるという、なにか大きなものを引きずるような音。そして、どこからか空気の漏れるような、それの息遣い。
やがてその闇の向こうから姿を現したのは、世にもグロテスクなクリーチャーだった。光沢のある、のっぺりとした肌に、見上げるような巨体。そのクリーチャーには、手も足も、目も鼻もない。ただあるのは、丸い頭部に、人間の前歯だけをずらりと並べただけの、巨大な口。
それは、言うなれば、人間と似た大きな口を持った、巨大なミミズのようであった。
「やっぱこいつか……トレマーズ・ファング」
デヴァイスの向こうで、ショウがうめく。
その瞳が、再び背後の闇を射抜く。先ほどとは若干違う、かすかに増した威圧感がじわじわとその先から伝わってくる。それは、徐々に増していく振動。ずるずるという、なにか大きなものを引きずるような音。そして、どこからか空気の漏れるような、それの息遣い。
やがてその闇の向こうから姿を現したのは、世にもグロテスクなクリーチャーだった。光沢のある、のっぺりとした肌に、見上げるような巨体。そのクリーチャーには、手も足も、目も鼻もない。ただあるのは、丸い頭部に、人間の前歯だけをずらりと並べただけの、巨大な口。
それは、言うなれば、人間と似た大きな口を持った、巨大なミミズのようであった。
「やっぱこいつか……トレマーズ・ファング」
デヴァイスの向こうで、ショウがうめく。
「まったく、相変わらずキモいよねぇ。なに食べたらそんなに大きくなるもんだか」
がちがちと歯を鳴らしながら後を追ってくるクリーチャーに、セトミが呆れたような視線を向ける。
「バカ言ってる場合じゃねえぞ。こいつは今まで見た中でも最大級の大きさだ。ちっとばかり、マジになった方がよさそうだぜ」
「……わかってる」
短く答えると、セトミはAOWの照準をクリーチャーの口に合わせる。駆けながらそのトリガーを引き絞り、徐々に距離を詰めていたクリーチャーの歯に弾丸を命中させた。
「ぎああああああっ!」
がちがちと歯を鳴らしながら後を追ってくるクリーチャーに、セトミが呆れたような視線を向ける。
「バカ言ってる場合じゃねえぞ。こいつは今まで見た中でも最大級の大きさだ。ちっとばかり、マジになった方がよさそうだぜ」
「……わかってる」
短く答えると、セトミはAOWの照準をクリーチャーの口に合わせる。駆けながらそのトリガーを引き絞り、徐々に距離を詰めていたクリーチャーの歯に弾丸を命中させた。
「ぎああああああっ!」
地面を掘り進み、獲物に食らいつくその歯を吹き飛ばされ、クリーチャーの巨体が苦痛にのたうつ。濁ったようなどろりとした血を口からしたたらせ、それはセトミの追跡を再開した。
「さて、どんどんいきましょっか!」
セトミは容赦なく、さらに二発、三発とクリーチャーの歯に弾丸を命中させていく。通常よりも破壊力を上げられた弾丸は、その旅にクリーチャーの歯を微塵と砕く。
地中で暮らし、目や鼻のないこのクリーチャーの弱点、それは武器であり、地面を掘り進む掘削機でもある、その歯だった。移動するためにも、戦うためにも使われるこれがなくなれば、やつらは手足をもがれたのも同然だ。
――――しかし。
――――おかしい。
何本目かのクリーチャーの歯を吹き飛ばしながら、セトミはかすかな疑問がその胸に下りるのを感じた。
「さて、どんどんいきましょっか!」
セトミは容赦なく、さらに二発、三発とクリーチャーの歯に弾丸を命中させていく。通常よりも破壊力を上げられた弾丸は、その旅にクリーチャーの歯を微塵と砕く。
地中で暮らし、目や鼻のないこのクリーチャーの弱点、それは武器であり、地面を掘り進む掘削機でもある、その歯だった。移動するためにも、戦うためにも使われるこれがなくなれば、やつらは手足をもがれたのも同然だ。
――――しかし。
――――おかしい。
何本目かのクリーチャーの歯を吹き飛ばしながら、セトミはかすかな疑問がその胸に下りるのを感じた。
いくらさまざまな役割を負う歯だからと言って、その構造自体が他の生物と比べ、大きく異なるわけではない。無論、その歯には神経が直接つながっており、攻撃を受けたり、折られたりすれば、かなりの苦痛となる。
大抵のこのタイプのクリーチャーは、数本、歯を吹き飛ばしてやればその苦痛に負けて、逃げ出すはずなのだが。目の前のこいつは、一瞬、痛む素振りは見せるものの、すぐにそのことなど忘れたかのように再び追跡を再開する。
「……ドッグ、ずいぶんと我慢強いミミズさんもいたもんね。歯を半分ふっとばされてもあきらめないなんて」
「……だな。ちっとばかり、こいつは変だ。セトミ、今度は歯じゃなく、頭部付近を狙ってみてくれ」
通常、このクリーチャーのぶよぶよした身体には銃が効きにくく、歯を狙うのが常套手段である。あえて攻撃の効きづらい部分を狙うことに、なにか意味があるのだろうか。
大抵のこのタイプのクリーチャーは、数本、歯を吹き飛ばしてやればその苦痛に負けて、逃げ出すはずなのだが。目の前のこいつは、一瞬、痛む素振りは見せるものの、すぐにそのことなど忘れたかのように再び追跡を再開する。
「……ドッグ、ずいぶんと我慢強いミミズさんもいたもんね。歯を半分ふっとばされてもあきらめないなんて」
「……だな。ちっとばかり、こいつは変だ。セトミ、今度は歯じゃなく、頭部付近を狙ってみてくれ」
通常、このクリーチャーのぶよぶよした身体には銃が効きにくく、歯を狙うのが常套手段である。あえて攻撃の効きづらい部分を狙うことに、なにか意味があるのだろうか。
