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ー/ー



「私が寝ている間、ずっと絵を描いてたの?」
「ああ、理性が保てなくなりそうだったから」

 手を止めず、さらりと言い放った。

「可愛い顔して、すげぇ無防備に寝てるもんだからさ。じっと見てたら、ついキスしたくなって」
「し、したの!?」
「してねぇよ、我慢した。ちゃんと意識があるときにするほうが、反応見れるしな」
「反応って……」

 ついつい桔平くんとのキスを想像して、勝手に赤面してしまう。い、いつかはするんだよね。
 絶句していると、桔平くんが手を止めてこっちを見た。
 
「もしかして、キスもしたことない?」
「だ、だって、付き合ったことないもん。なんなら男の人とデートしたのも肩を抱かれたのも頭を撫でられたのも、お姫様抱っこされたのだって、桔平くんが初めてだもん」

 恥ずかしさを誤魔化すように早口で言ったものの、改めて今日の出来事が脳裏に浮かんで、余計に頬が熱くなった。
 感情の読めない表情で見つめられる。この視線には、いつもドキドキしてしまう。
 
「嫌だった?」
「……嫌、じゃ……ない」
「そう。なら良かった」

 少しだけ笑みを浮かべながら言って、桔平くんはアンスリウムに視線を戻した。
 これ、好きって言ったようなもの? 違うよね。嫌じゃないってだけだもんね。

 それからしばらく、無言だった。桔平くんは絵を描くことに集中していて、私はまたベッドに横になりながら、ぼんやりとその姿を眺める。

 沈黙って、本当は好きじゃない。誰と一緒にいても、無言になると気まずくて耐えられないから。気の利いた話題を探して、必死に場をつなぎとめてばかりだった。

 それなのに桔平くんとの無言の時間は、なぜか心地いい。すごく穏やかに時間が流れていて、春の陽射しの中にいるみたいな感じ。
 横顔もだけど、桔平くんは指がすごく綺麗だな。オシャレなのに指とか手首にアクセサリーをつけないのは、絵を描くときに邪魔になるからなのかも。

 あ、鉛筆置いた。描き終わった? 話しかけていいかな。

「……あの、引き留めておきながら、長時間寝ちゃってごめんね」
「いいよ。眠れるときに寝るのが一番だろ」
「もう、体調は大丈夫だから」
「んじゃ、そろそろ帰るかな」

 私は慌ててベッドから降りて立ち上がった。

「えっと、そうじゃなくて。夕ご飯を……作ろうかなって」
「ん? それは、オレに飯を作ってくれるって意味?」

 こくんと頷いたものの、やっぱり出すぎた真似かもと思ってしまう。いきなり手料理って、重たくない?
 
「え、いいの?」
「だ、だって。今日のタクシー代は、絶対受け取ってくれないでしょ。だからせめてご飯ぐらいはって……」
「マジで? すげぇ嬉しいんだけど」

 な、なんでそんな子供みたいな顔で笑うのよ。そこまで嬉しいの?


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「私が寝ている間、ずっと絵を描いてたの?」
「ああ、理性が保てなくなりそうだったから」
 手を止めず、さらりと言い放った。
「可愛い顔して、すげぇ無防備に寝てるもんだからさ。じっと見てたら、ついキスしたくなって」
「し、したの!?」
「してねぇよ、我慢した。ちゃんと意識があるときにするほうが、反応見れるしな」
「反応って……」
 ついつい桔平くんとのキスを想像して、勝手に赤面してしまう。い、いつかはするんだよね。
 絶句していると、桔平くんが手を止めてこっちを見た。
「もしかして、キスもしたことない?」
「だ、だって、付き合ったことないもん。なんなら男の人とデートしたのも肩を抱かれたのも頭を撫でられたのも、お姫様抱っこされたのだって、桔平くんが初めてだもん」
 恥ずかしさを誤魔化すように早口で言ったものの、改めて今日の出来事が脳裏に浮かんで、余計に頬が熱くなった。
 感情の読めない表情で見つめられる。この視線には、いつもドキドキしてしまう。
「嫌だった?」
「……嫌、じゃ……ない」
「そう。なら良かった」
 少しだけ笑みを浮かべながら言って、桔平くんはアンスリウムに視線を戻した。
 これ、好きって言ったようなもの? 違うよね。嫌じゃないってだけだもんね。
 それからしばらく、無言だった。桔平くんは絵を描くことに集中していて、私はまたベッドに横になりながら、ぼんやりとその姿を眺める。
 沈黙って、本当は好きじゃない。誰と一緒にいても、無言になると気まずくて耐えられないから。気の利いた話題を探して、必死に場をつなぎとめてばかりだった。
 それなのに桔平くんとの無言の時間は、なぜか心地いい。すごく穏やかに時間が流れていて、春の陽射しの中にいるみたいな感じ。
 横顔もだけど、桔平くんは指がすごく綺麗だな。オシャレなのに指とか手首にアクセサリーをつけないのは、絵を描くときに邪魔になるからなのかも。
 あ、鉛筆置いた。描き終わった? 話しかけていいかな。
「……あの、引き留めておきながら、長時間寝ちゃってごめんね」
「いいよ。眠れるときに寝るのが一番だろ」
「もう、体調は大丈夫だから」
「んじゃ、そろそろ帰るかな」
 私は慌ててベッドから降りて立ち上がった。
「えっと、そうじゃなくて。夕ご飯を……作ろうかなって」
「ん? それは、オレに飯を作ってくれるって意味?」
 こくんと頷いたものの、やっぱり出すぎた真似かもと思ってしまう。いきなり手料理って、重たくない?
「え、いいの?」
「だ、だって。今日のタクシー代は、絶対受け取ってくれないでしょ。だからせめてご飯ぐらいはって……」
「マジで? すげぇ嬉しいんだけど」
 な、なんでそんな子供みたいな顔で笑うのよ。そこまで嬉しいの?