なんということでしょう
ー/ー
こんな戦いが放課後何度も続くと思うと、ストレス発散どころか疲れが溜まる。
悲鳴で激しく震わせた喉が痛む。あれだけ飛び回ったのに足はまだ痛くないけど、明日の朝痛み出して昨日のサッカーで筋肉痛になったと思われたらまた馬鹿にされる。
もう精神的に疲労が溜まり、トイレの後片付けも忘れて足早に学校を出た。
トイレの後片付けを思い出したのは次の日の朝のことだった。
ベッドから身を起こしてから、水浸しの床やトイレットペーパーを思い出し、血の気が引く。
これ先生の怒りが私に集中するわ!
けど三河一人で掃除してたから私たちやってませんなんて言えないはず。
普段の行いが悪いんだし、今回は私と一緒に怒られてもらおう。
先生に怒られることを覚悟して登校し、教室へ向かう途中にトイレ前を通る。
するとドアは泡でベタベタになっているはずなのに、いつも通り乾いた埃が溜まっていた。
泡ってこんな綺麗に乾くものかしら。
気になって中に入ると、トイレットペーパーはへりに整然と置かれていたし、床も乾いていた。
そして一番の発見は、槍を突き刺した跡が残っていなかったことだ。あれは幻覚じゃない。確かにこのスマホには昨日の検索履歴が残っているから。
跡は残らないって死体だけでなくて周囲の状態も含めてなの?
なんて便利な環境だ。
怒られる必要もなくなり、清々しい気分で教室に入る。
いい気分なのは私だけでもないらしい。全体的に浮ついた空気が漂っていた。
荷物を置いて咲洲たちと話したいところだけど、今日はあの子がいるから近付きたくない。勉強に集中していることにして行かないでおこう。
机にノートを広げて今日の数学の予習をする。
公式を確認して試しに一つ問題を解いた後、スマホに通知が届いた。
咲洲からだったからアプリを開けると、昼休みか放課後に集まって一井の誕生日を祝う動画を撮るという。
昼休みか放課後どっちがいいか聞かれ、私は行かないと答えた。
それでもクラス全員分撮らないと朝霧さんが機嫌を損ねるよと忠告される。
いつも朝霧たちに悪口を言われていても逆らえないのか。
このグループのリーダーでも朝霧たちをどうにかすることはできない。リーダーだからこそ、三河は出ないなんて言えずに困っているだろう。
なら直接本人に言ってやる。
「朝霧、私はいじめてくるような人の誕生日なんて祝えない。そっちだって私みたいなのが映らなくてせいせいするしいいでしょ」
「え、何言ってるの?全員で撮るってことが大事なんだよ。三河がどうとかじゃなくて数が必要って話」
「数合わせなら他クラスの友達を使えばいい」
「そういうことじゃなくて〜クラス全員で祝うって話なのに、三河を省いているみたいで気分悪いじゃん」
「私を仲間と思っていないのはいつものことじゃない。私は誕生日を祝うための飾りじゃないの。あなたたちだけで勝手にやって」
朝霧は反論してこない。この話はこれで終わりにしてどう思われようと不参加を決め込む。
背を向けたついでに周囲と目が合うと、男子は冷ややかな目をしていることに気付いた。ブスが可愛い一井の誕生日を白けさせるな、とでも思っているのだろう。
私だって人が嫌がるのを見て楽しむようなバカが勉強の邪魔をしないでと言いたい。
私の後方に立っていた窪田はあからさまに嫌そうな顔をして右に散る。そのすぐ近くにいた雪田は、椅子に座りながら私のことをちらりと見てきた。
もっと何か言われるかと思ったけど嫌そうにするだけだ。
てっきりそう思っていたら、雪田の横を通り過ぎるその瞬間、足に引っかかるものを覚えた。
埃っぽい床へ大きく転倒する。
とっさに手をついたものの膝にも圧力がかかり、立ち上がるまで少し時間を必要とした。
じんじんと痛む膝の骨と、埃が張り付いた赤い手。
窪田と朝霧は失笑するものの、率先して馬鹿にしてきそうな海堀は茫然とし、犯人と思われる雪田に関しては冷たい目で見下してくるだけだった。
咲洲が駆け寄ってきたので手を借りて立ち上がる。
「保健室行く?」
「ううん。このくらい大丈夫よ」
スカートの形を整えながら答えると、海堀が落ち着きのない早口で寄ってくる。
「いや保健室行った方がいいよ。連れて行くね」
咲洲に一声かけて有無を言わさず教室から連れ出した。
廊下で何をするつもりなのかと身構えたけど、不思議なことに何もされないまま保健室の前に来ていた。
海堀はサボりで保健室慣れしているのかテキパキと事を進めて行く。
「どうして転んだの?」
「雪田が変な座り方して足が引っかかってしまって……」
そういうことか。
五人の目がないところで友達と一緒にいれば、チクられるかもしれないと思ったのか。
これまで保健室にお世話になるような、体に傷の残るいじめはなかった。動揺しているのは証拠が残ることでばれる可能性が高くなったから。
どうせ保健室の先生に言ったところで変わらないし、わざわざ焦って言い訳しなくても。
無駄だなと思いつつ、そこまでして安全にいじめを続けようとする海堀に行き場のない怒りを覚えた。
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悲鳴で激しく震わせた喉が痛む。あれだけ飛び回ったのに足はまだ痛くないけど、明日の朝痛み出して昨日のサッカーで筋肉痛になったと思われたらまた馬鹿にされる。
もう精神的に疲労が溜まり、トイレの後片付けも忘れて足早に学校を出た。
トイレの後片付けを思い出したのは次の日の朝のことだった。
ベッドから身を起こしてから、水浸しの床やトイレットペーパーを思い出し、血の気が引く。
これ先生の怒りが私に集中するわ!
