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すれ違いの幸追人~カムパネルラ~2-①

ー/ー



「すれ違い、か。佐和子さんも希和子さんも、どちらも親に愛されていたのに、どこで食い違っちゃったんだろう」


 帰り道。

 遅れて現地入りした小早川クンを交えて、遅い夕食を済ませて、車中の人となった頃、既に時計は夜の十時を回っていた。


 小早川クンの愛車はファミリー御用達の七人乗りミニバンで(なんと小早川クン、妻子持ちである!)運転手含めて四人なら、かなりゆったりである。

 二列目にハルと隣り合わせ瑛比古さんが座っている。


「そうだな……」

『メールがきてまーしゅ』

「……キリも帰ってきて飯食って寝たって。ミヨちゃん、泊まってくれるってさ」


 家の状況を知らせる谷浜美代子さんからのメールが届き、ハルに伝える瑛比古さん。


「朝からの晩まで申し訳ないなあ。今度何かお礼しなくちゃね」

「それはやめた方がいいっス!」

 弟妹の世話をしてもらった兄らしく、色々気を回すハルの言葉に、小早川クンが青くなる。

「ハルくんのお礼なんて……何を要求されるかワカンナイっス! 危険っス!」

「チャボ! 前見て! 運転中! お前が危険! ……今度きちんとお礼しとくから、大丈夫。ハルの気持ちだけ伝えておくから」

 小早川クンを制止しながらも、瑛比古さん、心の中で賛意を表わす。


 確かに、今日の様子を見ちゃうとなあ……ハルってば、恋愛スキル初心者レベルのクセに、何でああいうタイプに引っかかるかな。

 最初から負け決定の相手だし。

 略奪愛、なんて言葉に縁がなさそうな男が、十歳も年上の、それも人妻に惚れるなんて。



「ハル……初恋、っていくつの頃だった?」

 まさか、初めてってことはないだろうなあ……そんな瑛比古さんの期待を、ハルは見事に裏切る……耳まで真っ赤に染めて。


「べ、別に何歳だっていいだろ!」

「……いいけど……」


 初恋した日に失恋かよ……いや、ひとめぼれだったら、三日? どっちにしても、こりゃ、絶対ミヨちゃんとは二人きりにできないな。

 平気そうにしてるけど、かなりダメージくらっているぞ。

 こんなに弱っているときに強引に迫られたら、押しきられそうだ。


「ハルくん、迫られても婚姻届にハンコ押しちゃダメっスよ」


 小早川クンの言葉に、うんうん、と思わず頷いてしまい、瑛比古さん、ハルに肘鉄を食らう。


「ウゲッ! ……こらハルぅ……父親をなんだと……」

「関係ナイね!」

 むくれて子供みたいにそっぽを向く。


 ま、確かにまだ子供かもな。

 惚れたはいいが、本性見抜けてないし。



 佐和子さんは、しばらくは須藤夫妻の世話で貴弘さんの看病をし、落ち着いたら貴弘さんか佐和子さんの実家にひとまず帰って来る予定だった。

 弘夢くんも幼稚園に通わせてもらっており、退園の手続きや、引越しの準備が必要らしい――真知子さんは、大変弘夢くんを可愛がっていたので、名残惜しい気持ちもあるようだし。

 それにしても。


「そういえばさあ、希和子さんの元ダンナで義理の従兄、だっけ? 結局どこ行っちゃったわけ? あの後、話にも出てこなかったし。何か、実の父親にまでひどい言われようだったけど。一応、後継者候補だったわけじゃん」

 沈黙に耐えられなくなったらしく、気を取り直して話し始めるハル。

「和興氏っスか。今は東京本社に行ってるってことっス」

「へえ、須藤さんの会社、東京に本社があるんだ……ってことは、栄転? 希和子さんとのことは出世には影響してないってこと?」

「……須藤建設グループの総本社は県内だけどな。東京本社は、首都圏での窓口みたいなもので、社員数は多くない。ただし、東京本社担当取締役は、実質次期社長、つまりグループの後継者ってことだ。それが、今の和興氏の立場」

