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1-2 クラスメイト

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 入学式から数日後、麻奈美は数人の友達に囲まれて昼休みを過ごしていた。
 最初の授業日は、一限目からいきなり数学だった。数学は問題が解けたときは気持ちが良いくらい嬉しいけれど、複雑な公式は苦手だ。国語や英語の文法、歴史の年号を覚えるようには簡単にはいかず、新しい単元に入る度に麻奈美の頭は混乱する。
「はぁーだめだ……いきなり躓きそう……」
 宿題で出された問題を見ながら、ため息をつく麻奈美。
「難しすぎるよね」
 麻奈美が最初に声をかけたクラスメイトが、石原芳恵(いしはらよしえ)。彼女と同じ中学からやってきたらしいのが、松田千秋(まつだちあき)。麻奈美はすぐに仲良くなった。
「やっぱり制服で選んだのが悪かったかなぁ」
 男子生徒の志望理由は知らないけれど、女子生徒の大半は『制服が可愛いから』だった。決して人々の暮らしが豊かだとは言えない、昭和から平成へと移ったばかりの今、ほとんどの学校の制服は紺のセーラー、もしくは、上下紺のブレザー。
 そんな中、星城学園は幼稚園から高校まで、シャツは薄い水色、グレーのジャンパースカートに紺のブレザーのボタンは金。男子生徒は同系色のネクタイで、女子生徒は棒のリボン。他校との違いが一目でわかるこの制服は、近隣の女子受験生から圧倒的な支持を受けていた。
「女子はいいけどさー、俺らどうなの?」
 話しかけてきたのは、前の席の片平修二(かたひらしゅうじ)。麻奈美とは中学からの同級生で、それなりに仲良くしているけれど、関係は友達で止まっている。彼は単に頭が良くて、この高校にもそこそこの成績で合格したらしい。
「どうって?」
「学校って勉強する場所なのに、なんで制服に拘んの?」
「それは……寝間着で勉強はしたくないでしょう?」
「家で着替えんの面倒くせーときはするけど?」
 椅子に座って片腕で顎をつき、修二は欠伸をした。授業は適度に理解できていて、いつも夜遅くまでゲームしていると聞いたことがある。
「まぁ、俺は似合ってるから良いけどな」
 という修二の言葉は、麻奈美は聞かないことにしている。
 中学で三年間同じクラスだったおかげで、それなり、というか、普通に彼の性格を理解しているけれど、どうも麻奈美には合わない気がする。クラスメイト・友人として付き合う程度には全く問題ないけれど、彼を男として見ることはできない。
 頭は良いのに、少々ガサツ。ガサツなくせに、ナルシスト。
 そんな彼を、麻奈美はずっと友達扱いしている。今後、それ以上の関係にする予定はないし、なろうと思ったこともない。なのに、彼は麻奈美にまとわりついて、今年で四年目になる。
「いつになったらデートしてくれる?」
 そんな言葉は聞き飽きたし、
「しません。あんたとは付き合いません、友達です」
 という台詞も、言い飽きた。
「一回くらいさぁー」
「嫌ですー」
 と言いながら、麻奈美は立ち上がった。
「ほんとにいい加減にしないと、縁切るよ?」
「そんなこと言わないでさー!」
 えー、と言う修二をよそに、麻奈美は友人たちに振り返った。
「次、美術室でしょ? 早く行こう、まだ場所覚えてないから迷子になったら大変」
「──そうだね。どんな先生かな」

 麻奈美たちがそう言いながら出て行くのを見て、修二は一人で顔を歪めていた。
 本気なのに。ずっと好きだったのに。
 中学で初めて一緒になって、一目惚れをした。思い切って声をかけて、その時はただ席が近かったのが幸運で、友達になれた。麻奈美は他の男子生徒からも、もちろん女子生徒からも人気があって、それ以上の関係になるのは難しかった。言いだすことさえなかなか出来なかった。
 中学二年の夏、学校でキャンプに行ったとき、思い切って告白した。けれど、良い返事は返ってこなかった。他にも同じような奴がいて、全員フラれたという噂も聞いた。だけど、麻奈美に恋人や好きな人がいるという噂も、聞いたことがない。それから修二は諦めきれず、麻奈美に何度も告白しているけれど、返事は決まってno。高校はワンランク下のところで考えていたけれど、麻奈美が星城を受けると聞いて、変更した。

 という経緯は、麻奈美の耳にも入っている。
「ストーカーなんだよね、あいつ」
 美術室を探しながら、麻奈美は友人たちに修二の話をしていた。
「それだけ好きなんじゃないの?」
 麻奈美と同じく彼氏のいない芳恵がうらやましそうに言う。千秋は同じ中学だった恋人がいて、今は違う学校に行っているらしい。
「でも私が好きじゃないんだよー。嫌いでもないけど……やっぱ年上が良いなぁ。かっこよくて頭も良くて、頼りになるような大人が良いかも」
「大人? 二十歳以上の?」
「うーん……それくらい、かな」
「でもさ、大人だと子供扱いされそうじゃない?」
「そうかなぁ。まぁ、今のとこ周りにそういう人もいないし、授業に遅れないように勉強しないと。美術とか音楽だけが息抜きだよ」


