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第9章〜To Love You More(もっとあなたを好きになる)〜⑧

ー/ー



わたしは、心のなかで あなたをずっと待っている
 あなたをもっと愛せるのは、わたしだけ
 いつかきっとわかるハズ、わたしならあなたが必要とするすべてを与えられるって
 もっとわたしにあなたを愛させて

 明らかに不審な姿のマスク少女を見失ってしまった葵は、

(あの女子生徒のことは、また後で考えよう! 今は、ノアと接触することだけを考えないと……)

そう考え直して、ステージとスピーカーから聴こえてくれる四葉の歌声に耳を傾けた。

 わたしたちの間にあった愛は、きっと取り戻せるハズ
 どんなに大変でも必ずその方法を見つけられる
 わたしを信じて あなたに見せてあげる
 あなたの心が知りたがっているすべてのことを

 いよいよ、楽曲のクライマックスを迎え、葵は再びステージの白草四葉と花金鳳花に目を向ける。

 I'll be(わたしは……)

 ステージ上では、ここでタップリと間を取り、お互いに視線を合わせた四葉と鳳花が、笑顔でうなずきあうと、パフォーマンスを続けた。

 心のなかで あなたをずっと待っている
 あなたをもっと愛せるのは、わたしだけ
 わたしなら与えられるってわからないの
 あなたが必要とするすべてを
 もっとわたしにあなたを愛させて

 校内確認用のモニターで、ステージを注視していた黄瀬壮馬の目には、予定通りに二曲の曲目を歌い終え、清々しい表情で客席の歓声に応える白草四葉の姿が映っている。
 それは、自分自身の成すべきことを全てやり終え、人事を尽くした者が天命を待つ時に見せる表情だ。
 そのようすを画面越しに確認しながら、壮馬は懸命に祈る。

(天竹さんの説得が上手く行きますように……)

 この時の彼は、親友たちが行うパレードの成功以上に、そのことを願う気持ちが強かった。



 校舎裏の大型倉庫で、パレードを行うマーチングバンド組とともに待機をしているオレの耳にも、校内の各所に設置されたスピーカーから、中庭のようすが伝わってきた。
 彼女がこれまで見せてきたパフォーマンスから、ステージの出来栄えについては心配していなかったが……。
 予定通り、キッチリと自身の歌声で、オーディエンスを盛り上げたシロの実力と存在感に、あらためて頭が下がると同時に、自分自身も、いっそう身の引き締まる思いがする。
 シロのパフォーマンスが終了したことを確認したオレは、覚悟を完了し、集中力を高めるモードに入った。

 六年前のあの日――――――。
 
 せっかく、シロがみっちりとコーチをしてくれたにも関わらず、オレは、初めて訪れたテレビ局の雰囲気とプロ顔負けの迫力で歌い上げる同世代の子どもたちの姿に呑まれ、自分の実力を発揮できないまま、収録を終えてしまった。

「こんなハズじゃなかったのに……」

 テレビ出演を提案してくれた母親に良いところを見せられなかったこと、そして、なによりも、丁寧に歌のレッスンをしてくれたシロの期待に応えられなかったことが悔しくて、オレは、しばらく自分自身を許すことができなかった。
 そうして、ショックのあまり、その春休みが終わるまでの間、ずっとふさぎ込んでいたのだが、

「このままじゃ、ダメだ……」

と、考え直して、本番で緊張せず、集中力を高める方法を自分なりに考えたり、調べることにした。
 その結果、スポーツ選手が安定したパフォーマンスを発揮するために行う『ルーティン』や、ミュージシャンがステージに立つ前に、集中力を高めるために行う『マインドフルネス』というものがあることがわかった。
 また、この頃、読み始めたコミック作品の中で、

「全集中!〜〜の型」

という有名な台詞を目にして、

「こ、これこそ、オレが求めていたものだ……!」

と、喜びを感じたのだが、マンガのやり方をそのまま取り入れることは、困難であることがすぐにわかったのと、後に作品が有名になりすぎて気恥ずかしくなってしまい、結果として、参考にするのは、セリフやポーズではなく、その考え方のみに留めておいた。
 そんな経緯から、オレは、主に有名スポーツ選手のやり方を真似て、地元チームのクローザー投手がマウンドに立つ前に行っていたストレッチを兼ねた股割りと、ポルトガル代表のサッカー選手がフリーキックを蹴る前に仁王立ちをしてから行う深呼吸を組み合わせた、自分なりの『ルーティン』を考案した。
 《竜馬ちゃんねる》の動画に出演する際など、緊張を覚える場面の前には、必ず行うようにしている一連の動作に入る前に、みっちりとボーカルの特訓を施してくれたコーラス部でのレッスンの日々を思い返し、その後、今日のパレードのプログラムを脳内でシュミレートする。
 
 そして、ボーカルの特訓以上に長期間に渡った、シロの講義の数々も――――――。
 イメージトレーニングが終わると、ストレッチをゆったりと行ってから、仁王立ちになり、深く呼吸を行うと、スピーカーから漏れてくる音と、大型倉庫内の喧騒が、徐々に小さくなっていく。

「ヨシ……」

 自分自身が、いわゆる(ゾーン)に入りつつあることを実感し、高揚感が高まっていく。
 パレードの――――――そして、そのあとのサプライズ企画の成功へのイメージは固まった。

