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獄蝶vs焔 ―3―

ー/ー



獄蝶のジョカが使う魔法、”獄蝶”。その正体は、蝶の形を形成した紅い炎だ。獄蝶が羽を羽ばたかせる度にゆらりと炎が揺らぎ、怪しく輝く。獄蝶のジョカが長い月日をかけて編み出した魔法。


「おーい、生きてる〜?」


 獄蝶の魔法を使い、獄蝶のジョカは大魔法使いへと上り詰め、『最強』の名前を我がものにしていた。


「……いってぇ」

「あ、見つけた」


 多くの魔法使いは、自身が編み出した独自の魔法を魔法書や魔法陣にして書き残し、後世に伝える。これからの魔法の発展と、新たな魔法使いのために。だが、獄蝶のジョカは違う。独占欲の強い獄蝶のジョカは、獄蝶の魔法の詳細を誰にも教えていない。どれだけ優れた魔法使いでも、魔法をしなければ扱うことはできない。”獄蝶”は、世界で唯一、獄蝶のジョカしか使えない魔法のはずだった。


「まさか、そこまで至るとはね。どうやって獄蝶を使った?」

「教えねぇよ」

「どーせ焔がなんかしてるんだろ? それくらいわかるさ」


 旭は獄蝶のジョカが差し伸べる手を取り、ゆっくりと立ち上がる。関節の辺りがピリピリと痺れて旭がよろける。旭に肩を貸しながら、獄蝶のジョカは呟く。


「これが今の旭と、大魔法使いの差だ。身をもって理解できたかな」

「……あぁ」

「まぁ、分からなくはないよ。むしろそのやり方は正しいまである。けど、お前はまだ若いんだから、ちょっとくらい、遠回りしてもいいと思うよ」

「……今の俺じゃ、には届かないよな」


 旭の問いかけの答えは返ってこない。代わりに、獄蝶のジョカが目線を合わせて旭の頭を撫でて言う。


「まだ、お前を破門にするつもりはない」

「…………は?」


 思いもよらず告げられた言葉に、一瞬、旭の身体の力がスっと抜ける。よろける身体を獄蝶のジョカに預け、旭は疑念の思いを口にする。


「なんで、俺は……!」


 破門にされることを覚悟して獄蝶のジョカに挑んだ旭は、この展開をまったく予想していなかった。獄蝶で丸焼きにされて捨てられるくらいはされるだろうと考えていた。しかし、獄蝶のジョカはわしわしと髪を撫でたまま、気味が悪いほど優しそうに笑う。


「まだ、お前のやりたいことは、終わっちゃいないだろう。それが終わるまで、私なお前たちの師匠になってやるって、あの時言ったはずだ」

「でも……」

「口答えしてんじゃないよ」


 顔を隠すように、獄蝶のジョカが帽子を深く被る。


「ガキはの言うこと素直に従ってりゃいいのさ」


 旭に背を向けて、箒に腰を下ろす。


「ま、言いなりになるのもよくないけどね」


 それだけ言い残し、獄蝶のジョカは藍い夜に消えていく。旭は獄蝶のジョカを見送り、ボーッと夜空を見上げていた。まだ、旭を包み込む空気は熱を帯び、闘いの余韻を強く感じさせる。


(明後日にはバウディアムスの生徒か……)


 実感は湧かない。師の影を追い、魔法を(きわ)めるためにノーチェスまで来た旭だったが、旭自身、これ以上の成長は見込めないと考えていた。首席にはなれなかったが、それでも旭は学年次席。パーシーに次いで2位の実力をバウディアムスから認められた。この階級は、旭にだけではなく、全生徒にとって重要なものとなる。


(多分、バウディアムスの生徒の中で1番強いのは、あの生徒会長だ)


 この闘いで旭が得たものは大きい。もう成長できない。そんな旭の考えも今日ここで終わりを告げる。


(俺に宿った”焔”の意味。それが分かればきっと――)

「なんなのですか、これ〜!!!!」


 耳を劈く高い声が旭の鼓膜を貫く。足の痺れとはまた違う、脳が揺れるような感覚が旭を襲う。かろうじて意識を保っていた旭にトドメの一撃を食らわせたのは、白い毛を靡かせる一匹の妖狐だった。


