私の宝『者』②

ー/ー



 つらかった。


 妹の心の崩壊に追い討ちをかけたのが自分の幸せだというのは、あまりにも理不尽な言いがかりではあるけれど。

 でも希和子を襲った、あまりにも悲しい運命が、そうさせてしまった、それがつらかった。


 同じように、養女として引き取られ、養父母に育てられた、そのはずなのに。

 ひとつ間違えば、それは自分の運命だったのかもしれない。


 そして、希和子も、そう思ったのだろう。
 


 目の前にいる、幸せな妊婦は、もしかしたら自分の姿だったのかもしれない、と。



 でも、それでも、たった一つだけ許せないことがある。


 貴弘さんと弘夢を傷つけたこと。



 だから、私は、賭けをした。

 私は、囁いた。

 楽になる方法を教えてあげる。





 飛びなさい……………。







 希和子は眠り続ける。

『貴弘さんと仲睦まじくしてね』

『時折、お父様を見て、無邪気に』

『耐えられなくなってくるはずよ、愛する娘の形代が、他の男を愛する姿は』

『それでも、無下にはできないはずよ。もう失いたくないはず』

『本当に、愛してくれたのよ、お父様なりに』

『愛し方が、間違っていたのよ』



 そうね。

 あなたも愛していたのよね。

 娘として。

 だから、父を厭う自分が許せなかった。

 父に正しく愛されなかった理由を、自分のせいにして、苦しんだ。



 でも、私は、あの男を許してはあげない。


 たとえ血の繋がりがなくとも、きちんと父親としての愛情を注いでくれる存在を知っているから。

 養女だから自分の好きにしていいなんて、そんなことは理由にならない。


 許さない。

 希和子の身も心も傷つけたこと。



 許さないけど、優しくしてあげる。

 娘の代わりに。

 決して侵すことの許されない存在として、傍にいてあげる。


 愛する娘の代わりに。


 罪の証として。


 希和子、あなたの、代わりに。



 あなたは賭けに勝った。

 たった一度だけ、本気であなたの死を望んだ私は、賭けに負けた。 

 だから、この後の、私の人生の三分の一は、あなたにあげる。

 残りは、夫と息子のモノだから。



『ありがとう、姉さん』

 響いてくる、やさしい呼びかけ。


 希和子。

 もっと早く、分かり会えればよかったね。

 そうしたら、一緒にショッピングしたり、お茶したり、多分たまにしか会えない分、延々とおしゃべりしていたかも。

 それは、もう夢でしかないけれど。

 時々、思うくらい、いいよね。



 そして。


 心の奥の、一番きれいな場所にある、あの人との、思い出。

 私の心の、奥底に、そっとしまった、宝石のような。

 生涯のうち、たった数時間の、あの人と過ごした、大切な時。



 ハルくん。
 ありがとう。


 ただひたすら、私の話を聞いて、抱き締めてくれた、あなたの優しさが、その思い出が、私を強くしてくれる。

 真心を尽くし、ただただ相手を思いやるだけ、そんな愛が、確かに存在するのだと私に示してくれた、あなたの存在が、私の心の拠り所になる。



 ありがとう。



 そして。





 ――――さようなら。





~完~







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 つらかった。
 妹の心の崩壊に追い討ちをかけたのが自分の幸せだというのは、あまりにも理不尽な言いがかりではあるけれど。
 でも希和子を襲った、あまりにも悲しい運命が、そうさせてしまった、それがつらかった。
 同じように、養女として引き取られ、養父母に育てられた、そのはずなのに。
 ひとつ間違えば、それは自分の運命だったのかもしれない。
 そして、希和子も、そう思ったのだろう。
 目の前にいる、幸せな妊婦は、もしかしたら自分の姿だったのかもしれない、と。
 でも、それでも、たった一つだけ許せないことがある。
 貴弘さんと弘夢を傷つけたこと。
 だから、私は、賭けをした。
 私は、囁いた。
 楽になる方法を教えてあげる。
 飛びなさい……………。
 希和子は眠り続ける。
『貴弘さんと仲睦まじくしてね』
『時折、お父様を見て、無邪気に』
『耐えられなくなってくるはずよ、愛する娘の形代が、他の男を愛する姿は』
『それでも、無下にはできないはずよ。もう失いたくないはず』
『本当に、愛してくれたのよ、お父様なりに』
『愛し方が、間違っていたのよ』
 そうね。
 あなたも愛していたのよね。
 娘として。
 だから、父を厭う自分が許せなかった。
 父に正しく愛されなかった理由を、自分のせいにして、苦しんだ。
 でも、私は、あの男を許してはあげない。
 たとえ血の繋がりがなくとも、きちんと父親としての愛情を注いでくれる存在を知っているから。
 養女だから自分の好きにしていいなんて、そんなことは理由にならない。
 許さない。
 希和子の身も心も傷つけたこと。
 許さないけど、優しくしてあげる。
 娘の代わりに。
 決して侵すことの許されない存在として、傍にいてあげる。
 愛する娘の代わりに。
 罪の証として。
 希和子、あなたの、代わりに。
 あなたは賭けに勝った。
 たった一度だけ、本気であなたの死を望んだ私は、賭けに負けた。 
 だから、この後の、私の人生の三分の一は、あなたにあげる。
 残りは、夫と息子のモノだから。
『ありがとう、姉さん』
 響いてくる、やさしい呼びかけ。
 希和子。
 もっと早く、分かり会えればよかったね。
 そうしたら、一緒にショッピングしたり、お茶したり、多分たまにしか会えない分、延々とおしゃべりしていたかも。
 それは、もう夢でしかないけれど。
 時々、思うくらい、いいよね。
 そして。
 心の奥の、一番きれいな場所にある、あの人との、思い出。
 私の心の、奥底に、そっとしまった、宝石のような。
 生涯のうち、たった数時間の、あの人と過ごした、大切な時。
 ハルくん。
 ありがとう。
 ただひたすら、私の話を聞いて、抱き締めてくれた、あなたの優しさが、その思い出が、私を強くしてくれる。
 真心を尽くし、ただただ相手を思いやるだけ、そんな愛が、確かに存在するのだと私に示してくれた、あなたの存在が、私の心の拠り所になる。
 ありがとう。
 そして。
 ――――さようなら。
~完~