初めての魔物2
ー/ー
トイレの前の曇りガラスからは魔物の姿が伺えない。
逃げたのか、隠れているのか……その前に一般的な女子高生が最初から戦えるわけがない。
槍の使い方や蜘蛛の弱点を調べようと思い、教室に置いてきた携帯を取りに行って気づいた。
電気がついていない。私が荷物を置いていると知っていて鍵を閉めたな。
そんなことはよくあるから職員室に取りに行こうとしたけど、他のクラスも同じように電気が消えている。
人の気配がない。もしかしてこれも魔物のせい?
中はどうなっているのか。恐る恐るドアを開けると、カバンはあるのに人がいなかった。
それを見て避難訓練を思い出す。
魔物を見て外に避難した?それなら外が騒がしいだろうし……
自分のリュックサックからスマホを取り出し、教卓に潜る。魔物が来たときのことを考えて身を隠しておく。
まず蜘蛛の弱点を検索して、表示されたサイトを見て回る。
柑橘類の香りが苦手。水に濡れない場所を好む。
コーヒーは精神をおかしくする。
コーヒーをゆっくり飲むのではなく、蜘蛛退治に使うことになるなんて……
でも頭は人の姿だから効くかどうかわからないし、精神をおかしくして暴れられたらたまったものではない。
コーヒーは保留。
そして水が苦手なのになぜトイレなんかにいるのか。
魔物というだけあって通常の蜘蛛の常識は当てはまらないのかもしれない。
それでも床掃除がてら試してみよう。
柑橘類の香りなら、別の手洗い場にオレンジの香りの石鹸があった。先制攻撃で飛びかかられるのを防ぐために持ってこよう。
そうと決まれば教室を出て、同じ階にあるから誰もいない廊下を走る。
本来の目的で使わないことに罪悪感を抱きつつも、手段は選んでられない。
石鹸を取ってトイレの前にやって来ると、容器を持つ手に力がこもる。
意を決してドアの足元に泡を出す。
利き手には槍。左手には石鹸。
ポンプに指を引っ掛けながら左手でドアノブを回し、真っ先に槍を中に差しむける。
隙間から素早く体を滑り込ませ、通路の真ん中を警戒しながら槍を構える。
しかし魔物の姿はなかった。
逃げられた……?
校舎内を探し回るのも大変だし、自分に有利な場所に逃げられたとすれば……。
どうしたものかと突っ立っていると、トイレの中で笑い声がする。
逃げてなんかいない。ここにいる!
まさかと思い天井を見上げると、魔物は脚だけで天井に張り付き、腕をだらんとぶら下げた。
このまま下を潜れば指の先が私にぶつかりそうだ。
魔物はゆらゆらと上半身を揺らしながら、真っ黒な目で私を見つめる。
何をするでもなく揺れている。
じりじりと足を進めるも、攻撃してくる気配はない。
次の瞬間何をしてくるかわからない恐怖を抱え続けたまま、ホースの蛇口に手をかけた。
持ってきた石鹸をへりに置き、槍とホースを同時に持つ。
蜘蛛に向けた直後、床に水をまいた。
少しだけ水がかかると嫌がる様子を見せ、人間の腕で顔を必死に拭っている。
水浸しの床には降りられない。
視線が向いてない間に!
槍を差し向け頭に狙いを定めるも、キラリと一閃が目に飛び込み、攻撃を断念する。
私の右側スレスレに糸がかかっている。
糸を確認していた間に魔物は個室の壁の天辺に移動していた。足を広げ、器用に乗っかっている。
水を撒き散らしながら攻撃できないだろうか。
魔法なら出来そうだけどイマイチ勝手がわからない。
ホースをへりに置いて固定できないか、と考えながら置く。するとホースは手を離しても一人でにくっついていた。
特に呪文を唱えなくても考えればいいのか。
じゃあこの魔物がころりと死んでくれたら……
それは流石になかった。
そして敵は自分がしてほしくないと思う行動を取ってくるものだ。
ころりと死ぬどころか私に向かって飛びかかってきた。
とっさにホースを手にとって顔に浴びせかけると、軌道を逸らし後ろの壁へ飛びつく。
背後につかれた!