とにかく、今はショウの言うことを信用するしかない。セトミは、クリーチャーの頭部を狙い、トリガーを引き絞る。
それに対しクリーチャーは、今までどれだけ撃たれようが平然と突進してくるだけだったことから打って変わって、機敏にその巨体をかがませ、射撃を回避した。それはどこか、頭の上をなにかが通過していった時に、人間が反射的にかがむさまと似ていた。
それにセトミはそれを見逃さなかった。クリーチャーが身をかがその一瞬、その頭部が、生き物の色としてはグロテスクな、エメラルドグリーンに変色したのだ。
「……今のは!?」
「間違いねえ。そいつはただのクリーチャーじゃねえ。別のクリーチャーに寄生された個体だ」
困惑するセトミに、デヴァイスの向こうのショウが舌を打つ。
それに対しクリーチャーは、今までどれだけ撃たれようが平然と突進してくるだけだったことから打って変わって、機敏にその巨体をかがませ、射撃を回避した。それはどこか、頭の上をなにかが通過していった時に、人間が反射的にかがむさまと似ていた。
それにセトミはそれを見逃さなかった。クリーチャーが身をかがその一瞬、その頭部が、生き物の色としてはグロテスクな、エメラルドグリーンに変色したのだ。
「……今のは!?」
「間違いねえ。そいつはただのクリーチャーじゃねえ。別のクリーチャーに寄生された個体だ」
困惑するセトミに、デヴァイスの向こうのショウが舌を打つ。
「寄生?」
「ああ、そいつは戦前からいた生物で、本来はカタツムリに寄生する寄生虫だ。餌に紛れて体内に入り込み、カタツムリの脳を支配してその行動を操る。それがヴィクティム因子の影響を受けてクリーチャー化したのがそいつ……『ブレイン・スラーパー』。脳みそをむさぼる奴、って意味だ」
「で? そいつをぶっちめるにはどうしたらいいわけ!?」
早く肝心なところを教えてくれ、と言わんばかりの声色で、セトミがデヴァイスに向かって叫ぶ。とにかく歯を撃って相手をひるませながら逃げているが、このままではらちがあかない。
「いいか、奴の本体は、あくまで脳に寄生した寄生虫だ。それ以外の部分を撃っても、多少の足止めにはなるが、致命傷には至らない。どうにかして、頭部にダメージを与えなきゃなんねえ」
「ああ、そいつは戦前からいた生物で、本来はカタツムリに寄生する寄生虫だ。餌に紛れて体内に入り込み、カタツムリの脳を支配してその行動を操る。それがヴィクティム因子の影響を受けてクリーチャー化したのがそいつ……『ブレイン・スラーパー』。脳みそをむさぼる奴、って意味だ」
「で? そいつをぶっちめるにはどうしたらいいわけ!?」
早く肝心なところを教えてくれ、と言わんばかりの声色で、セトミがデヴァイスに向かって叫ぶ。とにかく歯を撃って相手をひるませながら逃げているが、このままではらちがあかない。
「いいか、奴の本体は、あくまで脳に寄生した寄生虫だ。それ以外の部分を撃っても、多少の足止めにはなるが、致命傷には至らない。どうにかして、頭部にダメージを与えなきゃなんねえ」
「頭部……でもあいつの皮膚は、ガンマレイでもダメージが通りにくいんでしょ?」
威嚇のために撃ちながら走るセトミをあざ笑うかのように、クリーチャーが歯をむき出しながらにじり寄る。その巨体は決して素早いとは言いがたいが、いつまでも追いかけっこをしているわけにもいかない。
「仕方ねえ、倒すのはあきらめろ。もう少しでシェイたちがメトロの準備を終えるはずだ。そいつに乗り込んでとんずらするぞ!」
「了解! 乗り遅れだけは勘弁してもらいたいとこね。シェイ、聞こえてた? 準備はできてる?」
デヴァイスを通じ、今度はミナの持つエマへ通信を送る。
「ああ、聞こえてたよ。準備はできてる。ずいぶん大きなお客さんを乗せる羽目にならなきゃいいけど」
威嚇のために撃ちながら走るセトミをあざ笑うかのように、クリーチャーが歯をむき出しながらにじり寄る。その巨体は決して素早いとは言いがたいが、いつまでも追いかけっこをしているわけにもいかない。
「仕方ねえ、倒すのはあきらめろ。もう少しでシェイたちがメトロの準備を終えるはずだ。そいつに乗り込んでとんずらするぞ!」
「了解! 乗り遅れだけは勘弁してもらいたいとこね。シェイ、聞こえてた? 準備はできてる?」
デヴァイスを通じ、今度はミナの持つエマへ通信を送る。
「ああ、聞こえてたよ。準備はできてる。ずいぶん大きなお客さんを乗せる羽目にならなきゃいいけど」
「オッケー、そんなら今からそっちに向かうわ。どう行けばいい?」
射撃音に負けないように大声を張り上げながら、セトミが聞く。
「まった、その前に、一つ問題がある。君が乗り込んでから加速したんじゃ、十分に速度が出る前に、メトロがそいつに破壊される恐れがある」
「まったく、次から次へと……で、どうしろっての? スピード上げた列車にジャンプで飛び乗れとでも言うわけ?」
皮肉を込めて冗談めいた言い方をしてみたセトミだが、シェイのその次の句が告げられずにいるその沈黙で、ジョークがジョークで済まなかったことを理解してしまった。
「……マジで?」
「マジで。その先に、人がかがんでぬけられるほどの大きさのダクトがある。そこを抜ければ、ちょうどメトロの路線の真上に出る。僕たちはこれからメトロの加速を開始する。僕が合図を出すから、天井に向かって飛び降りるんだ」
