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バイクで一駅(ひとえき)先まで走り、適当なコンビニのCDコーナーで、さっき追加だと大垣にお願いして出金してもらったばかりの五万を、本田勉名義のカードで入金した。
以前に違う支店で作った、宮本の偽名口座だ。別々の顧客の処理を一緒に渡すよりも、急がせながらも追加で簡単な処理を渡すほうが目眩しになる。不正をする時はいつもそうしていた。

顧客とも、信頼関係ができ上がっている。地域的にも裕福層が多い。駅前のスナックのママは、「宮本さんはホンマに真面目やな」というくらいに宮本を信用している。
本来なら受けてはいけないのだが、判だけが捺された出金伝票も預かっていた。ちゃんと預かり伝票にも記載はしているが、数枚多めに捺したものを宮本は持っていた。

最初はこの客なら、金を少しくらい引き出しても気にしないんじゃないか? 試しに預かっていた伝票で引き出してみると、元々出し入れの多い客だったので気付きはしなかった。
それから自分がいかに真面目かを、さり気なく顧客にアピールをした。一度、上手くいくと止められなくなった。
いくら食べても腹は膨らまない餓鬼のように、金を引き出すようになった。支店を異動する度に、出し入れが多い客を率先的に持つようにした。
今まで何店舗も支店を渡り歩いてきたが、発覚したことはない。宮本のやり方が正しいと証明しているとさえ思えた。

数日前、支店の食堂で流れていたニュースを宮本は思い出した。大手メガバンクの社員が摘発され、刑事が支店に軍隊が進攻するように入っていく映像が流れていた。
ニュースを見ながら宮本は「大き過ぎる欲は身を滅ぼすんだ」と自分を戒め、映像を記憶に刻みこんだ。

「ホンマやってられへんわ、アホらしい」

宮本は、コンビニの前で喫煙しながら、缶コーヒーを喉に流し込んだ。

「今日は精のつくもんでも食べにいこか」

宮本は駐めていたバイクに跨った。
      


夕方、一足先に戻っていた宮本が部下から今日の収穫を聞いていると、どこかに出かけていた支店長の城見が帰って来た。
そういえば、昨日もどこかに出かけていて、城見にしては珍しい。しかし城見の表情から、悪いことで動いている訳ではなさそうであった。
城見は、かなりのやり手だ。預金高成績が下部だった香里ケ丘支店を中位くらいまでに押し上げてきた人物だ。

しかし、おいしい話はあまり下には下ろしてはこない。また事後的に聞かされるのかと、宮本は舌打ちをした。
女性陣は帰ってしまい、融資課も忙しくないのか、富田も少し前に帰っていった。帰り支度を始めた狭山を見て、宮本もそろそろ支店を出ようと考えていた。
狭山が席を立って「お先です」と声を掛けてきたので「お疲れさん」と返して見送ってから、宮本は机の上を片付け始める。

「宮本くん。ちょっと、ええか?」

 城見は小指を耳に入れて、穿(ほじく)る仕草をして豚のみたいに出た腹をさらに前に突き出していた。
皆が帰ったのを見計らったかのように呼ばれて、不正がバレたのか、と緊張が走った。

宮本は平静を装って「何ですか?」と返した。心臓は、今にも口から飛び出しそうに暴れ、判決を受ける被告人席に立っているようだった。
城見と視線を合わせて、次に言葉が出るまでが数時間にも感じられた。

「少し前に横領事件があったやろ? ここは、そんなことないけど、一応、他の職員に目を光らせてといて」
「わかりました。それじゃ、お先に失礼します」
「はい。お疲れさん」

城見は、耳を穿っていた小指の先を軽く吹いた。宮本は冷えた先端で頭を刺されているような緊張が走り、足早に支店を後にした。



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バイクで一駅(ひとえき)先まで走り、適当なコンビニのCDコーナーで、さっき追加だと大垣にお願いして出金してもらったばかりの五万を、本田勉名義のカードで入金した。
以前に違う支店で作った、宮本の偽名口座だ。別々の顧客の処理を一緒に渡すよりも、急がせながらも追加で簡単な処理を渡すほうが目眩しになる。不正をする時はいつもそうしていた。

顧客とも、信頼関係ができ上がっている。地域的にも裕福層が多い。駅前のスナックのママは、「宮本さんはホンマに真面目やな」というくらいに宮本を信用している。
本来なら受けてはいけないのだが、判だけが捺された出金伝票も預かっていた。ちゃんと預かり伝票にも記載はしているが、数枚多めに捺したものを宮本は持っていた。

最初はこの客なら、金を少しくらい引き出しても気にしないんじゃないか? 試しに預かっていた伝票で引き出してみると、元々出し入れの多い客だったので気付きはしなかった。
それから自分がいかに真面目かを、さり気なく顧客にアピールをした。一度、上手くいくと止められなくなった。
いくら食べても腹は膨らまない餓鬼のように、金を引き出すようになった。支店を異動する度に、出し入れが多い客を率先的に持つようにした。
今まで何店舗も支店を渡り歩いてきたが、発覚したことはない。宮本のやり方が正しいと証明しているとさえ思えた。

数日前、支店の食堂で流れていたニュースを宮本は思い出した。大手メガバンクの社員が摘発され、刑事が支店に軍隊が進攻するように入っていく映像が流れていた。
ニュースを見ながら宮本は「大き過ぎる欲は身を滅ぼすんだ」と自分を戒め、映像を記憶に刻みこんだ。

「ホンマやってられへんわ、アホらしい」

宮本は、コンビニの前で喫煙しながら、缶コーヒーを喉に流し込んだ。

「今日は精のつくもんでも食べにいこか」

宮本は駐めていたバイクに跨った。
      


夕方、一足先に戻っていた宮本が部下から今日の収穫を聞いていると、どこかに出かけていた支店長の城見が帰って来た。
そういえば、昨日もどこかに出かけていて、城見にしては珍しい。しかし城見の表情から、悪いことで動いている訳ではなさそうであった。
城見は、かなりのやり手だ。預金高成績が下部だった香里ケ丘支店を中位くらいまでに押し上げてきた人物だ。

しかし、おいしい話はあまり下には下ろしてはこない。また事後的に聞かされるのかと、宮本は舌打ちをした。
女性陣は帰ってしまい、融資課も忙しくないのか、富田も少し前に帰っていった。帰り支度を始めた狭山を見て、宮本もそろそろ支店を出ようと考えていた。
狭山が席を立って「お先です」と声を掛けてきたので「お疲れさん」と返して見送ってから、宮本は机の上を片付け始める。

「宮本くん。ちょっと、ええか?」

 城見は小指を耳に入れて、穿(ほじく)る仕草をして豚のみたいに出た腹をさらに前に突き出していた。
皆が帰ったのを見計らったかのように呼ばれて、不正がバレたのか、と緊張が走った。

宮本は平静を装って「何ですか?」と返した。心臓は、今にも口から飛び出しそうに暴れ、判決を受ける被告人席に立っているようだった。
城見と視線を合わせて、次に言葉が出るまでが数時間にも感じられた。

「少し前に横領事件があったやろ? ここは、そんなことないけど、一応、他の職員に目を光らせてといて」
「わかりました。それじゃ、お先に失礼します」
「はい。お疲れさん」

城見は、耳を穿っていた小指の先を軽く吹いた。宮本は冷えた先端で頭を刺されているような緊張が走り、足早に支店を後にした。



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