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 入学式から数日後、麻奈美は数人の友達に囲まれて昼休みを過ごしていた。
 最初の授業日は、一限目からいきなり数学だった。数学は問題が解けたときは気持ちが良いくらい嬉しいけれど、複雑な公式は苦手だ。国語や英語の文法、歴史の年号を覚えるようには簡単にはいかず、新しい単元に入る度に麻奈美の頭は混乱する。
「はぁーだめだ……いきなり躓きそう……」
 宿題で出された問題を見ながら、ため息をつく麻奈美。
「難しすぎるよね」
 麻奈美が最初に声をかけたクラスメイトが、石原芳恵(いしはらよしえ)。彼女と同じ中学からやってきたらしいのが、松田千秋(まつだちあき)。麻奈美はすぐに仲良くなった。
「やっぱり制服で選んだのが悪かったかなぁ」
 男子生徒の志望理由は知らないけれど、女子生徒の大半は『制服が可愛いから』だった。決して人々の暮らしが豊かだとは言えない、昭和から平成へと移ったばかりの今、ほとんどの学校の制服は紺のセーラー、もしくは、上下紺のブレザー。
 そんな中、星城学園は幼稚園から高校まで、シャツは薄い水色、グレーのジャンパースカートに紺のブレザーのボタンは金。男子生徒は同系色のネクタイで、女子生徒は棒のリボン。他校との違いが一目でわかるこの制服は、近隣の女子受験生から圧倒的な支持を受けていた。
「女子はいいけどさー、俺らどうなの?」
 話しかけてきたのは、前の席の片平修二(かたひらしゅうじ)。麻奈美とは中学からの同級生で、それなりに仲良くしているけれど、関係は友達で止まっている。彼は単に頭が良くて、この高校にもそこそこの成績で合格したらしい。
「どうって?」
「学校って勉強する場所なのに、なんで制服に拘んの?」
「それは……寝間着で勉強はしたくないでしょう?」
「家で着替えんの面倒くせーときはするけど?」
 椅子に座って片腕で顎をつき、修二は欠伸をした。授業は適度に理解できていて、いつも夜遅くまでゲームしていると聞いたことがある。
「まぁ、俺は似合ってるから良いけどな」
 という修二の言葉は、麻奈美は聞かないことにしている。
 中学で三年間同じクラスだったおかげで、それなり、というか、普通に彼の性格を理解しているけれど、どうも麻奈美には合わない気がする。クラスメイト・友人として付き合う程度には全く問題ないけれど、彼を男として見ることはできない。
 頭は良いのに、少々ガサツ。ガサツなくせに、ナルシスト。
 そんな彼を、麻奈美はずっと友達扱いしている。今後、それ以上の関係にする予定はないし、なろうと思ったこともない。なのに、彼は麻奈美にまとわりついて、今年で四年目になる。
「いつになったらデートしてくれる?」
 そんな言葉は聞き飽きたし、
「しません。あんたとは付き合いません、友達です」
 という台詞も、言い飽きた。
「一回くらいさぁー」
「嫌ですー」
 と言いながら、麻奈美は立ち上がった。
「ほんとにいい加減にしないと、縁切るよ?」
「そんなこと言わないでさー!」
 えー、と言う修二をよそに、麻奈美は友人たちに振り返った。
「次、美術室でしょ? 早く行こう、まだ場所覚えてないから迷子になったら大変」
「──そうだね。どんな先生かな」

 麻奈美たちがそう言いながら出て行くのを見て、修二は一人で顔を歪めていた。
 本気なのに。ずっと好きだったのに。
 中学で初めて一緒になって、一目惚れをした。思い切って声をかけて、その時はただ席が近かったのが幸運で、友達になれた。麻奈美は他の男子生徒からも、もちろん女子生徒からも人気があって、それ以上の関係になるのは難しかった。言いだすことさえなかなか出来なかった。
 中学二年の夏、学校でキャンプに行ったとき、思い切って告白した。けれど、良い返事は返ってこなかった。他にも同じような奴がいて、全員フラれたという噂も聞いた。だけど、麻奈美に恋人や好きな人がいるという噂も、聞いたことがない。それから修二は諦めきれず、麻奈美に何度も告白しているけれど、返事は決まってno。高校はワンランク下のところで考えていたけれど、麻奈美が星城を受けると聞いて、変更した。

 という経緯は、麻奈美の耳にも入っている。
「ストーカーなんだよね、あいつ」
 美術室を探しながら、麻奈美は友人たちに修二の話をしていた。
「それだけ好きなんじゃないの?」
 麻奈美と同じく彼氏のいない芳恵がうらやましそうに言う。千秋は同じ中学だった恋人がいて、今は違う学校に行っているらしい。
「でも私が好きじゃないんだよー。嫌いでもないけど……やっぱ年上が良いなぁ。かっこよくて頭も良くて、頼りになるような大人が良いかも」
「大人? 二十歳以上の?」
「うーん……それくらい、かな」
「でもさ、大人だと子供扱いされそうじゃない?」
「そうかなぁ。まぁ、今のとこ周りにそういう人もいないし、授業に遅れないように勉強しないと。美術とか音楽だけが息抜きだよ」


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