ホースを槍に持ち替え差しむける。
魔物は向き合った私を一笑に付すと、糸を噴き出してきた。
避け続けたって状況は変わらない。
一直線に進む糸の下を潜り、揺れた床をぴしゃりと蹴り上げる。
その勢いに乗って、吐き出している口に槍を突き刺した。
「いやあああ!」
少女の口は悲鳴を上げ、槍を抜こうと手を伸ばしてくる。
私はそれを諸共せず、奥へ奥へ力を込める。
ずっと力を込めて刺しているけど一向に死ぬ気配がない。
少女の手が柄に触れた。
ものすごい力で槍を引き抜き掴み上げると、私は宙にぶら下がった状態になった。
そのまま投げつけられ、今度は槍が壁に突き刺さった状態で宙にぶら下がる。
落ち着け、ここで手を離してしまったら背伸びしても槍に届かないんだから。
しっかり両手に力を込め壁に足をつけると、前につんのめって引き抜いた。
少女の方も攻撃した方がいいかしら。
よく見ると蜘蛛は水に足を取られているのか、もたもたと歩み寄る。
ただ飛びかかるだけでは少女の部分に届かない。
芳香剤を蹴落とすことも気にせず、手洗い場のへりに乗り上げる。幸い蹴落とすことはなく、何も置かれていない部分を踏みしめ、飛び上がった。
槍を少女に突き刺し、蜘蛛部分に乗せた足を踏み込んで引き抜く。血が溢れ出てきて目を逸らしそうになるも、隙を作ってはいけないので向き合い続ける。
すると私の勘が、喉を潰せと訴えかけてくる。
喉を潰せば息もできなくなる。
痛みに苦しみ反撃もできない様子の少女に、すぐさま喉を突いた。
頭を刺しても胴を刺しても死ななかった魔物が、すっと空気へ溶けていくように消えていく。
「倒した……」
足場をなくし水たまりへ着地した私は、茫然としながら呟いた。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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逃げたのか、隠れているのか……その前に一般的な女子高生が最初から戦えるわけがない。
槍の使い方や蜘蛛の弱点を調べようと思い、教室に置いてきた携帯を取りに行って気づいた。
電気がついていない。私が荷物を置いていると知っていて鍵を閉めたな。
そんなことはよくあるから職員室に取りに行こうとしたけど、他のクラスも同じように電気が消えている。
人の気配がない。もしかしてこれも魔物のせい?
中はどうなっているのか。恐る恐るドアを開けると、カバンはあるのに人がいなかった。
それを見て避難訓練を思い出す。
魔物を見て外に避難した?それなら外が騒がしいだろうし……
自分のリュックサックからスマホを取り出し、教卓に潜る。魔物が来たときのことを考えて身を隠しておく。
まず蜘蛛の弱点を検索して、表示されたサイトを見て回る。
柑橘類の香りが苦手。水に濡れない場所を好む。
コーヒーは精神をおかしくする。
コーヒーをゆっくり飲むのではなく、蜘蛛退治に使うことになるなんて……
でも頭は人の姿だから効くかどうかわからないし、精神をおかしくして暴れられたらたまったものではない。
コーヒーは保留。
そして水が苦手なのになぜトイレなんかにいるのか。
魔物というだけあって通常の蜘蛛の常識は当てはまらないのかもしれない。
それでも床掃除がてら試してみよう。
柑橘類の香りなら、別の手洗い場にオレンジの香りの石鹸があった。先制攻撃で飛びかかられるのを防ぐために持ってこよう。
そうと決まれば教室を出て、同じ階にあるから誰もいない廊下を走る。
本来の目的で使わないことに罪悪感を抱きつつも、手段は選んでられない。
石鹸を取ってトイレの前にやって来ると、容器を持つ手に力がこもる。
意を決してドアの足元に泡を出す。
利き手には槍。左手には石鹸。
ポンプに指を引っ掛けながら左手でドアノブを回し、真っ先に槍を中に差しむける。
隙間から素早く体を滑り込ませ、通路の真ん中を警戒しながら槍を構える。
しかし魔物の姿はなかった。
逃げられた……?