けど三河一人で掃除してたから私たちやってませんなんて言えないはず。
普段の行いが悪いんだし、今回は私と一緒に怒られてもらおう。
先生に怒られることを覚悟して登校し、教室へ向かう途中にトイレ前を通る。
するとドアは泡でベタベタになっているはずなのに、いつも通り乾いた埃が溜まっていた。
泡ってこんな綺麗に乾くものかしら。
気になって中に入ると、トイレットペーパーはへりに整然と置かれていたし、床も乾いていた。
そして一番の発見は、槍を突き刺した跡が残っていなかったことだ。あれは幻覚じゃない。確かにこのスマホには昨日の検索履歴が残っているから。
跡は残らないって死体だけでなくて周囲の状態も含めてなの?
なんて便利な環境だ。
怒られる必要もなくなり、清々しい気分で教室に入る。
いい気分なのは私だけでもないらしい。全体的に浮ついた空気が漂っていた。
荷物を置いて咲洲たちと話したいところだけど、今日はあの子がいるから近付きたくない。勉強に集中していることにして行かないでおこう。
机にノートを広げて今日の数学の予習をする。
公式を確認して試しに一つ問題を解いた後、スマホに通知が届いた。
咲洲からだったからアプリを開けると、昼休みか放課後に集まって一井の誕生日を祝う動画を撮るという。
昼休みか放課後どっちがいいか聞かれ、私は行かないと答えた。
それでもクラス全員分撮らないと朝霧さんが機嫌を損ねるよと忠告される。
いつも朝霧たちに悪口を言われていても逆らえないのか。
このグループのリーダーでも朝霧たちをどうにかすることはできない。リーダーだからこそ、三河は出ないなんて言えずに困っているだろう。
なら直接本人に言ってやる。
「朝霧、私はいじめてくるような人の誕生日なんて祝えない。そっちだって私みたいなのが映らなくてせいせいするしいいでしょ」
「え、何言ってるの?全員で撮るってことが大事なんだよ。三河がどうとかじゃなくて数が必要って話」
「数合わせなら他クラスの友達を使えばいい」
「そういうことじゃなくて〜クラス全員で祝うって話なのに、三河を省いているみたいで気分悪いじゃん」
「私を仲間と思っていないのはいつものことじゃない。私は誕生日を祝うための飾りじゃないの。あなたたちだけで勝手にやって」
朝霧は反論してこない。この話はこれで終わりにしてどう思われようと不参加を決め込む。
背を向けたついでに周囲と目が合うと、男子は冷ややかな目をしていることに気付いた。ブスが可愛い一井の誕生日を白けさせるな、とでも思っているのだろう。
私だって人が嫌がるのを見て楽しむようなバカが勉強の邪魔をしないでと言いたい。
私の後方に立っていた窪田はあからさまに嫌そうな顔をして右に散る。そのすぐ近くにいた雪田は、椅子に座りながら私のことをちらりと見てきた。
もっと何か言われるかと思ったけど嫌そうにするだけだ。
てっきりそう思っていたら、雪田の横を通り過ぎるその瞬間、足に引っかかるものを覚えた。
埃っぽい床へ大きく転倒する。
とっさに手をついたものの膝にも圧力がかかり、立ち上がるまで少し時間を必要とした。
じんじんと痛む膝の骨と、埃が張り付いた赤い手。
窪田と朝霧は失笑するものの、率先して馬鹿にしてきそうな海堀は茫然とし、犯人と思われる雪田に関しては冷たい目で見下してくるだけだった。
咲洲が駆け寄ってきたので手を借りて立ち上がる。
「保健室行く?」
「ううん。このくらい大丈夫よ」
スカートの形を整えながら答えると、海堀が落ち着きのない早口で寄ってくる。
「いや保健室行った方がいいよ。連れて行くね」
咲洲に一声かけて有無を言わさず教室から連れ出した。
廊下で何をするつもりなのかと身構えたけど、不思議なことに何もされないまま保健室の前に来ていた。
海堀はサボりで保健室慣れしているのかテキパキと事を進めて行く。
「どうして転んだの?」
「雪田が変な座り方して足が引っかかってしまって……」
そういうことか。
五人の目がないところで友達と一緒にいれば、チクられるかもしれないと思ったのか。
これまで保健室にお世話になるような、体に傷の残るいじめはなかった。動揺しているのは証拠が残ることでばれる可能性が高くなったから。
どうせ保健室の先生に言ったところで変わらないし、わざわざ焦って言い訳しなくても。
無駄だなと思いつつ、そこまでして安全にいじめを続けようとする海堀に行き場のない怒りを覚えた。