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すれ違いの幸追人~カムパネルラ~ 2-②

ー/ー



「でも、希和子さんも、そうやって言ってほしかったろうな。たとえ子供が出来なくても、一緒にいたいって……そりゃ、親族とか会社のこととか、色々あるかも知れないけど。
 俺さ、親父が超若くて、小学生の参観日とかでも浮いてて、からかわれたりしたけど」

「何? 誰だ? こらしめてやる!」

「だから小学生の時だって。……でも、別にツラいとは思わなかった。だってさ、亡くなったひいおばあちゃんとか、曄古おばさんとかから、親父がどれほど母さんが好きで、俺が生まれるのをめちゃくちゃ喜んでいたか、って散々聞かされて。
 だから、親父は確かに若すぎて親父になったかも知れないけど、でも、俺は、俺やキリやナミを、どれほど大切にしてくれているか、それは他の家には絶対負けないって、自信が持てたから」

「ハル……」

「うわっ! やめろ! 抱きつくな! シートベルト外すな!」


 瑛比古さんは、思わず涙ぐんで、ハルをハグしようとして、逆に突き飛ばされる。


「うう、ハルが冷たい……」

「だから、その過剰な愛情表現はやめろって! 年齢考えろよ」

「いいもん、家に帰ったら、ナミとメイちゃん、ハグするし」

「……メイはともかく、ナミはやめとけ。さすがに高学年になると恥ずかしいから」

「え? ハルはさせてくれたじゃん?」

「それは、キリとナミの手前、俺が嫌がると一緒になって嫌がるかもしれないと……ああ! そんな気遣いするんじゃなかった! せめて母さんにだけ許しておけばよかった!」

「ひどい……お父さんは差別されて淋しいぞ!」



「……ホント、仲いいっスよね、土岐田さんちって。ボクも早く家に帰りたくなったっス」

「………………」


 小早川クンにボソッと、わりと真面目に言われて、二人は恥ずかしくなって黙りこくってしまった。


「……とにかく、希和子さんだって、子供が、とか、家が、とかじゃなく、自分と、希和子さんと夫婦でいたい、って言ってもらえたら、違った結果になったかもしれないな、って。高校生の時に、佐和子さんに、小さい頃から大好きな従兄と結婚するんだ、って自慢していたって言うし。マウントもあったかも知れないけど、結構本心な気がする。好きな人と一緒なら、多少の困難は乗り越えられたんじゃないのかな? 今さらかもしれないけど」

「……そう、うまくいくとは限らないけどな。夫婦のあり方は人、というか家庭それぞれだし。まあ、和正さんの言葉だって、もしかしたら本当なのかもしれないし。息子を悪者に仕立てることで、希和子さんの行動を正当化して、逆に義正さんに恩を売る意図もあるのかも知れないし」

「……」

「それに『タラレバ』言っても、もう、起きてしまった事実は変えられない。これからどうしていくかは、俺達部外者がどうこう言うことじゃないよ。俺らの役目は、丸さんの依頼で佐和子さんのご主人と子供さんを見つけることだったしね。……あれ? そういえば丸さんは?」


 依頼人である丸田氏は、三列シートの最後尾ですやすやお休み中である。


「いいのかなあ……何だか、尻切れトンボみたいで、スッキリしない……」

「あのな、俺らは依頼されて初めて調査に入るの。それはプライバシーに踏み込む恐れがあるってことで、興味本意だけで関わっていい場所じゃない」

「えー、じゃ俺は?」

「お前は、うっかり関係してしまっただけの、さらに部外者! だからもう関わるな」

「ったく、ワカリマシタ! ……ホント何だかスッキリしないなあ」



 ブツブツと言っているうちに、さすがに疲れが出たのか、うとうとし始めたハルに、瑛比古さん、息づかいだけで暗示をかける。



『嫌なことは聞こえない、聞こえても気にしない、優しい気持ちは大事にして、嫌な気持ちは忘れよう』


 やがて、すやすや寝入り始めたハルを見て、瑛比古さん、ほっと息を吐く。


 全く、力を使わなくても勘はいいんだから。


 今回の件は、あまりに裏がありすぎて、もうこれ以上ハルに関わらせたくない。

 ハルの純真な家族愛の言葉を聞けて、この上なく嬉しいが、それはそれ。

 ハルが真っ直ぐに育ってくれて、本当に天国の美晴さんにも、おばあ様や曄古さんにも感謝したいが、だからこそ、遠ざけておきたい。過保護なのかも知れないし、瑛比古さんの自己満足なのかも知れないが。


 それに。


 希和子さんが眠りに着くことで、結果として真実は闇の中。


 こうなった以上、下手にかき回せば、傷つく人が増えるだけだ。



 例えば真知子さん。

 例えば和興氏。


 そして。



(……でも、あの人、みんな分かってて、ああいう振る舞いしてるっぽいしな)