射撃音に負けないように大声を張り上げながら、セトミが聞く。
「まった、その前に、一つ問題がある。君が乗り込んでから加速したんじゃ、十分に速度が出る前に、メトロがそいつに破壊される恐れがある」
「まったく、次から次へと……で、どうしろっての? スピード上げた列車にジャンプで飛び乗れとでも言うわけ?」
皮肉を込めて冗談めいた言い方をしてみたセトミだが、シェイのその次の句が告げられずにいるその沈黙で、ジョークがジョークで済まなかったことを理解してしまった。
「……マジで?」
「マジで。その先に、人がかがんでぬけられるほどの大きさのダクトがある。そこを抜ければ、ちょうどメトロの路線の真上に出る。僕たちはこれからメトロの加速を開始する。僕が合図を出すから、天井に向かって飛び降りるんだ」
時間がないゆえか、ひどく端的に言ってのけるシェイに、思わずセトミは額に手を当て、嘆息する。
「……こないだのロボ子の壁越えといい、あんたら結構無茶するよね」
「悪いね。こんな世の中じゃ、機械でも無茶の一つや二つはしなくちゃどうにもならないことがあるのさ。じゃ、ダクトの位置をそちらのデヴァイスに送信する。幸運を!」
その皮肉めいた物言いに、セトミは再度ため息をつくと、デヴァイスに送られたデータを表示する。
「幸運を、か……」
その方向に向かって進路を変えながら、彼女はこの状況を八つ当たりするかのように、クリーチャーの歯をめちゃくちゃに撃ちまくった。
「そんなもんには、この世界に生まれた時点で見捨てられてるっての!」
「……こないだのロボ子の壁越えといい、あんたら結構無茶するよね」
「悪いね。こんな世の中じゃ、機械でも無茶の一つや二つはしなくちゃどうにもならないことがあるのさ。じゃ、ダクトの位置をそちらのデヴァイスに送信する。幸運を!」
その皮肉めいた物言いに、セトミは再度ため息をつくと、デヴァイスに送られたデータを表示する。
「幸運を、か……」
その方向に向かって進路を変えながら、彼女はこの状況を八つ当たりするかのように、クリーチャーの歯をめちゃくちゃに撃ちまくった。
「そんなもんには、この世界に生まれた時点で見捨てられてるっての!」
クリーチャーの歯がもはや残り少ないのを見、セトミは嗜虐的に笑いながら駆けた。
やがてその姿が、シェイの送信してきたダクトの前へと躍り出た。すでに止まっている換気口を前蹴りの一撃でこじ開けると、セトミは中腰の姿勢で中へ飛び込む。大戦以降、全く機能していなかったのか、中はコンクリートの粉塵や蜘蛛の巣などで、ろくに息もできない。
「くっそ! これじゃほんとに猫が逃げる逃げ道じゃないの!」
文句を言いながらも後ろを追ってくるクリーチャーを見ると、こちらは空気の悪さは意に介する様子もないが、その狭さには辟易しているようだ。ダクトギリギリのその巨体を、ねじ込むように追ってくるそれは、先ほどよりも遅い。
よし、これなら逃げ切れる。
やがてその姿が、シェイの送信してきたダクトの前へと躍り出た。すでに止まっている換気口を前蹴りの一撃でこじ開けると、セトミは中腰の姿勢で中へ飛び込む。大戦以降、全く機能していなかったのか、中はコンクリートの粉塵や蜘蛛の巣などで、ろくに息もできない。
「くっそ! これじゃほんとに猫が逃げる逃げ道じゃないの!」
文句を言いながらも後ろを追ってくるクリーチャーを見ると、こちらは空気の悪さは意に介する様子もないが、その狭さには辟易しているようだ。ダクトギリギリのその巨体を、ねじ込むように追ってくるそれは、先ほどよりも遅い。
よし、これなら逃げ切れる。
その終着点までたどり着いたセトミは、こちらはまだ動力が生きているのか、稼働している換気口をAOWで吹き飛ばす。同時に後ろを確認するが、クリーチャーが迫る様子はない。
「こちらキャット! 配置についたわ」
「よし、いいタイミングだ。今から二十秒後、メトロが君の下を通過する。11編成の長い列車だ。急ぐことはない。先頭車両が通過したのが見えたら、三つ数えて飛び降りるんだ。いいね?」
「了解!」
そう言いあう合間にも、換気口の下のトンネルからは空気を切り裂くような、怪物の遠吠えのような木霊が響いてくる。恐らくそれが、シェイたちの乗るメトロだろう。
シェイが予告した先頭車両の到着まで、あと十秒。クリーチャーは狭いダクトに無理やり侵入したのが災いしてか、身動きが取れずにいるようだ。
「こちらキャット! 配置についたわ」
「よし、いいタイミングだ。今から二十秒後、メトロが君の下を通過する。11編成の長い列車だ。急ぐことはない。先頭車両が通過したのが見えたら、三つ数えて飛び降りるんだ。いいね?」
「了解!」
そう言いあう合間にも、換気口の下のトンネルからは空気を切り裂くような、怪物の遠吠えのような木霊が響いてくる。恐らくそれが、シェイたちの乗るメトロだろう。
シェイが予告した先頭車両の到着まで、あと十秒。クリーチャーは狭いダクトに無理やり侵入したのが災いしてか、身動きが取れずにいるようだ。
「5……4……3……?」
到着までのタイミングをカウントしていたセトミの耳に、不意に奇妙な音が響いた。メトロの音ではない。もっと近くから――――。
「……だから言ったのよ。幸運なんかにはとっくに見放されてるって」
思わず嘆息するセトミの目に映ったのは、クリーチャーが無理に身体を押し込んだせいでひびが入り、もう崩壊する寸前に見えるダクトの管だった。
