表示設定
表示設定
目次 目次




彼女の愛した不為人~マリオネット~ 3-②

ー/ー



 希和子さんの離婚の相手が義理の従兄にあたる須藤和興(カズオキ)氏であることは、調査済である。

 となれば、当然和興氏との間にできた子供と考えるのが道理である。

「倅は、兄の跡を継ぎたいばかりに、希和子に結婚を申し込みました。そんな思惑も知らず、希和子は喜んで申し出を受けましたし、兄も養女の希和子が倅の子を産めば、自分の死後も希和子の身分が安定するこの縁談に乗り気でした」

 希和子さんが養女であることは知っていたが、伯父の溺愛ぶりを見て、希和子さんの夫となるものが後継者になる可能性があった。

 それを阻止するには、自分がその夫となることが一番手っ取り早い方法だ……そう考えた和興氏だった、が。




 結婚後、舅である義正氏が体調を崩して、会社の実権を弟の和正氏に譲った。

 実の父が会社を継いだからには、自分は確実に跡を次ぐことになる……そう考えた和興氏、次第に希和子さんをないがしろにしはじめる。

 その後、希和子さん、初めての妊娠がわかったが、夫はほとんど家に帰って来ない。

 相変わらず帰って来ない夫を待って起きていた夜、小さな地震があった。

 運悪く階段を降りている最中だった希和子さん、地震に驚いて足を踏み外してしまった。

 スグに処置すれば流産は免れたのかもしれなかったが、家政婦も帰宅してしまっており、家には誰もいない中、しばし気を失っていた希和子さんが、痛むお腹を庇いながら救急車を呼んだのは、お腹を打って一時間も経ってからだった。

 希和子さん自身も命の危険に晒されながら、一命をとりとめた。

 しかし、流産してしまった。



 しかも、希和子さんはもう子供が望めない体になっていた。



 子供ができない……つまり後継者が望めない希和子さんに対して、和興氏が突きつけたのは『離婚届』。



「倅は、希和子を、捨てました。子供が産めなければ、養女である希和子に価値はない、と言ったも同然です。希和子は深く傷つきました。自分でも心を病んだことが分かっていたのでしょう、メンタルケアで優れた医師がいると聞き、ある病院に出向きました」

 それは偶然にも、佐和子さんが産婦人科で通院していた市立病院だった。

 しかも、そこで臨月の佐和子さんに出会ってしまう。

 最初は、再会を純粋に喜んだ希和子さんだったが、佐和子さんの状況を知れば知る程、鏡に瑛ったように自分の不幸が浮き彫りになった気がしてならなかった。


 順調であれは、自分も臨月を迎えているはずだった。

 自分が帰ってこない夫を待っていた広い家……淋しい家。

 それとは比べ物にならない、小さな借家……けれど、夫婦の絆を感じる温かさがあった。


 何より、この双子の姉は、自分のように養女ではなく、実子として籍を入れてもらいながら、跡も取らず他家に嫁いだ。

 子供も産めない養女とは結婚している価値もないと言われ離婚された自分と違い、養女だろうが実子だろうが、そんな柵に囚われない誠実な夫に愛されている。


 鏡の向こうの、もう一人の自分……それが、幸せであればあるほど、鏡のこちらの自分は不幸になってしまう。


 そんな、暗い思いが胸に渦巻いたのだろう。
 気が付けば、相手のあら探しばかりしていた。


『昔、こんな話を聞いたの。一人の天使が両翼を片翼ずつに分けて、二人の人間になった。対の翼をもつ人間同士は強く結ばれるんだって。私は双子だから、私の半身はあの人なんじゃないかしら。だって、外国では、双子は天使の生まれかわり、っていうんですって。でも、平等じゃないわよね。だって、幸せだけを持っていってしまった半身。私の、憎い片翼』






「佐和子さんに出会って、あの子はそんな事を話していたと、後で受診先の先生に聞きました。私達が考えていた以上に、あの子の心は壊れかかっていたんです。私達は、まさに壊れ物のように、あの子に気を使い、当たらず触らずという接し方をしていました……それが益々あの子の心を傷付けていたんです」




スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 希和子さんの離婚の相手が義理の従兄にあたる須藤|和興《カズオキ》氏であることは、調査済である。
 となれば、当然和興氏との間にできた子供と考えるのが道理である。
「倅は、兄の跡を継ぎたいばかりに、希和子に結婚を申し込みました。そんな思惑も知らず、希和子は喜んで申し出を受けましたし、兄も養女の希和子が倅の子を産めば、自分の死後も希和子の身分が安定するこの縁談に乗り気でした」
 希和子さんが養女であることは知っていたが、伯父の溺愛ぶりを見て、希和子さんの夫となるものが後継者になる可能性があった。
 それを阻止するには、自分がその夫となることが一番手っ取り早い方法だ……そう考えた和興氏だった、が。
 結婚後、舅である義正氏が体調を崩して、会社の実権を弟の和正氏に譲った。
 実の父が会社を継いだからには、自分は確実に跡を次ぐことになる……そう考えた和興氏、次第に希和子さんをないがしろにしはじめる。
 その後、希和子さん、初めての妊娠がわかったが、夫はほとんど家に帰って来ない。
 相変わらず帰って来ない夫を待って起きていた夜、小さな地震があった。
 運悪く階段を降りている最中だった希和子さん、地震に驚いて足を踏み外してしまった。
 スグに処置すれば流産は免れたのかもしれなかったが、家政婦も帰宅してしまっており、家には誰もいない中、しばし気を失っていた希和子さんが、痛むお腹を庇いながら救急車を呼んだのは、お腹を打って一時間も経ってからだった。
 希和子さん自身も命の危険に晒されながら、一命をとりとめた。
 しかし、流産してしまった。
 しかも、希和子さんはもう子供が望めない体になっていた。
 子供ができない……つまり後継者が望めない希和子さんに対して、和興氏が突きつけたのは『離婚届』。
「倅は、希和子を、捨てました。子供が産めなければ、養女である希和子に価値はない、と言ったも同然です。希和子は深く傷つきました。自分でも心を病んだことが分かっていたのでしょう、メンタルケアで優れた医師がいると聞き、ある病院に出向きました」
 それは偶然にも、佐和子さんが産婦人科で通院していた市立病院だった。
 しかも、そこで臨月の佐和子さんに出会ってしまう。
 最初は、再会を純粋に喜んだ希和子さんだったが、佐和子さんの状況を知れば知る程、鏡に瑛ったように自分の不幸が浮き彫りになった気がしてならなかった。
 順調であれは、自分も臨月を迎えているはずだった。
 自分が帰ってこない夫を待っていた広い家……淋しい家。
 それとは比べ物にならない、小さな借家……けれど、夫婦の絆を感じる温かさがあった。
 何より、この双子の姉は、自分のように養女ではなく、実子として籍を入れてもらいながら、跡も取らず他家に嫁いだ。
 子供も産めない養女とは結婚している価値もないと言われ離婚された自分と違い、養女だろうが実子だろうが、そんな柵に囚われない誠実な夫に愛されている。
 鏡の向こうの、もう一人の自分……それが、幸せであればあるほど、鏡のこちらの自分は不幸になってしまう。
 そんな、暗い思いが胸に渦巻いたのだろう。
 気が付けば、相手のあら探しばかりしていた。
『昔、こんな話を聞いたの。一人の天使が両翼を片翼ずつに分けて、二人の人間になった。対の翼をもつ人間同士は強く結ばれるんだって。私は双子だから、私の半身はあの人なんじゃないかしら。だって、外国では、双子は天使の生まれかわり、っていうんですって。でも、平等じゃないわよね。だって、幸せだけを持っていってしまった半身。私の、憎い片翼』
「佐和子さんに出会って、あの子はそんな事を話していたと、後で受診先の先生に聞きました。私達が考えていた以上に、あの子の心は壊れかかっていたんです。私達は、まさに壊れ物のように、あの子に気を使い、当たらず触らずという接し方をしていました……それが益々あの子の心を傷付けていたんです」