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ズルいけど最強! ―4―

ー/ー



「私たち生徒会には、学園内でのあらゆる物事を公式に、または公的に行為する権利がある。つまりはを持つことも許されるわけだ」


そう言ってフィスティシアは手のひらに光を束ねて棒状の物質を創り出した。


「ある魔法使いがについての研究をしていて偶然こんなものを生み出したらしい。あらゆる錠を解く本鍵(マスターキー)だ」


ガチャリと、扉が開かれる。暗い部屋に青白く光る線のようなものがいくつも見えた。


「ここは放送室。本来なら関係者以外立ち入り禁止の部屋なのだが、今回は特別だ」

「い、いいんですか?」

「私は礼節を重んじる魔法使いだ。礼には礼で返す」


急を要する今、放送室の使用はこれ以上ない最適解だろう。モニカも、頭の中では喜んで使わせていただこうと考えたが、身体が思うように動かなかった。一向に放送室に足を踏み入れないモニカを見て、フィスティシアは思わず声をかける。


「何をしている? 早くしないと間に合わなくなるぞ」

「あの、えっと……なんていえばいいのか、わかんないんですけど」



その思考が、モニカの身体を掴んで離さない。確かに、放送の使用は寮生を集めるのには最適だろう。時間が無い今、これを使わない手はない。だが――


「放送室って、管理を任された人じゃないと、使っちゃいけないんですよね。なら、やっぱり私……」


いくら生徒会長であるフィスティシアからの許しを得たからといっても、だからといって堂々と使用できるような生徒はそうはいない。心のどこかで、モニカと同じ思考に陥るはずだ。


「だって、じゃないですか。本来、私なんかじゃ放送は使えないはずで、なのに―――」

「モニカちゃん卑屈すぎ〜」


モニカの言葉を遮ったのはエモールだった。卑屈な言葉を羅列させるモニカを見て、今にも怒りを爆発させようとしているフィスティシアの口を塞ぎ、笑顔は崩さずモニカに言った。


「フィスっちが使っていい、って言ったんだから甘えちゃっていいじゃん。なんでダメな理由ばっかり考えるワケ?」

「す、すみませ」

「謝るの禁止!」


エモールはモニカの口元に指を当ててまたも言葉を遮る。


「ズルいって言うけどね、別に悪いことじゃないんだよ。実力とは違うもので、モニカちゃんが他の子よりも1歩先に進んだ証拠」

「……実力とは、違う?」

「そう。何があったのか知らないけど、モニカちゃんは、生徒会長の信頼を勝ち取った。そんなこと、私たち生徒会役員でも難しいことなんだから」


この学園内に存在するすべての生徒の中で最も強い権力を持ち、最も魔法使いとして長けているのがフィスティシアだ。普通の生徒なら、モニカのように生徒会長と対等な会話をすることなんて一度あればいい方だ。モニカは、そんなフィスティシアとある程度の関係を築いたのた。


「覚えておいて? ズルさってのはね、持ってれば持ってるほどいいんだから。世の中の偉い人はだいたい狡猾な人なんだよ」


モニカがちらりとフィスティシアの顔を覗く。少し拗ねたような顔をして、何か言いたそうにしているが、時間が押している。フィスティシアは腕時計を見てしきりに足でリズム良くトントンと音を鳴らしている。


「つ、使わせてもらいます!」

「なぜ初めからそう素直に言えんのだ……」


カチリと、赤いボタンを押して電源が入れられると、パッと室内が明るくなった。フィスティシアはマイクの前に置いてある椅子に座り、躊躇無くマイクの音量調節をしていく。


「さぁ、後はお前の仕事だ。私の厚意を無下にしようとした時はどう仕置してやろうかと考えたが……まぁ許してやる」

「ありがとうございます!」

「いいか? 私の言う通りに喋るんだぞ」


そう言うと、フィスティシアは隣にモニカを座らせてマイクを向ける。パチリとどこかへ放送が繋がったようで、微かにザザッと異音が聞こえてくる。緊張で少し震えた声でモニカの口がマイクに近づく。