奇しくも――――それは、先頭車両が過ぎた直後――――つまり、もともと飛び降りるはずだったタイミングで、崩壊した。途端、ダクトの管がクリーチャーの重みに耐えきれなくなり、崩落する。
それにより、セトミとクリーチャーは仲良くメトロの屋根へと落下した。
「いった! これ、絶対マジで世界最悪の駆け込み乗車ね。自信あるわ」
到着までのタイミングをカウントしていたセトミの耳に、不意に奇妙な音が響いた。メトロの音ではない。もっと近くから――――。
「……だから言ったのよ。幸運なんかにはとっくに見放されてるって」
思わず嘆息するセトミの目に映ったのは、クリーチャーが無理に身体を押し込んだせいでひびが入り、もう崩壊する寸前に見えるダクトの管だった。
奇しくも――――それは、先頭車両が過ぎた直後――――つまり、もともと飛び降りるはずだったタイミングで、崩壊した。途端、ダクトの管がクリーチャーの重みに耐えきれなくなり、崩落する。
それにより、セトミとクリーチャーは仲良くメトロの屋根へと落下した。
「いった! これ、絶対マジで世界最悪の駆け込み乗車ね。自信あるわ」
「おいセトミ、何がどうなった? 応答しろ!」
デヴァイスから響くショウの声と、落下時にしたたかに打ち付けた腰の痛みに辟易しながらも、セトミはAOWを構えながら立ち上がる。
「そんなでかい声出さなくても聞こえてる。まあとりあえず列車には乗れたんだけど……何と言ったらいいものやら」
「ああ? なにがなんだかさっぱりわからねえぞ。とにかく何が起きてるのか一言で――――」
まるで、『言ってくれ』と言おうとしたショウの機先を制するかのように、落下の痛みが癇に障ったのか、クリーチャーが今までにない大きな咆哮を上げた。
「……というわけなの」
「……よーくわかった」
デヴァイスから響くショウの声と、落下時にしたたかに打ち付けた腰の痛みに辟易しながらも、セトミはAOWを構えながら立ち上がる。
「そんなでかい声出さなくても聞こえてる。まあとりあえず列車には乗れたんだけど……何と言ったらいいものやら」
「ああ? なにがなんだかさっぱりわからねえぞ。とにかく何が起きてるのか一言で――――」
まるで、『言ってくれ』と言おうとしたショウの機先を制するかのように、落下の痛みが癇に障ったのか、クリーチャーが今までにない大きな咆哮を上げた。
「……というわけなの」
「……よーくわかった」
とにかく、このまま動かずにいればおいしくいただかれてしまうのは明白だ。セトミはAOWを撃ちながら、徐々に後退していく。
「しょうがねえ、こうなったら、なんとかして他の連中と合流だ。一人でやつとやりあっても、埒が明かねえ」
「了解!」
威嚇射撃を行いながら、セトミは一瞬、視線を背後へと向ける。運よく、このまま後退していけば先頭車両の方へと迎える。この揺れる列車上ではゆっくりとしか動けないが、それは向こうも同じだ。
「よしよし、これならなんとかなりそうね」
緊張で乾いた唇をなめながら、AOWをリロードした、その時だった。
慣れ切った愛銃だった故に、油断もあったかもしれない。リロードのその瞬間、不意に列車が大きく揺れた。無論、そんなものを予測できるはずもなく、リロードしようとしていたエネルギーパックが、AOWの弾倉にジャミング――――つまり、弾詰まりを起こした。
「しょうがねえ、こうなったら、なんとかして他の連中と合流だ。一人でやつとやりあっても、埒が明かねえ」
「了解!」
威嚇射撃を行いながら、セトミは一瞬、視線を背後へと向ける。運よく、このまま後退していけば先頭車両の方へと迎える。この揺れる列車上ではゆっくりとしか動けないが、それは向こうも同じだ。
「よしよし、これならなんとかなりそうね」
緊張で乾いた唇をなめながら、AOWをリロードした、その時だった。
慣れ切った愛銃だった故に、油断もあったかもしれない。リロードのその瞬間、不意に列車が大きく揺れた。無論、そんなものを予測できるはずもなく、リロードしようとしていたエネルギーパックが、AOWの弾倉にジャミング――――つまり、弾詰まりを起こした。
実弾銃のジャミングは排莢時に起こる現象だが、ガンマレイの場合、装填時に大きな揺れなどが加わると、起こる場合がある。大抵の場合は銃器とエネルギーパックの接続不良であり、弾倉を開きなおして装填しなおせば問題はない。
だがこの場合は、タイミングが悪かった。何しろ、目の前には、自分を今夜のメインディッシュと決めたらしい、巨大なクリーチャーがいるのだ。装填しなおす一瞬のスキが、命取りになりかねない。
セトミがAOWを撃てないのをまるで理解したかのように、クリーチャーはゆっくりと彼女ににじり寄る。もはや歯の半数以上を吹き飛ばされた口蓋が、笑みを浮かべるかのように醜悪にゆがんだ。
「ぎしゃああああッ!」
だがこの場合は、タイミングが悪かった。何しろ、目の前には、自分を今夜のメインディッシュと決めたらしい、巨大なクリーチャーがいるのだ。装填しなおす一瞬のスキが、命取りになりかねない。
セトミがAOWを撃てないのをまるで理解したかのように、クリーチャーはゆっくりと彼女ににじり寄る。もはや歯の半数以上を吹き飛ばされた口蓋が、笑みを浮かべるかのように醜悪にゆがんだ。
「ぎしゃああああッ!」
次の瞬間、クリーチャーが動いた。これまでのような鈍重な動きでなく、その速さはまさに獲物を狩る怪物。
「ちっ!」