 涙も本気なのが、逆に恐ろしい。


 全く、女は魔性である。





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「でも、希和子さんも、そうやって言ってほしかったろうな。たとえ子供が出来なくても、一緒にいたいって……そりゃ、親族とか会社のこととか、色々あるかも知れないけど。 俺さ、親父が超若くて、小学生の参観日とかでも浮いてて、からかわれたりしたけど」
「何? 誰だ? こらしめてやる!」
「だから小学生の時だって。……でも、別にツラいとは思わなかった。だってさ、亡くなったひいおばあちゃんとか、曄古おばさんとかから、親父がどれほど母さんが好きで、俺が生まれるのをめちゃくちゃ喜んでいたか、って散々聞かされて。
 だから、親父は確かに若すぎて親父になったかも知れないけど、でも、俺は、俺やキリやナミを、どれほど大切にしてくれているか、それは他の家には絶対負けないって、自信が持てたから」
「ハル……」
「うわっ! やめろ! 抱きつくな! シートベルト外すな!」
 瑛比古さんは、思わず涙ぐんで、ハルをハグしようとして、逆に突き飛ばされる。
「うう、ハルが冷たい……」
「だから、その過剰な愛情表現はやめろって! 年齢考えろよ」
「いいもん、家に帰ったら、ナミとメイちゃん、ハグするし」
「……メイはともかく、ナミはやめとけ。さすがに高学年になると恥ずかしいから」
「え? ハルはさせてくれたじゃん?」
「それは、キリとナミの手前、俺が嫌がると一緒になって嫌がるかもしれないと……ああ! そんな気遣いするんじゃなかった! せめて母さんにだけ許しておけばよかった!」
「ひどい……お父さんは差別されて淋しいぞ!」
「……ホント、仲いいっスよね、土岐田さんちって。ボクも早く家に帰りたくなったっス」
「………………」
 小早川クンにボソッと、わりと真面目に言われて、二人は恥ずかしくなって黙りこくってしまった。
「……とにかく、希和子さんだって、子供が、とか、家が、とかじゃなく、自分と、希和子さんと夫婦でいたい、って言ってもらえたら、違った結果になったかもしれないな、って。高校生の時に、佐和子さんに、小さい頃から大好きな従兄と結婚するんだ、って自慢していたって言うし。マウントもあったかも知れないけど、結構本心な気がする。好きな人と一緒なら、多少の困難は乗り越えられたんじゃないのかな? 今さらかもしれないけど」
「……そう、うまくいくとは限らないけどな。夫婦のあり方は人、というか家庭それぞれだし。まあ、和正さんの言葉だって、もしかしたら本当なのかもしれないし。息子を悪者に仕立てることで、希和子さんの行動を正当化して、逆に義正さんに恩を売る意図もあるのかも知れないし」
「……」
「それに『タラレバ』言っても、もう、起きてしまった事実は変えられない。これからどうしていくかは、俺達部外者がどうこう言うことじゃないよ。俺らの役目は、丸さんの依頼で佐和子さんのご主人と子供さんを見つけることだったしね。……あれ? そういえば丸さんは?」
 依頼人である丸田氏は、三列シートの最後尾ですやすやお休み中である。
「いいのかなあ……何だか、尻切れトンボみたいで、スッキリしない……」
「あのな、俺らは依頼されて初めて調査に入るの。それはプライバシーに踏み込む恐れがあるってことで、興味本意だけで関わっていい場所じゃない」
「えー、じゃ俺は?」
「お前は、うっかり関係してしまっただけの、さらに部外者! だからもう関わるな」
「ったく、ワカリマシタ! ……ホント何だかスッキリしないなあ」
 ブツブツと言っているうちに、さすがに疲れが出たのか、うとうとし始めたハルに、瑛比古さん、息づかいだけで暗示をかける。
『嫌なことは聞こえない、聞こえても気にしない、優しい気持ちは大事にして、嫌な気持ちは忘れよう』
 やがて、すやすや寝入り始めたハルを見て、瑛比古さん、ほっと息を吐く。
 全く、力を使わなくても勘はいいんだから。
 今回の件は、あまりに裏がありすぎて、もうこれ以上ハルに関わらせたくない。
 ハルの純真な家族愛の言葉を聞けて、この上なく嬉しいが、それはそれ。
 ハルが真っ直ぐに育ってくれて、本当に天国の美晴さんにも、おばあ様や曄古さんにも感謝したいが、だからこそ、遠ざけておきたい。過保護なのかも知れないし、瑛比古さんの自己満足なのかも知れないが。
 それに。
 希和子さんが眠りに着くことで、結果として真実は闇の中。
 こうなった以上、下手にかき回せば、傷つく人が増えるだけだ。
 例えば真知子さん。
 例えば和興氏。
 そして。
(……でも、あの人、みんな分かってて、ああいう振る舞いしてるっぽいしな)
 涙も本気なのが、逆に恐ろしい。
 全く、女は魔性である。