『新入生の皆様にお知らせします。この後18時より、寮の説明を行います。寮希望の生徒と関係者の教員の方は遅れないように寮へ集合してください。繰り返します――』


学園内にモニカの声が響く。モニカが放送を終え、マイクの音量を0にすると、その瞬間にエモールが背後から抱きついてきた。


「モニカちゃん放送上手〜! 惚れちゃいそ〜」

「え、エモール先輩……!?」

「離れろ」


エモールの制服の襟を引っ張ってフィスティシアが引き剥がす。改造されて丈が短くなっているエモールの制服から、ちらりと少し焼けた肌が見えた。咄嗟にモニカは目を閉じる。しかし、そんなことは知らず、気にせずエモールはこそこそとフィスティシアに耳打ちする。


「フィスっちモニカちゃん狙ってるカンジ?」

「……『も』ってなんだ」

「え〜、知らないの!? 教えてあげよっかな〜」

「そんなどうでもいい情報はいらん」

「あ、あの! 先輩!」

「ん?」

「どした?」


モニカが今日1番の声を出してフィスティシアとエモールに声をかける。


!」

「……まぁ、生徒が困っていたら助けるのは当然だからな」

「あ、素直じゃないな?」

「うるさい」


エモールはフィスティシアの拘束から抜け出し、するりとモニカの背後に回って抱きしめる。


「これで分かったよね。ズルいって、最強なんだよ」


先程までの天真爛漫な笑顔とは違う、妖艶な笑みでエモールはモニカを覗き込む。今までの幼さの中に隠れた美しさとは真逆の、妖しい美貌にモニカは思わず息を飲んだ。
こうして、モニカの仕事は終わった訳だが、忘れていることがもう1つある。放送を終え、寮希望の1年生たちは説明を受けるためにそれぞれの寮に向かっているだろう。現在の時刻は17時50分。あと10分で寮の説明が始まる。