だがスピード勝負ならば、セトミも負けてはいない。素早く後ろへと飛ぶと、そのままバク中の要領で跳躍。その両足が地へと再び着いた時には、AOWではなく、その手にはアンセムが握られていた。
しかし、その表情は決して明るくはない。相手はハイパワータイプに設定したAOWの弾丸でも、威嚇射撃にしかならないような化け物だ。ハンドガンであるアンセムが、どこまで通用するものやら。
ぎりり、と奥歯を噛みしめるセトミの耳に、不意にこれまでと違う色を帯びた音が届いた。これまでも、地下を走る列車ゆえに、トンネル内を走る騒音が耳を容赦なく突いてはいたが、今度のそれは、これまでとは違う。そしてそれは、徐々にこちらへと近づいてきていた。
「ちっ!」
だがスピード勝負ならば、セトミも負けてはいない。素早く後ろへと飛ぶと、そのままバク中の要領で跳躍。その両足が地へと再び着いた時には、AOWではなく、その手にはアンセムが握られていた。
しかし、その表情は決して明るくはない。相手はハイパワータイプに設定したAOWの弾丸でも、威嚇射撃にしかならないような化け物だ。ハンドガンであるアンセムが、どこまで通用するものやら。
ぎりり、と奥歯を噛みしめるセトミの耳に、不意にこれまでと違う色を帯びた音が届いた。これまでも、地下を走る列車ゆえに、トンネル内を走る騒音が耳を容赦なく突いてはいたが、今度のそれは、これまでとは違う。そしてそれは、徐々にこちらへと近づいてきていた。
ヴィクティム因子の影響を受けた耳が、その音の正体を告げる。と同時に、セトミの顔には笑みが浮かんでいた。
――――それは勝利を確信した、会心の笑みであると同時に、とっておきのいたずらを思いついた、やんちゃな子猫の笑みでもあった。
それを理解しているのかいないのか、クリーチャーはふたたびゆっくりとにじり寄る。もはや、獲物を捕らえるのは時間の問題と、意思など持たぬはずの怪物の顔が笑んだように見えた。
「そろそろ……? いや、まだか」
そしてふたたび、それが鎌首を持ち上げ、その大きな口を開く。
「……あと三秒……二秒……一秒!」
刹那、クリーチャーは唾液の糸を引く口蓋を大きく開き、セトミに迫る。その動きは、先ほどよりもかすかながら早い。
――――それは勝利を確信した、会心の笑みであると同時に、とっておきのいたずらを思いついた、やんちゃな子猫の笑みでもあった。
それを理解しているのかいないのか、クリーチャーはふたたびゆっくりとにじり寄る。もはや、獲物を捕らえるのは時間の問題と、意思など持たぬはずの怪物の顔が笑んだように見えた。
「そろそろ……? いや、まだか」
そしてふたたび、それが鎌首を持ち上げ、その大きな口を開く。
「……あと三秒……二秒……一秒!」
刹那、クリーチャーは唾液の糸を引く口蓋を大きく開き、セトミに迫る。その動きは、先ほどよりもかすかながら早い。
刹那、クリーチャーは唾液の糸を引く口蓋を大きく開き、セトミに迫る。その動きは、先ほどよりもかすかながら早い。
それを目の当たりにしたセトミは、突然、帽子を押さえ、匍匐姿勢をとると、極限まで頭を下げた。だが、それでは逆にクリーチャーの口に捕らわれる――――かのように見えた、次の瞬間。
ばづん。
セトミの頭上で、伸び切ったゴムが引きちぎられたかのような、不快な音がした。そして、彼女の周囲に降ってくる、怪物の血や肉片。
それを一瞥し、セトミは顔を上げる。その目に映ったのは、はるか後方へと消えていく、元々のトンネルよりも狭く、天井の低い部分。
――――そして、口と頭をまるまる失った、クリーチャーの姿。その頭があったであろう場所からは、今は鮮血とともに、虫のようなクリーチャーが顔を出している。なにが起きたのか理解できていないらしく、きょろきょろと周囲を見回している。どうやら、あれがショウの言っていた寄生虫のようだ。
それを目の当たりにしたセトミは、突然、帽子を押さえ、匍匐姿勢をとると、極限まで頭を下げた。だが、それでは逆にクリーチャーの口に捕らわれる――――かのように見えた、次の瞬間。
ばづん。
セトミの頭上で、伸び切ったゴムが引きちぎられたかのような、不快な音がした。そして、彼女の周囲に降ってくる、怪物の血や肉片。
それを一瞥し、セトミは顔を上げる。その目に映ったのは、はるか後方へと消えていく、元々のトンネルよりも狭く、天井の低い部分。
――――そして、口と頭をまるまる失った、クリーチャーの姿。その頭があったであろう場所からは、今は鮮血とともに、虫のようなクリーチャーが顔を出している。なにが起きたのか理解できていないらしく、きょろきょろと周囲を見回している。どうやら、あれがショウの言っていた寄生虫のようだ。
その虫の目が、アンセムを持つセトミを捉えた。本能的に恐怖を感じたか、その瞳が収縮し、身体がもがきだす。が、それはあまりに遅すぎた。
「やあ、やっと会えたね。はじめまして。そして……」
まるで顔を知らぬ友人と初めて会えたことを喜ぶようなその声色は。
「さよなら」
無慈悲で冷徹な言葉に変わるとともに、アンセムのトリガーを引き絞った。
「ぎぃッ……!」
あれほど巨大な怪物を操っていた寄生虫は、まるでそれが嘘だったかのようにあっさりと眉間らしき場所を撃ち抜かれ、車上から転がり落ちていった。
「……ふう、セトミ、ケガはなかったか?」
不意に、デヴァイスからショウの声が響く。
「なんとかね。幸運には見放されてるけど、どうやら悪運だけは味方してくれてるみたいよ」
