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すれ違いの幸追人~カムパネルラ~ 3-①

ー/ー



「本当にありがとうございました」


 帰路に発つ瑛比古さんに、佐和子さんは深々と頭を下げた。


 丸田氏は警察関係者に挨拶に行き、ハルが荷物持ちに同行していた。

 小早川クンは車で待機中だった。


「いいえ。これからが大変でしょうけど……」


 頑張って下さい、そう続けるつもりだったが。


「あなたなら、どんなつらい局面でも、乗り越えられると思います……希和子さんと違って」



 言葉通りなら、激励の台詞。


 けれど、佐和子さんは、含まれている『毒』を感じ取り……にっこり笑った。


「ええ、私は多くを望みませんから。夫と子供との、平凡で平穏な生活があれば……それを守るためには、努力を惜しみませんから」


 あくまで爽やかで、清々しい笑顔。



「そういえば、土岐田さんは、写真を見て、希和子に憑いているのは貴弘さんの子供ではないとおっしゃいましたよね。もしかして、誰の子供だかも、お分かりになるのかしら」

「……並んでいる人間の中から当てるんであればね。写真でも、本人でも」

「そうですか。和興さんの写真があればよかったですね」


 その瞬間、瑛比古さんは、背筋に冷や汗をかいた。


「私、真知子さんを大切に思い始めているんです。弘夢をとっても可愛がってくださって。希和子の代わりに親孝行させて頂けたら、なんて、おこがましいかしら」

 裏心は感じない、真摯な思いが伝わる。

「……喜ばれるんじゃないですか? あなたは強い女性だから、真知子さんの助けとなれると思いますよ」

「守るものがある時は、強くなれるんですよ。それとも強い女はお嫌い?」

「どっちかというと、好みです。妻も強い女でしたから」

「じゃあ、私も弘夢を、ハルくんみたいな、強くて優しい子に育てることが出来るかしら」

「さあ。私も誉められた親じゃありませんから。こんな親のもとで、随分よく育ってくれたと思ってます。子供は、可能性の塊ですね。どうぞ大切になさって下さい。弘夢くんも……真知子さんも」

「ええ」


「……そうだ、一つ聞いてもいいですか?」

「どうぞ」

「ここに来る新幹線に乗る時、頭が痛いっておっしゃってましたよね? ……丁度、希和子さんが飛び降りた頃。もしかして、その衝撃でも伝わりましたか?」


 佐和子さんは静かに首を横に振った。

「ちょと考え事していただけです。希和子に会ったら、何て言おうか、とか。たった二人きりの姉妹なのに分かりあえなくて悲しいな、とか。あとは真知子さんに話したようなことくらいかしら」

「そうですか。ありがとうございました」


 会釈して、病院の駐車場に止めてある小早川クンの車に向かう。


 ハルが手を振って合図していた。


「そうだ、土岐田さん」


 佐和子さんが、呼び止める。




「希和子が飛び降りたのは、あの後ですよ」


 にっこり、佐和子さんが微笑む。


「どうぞお気を付けてお帰り下さい」 
   







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「本当にありがとうございました」
 帰路に発つ瑛比古さんに、佐和子さんは深々と頭を下げた。
 丸田氏は警察関係者に挨拶に行き、ハルが荷物持ちに同行していた。
 小早川クンは車で待機中だった。
「いいえ。これからが大変でしょうけど……」
 頑張って下さい、そう続けるつもりだったが。
「あなたなら、どんなつらい局面でも、乗り越えられると思います……希和子さんと違って」
 言葉通りなら、激励の台詞。
 けれど、佐和子さんは、含まれている『毒』を感じ取り……にっこり笑った。
「ええ、私は多くを望みませんから。夫と子供との、平凡で平穏な生活があれば……それを守るためには、努力を惜しみませんから」
 あくまで爽やかで、清々しい笑顔。
「そういえば、土岐田さんは、写真を見て、希和子に憑いているのは貴弘さんの子供ではないとおっしゃいましたよね。もしかして、誰の子供だかも、お分かりになるのかしら」
「……並んでいる人間の中から当てるんであればね。写真でも、本人でも」
「そうですか。和興さんの写真があればよかったですね」
 その瞬間、瑛比古さんは、背筋に冷や汗をかいた。
「私、真知子さんを大切に思い始めているんです。弘夢をとっても可愛がってくださって。希和子の代わりに親孝行させて頂けたら、なんて、おこがましいかしら」
 裏心は感じない、真摯な思いが伝わる。
「……喜ばれるんじゃないですか? あなたは強い女性だから、真知子さんの助けとなれると思いますよ」
「守るものがある時は、強くなれるんですよ。それとも強い女はお嫌い?」
「どっちかというと、好みです。妻も強い女でしたから」
「じゃあ、私も弘夢を、ハルくんみたいな、強くて優しい子に育てることが出来るかしら」
「さあ。私も誉められた親じゃありませんから。こんな親のもとで、随分よく育ってくれたと思ってます。子供は、可能性の塊ですね。どうぞ大切になさって下さい。弘夢くんも……真知子さんも」
「ええ」
「……そうだ、一つ聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「ここに来る新幹線に乗る時、頭が痛いっておっしゃってましたよね? ……丁度、希和子さんが飛び降りた頃。もしかして、その衝撃でも伝わりましたか?」
 佐和子さんは静かに首を横に振った。
「ちょと考え事していただけです。希和子に会ったら、何て言おうか、とか。たった二人きりの姉妹なのに分かりあえなくて悲しいな、とか。あとは真知子さんに話したようなことくらいかしら」
「そうですか。ありがとうございました」
 会釈して、病院の駐車場に止めてある小早川クンの車に向かう。
 ハルが手を振って合図していた。
「そうだ、土岐田さん」
 佐和子さんが、呼び止める。
「希和子が飛び降りたのは、あの後ですよ」
 にっこり、佐和子さんが微笑む。
「どうぞお気を付けてお帰り下さい」