甘みだけが、舌の中に居座り続けている。
昨日食べた進化形グラブジャムンによる甘みの侵攻は、半日以上経った今でも止まらない。何を食べても、何を飲んでも、甘くなる気がする。
食べたのはたった2個なのに、他の味を寄せ付けない強固な砦を築かれてしまったみたいだ。
1個だけ食べて水をガバガバ飲んでいた加地くんと弓槻さんは今日には何とか持ち直していた。だけど一人で4個も食べていたナオヤくんの舌は、いや体はいったいどんなことになっているんだろう。
そう思う度、思わず隣の席に視線を向けてしまうけれど、答えてくれる人はいない。
「深海、やっぱり体調悪くなったのかね?」
「確かに甘すぎだったけど、ただのお菓子だよ? 休むほどどうにかなる?」
今日は休みだと先生から聞かされて、なんとなく、私たち三人はナオヤくんの机の周りに集まっていた。心配だった。
昨日の、彼の母親とのやりとりを見て、不穏な空気を感じずにいられなかったから。
「天宮さん、深海くんと知り合いだったんだよね? その……前から、あんな風だったの?」
弓槻さんが、言葉を慎重に選んで尋ねる。私もまた、どう答えればいいのか、迷いながら答えた。
「厳しいお母さん……ではあったと思う。でも優しいよ。昨日のあれも、心配して言ってたんだと思う」
「心配はしてたんだろうけどさ。でも俺らに対するあの顔って……」
加地くんの飲み込んだ言葉は、なんとなくわかる。
『敵意』
たぶん、私に対して一番強く放たれていた。理由はわかる。私だけが、わかるんだと思う。
だからこそ、その理由をこの二人にどう説明したらいいのか、考えあぐねていた。そうして黙り込んでしまった私を、加地くんも弓槻さんも、どこか気遣わしげに見てくれた。
「まぁ、明日には来るだろ。そしたらまた遊……じゃなくて実験しようぜ。もうちょっと穏やかなやつ」
「そうそう。血圧とか血糖値とか関係なさそうなやつ、やろう。なんなら今日選んでおこうよ」
「うん、ありがとうね」
気遣いがありがたくて、申し訳なくて、また俯いてしまった。すると弓槻さんはポンポンと肩を叩く。
「全然。むしろ嬉しい。天宮さんと話してみたかったんだ。昨日みたいに」
そう、私に向けて言ってくれる。初めてだった。
中学に入る頃、愛の容態は悪くなり、学校に通えなくなった。療養施設に入ることになって、家族みんなで施設の近くに引っ越して、それまでのお友達とは離ればなれになった。
きっと寂しかっただろうと思う。愛は、明るくて人気者だったから。体に負担を掛けないように車椅子で移動することも多かったけれど、それを皆が代わる代わる押して、いつもたくさんの人に囲まれていた。
その2年後、愛は亡くなった。家族に看取られて、友達に会うこともなく。
そして愛の死に耐えきれなかった母を気遣って、愛の最期の地も離れた。私の高校入学と同時に。
私は今、『愛の妹』じゃなく、ただの一人の『天宮 ヒトミ』としてここにいる。ずっと愛の後ろに控えていたから、自分から友達をつくる方法なんて、まったくわからないまま1年が過ぎていたけれど。
一年かかって、ようやくクラスの女の子と仲良くなれた。その嬉しさは、まるで電流みたいに体中を駆け巡って、すぐに照れくささに変わって、やっぱり俯いてしまった。