「え? それって?」

「何だかんだ言っても、しょせん親族経営だ。一応株式会社だけどな。親族持ち株七割の。会長の甥で社長の息子、おまけに会長には実子がない、よほどの不祥事でもなけりゃ、やたら更迭されないだろ」

「それに、和興氏、確かに野心的な面はあるっスが、業界では評判、悪くないっス。むしろ、地縁を生かしつつ手堅いように見えて、チャレンジ精神もある、単なるお坊ちゃんじゃないな、って評価されてるっス」

「希和子さんとのことも、もちろん計算もあっただろうが、周囲では子供の頃からいずれ結婚するだろう、と思われていて、半ば婚約者扱いされていたらしい」

「そうっス。おまけに、意外と女性問題、なかったっスよ。今付き合っている女性も、見当たらなかったったっス。案外、希和子さん一筋だったんスかね?」



「……俺さ、希和子さんと同調した時、ちょっとだけ見えたんだよね。多分、その元旦那さんに『後継者問題で回りから色々言われる。いっそ離婚した方が、気楽だろう』みたいな言葉を言われた記憶」


「ハル……」

「きっと、傷ついただろうな、希和子さん」

「まあ、彼女の繊細さを考えると、そのまま婚姻生活を続けても、やっぱり精神的にはしんどいだろうから、和興氏の判断は間違っていないと思うけどな」


「……親父は、俺がいなくても、母さんと結婚した?」


「なっ! あったり前だろ! 美春さんと結婚しない生活なんて、過去も未来も、想像したくもない! ずっとずっと一緒にいたい」

「文法おかしいって……でも、まあ、母さん、幸せだったろうな」

「でも、お前達が生まれてきてくれて、もっともっと幸せ倍増だったぞ?」

「……ありがと。ウザいくらい、そうやって言ってくれて。ウザいけど」

「をい!」








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「すれ違い、か。佐和子さんも希和子さんも、どちらも親に愛されていたのに、どこで食い違っちゃったんだろう」
 帰り道。
 遅れて現地入りした小早川クンを交えて、遅い夕食を済ませて、車中の人となった頃、既に時計は夜の十時を回っていた。
 小早川クンの愛車はファミリー御用達の七人乗りミニバンで(なんと小早川クン、妻子持ちである!)運転手含めて四人なら、かなりゆったりである。
 二列目にハルと隣り合わせ瑛比古さんが座っている。
「そうだな……」
『メールがきてまーしゅ』
「……キリも帰ってきて飯食って寝たって。ミヨちゃん、泊まってくれるってさ」
 家の状況を知らせる谷浜美代子さんからのメールが届き、ハルに伝える瑛比古さん。
「朝からの晩まで申し訳ないなあ。今度何かお礼しなくちゃね」
「それはやめた方がいいっス!」
 弟妹の世話をしてもらった兄らしく、色々気を回すハルの言葉に、小早川クンが青くなる。
「ハルくんのお礼なんて……何を要求されるかワカンナイっス! 危険っス!」
「チャボ! 前見て! 運転中! お前が危険! ……今度きちんとお礼しとくから、大丈夫。ハルの気持ちだけ伝えておくから」
 小早川クンを制止しながらも、瑛比古さん、心の中で賛意を表わす。
 確かに、今日の様子を見ちゃうとなあ……ハルってば、恋愛スキル初心者レベルのクセに、何でああいうタイプに引っかかるかな。
 最初から負け決定の相手だし。
 略奪愛、なんて言葉に縁がなさそうな男が、十歳も年上の、それも人妻に惚れるなんて。
「ハル……初恋、っていくつの頃だった?」
 まさか、初めてってことはないだろうなあ……そんな瑛比古さんの期待を、ハルは見事に裏切る……耳まで真っ赤に染めて。