皮肉まじりに呟くと、アンセムをホルスターに戻し、セトミは一つ嘆息した。
窓を伝い、先頭車両へと入り込むと、そこにはサポートのショウ以外の全員がすでに集まっていた。
「やあ、危なかったな。まるで戦前のアクション・ムービーを見てるみたいだったよ」
心底ほっとした様子でシェイがセトミを見、息をつく。
「まったくね。でもそうだったら、私もスクリーンの前でポップコーンでも見てる方に回りたかったわ」
皮肉めいた調子で言うセトミに彼女の普段の色を感じたのか、そこにいる面々が、誰もが安心した様子を見せた。
「それで? 向こうに着くまでは、どれくらいかかるわけ?」
「距離自体は遠くではないから、それほどかからないよ。せいぜい、二十分っってところかな。その間に、武器の最終調整と、作戦の確認をしておこう。セトミ、君のAOWは僕が見るよ」
ジャミングしたままだったセトミのAOWをシェイに渡す。自分でも修理はできるが、専門職である彼に、最終調整を兼ねて見てもらった方がいいだろう。
「現地に着いたら、二班に分かれて行動するんだったな。俺とセトミが先生の救出。残りの三人がシステム・ウロボロスの停止、もしくは破壊」
「……なあ、今更ながら思うんだが、元々少ない人数での隊だってのに、さらに二班に分けちまったりしていいのか?」
状況の確認を始めるシルバの言葉に、ショウが唸るような声で言う。どうにも、今回はサポートしかできないのが歯がゆいようだ。
「前にも言ったが、クーデター軍はヒューマンの人数はそれほど多くはない。戦闘の中心はあくまでウロボロスで掌握したオートマトン部隊にすぎない。そしてその大部分は、街を完全に手中に収めるために、出撃している」
「つまり、基地自体の警備は比較的手薄――――そうおっしゃりたいのですね?」
シルバの言葉を受け継ぐように、静かにリリアが告げる。それを見、ゆっくりと彼も頷いて見せた。
「……しかし、シュナイゼル――――奴は、このメトロのことは、本当に知らないのか?」
「そのはずだが……どうした? 先ほどからなにか疑問でもあるのか?」
デヴァイスの向こうで渋い声になるショウに、シルバが眉根を寄せる。
「いや……具体的にどうこうってわけじゃねえんだが、どうにも引っかかってな」
「ひっかかるって、なにがよ」
列車の壁に背を預け、腕組みをしていたセトミが問う。彼女は経験上、彼がこういうこと――――それは予感とか、第六感とか不確かな形のものではあったが――――を言う時は、なにがしかの事実や真実が裏にあることが多いことを知っていた。
――――どうも、ブラック・ドッグの鼻がなにか嗅ぎつけたみたいね。
セトミが、意味ありげにデヴァイスのモニターに映るショウに視線を送ると、彼は苦い顔で頭を掻いて見せた。
「なんというかな……。シュナイゼルってのは頭の切れる男だと思う。なにしろ、実力主義のこの国で、ナンバー2……いや、実質上トップの地位にまで上り詰めたんだ。その男が起こす事件にしちゃあ、お粗末な点がありすぎる気がしてな。このメトロの存在を知らないってのも、その一つだ」
「最近見つかったメトロでしょ? 知らなかったとしてもおかしくないんじゃない?」
腕組みをしていぶかしむセトミに、しかしモニターの中のショウは首を横に振る。
「それは、逆だ。奴はこの国の武器のうち、ガンマレイ関係を牛耳る科学部門のトップだぜ。敵陣の懐深くまで一気に攻め込めるこのメトロのことを、知らされないはずがない。むしろ、真っ先に知らされてしかるべきだ」
「……確かにそうだな。もしこのメトロが実用化できていれば、それだけで戦局は大きく変わっていたはず。だが奴は、議会でもそのことを口にすらしなかった」
記憶を掘り起こそうとするかのように、額に指を当てながら、シルバがショウに賛同する。
「だが、俺が怪しく思えるのはそこじゃねえ。つまり、奴は本当にメトロの存在を知らなかったのか。――――あるいは、知っていながら、知らないふりをしていたのか、だ」
「……ですが、知らないふりをしていたのならば、状況は不自然です。今こそ、このメトロを使って、スクラップド・ギアに攻め込めばよいのですから。まさに、今私たちがしているように」
ショウの重々しい声を、冷静なリリアの声が着く。
「そう。そうなんだ。なにが真実にしろ、必ず矛盾が生じる。奴がメトロのことを知らなかったというのはあり得ない。しかし、知っていたのに使わないのもあり得ない。知らないふりをしていたのに、使わないのもあり得ない。あり得ないと言えば……」
ショウがそこで一旦、言葉を切る。あごに手を当てて考える仕草は、どうも何かを言いあぐねているように、セトミには見えた。
「……ドッグ、言っときたいことがあるなら、全部言っちゃっときな。どうせこの先、ゆっくりお話しできるのは、全部終わった後か、地獄で茶飲み話でもしながらなんだからさ」
刹那的なセトミの物言いに、思わず嘆息しながら、ショウは再び口を開く。
「……シラミネのことだ」
苦いその口調に、シルバがぴくりと反応した。
「あのとっつぁんは……本当に捕虜としてあそこにいるのか?」
「やあ、やっと会えたね。はじめまして。そして……」
まるで顔を知らぬ友人と初めて会えたことを喜ぶようなその声色は。
「さよなら」
無慈悲で冷徹な言葉に変わるとともに、アンセムのトリガーを引き絞った。
「ぎぃッ……!」