 今日、オレは、情けなく、ヘタレだった過去の自分に復讐(リベンジ)するのだ――――――。


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 あなたをもっと愛せるのは、わたしだけ
 いつかきっとわかるハズ、わたしならあなたが必要とするすべてを与えられるって
 もっとわたしにあなたを愛させて
 明らかに不審な姿のマスク少女を見失ってしまった葵は、
(あの女子生徒のことは、また後で考えよう! 今は、ノアと接触することだけを考えないと……)
そう考え直して、ステージとスピーカーから聴こえてくれる四葉の歌声に耳を傾けた。
 わたしたちの間にあった愛は、きっと取り戻せるハズ
 どんなに大変でも必ずその方法を見つけられる
 わたしを信じて あなたに見せてあげる
 あなたの心が知りたがっているすべてのことを
 いよいよ、楽曲のクライマックスを迎え、葵は再びステージの白草四葉と花金鳳花に目を向ける。
 I'll be(わたしは……)
 ステージ上では、ここでタップリと間を取り、お互いに視線を合わせた四葉と鳳花が、笑顔でうなずきあうと、パフォーマンスを続けた。
 心のなかで あなたをずっと待っている
 あなたをもっと愛せるのは、わたしだけ
 わたしなら与えられるってわからないの
 あなたが必要とするすべてを
 もっとわたしにあなたを愛させて
 校内確認用のモニターで、ステージを注視していた黄瀬壮馬の目には、予定通りに二曲の曲目を歌い終え、清々しい表情で客席の歓声に応える白草四葉の姿が映っている。
 それは、自分自身の成すべきことを全てやり終え、人事を尽くした者が天命を待つ時に見せる表情だ。
 そのようすを画面越しに確認しながら、壮馬は懸命に祈る。
(天竹さんの説得が上手く行きますように……)
 この時の彼は、親友たちが行うパレードの成功以上に、そのことを願う気持ちが強かった。
 校舎裏の大型倉庫で、パレードを行うマーチングバンド組とともに待機をしているオレの耳にも、校内の各所に設置されたスピーカーから、中庭のようすが伝わってきた。
 彼女がこれまで見せてきたパフォーマンスから、ステージの出来栄えについては心配していなかったが……。
 予定通り、キッチリと自身の歌声で、オーディエンスを盛り上げたシロの実力と存在感に、あらためて頭が下がると同時に、自分自身も、いっそう身の引き締まる思いがする。
 シロのパフォーマンスが終了したことを確認したオレは、覚悟を完了し、集中力を高めるモードに入った。
 六年前のあの日――――――。
 せっかく、シロがみっちりとコーチをしてくれたにも関わらず、オレは、初めて訪れたテレビ局の雰囲気とプロ顔負けの迫力で歌い上げる同世代の子どもたちの姿に呑まれ、自分の実力を発揮できないまま、収録を終えてしまった。
「こんなハズじゃなかったのに……」
 テレビ出演を提案してくれた母親に良いところを見せられなかったこと、そして、なによりも、丁寧に歌のレッスンをしてくれたシロの期待に応えられなかったことが悔しくて、オレは、しばらく自分自身を許すことができなかった。
 そうして、ショックのあまり、その春休みが終わるまでの間、ずっとふさぎ込んでいたのだが、
「このままじゃ、ダメだ……」
と、考え直して、本番で緊張せず、集中力を高める方法を自分なりに考えたり、調べることにした。
 その結果、スポーツ選手が安定したパフォーマンスを発揮するために行う『ルーティン』や、ミュージシャンがステージに立つ前に、集中力を高めるために行う『マインドフルネス』というものがあることがわかった。
 また、この頃、読み始めたコミック作品の中で、
「全集中!〜〜の型」
という有名な台詞を目にして、
「こ、これこそ、オレが求めていたものだ……!」
と、喜びを感じたのだが、マンガのやり方をそのまま取り入れることは、困難であることがすぐにわかったのと、後に作品が有名になりすぎて気恥ずかしくなってしまい、結果として、参考にするのは、セリフやポーズではなく、その考え方のみに留めておいた。
 そんな経緯から、オレは、主に有名スポーツ選手のやり方を真似て、地元チームのクローザー投手がマウンドに立つ前に行っていたストレッチを兼ねた股割りと、ポルトガル代表のサッカー選手がフリーキックを蹴る前に仁王立ちをしてから行う深呼吸を組み合わせた、自分なりの『ルーティン』を考案した。
 《竜馬ちゃんねる》の動画に出演する際など、緊張を覚える場面の前には、必ず行うようにしている一連の動作に入る前に、みっちりとボーカルの特訓を施してくれたコーラス部でのレッスンの日々を思い返し、その後、今日のパレードのプログラムを脳内でシュミレートする。
 そして、ボーカルの特訓以上に長期間に渡った、シロの講義の数々も――――――。
 イメージトレーニングが終わると、ストレッチをゆったりと行ってから、仁王立ちになり、深く呼吸を行うと、スピーカーから漏れてくる音と、大型倉庫内の喧騒が、徐々に小さくなっていく。
「ヨシ……」
 自分自身が、いわゆる、《ゾーン》に入りつつあることを実感し、高揚感が高まっていく。
 パレードの――――――そして、そのあとのサプライズ企画の成功へのイメージは固まった。
 今日、オレは、情けなく、ヘタレだった過去の自分に|復讐《リベンジ》するのだ――――――。