「べ、別に何歳だっていいだろ!」
「……いいけど……」
 初恋した日に失恋かよ……いや、ひとめぼれだったら、三日? どっちにしても、こりゃ、絶対ミヨちゃんとは二人きりにできないな。
 平気そうにしてるけど、かなりダメージくらっているぞ。
 こんなに弱っているときに強引に迫られたら、押しきられそうだ。
「ハルくん、迫られても婚姻届にハンコ押しちゃダメっスよ」
 小早川クンの言葉に、うんうん、と思わず頷いてしまい、瑛比古さん、ハルに肘鉄を食らう。
「ウゲッ! ……こらハルぅ……父親をなんだと……」
「関係ナイね!」
 むくれて子供みたいにそっぽを向く。
 ま、確かにまだ子供かもな。
 惚れたはいいが、本性見抜けてないし。
 佐和子さんは、しばらくは須藤夫妻の世話で貴弘さんの看病をし、落ち着いたら貴弘さんか佐和子さんの実家にひとまず帰って来る予定だった。
 弘夢くんも幼稚園に通わせてもらっており、退園の手続きや、引越しの準備が必要らしい――真知子さんは、大変弘夢くんを可愛がっていたので、名残惜しい気持ちもあるようだし。
 それにしても。
「そういえばさあ、希和子さんの元ダンナで義理の従兄、だっけ? 結局どこ行っちゃったわけ? あの後、話にも出てこなかったし。何か、実の父親にまでひどい言われようだったけど。一応、後継者候補だったわけじゃん」
 沈黙に耐えられなくなったらしく、気を取り直して話し始めるハル。
「和興氏っスか。今は東京本社に行ってるってことっス」
「へえ、須藤さんの会社、東京に本社があるんだ……ってことは、栄転? 希和子さんとのことは出世には影響してないってこと?」
「……須藤建設グループの総本社は県内だけどな。東京本社は、首都圏での窓口みたいなもので、社員数は多くない。ただし、東京本社担当取締役は、実質次期社長、つまりグループの後継者ってことだ。それが、今の和興氏の立場」
「え? それって?」
「何だかんだ言っても、しょせん親族経営だ。一応株式会社だけどな。親族持ち株七割の。会長の甥で社長の息子、おまけに会長には実子がない、よほどの不祥事でもなけりゃ、やたら更迭されないだろ」
「それに、和興氏、確かに野心的な面はあるっスが、業界では評判、悪くないっス。むしろ、地縁を生かしつつ手堅いように見えて、チャレンジ精神もある、単なるお坊ちゃんじゃないな、って評価されてるっス」
「希和子さんとのことも、もちろん計算もあっただろうが、周囲では子供の頃からいずれ結婚するだろう、と思われていて、半ば婚約者扱いされていたらしい」
「そうっス。おまけに、意外と女性問題、なかったっスよ。今付き合っている女性も、見当たらなかったったっス。案外、希和子さん一筋だったんスかね?」
「……俺さ、希和子さんと同調した時、ちょっとだけ見えたんだよね。多分、その元旦那さんに『後継者問題で回りから色々言われる。いっそ離婚した方が、気楽だろう』みたいな言葉を言われた記憶」
「ハル……」
「きっと、傷ついただろうな、希和子さん」
「まあ、彼女の繊細さを考えると、そのまま婚姻生活を続けても、やっぱり精神的にはしんどいだろうから、和興氏の判断は間違っていないと思うけどな」
「……親父は、俺がいなくても、母さんと結婚した?」
「なっ! あったり前だろ! 美春さんと結婚しない生活なんて、過去も未来も、想像したくもない! ずっとずっと一緒にいたい」
「文法おかしいって……でも、まあ、母さん、幸せだったろうな」
「でも、お前達が生まれてきてくれて、もっともっと幸せ倍増だったぞ?」
「……ありがと。ウザいくらい、そうやって言ってくれて。ウザいけど」
「をい!」