あれほど巨大な怪物を操っていた寄生虫は、まるでそれが嘘だったかのようにあっさりと眉間らしき場所を撃ち抜かれ、車上から転がり落ちていった。
「……ふう、セトミ、ケガはなかったか?」
不意に、デヴァイスからショウの声が響く。
「なんとかね。幸運には見放されてるけど、どうやら悪運だけは味方してくれてるみたいよ」
皮肉まじりに呟くと、アンセムをホルスターに戻し、セトミは一つ嘆息した。
窓を伝い、先頭車両へと入り込むと、そこにはサポートのショウ以外の全員がすでに集まっていた。
「やあ、危なかったな。まるで戦前のアクション・ムービーを見てるみたいだったよ」
心底ほっとした様子でシェイがセトミを見、息をつく。
「まったくね。でもそうだったら、私もスクリーンの前でポップコーンでも見てる方に回りたかったわ」
皮肉めいた調子で言うセトミに彼女の普段の色を感じたのか、そこにいる面々が、誰もが安心した様子を見せた。
「それで? 向こうに着くまでは、どれくらいかかるわけ?」
「距離自体は遠くではないから、それほどかからないよ。せいぜい、二十分っってところかな。その間に、武器の最終調整と、作戦の確認をしておこう。セトミ、君のAOWは僕が見るよ」
ジャミングしたままだったセトミのAOWをシェイに渡す。自分でも修理はできるが、専門職である彼に、最終調整を兼ねて見てもらった方がいいだろう。
「現地に着いたら、二班に分かれて行動するんだったな。俺とセトミが先生の救出。残りの三人がシステム・ウロボロスの停止、もしくは破壊」
「……なあ、今更ながら思うんだが、元々少ない人数での隊だってのに、さらに二班に分けちまったりしていいのか?」
状況の確認を始めるシルバの言葉に、ショウが唸るような声で言う。どうにも、今回はサポートしかできないのが歯がゆいようだ。
「前にも言ったが、クーデター軍はヒューマンの人数はそれほど多くはない。戦闘の中心はあくまでウロボロスで掌握したオートマトン部隊にすぎない。そしてその大部分は、街を完全に手中に収めるために、出撃している」
「つまり、基地自体の警備は比較的手薄――――そうおっしゃりたいのですね?」
シルバの言葉を受け継ぐように、静かにリリアが告げる。それを見、ゆっくりと彼も頷いて見せた。
「……しかし、シュナイゼル――――奴は、このメトロのことは、本当に知らないのか?」
「そのはずだが……どうした? 先ほどからなにか疑問でもあるのか?」
デヴァイスの向こうで渋い声になるショウに、シルバが眉根を寄せる。
「いや……具体的にどうこうってわけじゃねえんだが、どうにも引っかかってな」
「ひっかかるって、なにがよ」
列車の壁に背を預け、腕組みをしていたセトミが問う。彼女は経験上、彼がこういうこと――――それは予感とか、第六感とか不確かな形のものではあったが――――を言う時は、なにがしかの事実や真実が裏にあることが多いことを知っていた。
――――どうも、ブラック・ドッグの鼻がなにか嗅ぎつけたみたいね。
セトミが、意味ありげにデヴァイスのモニターに映るショウに視線を送ると、彼は苦い顔で頭を掻いて見せた。
「なんというかな……。シュナイゼルってのは頭の切れる男だと思う。なにしろ、実力主義のこの国で、ナンバー2……いや、実質上トップの地位にまで上り詰めたんだ。その男が起こす事件にしちゃあ、お粗末な点がありすぎる気がしてな。このメトロの存在を知らないってのも、その一つだ」
「最近見つかったメトロでしょ? 知らなかったとしてもおかしくないんじゃない?」
腕組みをしていぶかしむセトミに、しかしモニターの中のショウは首を横に振る。
「それは、逆だ。奴はこの国の武器のうち、ガンマレイ関係を牛耳る科学部門のトップだぜ。敵陣の懐深くまで一気に攻め込めるこのメトロのことを、知らされないはずがない。むしろ、真っ先に知らされてしかるべきだ」
「……確かにそうだな。もしこのメトロが実用化できていれば、それだけで戦局は大きく変わっていたはず。だが奴は、議会でもそのことを口にすらしなかった」
記憶を掘り起こそうとするかのように、額に指を当てながら、シルバがショウに賛同する。
「だが、俺が怪しく思えるのはそこじゃねえ。つまり、奴は本当にメトロの存在を知らなかったのか。――――あるいは、知っていながら、知らないふりをしていたのか、だ」
「……ですが、知らないふりをしていたのならば、状況は不自然です。今こそ、このメトロを使って、スクラップド・ギアに攻め込めばよいのですから。まさに、今私たちがしているように」
ショウの重々しい声を、冷静なリリアの声が着く。
「そう。そうなんだ。なにが真実にしろ、必ず矛盾が生じる。奴がメトロのことを知らなかったというのはあり得ない。しかし、知っていたのに使わないのもあり得ない。知らないふりをしていたのに、使わないのもあり得ない。あり得ないと言えば……」
ショウがそこで一旦、言葉を切る。あごに手を当てて考える仕草は、どうも何かを言いあぐねているように、セトミには見えた。
「……ドッグ、言っときたいことがあるなら、全部言っちゃっときな。どうせこの先、ゆっくりお話しできるのは、全部終わった後か、地獄で茶飲み話でもしながらなんだからさ」
刹那的なセトミの物言いに、思わず嘆息しながら、ショウは再び口を開く。
「……シラミネのことだ」
苦いその口調に、シルバがぴくりと反応した。
「あのとっつぁんは……本当に捕虜としてあそこにいるのか?」
「……どういう意味だ」