校舎内を探し回るのも大変だし、自分に有利な場所に逃げられたとすれば……。
どうしたものかと突っ立っていると、トイレの中で笑い声がする。
逃げてなんかいない。ここにいる!
まさかと思い天井を見上げると、魔物は脚だけで天井に張り付き、腕をだらんとぶら下げた。
このまま下を潜れば指の先が私にぶつかりそうだ。
魔物はゆらゆらと上半身を揺らしながら、真っ黒な目で私を見つめる。
何をするでもなく揺れている。
じりじりと足を進めるも、攻撃してくる気配はない。
次の瞬間何をしてくるかわからない恐怖を抱え続けたまま、ホースの蛇口に手をかけた。
持ってきた石鹸をへりに置き、槍とホースを同時に持つ。
蜘蛛に向けた直後、床に水をまいた。
少しだけ水がかかると嫌がる様子を見せ、人間の腕で顔を必死に拭っている。
水浸しの床には降りられない。
視線が向いてない間に!
槍を差し向け頭に狙いを定めるも、キラリと一閃が目に飛び込み、攻撃を断念する。
私の右側スレスレに糸がかかっている。
糸を確認していた間に魔物は個室の壁の天辺に移動していた。足を広げ、器用に乗っかっている。
水を撒き散らしながら攻撃できないだろうか。
魔法なら出来そうだけどイマイチ勝手がわからない。
ホースをへりに置いて固定できないか、と考えながら置く。するとホースは手を離しても一人でにくっついていた。
特に呪文を唱えなくても考えればいいのか。
じゃあこの魔物がころりと死んでくれたら……
それは流石になかった。
そして敵は自分がしてほしくないと思う行動を取ってくるものだ。
ころりと死ぬどころか私に向かって飛びかかってきた。
とっさにホースを手にとって顔に浴びせかけると、軌道を逸らし後ろの壁へ飛びつく。
背後につかれた!
ホースを槍に持ち替え差しむける。
魔物は向き合った私を一笑に付すと、糸を噴き出してきた。
避け続けたって状況は変わらない。
一直線に進む糸の下を潜り、揺れた床をぴしゃりと蹴り上げる。
その勢いに乗って、吐き出している口に槍を突き刺した。
「いやあああ!」
少女の口は悲鳴を上げ、槍を抜こうと手を伸ばしてくる。
私はそれを諸共せず、奥へ奥へ力を込める。
ずっと力を込めて刺しているけど一向に死ぬ気配がない。
少女の手が柄に触れた。
ものすごい力で槍を引き抜き掴み上げると、私は宙にぶら下がった状態になった。
そのまま投げつけられ、今度は槍が壁に突き刺さった状態で宙にぶら下がる。
落ち着け、ここで手を離してしまったら背伸びしても槍に届かないんだから。
しっかり両手に力を込め壁に足をつけると、前につんのめって引き抜いた。
少女の方も攻撃した方がいいかしら。
よく見ると蜘蛛は水に足を取られているのか、もたもたと歩み寄る。
ただ飛びかかるだけでは少女の部分に届かない。
芳香剤を蹴落とすことも気にせず、手洗い場のへりに乗り上げる。幸い蹴落とすことはなく、何も置かれていない部分を踏みしめ、飛び上がった。
槍を少女に突き刺し、蜘蛛部分に乗せた足を踏み込んで引き抜く。血が溢れ出てきて目を逸らしそうになるも、隙を作ってはいけないので向き合い続ける。
すると私の勘が、喉を潰せと訴えかけてくる。
喉を潰せば息もできなくなる。
痛みに苦しみ反撃もできない様子の少女に、すぐさま喉を突いた。
頭を刺しても胴を刺しても死ななかった魔物が、すっと空気へ溶けていくように消えていく。
「倒した……」
足場をなくし水たまりへ着地した私は、茫然としながら呟いた。