「モニカの原っぱが、こげこげです!」

「お前、エストレイラの……」

「……ん? 誰ですか、あなたは」


 プツリと、旭の意識はそこで途切れた。


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獄蝶のジョカが使う魔法、”獄蝶”。その正体は、蝶の形を形成した紅い炎だ。獄蝶が羽を羽ばたかせる度にゆらりと炎が揺らぎ、怪しく輝く。獄蝶のジョカが長い月日をかけて編み出した魔法。
「おーい、生きてる〜?」
 獄蝶の魔法を使い、獄蝶のジョカは大魔法使いへと上り詰め、『最強』の名前を我がものにしていた。
「……いってぇ」
「あ、見つけた」
 多くの魔法使いは、自身が編み出した独自の魔法を魔法書や魔法陣にして書き残し、後世に伝える。これからの魔法の発展と、新たな魔法使いのために。だが、獄蝶のジョカは違う。独占欲の強い獄蝶のジョカは、獄蝶の魔法の詳細を誰にも教えていない。どれだけ優れた魔法使いでも、魔法を《《理解》》しなければ扱うことはできない。”獄蝶”は、世界で唯一、獄蝶のジョカしか使えない魔法のはずだった。
「まさか、そこまで至るとはね。どうやって獄蝶を使った?」
「教えねぇよ」
「どーせ焔がなんかしてるんだろ? それくらいわかるさ」
 旭は獄蝶のジョカが差し伸べる手を取り、ゆっくりと立ち上がる。関節の辺りがピリピリと痺れて旭がよろける。旭に肩を貸しながら、獄蝶のジョカは呟く。
「これが今の旭と、大魔法使いの差だ。身をもって理解できたかな」
「……あぁ」
「まぁ、分からなくはないよ。むしろそのやり方は正しいまである。けど、お前はまだ若いんだから、ちょっとくらい、遠回りしてもいいと思うよ」
「……今の俺じゃ、《《あの人》》には届かないよな」
 旭の問いかけの答えは返ってこない。代わりに、獄蝶のジョカが目線を合わせて旭の頭を撫でて言う。
「まだ、お前を破門にするつもりはない」
「…………は?」
 思いもよらず告げられた言葉に、一瞬、旭の身体の力がスっと抜ける。よろける身体を獄蝶のジョカに預け、旭は疑念の思いを口にする。
「なんで、俺は……!」
 破門にされることを覚悟して獄蝶のジョカに挑んだ旭は、この展開をまったく予想していなかった。獄蝶で丸焼きにされて捨てられるくらいはされるだろうと考えていた。しかし、獄蝶のジョカはわしわしと髪を撫でたまま、気味が悪いほど優しそうに笑う。
「まだ、お前のやりたいことは、終わっちゃいないだろう。それが終わるまで、私なお前たちの師匠になってやるって、あの時言ったはずだ」
「でも……」
「口答えしてんじゃないよ」
 顔を隠すように、獄蝶のジョカが帽子を深く被る。
「ガキは《《親》》の言うこと素直に従ってりゃいいのさ」
 旭に背を向けて、箒に腰を下ろす。
「ま、言いなりになるのもよくないけどね」
 それだけ言い残し、獄蝶のジョカは藍い夜に消えていく。旭は獄蝶のジョカを見送り、ボーッと夜空を見上げていた。まだ、旭を包み込む空気は熱を帯び、闘いの余韻を強く感じさせる。
(明後日にはバウディアムスの生徒か……)
 実感は湧かない。師の影を追い、魔法を|究《きわ》めるためにノーチェスまで来た旭だったが、旭自身、これ以上の成長は見込めないと考えていた。首席にはなれなかったが、それでも旭は学年次席。パーシーに次いで2位の実力をバウディアムスから認められた。この階級は、旭にだけではなく、全生徒にとって重要なものとなる。
(多分、バウディアムスの生徒の中で1番強いのは、あの生徒会長だ)
 この闘いで旭が得たものは大きい。もう成長できない。そんな旭の考えも今日ここで終わりを告げる。
(俺に宿った”焔”の意味。それが分かればきっと――)
「なんなのですか、これ〜!!!!」
 耳を劈く高い声が旭の鼓膜を貫く。足の痺れとはまた違う、脳が揺れるような感覚が旭を襲う。かろうじて意識を保っていた旭にトドメの一撃を食らわせたのは、白い毛を靡かせる一匹の妖狐だった。
「モニカの原っぱが、こげこげです!」
「お前、エストレイラの……」
「……ん? 誰ですか、あなたは」
 プツリと、旭の意識はそこで途切れた。