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すれ違いの幸追人~カムパネルラ~ 3-③

ー/ー



 佐和子さん。

 たおやかで、その名のように、さわやかな。


 竹のような、しなやかさと、強さを持っていた人。

 希和子さんの声に責められ、自分を失いながらも、希和子さんにあやまり続けていた。


 希和子さんに悪意を吹き込まれて、ボロボロになり、選んだのは、無抵抗になること。

 楽になる、と本人は言っていたが、存在意義を否定され続けることは、精神的に大きなダメージとなる。

 自分の価値を見失い、社会へ出ていく気力さえ奪いかねない。

 そういった大きなストレスで心を病み、社会生活が難しくなるほどの無力感を持ってしまう例があることを、看護学生レベルとはいえ、ハルは学んでいた。


 にもかかわらず、社会に出ていた。

 半分は希和子さんの声に促されてとはいえ、どこか夢うつつで記憶があいまいとはいえ、きちんと交流していた。それは、佐和子さんの本質。


 人と交わることを恐れることはなく、にこやかにあいさつをし、笑顔で応対していた。


 無気力になったのではなく、衝撃を和らげるために、無抵抗でいたのだ。


 解離は、心の重圧を和らげる、防衛機制と呼ばれる、人間が心を守る大切な機能のひとつだ。もちろん重圧が強すぎる時は精神疾患につながることもあるが、心を壊さないように衝撃を和らげる働きもある。

 強風に立ち向かい折れてしまう危険を侵すよりも、風に任せて身を曲げ、やり過ごす方法を選んだだけ。


 弱さ、を選ぶ、強さ。


 同じ年月で貴弘さんは治療が必要な程に心を病んでしまったが、佐和子さんには後遺症を残さなかった。

 どちらが良く、どちらが悪いわけではない。

 あくまで抵抗し続ける強さがあれば、また違った結果になったかもしれない。

 それだけの強さが自分にないことを知っていたから、ふんわりと受け止めて、流していたのだ。




 佐和子さん。

 あなたは、平凡で平穏な日常にこそ幸せを感じていたけれど、それが簡単に崩れてしまう砂上の楼閣だと知っていた。

 だから、日々の小さな出来事に喜びや楽しみを見つけることを忘れなかった。

 再び平穏な日常生活に戻るには、時間もエネルギーも必要だ……もちろんお金も。

 だけど、恒常的に須藤家の援助を受ける必要はない。

 スタートのサポートがあれば、彼女の強さで乗りきることができるはずだ。



 それなのに。

 あえてそれ以上を望むのは。



 希和子さんのため。






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 佐和子さん。
 たおやかで、その名のように、さわやかな。
 竹のような、しなやかさと、強さを持っていた人。
 希和子さんの声に責められ、自分を失いながらも、希和子さんにあやまり続けていた。
 希和子さんに悪意を吹き込まれて、ボロボロになり、選んだのは、無抵抗になること。
 楽になる、と本人は言っていたが、存在意義を否定され続けることは、精神的に大きなダメージとなる。
 自分の価値を見失い、社会へ出ていく気力さえ奪いかねない。
 そういった大きなストレスで心を病み、社会生活が難しくなるほどの無力感を持ってしまう例があることを、看護学生レベルとはいえ、ハルは学んでいた。
 にもかかわらず、社会に出ていた。
 半分は希和子さんの声に促されてとはいえ、どこか夢うつつで記憶があいまいとはいえ、きちんと交流していた。それは、佐和子さんの本質。
 人と交わることを恐れることはなく、にこやかにあいさつをし、笑顔で応対していた。
 無気力になったのではなく、衝撃を和らげるために、無抵抗でいたのだ。
 解離は、心の重圧を和らげる、防衛機制と呼ばれる、人間が心を守る大切な機能のひとつだ。もちろん重圧が強すぎる時は精神疾患につながることもあるが、心を壊さないように衝撃を和らげる働きもある。
 強風に立ち向かい折れてしまう危険を侵すよりも、風に任せて身を曲げ、やり過ごす方法を選んだだけ。
 弱さ、を選ぶ、強さ。
 同じ年月で貴弘さんは治療が必要な程に心を病んでしまったが、佐和子さんには後遺症を残さなかった。
 どちらが良く、どちらが悪いわけではない。
 あくまで抵抗し続ける強さがあれば、また違った結果になったかもしれない。
 それだけの強さが自分にないことを知っていたから、ふんわりと受け止めて、流していたのだ。
 佐和子さん。
 あなたは、平凡で平穏な日常にこそ幸せを感じていたけれど、それが簡単に崩れてしまう砂上の楼閣だと知っていた。
 だから、日々の小さな出来事に喜びや楽しみを見つけることを忘れなかった。
 再び平穏な日常生活に戻るには、時間もエネルギーも必要だ……もちろんお金も。
 だけど、恒常的に須藤家の援助を受ける必要はない。
 スタートのサポートがあれば、彼女の強さで乗りきることができるはずだ。
 それなのに。
 あえてそれ以上を望むのは。
 希和子さんのため。