ショウの口から出た言葉の意味を察したか、シルバの声が、不意に牙のような鋭さを帯びた。
「前にセトミには言ったが、スクラップド・ギアにヘヴンリーの部隊が侵攻してきたとき……シラミネから連絡が入った。部隊の構成や、その長であるヘヴンリーの情報なんかがな。そのおかげで、俺は対オートマトン用の弾丸を準備できたわけだが……」
ショウがモニター越しにシルバを一瞥する。彼は黙ってデヴァイスに視線を返すだけだが、その瞳は、この状況でなければその腰のカタナを抜き放ってもおかしくない殺気を醸し出していた。
「捕虜が、なぜそこまでの情報を手に入れることができる? ある一室に拘束されたまま。しかも、その上で外部に情報を漏らすことができるなんて、いくら何でもお粗末すぎるだろ。てことは……」
「……バカな、先生はハト派の中では数少ない、議会に於ける発言力を持つ方だ。その方がクーデターなどと……!」
ショウの口から出た言葉の意味を察したか、シルバの声が、不意に牙のような鋭さを帯びた。
「前にセトミには言ったが、スクラップド・ギアにヘヴンリーの部隊が侵攻してきたとき……シラミネから連絡が入った。部隊の構成や、その長であるヘヴンリーの情報なんかがな。そのおかげで、俺は対オートマトン用の弾丸を準備できたわけだが……」
ショウがモニター越しにシルバを一瞥する。彼は黙ってデヴァイスに視線を返すだけだが、その瞳は、この状況でなければその腰のカタナを抜き放ってもおかしくない殺気を醸し出していた。
「捕虜が、なぜそこまでの情報を手に入れることができる? ある一室に拘束されたまま。しかも、その上で外部に情報を漏らすことができるなんて、いくら何でもお粗末すぎるだろ。てことは……」
「……バカな、先生はハト派の中では数少ない、議会に於ける発言力を持つ方だ。その方がクーデターなどと……!」
なにかを言おうとして言いよどむシルバの表情は、先ほどの怒りから、かすかな疑念へととってかわっている。
「どうかな。能ある鷹は爪を隠すって言うだろ。もっと能のある鷹だったら、ハトの被り物だってするかもしれないぜ?」
「――――っ、しかし――――!」
「――――だが」
困惑するシルバを制するように、ショウが紫煙を吐き出しながら、にわかに強い口調で言う。
「たとえとっつぁんが敵であったとしても、おかしい。もしそうなら、俺たちに差し向けた連中のデータや弱点を送ってくるなんて、しやしないはずだ」
「どうかな。能ある鷹は爪を隠すって言うだろ。もっと能のある鷹だったら、ハトの被り物だってするかもしれないぜ?」
「――――っ、しかし――――!」
「――――だが」
困惑するシルバを制するように、ショウが紫煙を吐き出しながら、にわかに強い口調で言う。
「たとえとっつぁんが敵であったとしても、おかしい。もしそうなら、俺たちに差し向けた連中のデータや弱点を送ってくるなんて、しやしないはずだ」
「――――これも、矛盾ですね」
珍しく考え込むように口元に手を当てながら、リリアが言う。
「そう。この件は矛盾だらけなんだ。そもそも、国のトップはとっくにお陀仏してる。普通なら、そこでクーデターなんざ終わりだろ。しかもスクラップド・ギアと内紛の真っ最中。起こすタイミングもおかしい」
「さらに言ってしまえば、クーデターなど起こさなくとも、あの男は最新式のガンマレイ部隊とシステム・ウロボロスを握っているんだ。政治的にトップに立つのに、こんな泥沼の戦いを引き起こす必要なんてない……」
ショウの言葉を引き継ぐようにつぶやいたシルバの声が合図だったかのように、全員が押し黙った。
「……そう、それが俺の気になることなんだよ。チェックメイトの済んでたはずの盤上で、今更、奴は何が狙いなんだ?」
ショウの言葉に誰もが答えることができない。
だが、その時、前方を見ていたセトミが、不意に口を開いた。
「残念ながら、おしゃべりはここまでみたいね。終着駅~、終着駅~。お乗りのお客様は、敵兵の出現にお気をつけてお降りください、ってね」
以前、まだ運行しているメトロで聞いた車掌の声を真似ながら、セトミはAOWをリロードした。
珍しく考え込むように口元に手を当てながら、リリアが言う。
「そう。この件は矛盾だらけなんだ。そもそも、国のトップはとっくにお陀仏してる。普通なら、そこでクーデターなんざ終わりだろ。しかもスクラップド・ギアと内紛の真っ最中。起こすタイミングもおかしい」
「さらに言ってしまえば、クーデターなど起こさなくとも、あの男は最新式のガンマレイ部隊とシステム・ウロボロスを握っているんだ。政治的にトップに立つのに、こんな泥沼の戦いを引き起こす必要なんてない……」
ショウの言葉を引き継ぐようにつぶやいたシルバの声が合図だったかのように、全員が押し黙った。
「……そう、それが俺の気になることなんだよ。チェックメイトの済んでたはずの盤上で、今更、奴は何が狙いなんだ?」
ショウの言葉に誰もが答えることができない。
だが、その時、前方を見ていたセトミが、不意に口を開いた。
「残念ながら、おしゃべりはここまでみたいね。終着駅~、終着駅~。お乗りのお客様は、敵兵の出現にお気をつけてお降りください、ってね」
以前、まだ運行しているメトロで聞いた車掌の声を真似ながら、セトミはAOWをリロードした。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。