「……エストレイラ、お前も寮希望じゃないか?」

「あ……」


この後、生徒会長の許可を得て、過去最高速度を出して廊下を走っていったことは言うまでもないだろう。


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「私たち生徒会には、学園内でのあらゆる物事を公式に、または公的に行為する権利がある。つまりは《《こんなもの》》を持つことも許されるわけだ」
そう言ってフィスティシアは手のひらに光を束ねて棒状の物質を創り出した。
「ある魔法使いが《《鍵》》についての研究をしていて偶然こんなものを生み出したらしい。あらゆる錠を解く|本鍵《マスターキー》だ」
ガチャリと、扉が開かれる。暗い部屋に青白く光る線のようなものがいくつも見えた。
「ここは放送室。本来なら関係者以外立ち入り禁止の部屋なのだが、今回は特別だ」
「い、いいんですか?」
「私は礼節を重んじる魔法使いだ。礼には礼で返す」
急を要する今、放送室の使用はこれ以上ない最適解だろう。モニカも、頭の中では喜んで使わせていただこうと考えたが、身体が思うように動かなかった。一向に放送室に足を踏み入れないモニカを見て、フィスティシアは思わず声をかける。
「何をしている? 早くしないと間に合わなくなるぞ」
「あの、えっと……なんていえばいいのか、わかんないんですけど」
《《本当にいいのか》》?
その思考が、モニカの身体を掴んで離さない。確かに、放送の使用は寮生を集めるのには最適だろう。時間が無い今、これを使わない手はない。だが――
「放送室って、管理を任された人じゃないと、使っちゃいけないんですよね。なら、やっぱり私……」
いくら生徒会長であるフィスティシアからの許しを得たからといっても、だからといって堂々と使用できるような生徒はそうはいない。心のどこかで、モニカと同じ思考に陥るはずだ。
「だって、《《ズルい》》じゃないですか。本来、私なんかじゃ放送は使えないはずで、なのに―――」
「モニカちゃん卑屈すぎ〜」
モニカの言葉を遮ったのはエモールだった。卑屈な言葉を羅列させるモニカを見て、今にも怒りを爆発させようとしているフィスティシアの口を塞ぎ、笑顔は崩さずモニカに言った。
「フィスっちが使っていい、って言ったんだから甘えちゃっていいじゃん。なんでダメな理由ばっかり考えるワケ?」
「す、すみませ」
「謝るの禁止!」
エモールはモニカの口元に指を当ててまたも言葉を遮る。
「ズルいって言うけどね、別に悪いことじゃないんだよ。実力とは違うもので、モニカちゃんが他の子よりも1歩先に進んだ証拠」
「……実力とは、違う?」
「そう。何があったのか知らないけど、モニカちゃんは、《《あの》》生徒会長の信頼を勝ち取った。そんなこと、私たち生徒会役員でも難しいことなんだから」
この学園内に存在するすべての生徒の中で最も強い権力を持ち、最も魔法使いとして長けているのがフィスティシアだ。普通の生徒なら、モニカのように生徒会長と対等な会話をすることなんて一度あればいい方だ。モニカは、そんなフィスティシアとある程度の関係を築いたのた。
「覚えておいて? ズルさってのはね、持ってれば持ってるほどいいんだから。世の中の偉い人はだいたい狡猾な人なんだよ」
モニカがちらりとフィスティシアの顔を覗く。少し拗ねたような顔をして、何か言いたそうにしているが、時間が押している。フィスティシアは腕時計を見てしきりに足でリズム良くトントンと音を鳴らしている。
「つ、使わせてもらいます!」
「なぜ初めからそう素直に言えんのだ……」
カチリと、赤いボタンを押して電源が入れられると、パッと室内が明るくなった。フィスティシアはマイクの前に置いてある椅子に座り、躊躇無くマイクの音量調節をしていく。
「さぁ、後はお前の仕事だ。私の厚意を無下にしようとした時はどう仕置してやろうかと考えたが……まぁ許してやる」
「ありがとうございます!」
「いいか? 私の言う通りに喋るんだぞ」
そう言うと、フィスティシアは隣にモニカを座らせてマイクを向ける。パチリとどこかへ放送が繋がったようで、微かにザザッと異音が聞こえてくる。緊張で少し震えた声でモニカの口がマイクに近づく。
『新入生の皆様にお知らせします。この後18時より、寮の説明を行います。寮希望の生徒と関係者の教員の方は遅れないように寮へ集合してください。繰り返します――』
学園内にモニカの声が響く。モニカが放送を終え、マイクの音量を0にすると、その瞬間にエモールが背後から抱きついてきた。
「モニカちゃん放送上手〜! 惚れちゃいそ〜」
「え、エモール先輩……!?」
「離れろ」
エモールの制服の襟を引っ張ってフィスティシアが引き剥がす。改造されて丈が短くなっているエモールの制服から、ちらりと少し焼けた肌が見えた。咄嗟にモニカは目を閉じる。しかし、そんなことは知らず、気にせずエモールはこそこそとフィスティシアに耳打ちする。
「フィスっち《《も》》モニカちゃん狙ってるカンジ?」
「……『も』ってなんだ」
「え〜、知らないの!? 教えてあげよっかな〜」
「そんなどうでもいい情報はいらん」
「あ、あの! 先輩!」
「ん?」
「どした?」
モニカが今日1番の声を出してフィスティシアとエモールに声をかける。
「《《ありがとうございました》》!」
「……まぁ、生徒が困っていたら助けるのは当然だからな」
「あ、素直じゃないな?」
「うるさい」
エモールはフィスティシアの拘束から抜け出し、するりとモニカの背後に回って抱きしめる。
「これで分かったよね。ズルいって、最強なんだよ」
先程までの天真爛漫な笑顔とは違う、妖艶な笑みでエモールはモニカを覗き込む。今までの幼さの中に隠れた美しさとは真逆の、妖しい美貌にモニカは思わず息を飲んだ。
こうして、モニカの仕事は終わった訳だが、忘れていることがもう1つある。放送を終え、寮希望の1年生たちは説明を受けるためにそれぞれの寮に向かっているだろう。現在の時刻は17時50分。あと10分で寮の説明が始まる。
「……エストレイラ、お前も寮希望じゃないか?」
「あ……」
この後、生徒会長の許可を得て、過去最高速度を出して廊下を走っていったことは言うまでもないだろう。